変な老人に取り憑かれたらしい。   作:オスミルク

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無駄に長くかかってしまった。


人形狂い

さて、時は遡り数年前。

とある男は何と無く、掘り出し物が無いかと特に深い感慨もなく市場を散策していた。

そこは王族もお忍びで来る程度には栄えているのだった。

 

かくいうその男もその国の重鎮であり、本来なら勝手は許されない立場の人間であったが兄弟や父に頼み込み、なんとか足を運ぶ事に成功したのだった。

 

「ほぉ、コレは…」

男が足を止めていたのは自分好みの美しい雑貨達が所狭しと並べられた屋台である。

 

一つ一つ雑貨を手に取りじっくりと鑑賞し、思わず頬が緩む。

何もせずとも言えば(・・・)送られて来る立場だが、やはり実物を見て買うのが一番良いのだと強く実感する。至福の時間だ。

 

店主の趣味も良いのもあり、良い品物ばかりだが一際素晴らしい物があった際は店主にその作者の名やその他の情報を聞き胸に刻む。

 

 

 

そして、余は運命的な出会いを果たした…。

 

木箱に丁寧に積まれた手のひらサイズの石像群だ。

顔はピラミッドか矢印の様に尖っているだけだが、首から下は驚くほど精巧に出来ていた。

 

筋肉の造形は然ることながら、今にも動き出しそうな躍動感には感動を飛び越え、崇拝にも似た感情が産まれ、今すぐに跪きたい衝動に駆られる程だ。

 

本来なら自立させる事は不可能である筈のアンバランスな立ち姿であるにも拘わらず、支え無しで自立させていた。

そう、それは三大流派の基礎的な動きが男女に子供等、様々な人物たちによって再現されているのだ。

 

そして最も驚くべき所はその比重の調整の仕方だろう。

 

なんと傾きそうな部分を空洞にしてバランスを調整していたのだ。

しかも空洞をどうやって開けたかもまるで想像できない。

石を削ったにしては穴らしきものは見当たらず、

まるでピーマンか蓮根の様に最初から空洞だったかの様な空き方なのに粘土で造形したにしては頑丈過ぎる。

 

美しさに於いても技術力に於いても非の打ち所の無い仕事。

 

これで感動するなと言う方が無茶な話だ。

 

 

無い顔は想像で補うというのもまた乙なものだが、しかしこの人が作る人の顔もぜひ見てみたかった。

 

 

これほどの品を作れるモノの軌跡は必ずある筈だ。しかし類似した物は見た事がない。

 

作者について何の情報もでて来なかったのだ。

これほどの熟練度のある作者が誰にも知られずにいた筈はない。

存在する情報はせいぜいアスラ王国の田舎で子供が売りに来たと言う情報で何をどうしろと言うのか。

 

まさかその子供が作った訳では無いだろうし…。

 

いや、もしやこの作者はすでに亡くなられており孫か何かが小遣いの為、いい加減に質に出したのだろうか?。

十分有り得そうな話だ。

これ程の美術品を無造作に投げ売りする様な真似は到底許される事では無い。

もしそんな事が許されるならば、そんな愚か者には然るべき対応を考える所だ。

 

いや、そうと決まった訳では無いしそういう事を考えるのはいささか早計すぎる、落ち着こう。

 

ああ、しかし、もしも、まだコレの製作者が生きているのならばぜひお会いしたい。

 

そう思い、その店の雑貨全てを購入し、店主にコレの作者を調べる様に金貨200枚で言いつけた。

 

そしてその一年と半年後、その時の商人が新しく、同じ手法で作られたと思しき人形を入手したと現れた。

 

持ってきた人形は確かに同じ素材に同じ製法、そしてよく似た造形をしていた。

だがコチラはあの奇跡的なバランスを用いた躍動感は無く少し残念に思った。

しかし、筋肉の造形や剣の意匠などの造形美は同じぐらいに素晴らしかった。そして更に目を見張ったのはそれには表情まで精巧に彫刻された男の顔があった事だった。

 

今まさに敵と戦闘しているのだと言う鋭い気迫と絶対に負けない頼もしさを感じさせる勇ましく精悍な顔立ちの男の顔だ。

石像の顔は想像以上に美しく、感動のあまり目頭が熱くなるほどだった。

 

「して、制作者についてはどうだった?」

 

急かす様に商人に情報を求めると驚くべき事が発覚した。

持ってきた情報は前回と同じく少年が売りに来たという物だったが、コチラの方はどうやら少年の作ったという信じられない様な事だった。

 

人形の細部の細工について完璧に受け答えをしたうえ、作り方や素材についてまで語ったというのだからほぼ間違いないだろう。

 

それはそれで信じられない事だったが、前回のもの程信じられない話では無い。

 

恐らく前の作者と売りに来た少年は師弟関係なのはほぼ確定であると仮定して動くのが良いだろう。

 

そしてその少年に会いたい気持ちが生まれたのもその時だ。

 

 

どうにか連れてこれないかと動いた数ヶ月後。

戻って来た情報は余りにも落胆する物だった。

なんと、その少年は少し前に行方をくらませてしまったのだそうだ。

しかも、調べて見るとその少年の付近に少年の師匠と思しき人物は影も形もないのだと言う。

 

強いて挙げられるとすれば、人形が売られる少し前まで住み込みで働いていた魔術師の家庭教師の少女だが、一年程で居なくなってしまった為か碌な情報が無かった様だし、彼女が人形を作っていたという情報もなかった。

 

その報告を得て肩を落としたのは言うまでもない事だ。

 

 

魔術師の少女と聞いてふと思い浮かべるのは少し前にやって来た 水聖級魔術師ロキシー ミグルディアだが彼女は違うだろう。

もしも、彼女が製作者なら多少リアクションがある筈だが精々魔術で作った物と言う部分に関心を持っただけで人形の造形については、残念ながら特に深く食い付く事は無かったのだ。

 

 

新しく来た男の人形を眺めていると丁度ロキシーが廊下を歩いているのが目の端に止まる。

弟の授業の後だろうか、少し不機嫌そうなのが伺える。

 

「ロキシーはフィットア領に身を寄せていたのだったな…」

思い出したかのように呟きロキシーを呼び止めた。

呼び止められたロキシーは少しキリッと背筋を伸ばし不機嫌そうな態度を隠した。

 

「なんでしょう殿下」

 

「この人形の男に見覚えはないか?」

 

特に期待する事は無かったが念の為に顔の彫られた人形を見せた。

どうせ、知らんと返されるのが席の山だろうと思ったが、思わぬ反応が返ってきた。

 

「え…、パウロさん…?」

 

動揺して零したロキシーの言葉を聞き逃さず、パウロなる男についてロキシーを問いただした。

 

そして人形の容貌がパウロ グレイラットと言うフィットア領に住んでいる在中騎士と瓜二つであると言う情報を入手した。

 

しかし、製作者については知らないの一点張りだった。

まるで肉親を危険人物から庇うかの様な必死な態度に、これ以上ロキシーから情報を聞き出すのは不可能だと判断した。

明らかに知っている様にしか見えないが根拠は何も無いのだ。

根拠も無く更に詰問すれば、ただでさえここの生活に辟易しているロキシーが出奔しかねない。

ロキシー自体はどうでも良いが、せっかくの手掛かりを手放したくはない。

 

ロキシーと製作者との繋がりを示せるものでもあれば話は別だろうが…。

と、その時は引き下がるしかなかったが。

 

しかし、その数日後なんとまさかの繋がりを入手する事に成功したのだ。

 

「そ、ソレは…!?」

 

「そう、貴様の人形だロキシー」

 

これまでの人形と全く同じ作りのロキシーの人形を入手した。

 

服のデザインから脱いだ裸体のほくろの位置まで精巧に作られていた。

 

明らかにロキシーをよく知る人物が作ったのは明白だろう。

 

これにはロキシーも黙らずを否、喋らざるを得なくなった。

見苦しくも黙秘という抵抗を続けていたが、余はそれを、何があっても無礼はしないと頼み込んだ結果。

 

ついに心当りのある人物、ルーデウス・グレイラットの情報を吐いたのだった…。

 

 

 

 

老人視点

 

エリスの誕生日から幾月か経過したが、アイツが特にフィリップやサウロスから説明責任を追求されるような事は無かった。

いや、アイツの事を常に見張って居たわけではないので、もしかしたらオレが見ていない時に何か聞かれたりしたかも知れないが、アイツの様子を見る限りそういう事は無さそうだ。

 

ギレーヌが言わなかったというのは考えられないし、そう考えると取り敢えずオレの存在は許されたらしい。

 

きっと、オレのコミカルな動きが悪意のあるモノの物の感を消してくれたに違いない…。

 

いや、そんな訳ないだろ、馬鹿じゃないのか?

 

 

単にアイツの信用度がオレの妖しさを上回っただけだろう。

そんな事を一人でノリツッコミをしてる自分に若干悲しくなりながら屋根の上から外門を眺めていた。

 

 

玄関には大勢の使用人達が門に対して垂直に並び立ち屋敷側の中央にルーデウス含むフィリップ達が横一列に並んでいた。

イメージするなら お帰りなさい若ッ!!とヤクザが玄関先に並んでる感じだ。

 

しかしながら出迎えられているのは反社の若大将などでは無く、ボレアスの屋敷だし歴としたお偉いさんだろう。

 

本当に誰が来るんだ?

 

少しすると豪華絢爛な馬車が門までたどり着いた。

出迎えた使用人の一人がそこまで行き馬車の扉を開いた。

 

出迎えられた男を見てオレの中の時間が止まった。

 

 

 

並び立つ使用人達の真ん中を、ひょろ長く痩せこけた眼鏡をしたオタクじみた風貌の男が彼の騎士と共に威風堂々と、どこぞの王族の様に歩いて来ていた。

 

というか紛れもなく、王族だ。

 

「余はシーローン王国第3王子ザノバ シーローンでございます、此度は急な申し出にあったにも関わらずこの様にもてなしてくれた事感謝いたします」

 

そう、恭しくザノバはサウロス達に礼をした。

 

 

 

 

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