もし継国縁壱さんのような人が無職転生の世界に居たら   作:ばしお

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初めて妻に出会った日。

「着いたよ、さあ降りなね」

 

そういわれ、馬車を降りて真っ先に目についたのは、道場らしき建物。中からは真剣みを帯びた掛け声が響き渡り聞こえた。

 

婆さんはよっこらせと言いながら馬車を降り、私に着いてくるように行った。私はそれに従い歩いて着いていった。隣で歩くイゾルテが不安そうな顔でちらちらとこちらを見ていた。

 

中に入ると先程聞いた声からイメージした光景と同じく、何人かが木刀を持ち真剣に修行に励んていた。

 

 

私たちの存在に気付いたのか、彼らはいったんは稽古を中断して、私たちの方に視線を向け、おそらく婆さんたちに向かって「お帰りなさい」といった。

 

そして、私の存在に気付いて「この子は?」と稽古中の弟子らしき人物は不思議そうに婆さんに聞いた。

無理もない、額には傷のような痣があり、身なりもボロボロで特徴と言えば耳飾りをつけているぐらいしかない。不思議に思うのは当然だろう、とヨリイチは思った。

 

婆さんは「ああ、気にしなくていいさね。それより修行を続けな」といった。

 

弟子たちは私の存在が気になりつつも修行を開始した。

 

私は婆さんが再び奥に歩き出したので私もそれに着いていった。

 

一度外に出て向かった先は歴史を感じさせる厩舎だった。

 

もう一度中に入り、案内された先に会ったのは、誰も使っていないと思われる一室だった。中には、端っこに置かれた簡素なベット、身を綺麗にするために使う丸い桶、清潔な服が一着があり、正面にはちょうどいい日差しが通りそうな窓があった。

 

「ここはしばらくあんたが使っていいよ」

「私をここに置いてくれるのですか?」

「雑用をこなしてくれたら、別に構わないよ」

「………何故、私にそこまで親切にしてくれるのですか?」 

疑問だった。血縁でも、親族でもない私に対してここまでしてくれるのは何でなのだろう。

 

「さあね、ただの気まぐれだよ」

 

そう言って婆さんは踵を返し、再び道場の元へと歩いた。

 

私はついては行かずにポツンとたったまま、取り敢えずの桶に魔法で作ったお湯を入れ、身体を洗う事にした。

しばらく洗っていなかったので、身体中からは獣の様な匂いがしたかもしれない。

 

私は心の中でイゾルテや婆さんが、自分の体臭の臭いせいで困らせていたかもしれないことを申し訳なく思った。

 

綺麗さっぱりと身体と頭を洗った後は、そのまま裸のまま、服を洗う事にした。

母様から身なりは綺麗にしなさいと、教えられたやり方を今でも大切にして、心にとめている。

どうやら服は濡れたまま放置せずにすぐ、日の元に照らして乾かした方がいい、と母様はいった。

 

ので、魔法で作ったお湯の中に服を入れて、ぐるぐると汚れを落とす様にしばらくした後はそれを絞った。

 

後はどこか日差しのいい場所を探そう。

 

ヨリイチは外に出た。

 

ヨリイチがしばらく歩いて見つけたのは、心地いい音が流れる川の近くだった。

日の光がキラキラと川を乱反射させ、森を撫でる様に光らせている。

 

この場所にしよう。

 

ヨリイチは気に入った場所を見つけて、ここで洗った服を干す事を決めた。  

 

「きゃっ!」

 

あらぬ方向から小さな悲鳴が聞こえた。

 

聞こえた方向に顔を傾けるとそこには、両手で身体をかかえて、小さくうずくまってしゃがみながらこちらを見ている少女がいた。

 

恥ずかしい格好を見られた、と少女は顔を赤くしているが、同時に怯えのような感情をヨリイチは感じ取った。

 

襲われるかもしれない、と少女は怯えている。

 

油断していた。思わず、あまりにも美しかった自然の景色に気を取られて、その場にすでにいたものの存在に気づけずにいた。

 

ヨリイチはら静かにその場を立ち去ろうとした。

 

その時、反対側の、暗くて奥がよく見えなかった方角から、少女に飛びかかろうと唾液を垂らした魔物がいるのを、ヨリイチは透き通った世界で見通した。

 

ヨリイチは少女の元に駆け寄った。

少女は更に小さく縮こまろうと頭をかかえながら伏せた。

 

襲い掛かろうとした魔物をヨリイチは素手で急所を殴った。

命を刈り取る行為はいつまでもなれなかった。

「きゃうん……」

 

魔物は小さく鳴き声を響かせ、その場に伏せ倒れた。

 

「あ……え……魔物……なんでここに……」

 

少女はすぐには事態を把握できずに、裸のまま混乱していた。

 

「貴方が……この魔物を倒したの?」

 

ヨリイチは少し悩んだ後、静かにこくりと無言で頷いた。

 

「……そっか」

 

へなへな……と、少女は裸になっているのも構わず尻を地面につけ倒れた。

 

ヨリイチは少女から目を背けそっぽを向きながら、彼女を一人にするわけにはいかないと考えた。

 

「ここは日差しがよくて風通しが良く気持ちいいが、一人でいるのは危ないかもしれない。」

 

そういうと、背中から視線が向けられるのを感じた。 

 

幾らか、先ほどよりも不安の色は見えなかった。

 

「……助けてくれてありがとうございます。さっきは、あんな態度を取ってしまって申し訳ありません」と、少女は言った。

 

「こちらこそ。まさかここで水浴びをしている人が居るとは思わず、申し訳ないことをした。」

 

「いえ、私が勝手にここで水浴びをしていたのが悪いんです。よく考えれば女一人でくる様な場所じゃないのに」

 

少女はしょんぼりした様に俯きながら言った。

それを見てヨリイチは一つ提案をする。

「よければ、貴方が水浴びを終えるまで、周りを見ていよう」 

 

「そんな、貴方様に申し訳が」

断られるかもと思ったが、どうやら私に対しての気遣いで断ろうとしているらしく、ヨリイチは話を続けた。

「気にしなくていい。もし気にするのであれば、貴方の裸を見て、邪魔をしてしまった。それの償いをさせて欲しい」

と、ヨリイチは言った。

「で、では遠慮なくそうさせて頂きます」

恐る恐るとあった様子で、少女は提案を呑んだ。

 

これが、妻との最初の出会いだった。

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