今日少し前にこの話の前の話があると思うのでそちらからお読みください。
少し時間を数秒前へ遡る
「なぁ、ルディ悪いんだがあのハナシ無かった事にしてくれないか?」
「あの話?」
「シルフィエットを一緒に連れて行くってハナシ──だ…!!」
殺気
そして、踏み出される一歩と繰り出される一太刀
俺は即座にパウロと俺の間に爆風を引き起こして距離を稼ぐ。
が失敗。
パウロは爆風に怯みもせず風圧で逃げた俺を追いかけ一閃が振り下ろされる。
が辛くもコレも回避、目眩ましにもならない爆風はやめて風の単独魔術で俺自身を吹き飛ばしたのが活きた。
十数メートルもの距離が稼げた。
そしてここからが俺の独壇場だ
俺は重力魔術で体を軽くして同じ手法で距離を稼ぎ直してパウロの足元に泥沼を生成する。
3つ一緒にすると腕にヒビが入るのであくまで順番にだ。
着地と同時にパウロも泥沼から脱したがもう遅い。
俺はパウロを重力魔術で浮かせて動きを封じた。
例えパウロが木剣を投げて来ても対応出来る。
そして、パウロが魔術を使えるなんて聞いたことがない。
俺は勝ちを確信した。
あとは2,3秒かけてストーンキャノンを撃ち込めば俺の勝ちだ。
と、ふと俺は少し昔の事を思い出した。
昔といっても転生してシルフィと友達になって間も無い頃の事だ。
いい加減ウザったくなってきたガキどもにちょっとビビらせてやろうとその辺にあったパウロの幅以上ある巨木にストーンキャノンを撃ち込んで見せてやると、思いの外威力があったのか巨木が吹き飛び、俺は慌ててヒーリングをかけて元に戻したのだ。
その結果その日からガキどもは俺たちに近づかなくなった。
パウロも剣技で同じ事が出来るだろう。
あの鋭い剣で魔物を斬り捨てるようにあの巨木を真っ二つに出来る。
そしてパウロも同じ事をされ当たったら真っ二つだろうその巨木のように…。
もしかしてコレ、撃って当たったらパウロ死ぬんじゃね?
パウロ視点
ルディの為、シルフィの為と泥を被る覚悟でルディを襲った。
ちょっと本気で怖がらせて、父の威厳を見せてやるかと本気で踏み込んだ。
しかし、ルディはそれにすぐに対応した。まず最初に俺との間に爆風を発生させ、ルディ自身を吹き飛ばす事で俺との距離を稼ぎ、俺があわよくば怯めば良いと使ったのだろう。
しかし、そんなのには見慣れている、爆風如きで躊躇するほど俺の修羅場の数は安くない。
爆風を身体で切り裂く様に進み、切り込む。
次の魔術は爆風は無意味と悟ったのか真横へ衝撃波を発生させ、俺の一閃を避けるために俺との軸をズラすのに利用した。
振り被り、振り下ろせば当然立て直しの為に時間を要する。
もし、これがパーティ戦ならルディの仲間から援護が入るタイミングだ。
しかし、ルディは単独の魔術師 まだヤれる。
そう思ったが次の瞬間片足が泥沼に突っ込んだ時のように地面に吸い込まれた。
一瞬ヒヤリとしたが、即座に生きてる足に力を込めて泥沼から脱しルディに突っ込もうとして、今度こそ背筋が凍りついた。
足に力が入らなくなった。
正確に言えば次の一歩目の足が地面を蹴らなかった。
地面が氷の様になったのでも地面が全て泥になったでもなく。
俺自身が地面から浮かされていたのだ。
浮いた高さはルディの身長の半分にも届かないだろう。
しかし、それでも地面との距離は絶望的で踏み込みすらままならない状況に追い込まれた。
走馬灯の様に今までの経験を思い起こして対処方法を模索するが該当なんてあるはずが無い。
詰んだ。
このままストーンキャノンを撃たれて敗北する。
まだ十歳にも届かない息子に無様に敗北する。
しかし、握りしめていた木刀が独りでに動いた。
木刀はグルリと俺の身体を反転させる様に動き、地面へ向いた。
なんでも良い、今はそれを利用しない手はない。
地面に着けないなら剣を足場にすればいい。
俺は余力で剣を地面に突き刺しそこからルディへ飛び掛かる。
作成中だったストーンキャノンがやぶれかぶれに発射されるが、左手で打ち払い左手が逝った。
しかし、右手はまだ生きている。
「嘘だろっ!?」
驚愕を露わにしたルディを右手の拳で殴りつけた…。
「クッソ…」
と敗北を噛み締めた男の歯軋りがした。
負けた。
完敗だった。
ルディを殴りつけた拳を思わず地面に叩きつけて、敗北を痛感する。
正直叫びながらゴロゴロと地面を転がって、穴があったら入りたい程の羞恥心に襲われている。
俺はルディに敗北した。
気絶した息子に、未だに健在の俺を見て俺の勝利だと思う奴は多いかもしれないが、断言する。
これは俺の敗北だと。
まず泥沼の魔術の時点で相手がルディではなく例えば別の魔術師だったならヤられていた可能性がある。
あそこまで動けたのはルディならやりかねないと油断せずにいれたからだ。
極めつけはあの浮かされた魔術だ。
他人から見たら俺が即座に対応したように見えただろうが冗談じゃない。木刀を操った奴がそう見せただけだ。
そして最後。
最後ルディはストーンキャノンを放とうとしていたが、もっと威力がある奴を撃たれていたら地面に転がっていたのは俺だろう。
しかもあの瞬間ルディは躊躇していた。
本気で石砲弾を撃ったら父親を殺してしまうかも知れないと、一手遅れていた。
その判断が遅れずに石弾の作成が間に合っていれば俺を負かすことなんて簡単だった筈だ。
そして何より…。
ルディは最後まで木刀を使わなかった。
その事実が俺の心臓を締め付けた。
「やっぱり、ルディ剣術嫌いなのかなぁ」
そんな愚痴が自然と溢れる程度には今の試合は俺にとって不様なモノだった。
剣の師として、剣士として、親としても酷すぎる結果だった…。
「もっと強くなんねぇとなぁ」
心からそう思った。
ともすれば血飛沫を上げながら複雑骨折した左手を直す所から始めよう。
「母さんちょっと、ヒーリングかけてくれ、左手がさっきから痛くてなぁ…」
そんな情けない声を上げながらゼニスに頼んだ。
その数十分後ルディを縄で縛り上げている所をシルフィエットに見せつけると、無詠唱魔術を使って襲いかかってくるが、全てを叩き落として彼女にスキをつくる。そして何とかロールズに説得させた。
もし、シルフィエットがルディと一緒に来ていたら間違いなく敗北していただろうと思うとぞっとする。
「じゃぁ、息子を頼むぞギレーヌ」
「わかった、何処までやれるか分からんがやってみようと思う」
そうしてルディを乗せた馬車はロアへと旅立った。
息子よ強くなれ、こんなやり方間違ってるのなんて百も承知だがこのままにしておけば、シルフィエットもお前も幸せにならないだろう、それをこのままにしてはいけない。
お前なら7大列強にだって成れる必ず。
この俺の息子で、もう俺より強いんだ。
お前はこんな片田舎で終わっていい器じゃない。
何時だったかお前は俺が強くて尊敬してると言っていた。
あれは或いはお世辞だったのかも知れないが、その言葉が俺は嬉しかった。
今回謎の力を借りて勝ってしまったが次はお前にも勝てるぐらい強くなって見せる。
だからお前はそんな俺を嘲笑うようにおまえはもっと強くなれ。
「あと、オレに華を持たせてくれてありがとな…」
小さく誰かも分からないナニカにお礼を言うと、ソレを打ち消すように一陣の風が去っていった…