変な老人に取り憑かれたらしい。   作:オスミルク

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急遽執筆したので話としてチグハグな部分が多く雑です。
色々気になる所が多く出て来ると思われますが許していただけると幸いです


リーリャ

ルーデウス様が行ってしまった…。

 

彼には命を救って貰ったのにろくに恩返しも出来ず行ってしまった。

しかし、彼は優秀な子だ。また力をつけて戻ってくることだろう。

 

 

彼が産まれて間もない頃、彼 ひいてはこの家が

恐ろしくて堪らなかった事を思い出した。

 

そう、あれは彼がハイハイを出来るようになってからの話だ。

 

 

彼は当初余り泣かない子で身体が弱いのかパウロ達は心配していたが動ける様になって

家の中を徘徊し様々な場所に居た それ自体におかしい事は無い、赤子が何にでも興味を持つのは当然の事だ。

 

しかし、ルーデウスはおかしい。

まず、笑い方がおかしかった。

ニタニタと何時ぞや色目を使ってきた頭から足の爪先まで脂ぎった大臣の様な笑い方をして、抱き上げれば不快な鳴き声を上げながら胸に顔を埋めようとしてくるのだ。

余りにも気色悪く、思わず地面に投げ捨てたくなる衝動が湧いてくるほどだった。

 

そして、興味を持つ物も気色悪かった。

洗濯前の私の下着である。

ルーデウスは気が付くと私のパンツやブラジャーを握りしめているのだ。

見つける度に不快感が募り次第に私は彼から距離を置くようになった。

 

今思うと、かなり過剰な反応だっただろう。

赤子相手にどうしてそこまで嫌悪の感情を抱いたのか正直わからない。

 

そして、同時期にこの家の中で奇妙な事が起こり始めた。

ことの発端はルーデウスが時折その行動を止めて赤子の様に泣き出す事が始まりだった。

 

私の下着を掴みながら大泣きしていたり。

私の胸に顔を埋めようとすれば唐突に虚空を見上げ泣き出したり。

ゼニスからの授乳中に泣き出す事もあった。

 

当初はその行動に普通の赤子らしいところもあるもんだ、と感想を抱いたが、ある日私が濡れた洗濯物を運んで足を滑らせ転びそうになった時の話だ。

 

まだ、不自由になった足に慣れきっておらず、調子に乗っていつもより少し多くの洗濯物を運んで居ると、足の力が入らなくなり、転びそうになると突然洗濯物の重量感が無くなり、転びかけていた体に奇妙な浮遊感を覚えると気が付けば両足がしっかりとバランスが取れる体勢になっていたりと、摩訶不思議な事が起きる様になっていた。

 

釜の火の入りが良く無い時、薪が湿っているのか確認していると、急に火が安定したり。

 

雨が続き洗濯物の乾きが良くない時、目を離しているうちに気が付くと洗濯物が乾いていたりと様々な事が起きた。

 

そしてゼニスにも似た事があったらしく、ゼニスが落とした食器が着地寸前の所で静止し割れずに地面に着地した事があったと話してくれた事がある。

 

 

 

私は確信した、この家にはナニカが居ると。

 

見えないナニカに守られている様な奇妙な感覚を覚えたが、人は見えないというだけでも恐怖を覚えるのだ。

今は友好的でもナニがキッカケで襲い掛かってくるか分からないと、怯えながら過ごした。

 

 

そして私は見てしまった。

書斎に潜りこんだルーデウスがナニカと喋っているのを…。

音は何故か聞こえなかったが唇の動きや表情の動きが明らかに会話している人間のそれだった。

しかも本が宙に浮き、誰かが読書しているかの様にペラペラとページがめくられ、時折ルーデウスにそのページを見せる様に本が移動するのだ。

教育を施しているのは誰がどう見ても明らかだった。

 

パウロにその事を伝えるか何度も悩み、そもそもパウロはルーデウスかこの家にナニカが憑いているのに気づいているのだろうかとも思ったが、恐ろしくてそんな事は言えなかった。

 

それがナニカの逆鱗に触れる気がしてならなかった。

 

そうこうしているうちにルーデウスは中級魔術を部屋の中で放ち部屋を半壊させた。

あのナニカはルーデウスに魔術の危険性を教えたりしなかったのだろうかと疑問に思っていると、ゼニスがルーデウスに魔術の教師をつけようと提案したので、魔術の危険性を学んで欲しいと打算的に私もその案に賛成した。

 

そして、現れたのはロキシー ミグルディアという魔族の少女だった。

正確には私達より歳は上で少女と言える年齢では無いのだそうだがまぁ良いだろう。

彼女は吟遊詩人が詩の題材にする程優秀で水聖級魔術師だ。

きっとルーデウスに色々教えてくれるだろうと思っていたら、しかしルーデウスはロキシーをあっという間に追い越してたった一年、いやナニカの教育を含めれば三年程で最年少で水聖級魔術師にまで成長した。

 

やはり、恐ろしく感じた。

 

 

ある日の事である、情欲に負けてパウロを部屋に誘い出して行為に及んだ数日後の事だ。

ルーデウスが私に水神流を習いたいと頭を下げてきたのだ。

何故?

このタイミングで?

もしかして、あの日の事を見られていたのだろうか?

もし、断ればどうならかなんて火を見るよりも明らかだ。

恐怖を感じながら了承すると、「ありがとうございますリーリャさん」と頭を下げられたが長年の忌避感から少し大雑把になりながら水神流の授業をした。

しかし、ルーデウスはどこまでも真摯だった。

邪険に扱っている私から真剣に水神流を学び、パウロとの訓練を思い出しながら水神流について合理的に学んだ。

彼の魔術の習得スピードと比べれば、かなり遅いと思うが昔自分の道場にいた人達と比べれば平均的な速度だ。

パウロの様な感覚的なモノは殆ど無く、型の一つ一つを丁寧に噛み砕いて飲み込む様に覚えていった。

 

 

 

そして、私の妊娠が発覚した。

 

 

 

その日の事を私は忘れることは無いだろう…。

 

「父様はリーリャの弱みを握っています」

 

むしろ、私の方がパウロの弱みを握っていると言っていいのに、この子は何を言っているのだろうか…。

困惑している私を置いてルーデウスは的確に会話を誘導した。

私とお腹の子供を守る為に必死にゼニスを説得してくれた。

 

「悪いのは父様です、それにリーリャのお腹の子も僕からすれば弟か妹です!」

と必死の説得もあってゼニスは怒りの矛先をパウロへと向けて私を許した。

許されざる事をした私を許したのだ。

ルーデウスが許す様に懇願したのだ。

打算があったのかもしれない。

水神流の教師を失いたく無いと。

しかし、私程度の水神流の教師なんて街に行けば直ぐに見つかる筈だ。

邪険に扱わず、きちんと授業を施してくれるちゃんとした水神流の教師がいる筈だと彼なら気づいていた筈だ。

なのに彼は実母を傷つけた私を救ってくれたのだ。

実の父親を悪役に仕立て上げてまで。

 

不気味だと言って避けてきた自分が恥ずかしい。

 

彼は私達の命の恩人である。

尊敬し敬うべき人物である。

最大限の敬意を払い、死ぬまで仕えるべき人物だ。

 

母娘共々誠心誠意お支えしようと私は堅く誓った。

 

 

そしてルーデウス様が旅立ってから見えないナニカの気配も家の中から消えてしまったのでルーデウス様に憑いて行ったのだろう。

五年後ルーデウス様が帰って来たらナニカさんにもお礼を言わせて貰おうと、そう思った。

 


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