鈴が落ちた瞬間俺は準備していたストーンキャノンを水弾めがけて放つ。
しかし、当然の様に避けられる。
気分的には何時か見たドキュメンタリー番組で見た拳銃の弾速よりは速かった筈だが、やはり老人には関係ないらしい。
あの老人のことだ、最初から素直に当てさせてくれるとは思っていなかったので、外れたなら次を用意しようと水弾を注視しつつストーンキャノンの準備をしようとして…。
思わぬ方向へ意識が逸れた。
ストーンキャノンが飛んで行った遠くの林の方から木が真っ二つにでもなった様な破裂音が幾つも響いてきたのだ。
次に折れた木が近くに生えていた周りの木を次々と押し倒しバキバキと木々が悲鳴を上げた。
それに気付いた近くに居た鳥達が驚き、急ぎその場から離れる為に羽ばたいていく…。
夜なので視認は難しいが、遠巻きに響いた音だけでもその惨状が想像できた…。
「え…?」
何時だったか同じぐらい時間をかけ
その時は木の一部をドリルか弾丸の様に抉り取って行ったが今回のはロケットランチャーか何かの様に当たった木々を破壊していった。
近くに生えていた何本もの木を押し潰せる程の重量を持っていた木なのだ、それはそれは頑強で逞しい大木達だったに違いない。
余りの破壊力に俺は唖然としていたが、老人はその破壊の様子を一瞥して、
『一発外れたな、じゃあ次だな』
と何事も無かった様にこちらへ振り向き呆然としている俺を無視して水弾の操作を開始する。
水弾は動物の様に俊敏且つ不規則で歪な軌道を描きながら俺の頭へ向かって飛んで来た。
呆然としていたこともあって咄嗟の事に対応出来ず、顔に冷たい水の感触と共に鼻の奥まで水が入りツーンとした痛みが走った。
『ボーッとしてないで
そう言って更に問答無用とばかりに老人は更に水弾を手元で作り出した。
しかし、高速とは聞いていたがちょっと速すぎでは無いだろうか?
パウロが退治した魔物はあんなに早く無かった筈だし、頭一つ分位の大きさの物が時速50kmで飛んできて対応出来るわけない。
と言うか、あの破壊力について色々と考えさせてくれ。
「いや、僕の知ってる魔物はそんなに速くないと思うんですが…」
精一杯勇気とか色々振り絞って出た言葉はソレだった。
『魔大陸やベガリットの迷宮ではこんなの序の口だったぞ?』
「そんな怖いところ行く予定はありませんよ」
『何いってんだ、そんなの分からないだろ?お前に行く気が無くても、いつも通り何気ない日常を過ごしていたら、いきなり魔大陸に転移したり迷宮の奥地に転移する事だってあるかもしれないぞ?』
「なにそれ怖い」
『なんでも昔ある人が目を離した数瞬の内に消えたかと思うと別の所に出現していたり。
また直ぐに消えたかと思うと同じ場所に再出現したり。他には気付いたら知らない場所に居て死に物狂いで戻ってきたとか、そんな話は時々聞くし、それに…』
と老人は講説してくれたが、そんな恐ろしい事は起こらないで欲しいものだ。
『っと、脱線したなほら、まだお前は一発しかやって無いんだから続けるぞ』
「はーい」
と、元気よく返事したのは良いものの、その後の実技も酷いモノだった。
最終的に俺の攻撃は水弾どころか、老人にすら当たらなかった。
水弾の動きが速いのもあるが、動きは不規則過ぎて全く読めないし、仮に読めたと思っても弾の向きや弾道を予測されて避けられる。
そして、何故水弾と共に老人の名前が挙がったかと言うと、あまりにも当たらなかったので腹が立ち、台パン気分で老人を狙ったのだ。
どうせ老人に当たってもすり抜けるだけなので良いだろうと思ったのだ。
しかし、不意をついたにも関わらずキチンと躱されて『俺に当てる暇があるなら水弾の軌道に集中しろ』とペナルティとして水弾の速度が増加しボコボコにされた。
そして、もはや当たらぬなら水弾を蒸発させられれば良いかと、無意味と分かりつつも破れかぶれで火炎系魔術を広範囲に使おうとしたが『無意味なズルをしようとするな』と
おかげでパンツの中から靴の中までぐっしょりだ。
そう、面積や的の数は増えてるのにそれでも俺の
どれだけ場数が大事だという事がよく理解できたとせめてプラスに思おう。
そして、深夜の実技授業は決めていた時間に到達したのでお開きになった。
帰り際に火と風の混合魔術でびしょ濡れになった服と身体を乾かしてから帰路についた。
いつか必ず一泡吹かせてやると心に誓いながら…