変な老人に取り憑かれたらしい。   作:オスミルク

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幕間 聖級治癒魔術師

「うわぁ…、ホントに治った」

 

俺はついに習得した聖級治癒魔術で修復した指を気味悪そうに動かしている少年を眺めていた。

本来なら喪失した部位が無くなった跡も残さず綺麗に生え直しているのは神秘的どころか、もはやホラーなのだろう。

そのせいかコイツのテンションが少し低い。

俺が覚えた当時はもうそんな事どうでも良いと、興味すら湧いてこなかったが、コイツの場合はそう言う感性がまだ残っている。今後も大事にするべきだろう。

 

『おめでとう、ルーデウス・グレイラット。これでお前は聖級治癒魔術師だ』

 

パチパチと音はしないが俺はそう言って拍手した。

本来治癒魔術の上級以上はミリスの奴らに独占されてるので良い気になって吹聴されても困るが、ソレを言うのはまた後ででも良いだろう。

 

「あ、そう言えばそうだな…」

 

コイツも今言われて気付いたらしく顎に手を当てて何やら考え始めたと思ったら、次第にいやらしい笑みを浮かべ始めた。

 

きっと頭の中で色々妄想を始めているのだろう。

富や名声、そしてこの世のすべてを手に入れた男の妄想でもしているのだろうか…。

すぐ調子に乗るのはコイツの悪い癖だが、しかしこう他人称視点で見ると表情とか仕草がゼニスの面影を感じる。

 

『ゼニスにそっくりだな』

 

少し微笑ましい気持ちになり声に出した。

俺の言葉にコイツは呆気に取られたように俺を見上げた。

「そ、そうか? 」

 

『ああ、そっくりだ。まぁ親子なのだし当然の話だがな…』

 

俺がそう言うと気恥ずかしそうに頬をポリポリと掻いて視線を俺から逸らした。

こう言う事も普段から言っておく事にしている。

パウロと似ているとは、これから先色んな人に言われて慣れるので、余り言われ無さそうなゼニスを引き合いに出して、今のうちからオマエは二人の息子なのだと言い聞かせよう。

 

「そ、そう言えば知ってますか? 」

 

気恥ずかしさからか、耳と頬が赤くなっている。

効果は抜群のようだ。

もし俺もそんな事言われたら情け無さで自害を選びかねないから当然だ。多分自害は出来ないけど。

 

『何をだ?』

 

だからこの急な話題転換に乗ってやる情けが俺にもまだあった。

 

「あの誘拐事件の主犯、執事のトーマスだったらしいですよ?」

 

あのというのは言わずもがなコイツの指がぶった切られた事件の話だろう。

主犯は俺の時も同じだったと記憶している。

コイツはまだ変態貴族としか聞いてないが、後々にダリウス上級大臣と繋がっていたとアルフォンスさんに教えて貰った時の事はまだ覚えている。

 

『ああ、それなら隣の部屋で俺も聞いてたよ、主犯のトーマスがお前を警戒するようにって、人攫いの奴らに言ってたらしいな…』

 

恐らくエリスとの対面時にエリスを封殺した上、夜襲にも無傷で対応したのが、俺の時と変わって警戒度を跳ね上げたのだろう。

 

「そうそう、それで捕まった二人も色々吐いてるらしいんですけど、俺達を買い取る予定だった貴族の情報も証拠にはならないらしいです…」

 

『まぁ、突発的な犯行だったとはいえ、そこら辺の証拠は残してないだろうな』

 

ダリウスはアレでも政治家としてこの世界随一と言っても良いほど優秀だ。犯人だと証言が出ても証拠が出るわけがない。

 

「正直あの事件の引き金が俺だと思うとちょっと憂鬱なんですよね…」

 

そう溜め息を吐きながら何気なくぼやいたコイツに俺は心底驚いた。

まさかこの生まれながらに自己中心的な男にそんな罪悪感が芽生えるなんて思わなかった。

俺があの時感じたのは死の恐怖だけで、エリスを気遣う心の余裕もなく、ましてや、あの事件の発端を作った何て欠片も思っていなかった。

だと言うのにコイツには確かな責任感が芽生え始めている。

手を切られたのが良い薬にでもなったのだろうか?

 

『まぁ、お前も誘拐対象だったようだし、お前は指まで切られて十分被害者だ、それにお前はまだガキで詰めが甘いのはこれから直していけば良い』

そう言うとコイツは俺の言葉にピクリと身体を硬直させた。

「なぁ爺さん、アンタ本気で俺がただのガキだと思ってるのか?」

 

『……ああ、思ってるが何だ? 俺はお前が産まれた瞬間からお前を見てきたんだ、お前をガキだと思うなんて当たり前だろ?』

 

多分そういう事では無いのだろう。

自分でも見当違いな事を言っているのはわかっている。

コイツは自分の事を良い歳したオッサンが、子供であるルーデウス・グレイラットに取り憑いて生きてると考えている。そして、それは客観的に見ても真実だ。

しかし、コイツは幼稚な部分が多すぎる。

多少改善され始めているようだが、知識が足りない、知恵が足りない、挫折が足りない、成功が足りない…。ありとあらゆる経験が足りてない。

とてもじゃないが大人とは思えない。

 

まぁ、俺だって幾ら足りてるか分からないが…。

 

「そっか…、ごめんやっぱり何でもない…」

 

そう言ってコイツは考え込む様に窓から外の風景を眺め始めた。

 

どういう心境の変化だったのだろうか、まさか俺に自分が転生者だとでも言う気だったのだろうか。

なんでコイツは俺をこんなに信用し始めてるのだろうか? 意味が分からない…。

 

俺はコイツから未来(全て)を奪うつもりで来たと言うのに…

 

 

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