あい変わらずの遅筆で申し訳ないです…。
老人視点
ふと気付くとボレアス家の使用人達が忙しなく屋敷内を右往左往としているのを多く見るようになった。
貴族の屋敷なのだからいつもの事だが、使用人達の様子がある者はニコニコと機嫌が良さそうだったり、ある者は少し辛そうにしていたりと何時もより多種多様だったのだ。
何事だったかと、この時期の記憶を辿りながら使用人の後を追っている内に思い出した。
ああ、そろそろエリスの十歳の誕生日なのだ…。
確かフィリップがエリスに「ダンスは貴族の嗜みだ」とかなりきつく言い含めたのだったか。エリスは苦手なダンスに苦戦している。
だからだろう、長くここに勤めているメイドはエリスが誕生日でダンスが踊れず、恥を掻くだろうと心を痛め、ここに来て日の浅いものは誕生日という行事を楽しみにしているのだ。
それにパーティ中に振る舞われる料理ほどではないがそれなりに豪華な食事が振る舞われるしそれも楽しみの一つなのだ。
さて、エリスはダンスが踊れないといったが実は少し違う。
実際は本来のリズムを無視して自分のペースを守ろうとしてしまうせいで相手とのリズムが狂ってしまい踊れなくなってしまうだけで、一つ一つの所作や順番は完璧なのだ。
本来であれば所作や順番で躓く生徒が大半だろうがエリスがそんな器に収まるようなご令嬢ではない。
そんな具合で何故エリスがリズムが入ると踊れなくなるのか分からず、エドナもどう指導すれば良いか分からず、エリスを出来ない子と思ってしまうのは分からないでもない。
そう言えばアイツも書斎から借りてきたり、本屋で仕入れてきたりした様々な言語の本と格闘していたのを思い出す。
確かにこの頃のオレもエドナに頼まれて授業時間の幾つかを社交ダンスの時間に譲って欲しいと頼まれたのを、当時のオレも人間語以外の勉強をする時間が欲しくて快諾した覚えがある。
そして当時のオレの様にアイツも闘神語は余裕と得意げになったり獣神語には四苦八苦したり 魔神語には分からんと絶望したりと様々なリアクションをしている。
取りあえず今は出来そうな闘神語から着手してるようだ。
一応の助言としてロキシーに手紙を出させ魔神語についての話題を入れる様に言っておく。
「爺さんは教えてくれないのか?」という尤もな疑問は『ロキシーとの会話作りになって良いだろ?』と言ったら「それもそうか」と納得していた。
全くチョロくて助かるったらありゃしない。
オレも当時ならきっと犬の様に尻尾を振って喜び勇んで手紙を書いた事だろう。と、そんな事を思っていたら、壮絶な破壊音が礼儀作法の教室の方から聞こえてきた。
棚やら花瓶やらが砕け散り、扉が勢いよく吹き飛び。やってられっかこんな事!!とでも叫んでいるかの様な豪音だった。
何があったか察したオレたちだったが、一応様子を見てくるとアイツはダンスの授業から脱走したエリスを探しに出ていった。
取り敢えずこれでアイツもエリスに助言をするだろうしエリスの誕生日パーティもつつがなく終わる事だろう。
そう、その時は思っていたのだ。
しかし、オレは失念していた。
オレがココに居ると言うことを…。
「では、一つ聞くがオマエに憑いているのは一体何なのだ?」
そう、ギレーヌが聞いてくるのは想定できたはずだったのだ…。