ルーデウス視点
「では、一つ聞くがオマエに憑いているのは一体何なのだ?」
そう、真剣な表情でオレを見てくるギレーヌの言葉にオレの頭の中が一瞬フリーズした。
事の発端はエリスの誕生日での事だった。
誕生日と言っても誕生日パーティではエリスが最初緊張して動けなかったり、サウロス爺さんがオレの事を喋ったりした以外は大成功と言っていい出来だった。
エリスもオレが最初に踊る事で緊張が和らぎ、後はスムーズに踊れていたし、サウロスのは爺さんが喋ってしまったオレの事もオレからすれば些細な事だ。
オレはパーティが終わった後、エリスとギレーヌを部屋に呼び、二人に魔術の杖を渡してパーティから持ち出した料理を3人で食べたのだ。
そしてエリスは今日一日頑張ったお掛けで、自室へ帰る前に力尽きオレのベッドで眠ってしまった。
問題はその後だ。
何の授業の話をしてたかは、忘れてしまったが。
「ギレーヌも何か聞きたい事があれば言ってくださいね」
とオレが言ったのが問題だったのかも知れない。
そして、冒頭。
「では、───」と切り出された質問にオレは息を飲んだ。
もしも、こんな急な切り出し方で無かったなら、あの老人がオレのイマジナリーフレンドでは無いのだと、少し安心できたかも知れなかったがあまりに唐突すぎてそんな余裕はない。
ギレーヌも剣客としてあの爺さんの危険性の確認をしたいのだろうがオレは、
「な、何なんですかね、アレ…、僕が産まれた時から家に居た気がしますけど凄腕の魔術師って事ぐらいしか知らないんですよね…」
目を伏せ、そう言うしかなかった。
だって、オレもよく知らんし。あの爺さんってなに?
やっぱり只の亡霊なのか?
ギレーヌにも見えて居るのならその可能性は高いかもしれない。
あの高い理知性を鑑みるに上級の亡霊なのだろうか?
でも、そうなら、やはり他の人が反応しないのが不思議だ。
ロキシーに亡霊の事を聞いた時も本で見た時も
いや、だから、ギレーヌに視えてるならその前提も崩れたんだってば! だめだ、頭がこんがらがって来た…。
「…爺さんってなんなの…?」
『オレも知らん』
今まで何も言わなかった爺さんがオレの吐いたつぶやきに反応した。
『しかし、ギレーヌには見えるのか…、声は聞こえているのか?』
『おーい』と爺さんがギレーヌの前に出て来て手を振り始めたがギレーヌはさっぱり反応しない。
あれ? やっぱり見えていない?あえて無視してる?
このタイミングで爺さんを無視する理由は無いはずだが、どう言う事だろうか?
カマでも掛けられたのだろうか?
オレが訝しんでいるとギレーヌは「ああ…」と俺の様子に気付き眼帯を外した。
すると、それまでは見えていなかった様な様子は無くなり、ギレーヌの視線がはっきりと老人を捉える。
隻眼か何かだと思っていたが、ギレーヌの眼帯の下にはキチンと瞳が存在していた。
どうやらオッドアイだったらしく、眼帯の下は濃緑の色彩を持つ瞳だった。
『ああ、魔力眼か…』
爺さんはその瞳の正体を知っているらしく、得心が行ったという感じで、疑問符を挙げているオレに説明し始めた。
『確か魔力眼の能力は魔力を直接視る事ができる魔眼で、その場にある魔力の大きさや魔力の動きが確認出来るらしい。先天的に持って生まれやすいのも特徴だ。
ほぼ魔力で出来てるオレを視認できるのも当然だな』
老人の説明に一人ウンウンと納得して居るとギレーヌが興味深そうにこちらを見つめてた。
「…やはり ソレ とは意思疎通が図れるのだな」
「ええ、まぁ…、ギレーヌには声が聞こえてないんですか?」
「ああ、さっぱり聞こえん。それにオマエは爺さんと言ったが、キチンと人の姿なのか?
私には人の様な形をしている高密度の魔力の塊にしか見えん」
『成る程そんな感じなのか…』
そう言うと爺さんは何を思ったのか、いきなり逆立ちをし始め、更に足をT字に広げて片手でコチラに手を振りながら片手で立ち始める。
形にすると漢字の 下 みたいな形だ。
「何をやってるんだソイツは…」
「さぁ、本当に見えるか確認してるんじゃないですか?」
恐らく初めてオレ以外の見える人に出会って若干テンションが高いのだろう、無駄にエネルギッシュでギレーヌは少し呆れてしまったようだった…。
ギレーヌ視点
ルーデウスと言うパウロ達の息子は本当に不可思議な少年だった。
あの年でパウロと同等かそれ以上の戦闘能力を持ち、教師としての能力も非常に高い。
出会う人間の大半に馬鹿だのなんだの言われ続けた私がたったの1年で読み書き算術に加えて初級魔術を覚え、杖まで貰えるとは思ってもみなかった。
まだ拙い部分は多くあるが現状でも、故郷に加えて今まで出会った人間に出来る所を見せたらきっと驚くに違いないと少し胸が躍った程だ。
エリスの言う通りルーデウスはすごいということだろう…。
それにエリスやアタシがどれだけ躓いても、呆れたり見下したりせずに躓いた部分を探し出してとにかく潰す様に根気よく教えてくれるのだ。
これだけでも十分不可思議な少年と言えるのだが、ルーデウスの不可思議さはそこではない。
ルーデウスが来てから屋敷の中で奇妙な事が起こり始めた所だ。
例えば足を捻ったメイドが次の日には全快したと騒いでいた事もあれば。
メイドが掃除中花瓶を落とした時、確実に割れるだろう高さから落ちたにも関わらず無事だった事があった。
他にも怪我をしそうになった人間が無事だった事は両手では足りない程だ。
そんな事が出来そうな人間はルーデウスをおいて他にいないだろうが、その場にルーデウスは居なかった。
そんな不思議を頭に留めながら1年が経過した。
そしてある日の事だ、ルーデウスが深夜に屋敷から抜け出すようになっていた。
流石に気になってルーデウスの後をつけるとルーデウスは平原に出て魔術の訓練をしていた。
だがその内容はルーデウスがアタシ達に施しているモノとはまるで内容が異なった苛烈なモノだった。
あれが無詠唱の真髄というべきだろう。
水弾を浮かせてソレを躱しながら他の魔術で撃ち落とすという至極単純な的当てそのものだったが、無詠唱による精密な魔力操作が可能にさせた複雑な軌道とフェイントが織り成された高速で繰り出される水弾は恐らく私でも完全に躱すのは難しいだろう。
縦横無尽に飛び回る水弾を一発で蒸発させるルーデウスの
その精密な魔術の制御をどのようにやっているのか、ルーデウスに教えてもらっても出来なかった無詠唱のヒントがあるやも知れぬと。
試しに眼帯を外し、ルーデウスを見たら、居た。
ルーデウスから伸びた魔力の糸の先に人の形をした白い雲の様な魔力の塊が
その魔力の塊が水弾を操っていたのだ。
さしものルーデウスとて二属性の精密な魔術操作は難しいのだろう。
そして魔力の塊とルーデウスはいつもの時間まで魔術の撃ち合いを行い、共に屋敷まで帰り変わらぬ日々を過ごしていた。
屋敷ではヒビの入った花瓶の補修を人知れず行ったり、ルーデウスの部屋で何かを描いたり、ケガをしたメイドの寝室に何かが描かれた紙を持って侵入したり、ルーデウスと会話したりしていた…。
ルーデウス視点
「結局ソレはなんなんだ? レイスにも見えんし害は無いのだろうが…」
はぁ、と溜め息を吐いてギレーヌは一番聞きたかっただろう話に戻した。
「まぁ、確かに害はないと思います」
「だろうな、ソレがサウロス様達を害するならとうの昔にやっているだろう」
少し複雑そうに言った。
最近まで爺さんに気付けなかったのが悔しいというか剣客として不甲斐なく感じているのかも知れない。
「やっぱり、御二方にも言いますか?」
別に言ってもらっても構わないとは思っている。
しかしオレが説明責任を求められてもギレーヌに言った以上の事は解からない。
いや、爺さんが言っていた経歴を繋げて言うぐらいなら出来るか?。
「悩んでいる、ルーデウスの師匠の様だし害がないならという考えと、得体の知れないモノがいるというのは良くないとも思っている」
『師匠では無い』
いつの間にか逆立ちから戻っていた爺さんがツッコミを入れるように言った。
ギレーヌには聞こえないのに、相変わらず頑なにオレの師匠とは認めない様だ。
「別に言ってもらっても良いですよ。
今まで黙ってた僕が良くなかったですしソレで追い出されたりは…、多分無いと思います…」
無いと信じよう。
もし追い出されたら大泣きするけど…。
分かった、とギレーヌは言い残して部屋を出た。
エリスの誕生日だったので、予め今日は深夜の魔術の訓練は休みだと爺さんが決めてくれてたのでオレももう就寝の時間だ。
流石に眠っているエリスを起こしてしまいそうなので引き取ってもらう事はせずにオレはエリスと共に夜を明かすと決めていたが匂いを堪能する事に留めた。
貴重な機会を捨ててしまった様な気もするが、ギレーヌから貰った指輪とオレがあげた魔術杖を大事そうに握っている彼女を襲うのは流石に憚られたのだから仕方ない。
次はめっちゃ展開が変わるぞー、うおお!!
いつになるんかなぁ