マジか、と思わず開いた口が閉じ無くなった。
ある日の夕方か、早朝だかに泣きそうになりながら帰って来た。
驚いたのはアイツの左手の親指から上の部分、つまり人差し指から小指の部分を失って帰ってきたのだ。
上級治癒魔術で傷口は塞がれている様だが、『どうした、大丈夫か?』
「大丈夫なように見えますか?」
少し考える。
左手と言えば転移迷宮でヒュドラ戦の時や帝級クラスの剣士に斬り落とされた時の事を思い出す。
ヒュドラに受けた傷はザノバとクリフの力で何とかなったが、聖級治癒魔術を覚えてからは自分で治せる様になってからはそういう事とは無縁になったのを覚えてる。
『大丈夫じゃ無いか? オレが成人して間もない頃に2ヶ月程左手の手首から先が無いまま暮らしてたが、二人目の妻の助けも有ってまぁまぁ生活できたな…』
「俺に嫁の助けが有るとでも?」
結婚どころか童貞の俺に助けなんてねぇ、とコイツは非難の目を向けてくる。
『タダの小粋なジョークだ』
と冗談で場を温めるのに失敗すると「ん…」とコイツが左手を俺に差し出してきた。
『なんだ? 上手く治癒魔術が掛けれてるか見て欲しいのか? 』
と指の無い手を診察するが綺麗に塞がっている。
「いや、治して欲しいんですけど…」
『…なに言ってんだオマエ、そんなの俺に治せるわけないだろ?』
「は、え?」
『確かに生前はそれぐらい治せたが、今の俺はキチンとした声が出せないから詠唱魔術が出来ないんだ、そして俺も治癒魔術は詠唱しなきゃ使えない、この意味分かるよな?』
「つまり…、俺の左手はずっとこのまま…、ってコト!?」
『覚えるかフィリップさん達に頼め、覚える気が有るなら教えるから』
相変わらず俺に頼ろうとし過ぎるコイツに頭を悩ませながら拳を握る。
「サー イエッサー」
その様子に即座にビシリと指の無くなった左手で不格好な敬礼をしてくる。
包帯すらしていない指の無い手を見ると妙に痛々しい。
この世界では珍しくない光景だが、やはりコイツが子供の姿をしているのもあっていい気分では無い。
一瞬パウロの最後の時の事がチラつき嫌な気分になり、舌打ちを一つして本題に入る。
『で、何があった? そんな怪我して帰ってきて…』
予想はついているが一応聞いておく事にする。
「実は───」
と語りだしたのはやはり、概ね予想通りの話だった。
エリスに勉強の大切さを理解させる為に狂言誘拐を仕組んだが、執事の裏切りによって本物の誘拐事件に発展したのだ。
しかし、だからといってやる事が変わる訳でもないし、予定通り魔術や学術を駆使して街まで帰ってきたのだ。
そこまでは俺も同じ経験をした。
しかし、俺の時と違ったのは相手が三人だった事だ…。