ようこそ天の御遣いのいる教室へ   作:山上真

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お久しぶりです。


23話

 6月も半ばを過ぎた。 

 交換トレード制度の導入は確かに学校に波乱を呼んだが、俺たち1年生にはとってはそれほどでもなかった。――まあ、あくまでも2、3年生と比較しての話だが。

 実際、すべて断ったが椎名さんの交換移籍成功に伴い、Dクラスから何件かの交換申請が届きはしたのだ。

 同学年とはいえ、違うクラスの相手だ。まだ2ヶ月少々しか経っていない現状で知れる情報など極々限られている。その中でも『実力』という点で信用のおける情報など、小テストにおける成績くらいなものだ。あれで90点以上を取れたということは、少なくとも学力においては信じてもいい。

 逆に言えば、こと実力において信用のおける情報など、現在の1年にとってはそれくらいしかないのだ。そんな状態では、交換移籍などそうそう成立するわけがない。

 普通の学校であれば、難しいことを考えずに他クラスと付き合いを広げることも有りだろうが、この学校においてはそうもいかない。何においても『実力』が第一に来る。人間関係を構築するにも、利害や損得、それらを踏まえた上でなければ後々に自分の足を引っ張ることになってしまう。

 極一般的な『学生時代の青春』としては問題ありだろうが、将来を考えれば悪いとも言い切れない。

 この世の中、何を成すにも代価は必要で、それは必ずしも金銭とは限らないのだ。その事実を、この学校のシステムは骨身に叩き付けてくる。卒業まで居続けることが出来れば、社会の荒波に揉まれても耐えられるだけの下地は出来上がるに違いない。少なくとも、早々ドロップアウトする確率は低くなると思われる。……『高度育成高等学校』とはよく言ったものだ。

 まあ、いくら特殊な学校とはいえ、他クラスに友人のいる者も普通にいるだろう。俺にだっている。真っ先に上がるのは一之瀬さんだ。彼女の人柄は好ましい。難しいことを考えずに接していられたらどんなに良いか。

 それを鑑みれば、椎名さんの件は僥倖だったと言えるだろう。

 彼女はDクラスの生徒だった。そして我が校のシステムを踏まえれば、普通に考えて俺たちBクラスへの交換申請など通る筈がない。それを通したのは、多分が俺の影響力によるものと自負している。もちろん、桔梗によるアシストがあったのも大きいだろう。

 とはいえ、推せる要素が無ければ成立以前の話だ。その点において椎名さんの学力と容姿の良さを否定はしない。……が、何よりも重要なのは『椎名さんはリーダー格ではない』という事実だ。王でもなければ将でもない。学力を踏まえれば軍師の素養はあるだろうが、ポジションとしてはあくまでも一兵士に過ぎなかったのだ。もっと時間が経っていたなら、こうもすんなりとはいかなかっただろう。未だ龍園の支配力が盤石でなかったからこそ、という事実を忘れてはならない。

 ともあれ、そういった諸々の要素が組み合わさって申請の受諾は叶った。

 だが、交換である以上、申請を通して終わりではない。むしろ重要なのはその先、誰を送るかにある。

 この場合、考えられるのは大きく2通りだろう。すなわち『役立たず』か『スパイ』だ。

 進路希望を叶えられるのは卒業時にAクラスの生徒だった者のみ。その前提がある以上、この学校ではクラス闘争が切っても切り離せない。だからこそ、俺にしろ龍園にしろ、或いはそれ以外の誰かにしろ、先見性のある者は優位に立つために色々と動いている。

 協調性を高める、地力を高める、支配力を固める等々、方法自体は色々とあるだろうが、結局のところクラスという名の『自軍の強化』に集約される。

 そして今回の制度で、そこに『実力者を引き入れる』、『足手纏いを放逐する』、『スパイを送り込む』といった選択肢が現実的に可能なレベルで追加された。

 俺たちのクラスはDクラスとのトレードにおいて、椎名さんという実力者を引き入れ、足手纏い――山内を送った。山内は俺たちを恨むだろうが、平たく言って自業自得だ。個人的には、むしろそれをバネにして成長するのを望んでいる。

 もう片方のトレードは椎名さんほどには紛糾しなかった。希望してきたのが有栖――Aクラスの生徒だったことも大きいだろう。

 クラスポイントによる逆転にしろ金銭トレードにしろ、基本的に上位クラスへの移動は至難の業だ。その事実がある以上、上位クラスから下位クラスへの申請は大概において通ると思われる。

 高円寺がクラスから去ったのは痛いと言えば痛いが、アイツは唯我独尊に過ぎる。総合的に考えれば、有栖と高円寺とのトレードはプラス方向に傾いたと言えるだろう。

 高円寺ほどではないにしろ有栖も我は強い。学力では有栖が上かもしれないが、断定出来るほどではない。身体能力においては問答無用で負けている。これだけならイーブンどころかマイナスだが、協調性という点においては有栖の方が遥かに上だ。わざわざ自分から移籍を希望してきた事実が、有栖にとって我がクラスの優先順位が高いことを示唆している。少なくとも彼女の興味を惹き付けられている限りにおいては、ある程度歩調を合わせてくれるだろう。

 全てでなくてもいい。何かしら幹部陣で共有可能な目標があれば、ある程度までは協力出来るものだ。そして上の方が足並みを揃えていれば、自ずと下の方もそれに習う。良くも悪くも、流されるのは人間の性だ。

 とは言え、個々によって優先順位が異なるのだから『ある程度』止まりなのは仕方がない。あとはどの様にしてその幅を広げていくかだ。……それもまた『実力』だろう。

 そして今回導入された交換トレード制度は――統制力、影響力、魅力、etcと――あらゆる方面から俺たちの実力を測ってくるのだ。正に華琳の好きそうなシステムである。

 しかし、さっきから何かこそばゆいと言うか、得も言われぬ気持ち良さを感じてならない。

 一体何が――

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 そこで、目を覚ました。

 どうやら思考を巡らせている内にそのまま眠っていた様だ。或いは夢を見る代わりに現状を整理していたのか。……まあ、どちらでも構わない。今はそれより大事なことがある。

 開いた目に映った室内は暗い。――が、光量を絞った状態で蛍光灯が点いており、カーテンの隙間から日も差している。完全な真っ暗闇ではない。

 寝る時は明かりを消している。それが点いていることこそが異常だ。電灯のON・OFFは入り口横のスイッチか、部屋に備え付けのリモコン操作のみ。リモコンは枕元に置いてあるので寝ぼけて操作した可能性も否めないが、この部屋で暮らし始めてからこれまで一度もやったことは無い。

 それ以外で真っ先に思い浮かんだのは、合鍵を持つ誰かしらが訪ねてきた可能性だ。華琳や鈴音など、一部の女性陣には部屋の合鍵を渡してある。彼女たちであれば、俺の就寝中に部屋へ入ることも可能だろう。

 そんなことを考えてる間にも、身体には断続的に気持ち良さが押し寄せる。視線を下げれば、薄手の掛布団が明らかに俺の体積以上に膨らんでいた。

 

「てりゃ……ッ!」

 

 勢いよく掛け布団を取っ払う。

 果たして、俺の息子は有栖による口撃を受けていた。そりゃあ気持ちいい筈である。

 

「ぷはっ……おはようございます、一刀さん。気持ち良かったですか?」

 

 そこまでされれば、流石に俺が起きたことを察したのだろう。息子から口を離した有栖は艶然たる笑みを浮かべて挨拶してきた。

 挨拶をされたら挨拶を返すのが礼儀である。ついでに、理由も訊くとしよう。

 

「ああ、おはよう有栖。確かに気持ち良かったけど、何だってまた平日の朝っぱらからこんな真似を?」

「ちょっとした実験、ですかね。先日、病院での定期健診があったのですけど、その結果が気になりまして……」

「悪化した、ってわけじゃないよな? だったらこんなことをしてる筈がないし……」

「むしろ、その逆ですね。いえ、正確には一刀さんとあった日を境に医者からは『体力の向上が見られる』と言われてはいたんです。まあ、そうは言っても所詮は気休めレベル――誤差の範囲だったんですが。

 それが、昨日の検診ではその範囲を優に超える結果が出ていたんです! 生まれてからのこの十余年、まったくと言っていいほど進展が見られなかったのにですよ! それは心当たりを思い浮かべますとも! そして行き着いた結果が――」

「以前の華琳との3Pだったってことか……。そりゃあ劇的過ぎる変化が出たなら、絞り込むのも限られるよな。本番はしていないにせよ、性行為なんて有栖は初めてだったろうし、最たる変化といえばそれになるか……」

 

 どうやら思惑は上手く運んでいたようである。

 有栖と面識を持って以来、俺は可能な限り彼女に気を流し込んでいた。

 世間一般において俺や華琳の用いる気はオカルト扱いされているが、その実は如何様にでも姿を変える万能性を秘めている『力』だ。使用者の適性にもよりけりだが、その範囲は実に幅広い。……完全に同じわけではないが、強化系やら放出系やらが登場する某作品の能力を想像すれば分かりやすいだろうか。

 こう聞けば特別な力のように感じるが、別段そんなことはない。気は天然自然の中に存在し、その一部たる人間もそれは同じ。大地に気の通り道たる龍脈があるように、人間の身体にも生まれつき経絡が備わっている。

 しかし、だからこそ、この経絡に異常があると身体もまたその影響を受ける。有栖の場合、それが生まれつきだったのだろう。

 俺の見立てにおいて、有栖は経絡に異常があった。生まれて早々ならば修正も容易だったのだろうが、10年以上も経っているのだからそうもいかない。故に俺は有栖を視て『病魔に侵されている』と称した。

 だがまあ、俺からすれば有栖の治療は困難だが不可能ではなかった。

 バランスが乱れているのならば整えればいい。……要はそういうことだ。

 人は普通に生活する中でも食事や呼吸から気を取り込んでいる。有栖の場合、経路に問題が起こっており肉体面への還元が不足しているのだ。道が土砂で堰き止められている、とでも評すればいいか。完全に堰き止められているわけではないが、一般的なそれには遠く及ばない状態にある。

 結果、肉体の成長が不足することにより、肉体への供給量も少なくなってしまう。同時に、堰き止められた気はその分だけ問題なく通る方へと過剰に流れていく。有栖の天才性はその証左と言えるだろう。

 ならば、解決策は簡単だ。道を塞ぐ土砂をどければいい。……言うは易く行うは難しだが、やってやれないことはない。

 そのためにも、俺は有栖と接触する度に気を流し込んでいた。徐々に、徐々にと。

 無論、ただ流し込むだけではない。よりよく肉体面へ還元できるように気を操作していた。繰り返した一生涯の中で得た技術があり、その上で直に接触していればこそ可能な事だ。

 涓滴岩を穿つとも言う。有栖だけではどうにもならなくとも、俺が干渉することにより、ゆっくりと、しかし確実に有栖の経絡の通りは良くなっていった。

 そうして下地を整えたところに俺の精子を取り込んだのだ。精子という子供の種は気の坩堝に等しい。その奔流は岩を穿つに十分だった、と言うことだ。

 それが検査結果に現れたのだろう。実際、以前よりは確実に気の流れが良くなっている。現在進行形で確認しているのだから間違いはない。

 まあ、1歩間違えれば『強すぎる気に身体が耐えられない』という事態も引き起こしかねなかったが、そこら辺には細心の注意を払っている。決して性欲に流されただけではないのだ。……性欲に流されたのも半ば本当だが。そうじゃなければ、信じられるかはともかく、最低限の許可は取ってからヤっている。

 

「ええ。そんなわけで、一刀さんの精子をいただきに来た次第です。……こういうのを一番搾りと言うんでしたか?」

「いや、間違ってはいないが――果てしなく間違ってるな」

 

 行為の際の一発目を俗にそう呼ぶこともあるが、まあ本来の意味での一番搾りとはかけ離れている。その程度、有栖なら言わずとも知っているだろうに、そんなことを言う辺り随分と余裕があるらしい。行為に対して抵抗が無いのは個人的にありがたい。

 などと、考えていられる余裕もなくなってきた。有栖が攻勢を強めたためだ。寝起きにこうも攻められれば、さしもの俺もそうそう耐えられるものじゃない。

 

「……うっ……出るぞ、有栖!」

 

 息子を口に含んだまま、おそらくは『どうぞ』と有栖が答えた瞬間、俺は果てた。

 

「……んうっ……ごく……ごく……ふぅ、ごちそうさまでした」

 

 放出された子種を飲み込み、更には舌で息子を綺麗にした後、これまた舌で己が唇を舐め、最後にティッシュで口を拭いて有栖は言った。通算で2回目とは思えないほどに手慣れている。それだけ1回目が――俺と華琳によって刻み付けられた現実が強烈だったという証左だろう。

 有栖の体格も相俟って、イケナイことをした感がありありと押し寄せる。

 

「お風呂、お借りしますね。それとも一緒に入りますか?」

 

 そんなことを問われたならば、俺の答えは決まっていた。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「――ってことは、やっぱ2、3年生は大変なことになってんだな」

「大変なんてもんじゃねえよ。おかげで部活への参加も一苦労だ」

 

 その日の放課後、俺は体育館で章仁と竹刀を合わせていた。

 高校では部活に入っていないが、これでも元は剣道部だ。暇を見つけて素振りなどはやっているが、それだけではやはり足りない。腕を落としきらないためにも、偶には実力者と試合をしたくもなる。

 その旨を剣道部の主将である章仁に相談したところ、『だったら俺とやろうぜ』と誘われたわけだ。

 互いの実力が未知数に等しい1年生とは違い、2、3年生は相応に判明している。そんな中での交換トレード制度の導入だ。下位クラスで燻ぶっている連中は誰しもが『この機を逃すか』と躍起になり、上位クラスは上位クラスでより盤石な体制を取ろうと努めているのが実情らしい。

 特に章仁はAクラスの生徒だ。実力的にトレードの交換対象に選ばれることはないとの自負はあるが、だからと言って安易に部活に参加することも出来ないようだ。部活に参加し自分の知らないところでヘタな人物を受け入れられたり、必要な人材を交換に出されたりでもしたら堪ったものではない、とのことである。

 同じくAクラスの生徒である学が、構わずに生徒会への参加を優先しているのも大きいらしい。……一応、同じくAクラスであり、生徒会の書記を務める橘先輩を残してはいるそうだが。

 そういった事情により、ここ最近は章仁自身、部活への参加時間が少なくなっていた様だ。

 結果、俺の相談は章仁にとっても渡りに船だったようである。

 

「しっかしまあ、まさかお前がここまで強かったなんてな! 入院のブランクなんてまるで感じさせないじゃねえか!」

「そりゃこっちのセリフだっての! 主将なんてやってんだから強いんだとは思っていたが、俺の想像を遥かに超えてやがる!」

 

 あくまで剣道のルールに則っているからでもあるだろうが、俺と章仁の攻防は一進一退だった。正に実力伯仲だ。

 俺が中学に在籍していた頃、章仁は剣道部ではなかった。確かに小学の頃に剣道をやっていたという話を聞いたことはあったが、言ってしまえばそれだけだ。1年以上も手を出していなければ、ブランクは相当なものになる。

 俺の入院後、何やかんやで当時の主将である不動先輩と付き合うことになったらしいが、章仁が剣道に復帰したのはその過程だと聞いている。

 そんなブランクのある状態からここまで腕を上げるのだから、章仁の努力の程が窺えるというものだ。

 ブランクというなら俺にも当てはまるのだろうが、俺の場合、剣道というスポーツからは離れても、剣自体から離れることは無かった。得物が実剣へと変わっても、振るうベースとなるのが剣道だったのも大きいだろう。……繰り返す生涯の中、素手や弓にも手を出したりしたが、やはり一番使っていたのは剣なのだ。

 互いに表層的な事情は知っていたが、所詮は表層に過ぎない。だからこそ、想像と現実との差異に驚きを禁じ得なかった、というわけだ。

 仕掛けては防がれ、仕掛けられては防ぐ。その繰り返し。まるで有効打が決まらない。

 それが歯がゆくもあり、楽しくもある。

 

「……ここまでだな」

「時間切れ……か」

 

 だが、何事も時間というものは有限だ。

 本来は剣道部の使っている時間であり、俺は間借りさせてもらっているに過ぎない。明確な勝敗が着くまで続けたい気持ちがあるのは確かだが、そこまで我儘は言えないだろう。

 剣道部にとって、あくまで俺はお客様だ。試合中の軽口を許されたのもそのためだろう。お客様にまで鯱張った固さを求めるつもりはない、ということか。ありがたいと言えばありがたいが、一線を引かれているのもまた事実。

 

「なあ一刀、やっぱ剣道部に入らないか? そりゃ、お前にはお前の考えてることがあるんだろうけど、実際に竹刀を合わせれば『勿体ない』と感じちまってな……」

 

 脇に下がったところで章仁が訊いてきた。

 それは半ば想定通りの内容だった。章仁に相談した時点で、勝負の流れ次第では勧誘されるだろうと踏んでいた。

 

「魅力的な勧誘だとは思うが、悪い。色々と手を出して、色々と身に着けたいのが正直なところなんだ。剣道を捨てる気はないけどな」

「なら、仕方ないか。……けどな、分かってるとは思うが茨の道だぜ、それは」

「覚悟の上だよ。……断っておいて虫のいい話にはなるが、今後もこうやって使わせてもらえるとありがたい」

「俺が主将である内は構わないぜ。今の手合わせでお前の実力は証明された。断る理由は無いな。……俺以外とも竹刀を打ってもらえると、こっちとしては万々歳だな」

 

 それで納得してくれたらしい。拘るところは拘るが、こういうところはサッパリしているのが章仁だ。

 まあ章仁自身、剣道だけじゃなく紅茶にも力を入れてるから、何となく共感出来る部分があるのだろう。

 

「話を戻して、今回の制度についてだが、俺たち3年は概ね肯定的に捉えている。そりゃ大変な部分もあるが、必要経費と言えばそれまでだしな。

 実力はあっても、クラス評価故に燻ぶっていたヤツは少なからずいる。うちのクラスにいてくれればと思いながらも、2千万という無理難題に等しいポイントから諦めざるを得なかったヤツもいる。……今回の制度は、双方にとって正に一縷の希望となった。

 ホームルームで今回の制度の導入について聞かされた際、まず思ったのは『言われてみればその通りだな』だった。

 じゃあ何で今まで導入されていなかったのかを次に考えてみた。……俺の結論としては『先入観に囚われていたから』だった。

 クラスは学校からの評価によって決まる。個人での移動は不可能に近い。言ってみれば、そこで思考停止していたのさ。認められている方法に拘って、新たな方法を編み出すなんて想像もしなかったわけだ。小利口に纏まっていた、と言い換えてもいい。

 或いは学であったらとっくに気付いていたかもしれないが、導入した場合、波乱が起こるのは避けられない。それを嫌ったが故に提案しなかった可能性は否定出来ない。お前もそう思うだろ?」

 

 章仁の問いかけには頷かざるを得ない。

 今回の制度について、言われて納得出来る、ということは、想像出来るだけのピースは揃っている、ということでもある。あとはそのピースを上手く組み合わせられるかどうかだ。

 その点、学であれば出来ていてもおかしくはない。客観的に見て、それだけの能力が学にはある。

 それと同時に、学には個人では大胆な決断が出来ない部分もある。周りの賛同が得られるのなら動きもしただろうが、幸か不幸かそういった提案は上がらなかった。或いは、周囲の人物は章仁のように思考停止に陥っていたのかもしれない。

 周りが確認して来ないのならば、これは提案するまでもないことだ。……あくまで推測に過ぎないが、学がそういった結論に達した可能性は決して否定出来ない。

 

「タイミング的に、今回の制度を提案したのは新入生の女子だろう? たしか生徒会に入会して早々に副会長に任命されたっていう。俺の記憶違いじゃなかったら、お前と同じクラスじゃなかったか?」

「まあ、そうだな。名前は坂柳華琳」

「お前、その子と親しいか? いや親しくなくても、もしよければ紹介してほしい。

 知っての通り、俺は如耶さんと交際関係にある。一応、彼女の親にも認められてはいるが、あくまでも一応に過ぎない。ぽっと出の一般ピープルと大財閥の令嬢だからな。それも仕方ないと理解はしている。

 だが、俺は諦めるつもりはない。そしてそのために必要なのは結果を出すことだ。とは言え、俺個人で出来ることなど限りがある。どれだけ実力をつけてもそれは変わらない。

 ならどうするか? 周りに頼るしかないだろう。適切な差配による結果ならば、それもまた俺の実力に違いはないからな。だからこそ、可能な限り人脈は築いておきたい。

 あの学が生徒会への入会を認めた時点で、実力に関して一定の保証はされているが、それに加えてのコレだ。その子個人の実力とは直結しないだろうが、Dクラスで入学したにも関わらず、早々に逆転を果たしたという実績もある。是非とも繋ぎは作っておきたい。……だから、頼む」

 

 章仁は真剣な顔で俺に語り、終いには頭を下げてきた。

 こうまでされて断る理由は俺にはない。まして、華琳もまた人脈の構築を目的としている面があるのだから尚更だ。

 

「分かった。近い内に華琳に確認を取って連絡するよ。十中八九、断られることは無いと思うから安心して待っててくれ」

「ありがとう。……ついでと言っちゃなんだが、その子以外にもオススメの人材がいたら是非とも紹介してくれ。学年が違えば、どうしてもそこら辺の情報を仕入れるのは難儀だからな」

「ここぞとばかりに言ってくるな。まあ、分かったよ。どうにか頑張ってみる。……が、上手くいかなくても文句は言うなよ?」

「分かってるって」

 

 本当に分かっているのか怪しいが、そこは親友を信じるしかないだろう。

 その後は世間話へと移り、互いに他愛もない情報を交換し合った。




このくらいの描写なら大丈夫だと思いたい。
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