別に老人が嫌いな訳じゃない、普段の老人の話は面白いし、共感できる部分が沢山ある。
パウロの話す冒険のあれやこれは、聞いていて楽しくはあるが、恐ろしい部分が数多くあり憧れたりはあまりしない。
それに比べ老人が語ったオートマタの話は年甲斐もなく身を乗り出すほどワクワクした。いつか自分でも作ったり鑑賞したりしたいと、そう思った。
対照的に老人はつまらなさそうだったが、身を乗り出した俺を寂しそうに見ていた。
『俺も最初の頃は楽しかった。あいつらとオートマタの原型を見た時は心臓が高鳴ったし、ソレの研究も楽しかった…』
そしてまた遠い目をして次第に…
「あっ、すいません。そういえばどうして3種類以上の混合魔術って一人でできないんですか?」
俺は遮る様に質問した。前から気になっていたのだ、老人は黙ったままお湯を作ったり泥を作ったり出来るが、ソレはあくまで火と水でお湯を、土と水で泥を作っているに過ぎない。
色々な混合魔術を見せてもらったが、3種類以上の基礎を使った魔術は見たことが無い。
『ん? ああ、ソレは、腕が前に出力装置みたいな働きをしてるって言っただろ? 3種類以上だと腕が足りなくなるからだよ。それに無理に魔術を行使しようとすれば腕が骨ごと裂けたりするから人族にはほぼ無理だ』
浮かんでいた涙は俺の問いによって霧散した。咄嗟に聞いた問いだったがきちんと納得できる答えが返ってきた。
「な、なるほど…」
次第にオレは老人の一挙手一投足に目を配るようになっていた。
地雷を踏まないようにするようになり、踏んでしまっても無理矢理話を反らして老人の辛い話を切りあげさせる。
気が付くと老人の機嫌を伺うようになっていたのだ。
もう一度言おう、老人の事が嫌いな訳じゃない。
だが、やはり疲れる…。
そんなある日の事だ。
『外に出る気はあるか?』
何だろうか、いきなり老人がそんな事をのたまった。
「な、何言ってるんですか? 僕はまだ二歳の幼児ですよ? 勝手に外になんてでたら怒られてしまいますよ。それに外には怖い魔物がウジャウジャいて僕なんてあっという間に殺されてしまうかも知れないじゃないですか、それに────」
二歳には見えないであろう理路整然とした様な理屈を展開し老人を黙らせる。
俺の為に言ってくれた事だろうが家から出たいとは微塵も思わない。しかし、いつかは出なければいけない日が来るのだろう。しかし今日明日では無いはずだ、一年後とか二年後とか…。
そう考えていると、前世の事を思い出した。
後でとかいつかとか考えて物事を後回しにして、結局何もせずあらゆるモノに唾を吐くゴミの様な生き方をして見限られ追い出された。
嫌な記憶だ。
『そうか…、行きたくないならそれで良い』
少し落ち込んだ老人に申し訳ないと思いつつ、これ以上言及してこない事に安堵する。
『そう言えば外と言ったら、昔転移に失敗して魔大陸まで飛ばされた事があってな、そこで食うに困って巨大な亀を狩って食っていたんだが、それが固いは臭いはで死ぬ程不味くてな、土魔術で作った鍋で圧力をかけながら薬草で臭いを消して何とか食える物にしたんだ。
当時誰も俺に共感してくれる奴が居なくてちょっと寂しかったけど、今ではいい思い出だよ』
唐突に老人が語り出したのは珍しい事に辛く無い思い出話だった。魔術の指導以外で悲しくない話が出てくるとは驚きだ。
「そうなんですか、魔大陸ってどんな所なんですか?」
『自分で確かめろと言いたいところだが、そうだな、まず人族は殆ど居ないな、だから人間語も殆ど通じない。住んでる奴はトカゲまんまなのに完全に二足歩行してるやつとか頭と脚は馬の癖に腕と胴体は人間みたいな奴とか、まぁ色んな奴が居たよ。世間じゃ魔族って呼ばれてる』
ほらと本をサイコキネシス的にフワフワと持ってきて適当なページを開く。
「へぇ、不死身の魔王なんてのも居るんですね」
『アトーフェラトーフェとバーディガーディの2人が有名だな。アトーフェは馬鹿だ。言葉を喋れるが頭が筋肉で出来てるせいで話が通じない。バーディガーディは割と話が通じる。力なんぞより大切な物があるというあいつの言葉には今では共感しか無い』
「会った事があるんですか?」
『あっ、まぁな。昔ちょっと世話になった事がある』
しまったと言いたげな少し苦々しい表情をしてから、老人は喋るのを止めた。
何か言ってはいけない事でも言ったのだろうか?
魔王の話だしそう言うのがあるのかも知れない、と勝手にそう思った。
その数日後、いつも通りの時間に書斎に行ったが何故か居らず、自主練でもしようかとたまたま開いていた魔術教本の中級魔術を唱えたら部屋が半壊し、慌てて土魔術で直そうとしたが当然の様に間に合わずゼニス達に見つかったのだった…。
ちょっと無理矢理話を進めました。このままじゃ永遠と老人の昔話を続けてしまいそうなので…