変な老人に取り憑かれたらしい。   作:オスミルク

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初めての命のやりとり

ルーデウス視点

 

さて、どうしたモノだろうか、エリスに勉強の大切さを理解させる為に狂言誘拐を仕組んだ筈が、エリスを必要以上にボコボコにしたりと様子がおかしい。

男達の話を盗み聞いてみる本気で売り飛ばす先の話をしていたりと、本物の誘拐事件に発展しているようだ。

しかし、だからといってやる事が変わる訳でもないし、予定通り魔術や学術を駆使して街まで帰ってきたのだ。

 

油断してエリスから目を離したほんの数秒で連れ去られた。

視界の端に路地へ消えていく赤い髪を反射的に追いかける。

ジグザグな路地ならこの世界の人間特有の車の様な爆速は出ない。

何とか逃げ切られる前に追いつき土魔術で人攫い達の行く手に壁を作った。

 

「すいませんが、その子を放して貰えませんか?」

 

「チッ、やっぱメンドクせぇヤツだな、そのまま帰ってりゃ良いものを…」

 

「オイ、あんまり油断すんなよ、情報じゃ重力魔術使うらしい」

 

「流石にガセだろ、重力って王竜の固有魔術だぞ?」

 

ヒソヒソとコチラを警戒しながら作戦を練り始める。

何処から漏れたのか俺が重力魔術を使えるという情報まで伝わっているらしい。

この様子では油断を誘って倒す事も難しいだろう。

 

「───どうでもいいだろ!? そんなん!!」

 

と思ったら、エリスを抱えた大柄な男が突然激昂した。

 

「クッソ、だからあの時見張りしとけって言ったんだ!! この木偶の坊」

 

「──んだと!!」

 

仲間割れだろうか、今にも掴み合いが始まりそうな雰囲気だ。

明らかに注意がコチラから外れてスキだらけだ。

エリスを取り返すなら今かも知れない。

 

俺はフロストノヴァで地面と共に三人組の足を凍らせ身動きを封じ、水と火の混合魔術で水蒸気の煙幕を発生させた。

狭い路地にあっという間に霧が立ち込め、視界を曇らせる。

「なぁ!!何だよコレどうすんだ!!」

 

「うるせぇ!!今考えてんだろうが!!」

 

大柄の男が驚愕の声を上げ、仲が悪いのか小柄な男と大声で喧嘩を始める。

 

俺は自分の身体に重力魔術をかけて身体を軽くする。

浮き過ぎないように調整しながら、週刊少年ジャンプのイタリアマフィアの十代目の様に後方へ手をかざし、風魔術を推進力に利用し霧の中を滑る様に突っ込む。

 

視界は悪いがエリスを抱えた男の位置は覚えてる。

ウィンドスライスで男の腕を切断してエリスを解放しても良さそうだが、この霧と今のスピードで照準がズレでもしてエリスにあたったら元も子もない。

ここは男の象徴にストーンピラーを当てて痛みで悶絶しエリスを放すことに賭けよう。

 

風魔術を切りその後は慣性で進みながら、地面に右手を当ててストーンピラーの準備を始めようとしたら、思わぬ場所に影があった。

 

「ハッ、テメェ馬鹿だろ」

 

濃霧の中、冷淡に光る目を見た。

 

何故か大男の後ろで凍りついていた筈の細身の男が、大男の前まで移動して俺を待ち構えていたのだ。

そして、細身の男が構えているのは水神流の型の一つだ。

 

誘われた。

 

さっきの喧嘩も俺の攻撃を誘う為の演技だ。

 

そう、瞬時に理解した。

 

 

水神流には攻撃を仕掛けさせる為の話術があるとリーリャに忠告を受けていた。

 

今声をかけて来たのはソレだ。

 

魔術の気配を察したのか細身の男の剣が振り下ろされる。

その寸前で、生成途中だったストーンピラーを俺めがけて発動した。

顔面に叩き込んだせいで首ごと頸椎が折れるかと思ったが、重力魔術で軽くなった俺の身体にダメージは入らずゴムボールの様に後方へ吹き飛んだ。

 

「チッ、逃げんのかよ」

 

細身の男の剣速はパウロ程速く無い。それどころか夜襲に来た時のエリスとどっこい位だろう。

吹き飛んでる最中で見えはしなかったが、もしエリスより数コンマでも剣速があれば殺されていた。

そしてたとえ剣が遅くとも魔術を回避に使わず攻撃に使っていたらそのまま殺されていた。

 

……殺されてばっかりだなおれ。

 

取り敢えず無傷で間合いから逃れたが、立ち位置がふりだしに戻ってしまった。

今の一連でエリスを救出できなかったのは不味い。

このままエリス救出に時間がかかったら、男達を拘束している氷が溶け始めて霧の煙幕が晴れて俺だけが相手の位置を分かっているというアドバンテージが無くなる…。

 

それに、何であの細身の男が無事なのか分からない。大男の影に隠れて見えづらかったとはいえ、確かに手応えはあった筈だ。

 

「おい、いい加減コッチのも溶かしてくれ。足の感覚が無くなってきた」

 

と小柄な男が声を上げたのを聞いて、俺の脳裏にロキシーと老人に教わったレジストという言葉がよぎった。

そうだ、灼熱手でも何でも簡単な火系統魔術を使えば当たり前だが氷を簡単に溶かす事ができるのだ。

細身の男が火系統魔術を習得していたなら細身の男が無事なのにも説明がつく。

さっきの喧嘩は俺の油断を誘うのと同時に細身の男の詠唱を隠す役目も担っていたと考えれば合理性すら感じる。

 

小柄な男が自由になる前に無理にでも攻めるべきか?

 

超火力で攻めれば制圧は簡単だろう。

しかし、それにエリスが巻き込まれるのは火を見るより明らかだし、それに結局は暴力で解決…。

いや、事態はもうそんな事を言っている場合じゃない所まで来ている。

 

「ちょっと待て 今やる━━」

 

と細身の男の詠唱の声と魔力の気配を感じる。

このまま、拘束を溶かされて一人でも敵の人手が増えればこっちがヤられるのは時間の問題だ。

 

重力魔術であの細身の男の動きを封じるか?

いや、この狭い路地ならパウロの様に剣を使って跳んでくる可能性がある。

ファイアボールも切られて終わりだ。

ストーンキャノンも意味が無いかもしれない。

中遠距離の弾丸の様な攻撃はどれも決定打に欠ける。

 

電撃の魔術はどうだ?

氷に電気が通らないのは知っている。

だが氷の表面についた水なら通るのでは無いか?

 

だがこの濃霧だ。エリスの服の湿り具合で彼女も多少巻き込まれるかも知れない。

しかし、死んだり、消えない傷を負うまでにはならない筈だ。

足元が乾いてるのを確認し霧と氷のお陰で出来始めた水に手をかざす。

電撃(エレクトリック)…!!」

 

紫色の電撃がその魔術の基となった雷光(ライトニング)の名の通り光の速度で溶けかけた氷の表面を走り抜け、発動と同時に男達の野太い悲鳴が上がったのを聞き、俺はさっきと同じ手法で飛んだ。

 

さっき初めてやったが直線距離なら走るよりよっぽど速いし足音も出ないしで、思った以上に利点が多い事に気づいた。

 

しかし、それでも感づくのが水神流だ。

 

「このガキがァ!!」

 

電撃に巻き込まれて所々焦げ付いた細身の男が演技ではなく本気で激昂していた。

怒りと痛みで我を忘れ、剣を振り回すように乱暴に剣を抜き払おうとしているが、相変わらず攻めの剣速は遅いし電撃の影響で更に鈍くなっている。

反射神経と危機察知能力がいくら優れていても攻撃がコッチより遅ければ意味が無いない。

電撃(エレクトリック)

予め用意していた光速に走る電火が細身の男を再び襲った。

「グァアアアアア!!!」

 

細身の男が真っ黒な煤だらけになり、口から煙を吹きながら倒れた。

最後に感電して痺れた大男からエリスを離してミッションは完了した。

 

 

「無事ですか?お嬢様」

 

「えぇ、お陰様でねっ…」

 

と言いながら恨めしそうに普段の何倍かと鋭くつり上がった瞳を俺に向けてきた。

よく見ると彼女の服や肌にも少し火傷した跡があり、やはり彼女も電撃に巻き込まれてしまったらしい。

 

この様子では家庭教師の話は流れたかもしれない…。

 

いや、そんな事より彼女に治癒魔術をかけるほうが先だろう。

 

「申し訳ありません、お嬢様…僕の技量ではこんな形でしかお嬢様をお助けする方法を思い付く事が出来ませんでした…。今、治癒魔術をおかけします。神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん、ヒーリング」

 

流石治癒魔術というべきか初級でもエリスの火傷はあっという間に引いていく。それを見て俺はホッと安堵の溜め息を吐いた。

これでこの誘拐事件も終わった。

後は屋敷に帰るだけだ。

 

これで家庭教師の話が流れたらどうしようか考えただけで憂鬱だ。

パウロや爺さんになんて言い訳をしよう…。今度は先行きに対して深い溜め息を吐いた。

 

その溜め息に呼応するかの様にギシリと歯軋りの音が嫌に良く聞こえた。

一瞬エリスかと思いエリスの方を見たがエリスの方からでは無い、音の方向は凍りついた男の…。

 

バリンという音とともに俺に衝撃が走った。

 

「よくも散々コケにしてくれたなこのクソガキガァア!!!」

 

俺の首を片手で絞めつけながら俺を壁に叩きつけて濁り血走った目で俺を睨み付けていた。

小柄な男が氷を打ち破って来たのだ。

 

とっさに左腕を動かし風魔術を発動させエリスを吹き飛ばして逃がした。

 

「逃げて下さいお嬢様!!」

 

親指以外の指が指の付け根ごと切断されていた。

 

「ヒッ…」

 

「いい加減にしろこのクソガキが…」

 

ドスの効いた手の痛みを忘れる程の恐怖が俺の頭を支配した。

落ちた指が男の足元に転がり踏み躙られていた。

あれでは治癒魔術でくっつける事も出来ない。

 

「生かすのはやめだ」とゆっくりと剣が俺の首に突き刺さる。

 

皮を突き破り、血が滲み、次第に深く、滴り喰い込んでいく。

 

1秒が無限に感じられるほど思考が加速していく、そして目の前の男は1秒もかけずに俺を殺すのは簡単な筈だ。

わざとだ、ゆっくりやって俺をなるべく長く生かして殺すつもりなのだ。

 

恐怖で足が震え呼吸が乱れる。

これから来る痛みと恐怖に思わず目を瞑った。

 

そして唐突に首に刺さった剣が抜け、カランと音を立てて落下し、次にドサリと何かが崩れ落ちる様な音が嫌に鮮明に聞こえ恐る恐る目を開けた。

「え?」

 

首が無かった。

 

そこにさっきまであった筈の小柄な男の頭が、ソレが代わりだとでも言うかのように首の付け根から血が噴き出していた。

俺の顔に生暖かい鮮血が浴びせられ、男の体は力無く地面に倒れていった…。

 

「無事か? ルーデウス 」

 

声をかけられ、男から目線を外すとそこにはギレーヌがいた。

 

結論から言えば俺は助かったらしい…。

 

電撃の音や男達の悲鳴は彼女の耳にも届いていたのだ。

ギレーヌがまだ生きている細身の男も殺そうとしていたので、事件の重要参考人として生かしたまま連れて帰って、フィリップさん達に引き渡した。

 

家庭教師の話も流れるかと思ったがエリスからOKっぽい返事を貰ったのでそのまま老人が待つであろう自室へ向かった。

 

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