予防接種に行ったハズなのになんでVtuberになってるの?? ~地味女子JKは変態猫や先輩V達にセンシティブにイジられるそうです~ 作:ビーサイド・D・アンビシャス
次の日の、朝。教室の前に着いた。
私は立ち止まって、度無しメガネを取り出し――それをバッグの奥深くに戻した。
そして教室に入ると……すでに私の席は女子達に囲まれていた。
「あっ、姫宮さぁーーん。待ってたんだよぉ?」
「……なにー?」
私はすたすたとまっすぐ歩いて、席に着いた。
そしたら囲んでる女子の一人が「あれ?」と素っ頓狂な声を上げた。
「姫宮さん、メガネはぁー⁉」
「コンタクトにしたの」
度無しだってことを伝えたら、かえってややこしくなりそうだったから伏せた。
それでも女子達は「えぇー」と黄色い声を上げて、嘲笑する。
「ぜぇったいメガネの方が似合ってたよー! だってその方がすごく姫宮さん『らしい』しさぁーー!」
「――――ありがとっ、でも今日はこの気分なんだぁ」
にこりと、微笑んだ。
そしたら一瞬、囲みが静かになって……口々に「そうなんだ~」と戸惑い気味につぶやいていく。私は瞬きして、首を傾げながら話題を戻した。
「それでさっきどうしたの? すごく盛り上がってたけど……」
「あ……そ、そうそう知ってる? 宵月レヴィア、今日、復帰するんだってねぇ!」
「またやらしい配信するのかなぁ」
「やめてほしいよねぇ、まーた勘違いしちゃうオタク君達が増えるじゃんね~」
「女子《あたしら》のことそういう目で見てるんだって透けて見えるよね~~、ほんっと気持ち悪ぅ~~い!」
「ねっ? 姫宮さんも、そぉ思うよねぇ?」
喉に力を溜める。
すぅっ、と空気が口の中に冷たく満ちて、
「 私は、そうは思わないよ? 」
言った。
囲み女子達が凍り付く。ぞくっと首筋が震える。
でも、ちがうから。
「気持ち悪くは、ないと……思う。たっ、たしかに……ちょいちょい変なノリあるけど、でも……楽しんでるのが伝わってくるから」
私は――――妾とその眷属達は、そんなんじゃない。
そう思い切って良いって教えてくれたから……言った。
「私は、好きだよ。堕天使」
「…………………いこぉ」
興味も何もかも失くした目で彼女が言うと、囲み女子達は散り始めた。
ひそひそ声が四方に散っていく……ぅぅぅまだ見られてる気がする。視線が痛い。
でもかまわない。そう思っていたら――――後ろから抱き着かれた。
「ひゃんっ⁉」
「姫宮さぁ~~~~~~ん‼ んはぁ~~~~ひめみやさんだぁ~~~~~~っ!」
「さ、早乙女さん⁉」
頭のてっぺんを頬ずりされながら、私は後ろを振り向いた。
口角がとろけてる早乙女さんが休んだ分を取り戻すかのように、ぎゅうぎゅうと押し付けてくる。
私はちょっと胸がくすぐったくなってきて、少し笑ってしまう。
「ぁは、ちょっ。そんな引っ付かなくても……」
「だって寂しかったのよ⁉ 教室入る度に『いないなぁ』ってつぶやく気持ちになってみてよぉ!」
「ぅっ……ごめん、なさい」
マフラーみたいに回された早乙女さんの腕を掴んで、口元をうずめる。
おっきぃ声で言われる恥ずかしさと……寂しがってくれて嬉しい気持ちがミックスされて顔を伏せる。
なにはともあれ、後頭部の柔らかな安心感のおかげでひそひそ声と視線は気にならなくな
「 ――――何見てんだよ? 」
噴火の前兆(ドスの利いた声)に、ひそひそと視線が霧散した。
早乙女さんは満足げに私の前に回り込むと、にやけてるのを隠さずに話し始めた。
「姫宮さん、Bwitter見た? 堕天使様、今夜復帰するんだってね! リベンジ歌枠楽しみね!」
「ぅっ、うん! 楽しみ!」
私と早乙女さんはそのままイヤホンを分け合いっこして、レヴィアちゃんの切り抜きを見た。
朝の、この時間はきっと大切な時間になっていく。そんな予感がした。
そして――――いつものお昼休み、いつもの校舎裏に顔を出す。
「おまたせ。待った?」
「お~~~~~~~~姫宮サァン‼ なぁなぁレヴィアたん復帰だって! よかったぁ!よかったわぁ~~~ちゃんと喉治ってさぁ~~~~‼」
「あ、あはは」
ブレザーの重みを覚えた、肩をさする。
誰にも言えない、言う気もない秘密を、胸に閉じ込める。
それは飴玉みたいに甘くて、ビー玉みたいに煌めく――――大切な秘密。
「ねぇ、レヴィアちゃんの声なら、どんな曲が合うと思う?」
「えぇ~~~⁉ それは難しっ、でも話が弾む話題だなぁ~。そうだなぁ……やっぱあれかな!」
三波くんが口にした曲名に、私は大きく目を見張ってから、ゆっくり細めた。
なるほどね……ぅん。
それは、私も大好きな曲だった。