ようこそ天の御遣いのいる教室へ   作:山上真

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25話

 現在、俺と鈴音はゲームセンターに来ていた。先日に約束したデートである。

 

「入学してからは初めて来ましたけど、凄いですね。流石、と言うべきなんでしょうか。……地元とは大違いですね」

「はは、俺も初めてここに来た時には驚いたよ」

 

 建物は数階建て。広さもあり、階層ごとに置いてあるゲームの種類が異なる。更にはボウリングや卓球なども出来る。その分だけポイントの消費も激しくなりがちだが、1ヶ所で色々と済ませられることを鑑みればトントンだろう。……もはやゲームセンターの一言では収まらない規模だ。

 入学前、特に桔梗ともつるむようになってからは鈴音も何度かゲームセンターに足を運んでおり、リズムゲームやガンシューティング、クレーンゲームにプリクラなどは手を出したことがある。

 なのでゲームセンター初心者というわけではないのだが、その言葉通り、地元とは規模が違いすぎる。空気に呑まれるのも無理はない。

 高度育成高等学校の謳い文句に偽りなし、と言ったところだろうか。

 有体に言って鈴音はナチュラル美人だ。服装やメイクに気を配らなくても十分な容貌を備えている。また割とストイックな学の影響もあってか、自分を高めることに重点を置いていた。

 一概にそれを悪いとは言わないが、結果として周囲の女子がやっていることをやらずにいた。それはコミュニケーション能力に確かな弊害として現れている。

 だから、その点においても桔梗の働きは大きい。内心でお互いを嫌い合っていようが、性別が同じというただそれだけで敷居がグッと低くなることはある。俺を間に挿んでではあるが、桔梗(女子)がいたからこそ、鈴音もゲームセンターに足を運ぶようになったのだ。

 

「まずはプリクラでもやりましょうか?」

「そうするか。その後は身体を動かして、最後にクレーンゲームが妥当なところかな」

 

 物にもよりけりだが、クレーンゲームの景品は嵩張る物であることが多い。そう簡単に取れる物でもないが、取れた場合のことを鑑みれば後に回すのが無難だろう。

 そんなわけで手始めにプリクラに向かったわけだが、そこで俺は肝心なことを忘れていたことに気付いた。

 男ということもあるのだろうが、俺一人ではプリクラを使うことは無いに等しい。女子と遊ぶ時には使うこともあるが、その際も操作はお任せだ。入院前には一人で使ったこともあるが、その時と比べて色々と機能が増え過ぎなのである。興味のある事柄ならばそれでも適応してみせる自信はあるが、生憎とプリクラは対象外だ。

 つまり、プリクラの操作に関して俺は完全な役立たずである。必然的に操作は鈴音に任せるしかないのだが――

 

「……ここに来るの、初めてって言ってなかったっけ? 何でそんなに手慣れてるんだ?」

 

 内心の不安を隠したまま様子を窺っていた俺は、次の瞬間、驚愕に襲われた。何と、鈴音が如何にも手慣れた様子で操作しているではないか。驚きの余り、思わず問いかけてしまった程である。

 

「確かにここに来るのは初めてですが、プリクラを置いてある場所は他にもありますから。愛里さんや波瑠加さんと遊んだ際にプリクラを使うこともありましたし、私でもこの程度は出来るようになりますよ」

 

 これが感慨というものだろうか。どうやら俺は学のことを笑えなかったらしい。今の鈴音の言動に、どうしようもなく喜びを感じている。

 

「頼もしいよ。俺自身は操作はサッパリだから」

 

 ともすれば瞳が潤みそうになるのを抑え、俺は何とかそう返した。

 それからも色々とゲームを梯子して。

 現在、俺と鈴音はもはや定番とも言えるリズムゲームをプレイしていた。音楽に合わせ、用意されたバチでタイミングよく太鼓を叩くだけのお手軽なゲームだが、難易度が上がれば本当に難しい。また、収録されている曲も幅広い。そんな、子供から大人までどの層でも楽しめる要素を持っている故か、今や国民的人気を有している。

 俺も鈴音も一応はフルコンボを達成したが、プレイしたのはそこまで難しい難易度ではない。このくらいならば、出来る者はそこそこいるだろう。

 

「次はどうする?」

「あれ、一刀くんに堀北さん? こんにちは、奇遇だね」

 

 プレイし終わり、次はどうするかを鈴音に訊いたのと同じタイミングで、横合いから声がかけられた。

 振り向くと、そこにいたのは洋介と軽井沢さんだった。

 

「洋介に軽井沢さんか。こんにちは」

 

 互いに挨拶を交わす。

 

「僕たちはこれからお昼を食べてボウリングに行くんだけど、良かったら2人もどうかな?」

 

 その言葉に鈴音と顔を見合わせる。次いで時間を確認すれば、なるほど、昼食を食べるには良い頃合いだ。

 

「俺は構わないが、鈴音はどうだ?」

 

 確かに今はデート中だが、休日の今日、洋介たちと一時行動を共にしても時間にはまだ余裕がある。

 それに洋介はともかく、軽井沢さんとは未だ接点が少ない。……先を考えれば、この機会に友好を深めるのも十分にアリだ。

 

「そうね……。私も構わないけれど、軽井沢さんは良いのかしら?」

「北郷くんと堀北さんなら、あたしも構わないよ」

「決まりだね」

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「けど、正直に言って意外だった。北郷くんはともかく、堀北さんにゲーセンなイメージって無かったから……」

 

 建物内にあるファーストフードコーナー。席に腰掛け、注文したセットのポテトを摘みながら軽井沢さんが言った。

 

「私だけだと中々選択肢に挙がらないのは事実だから、そう思うのも無理はないわ」

 

 同じく、こちらもポテトを摘みながらそう返した。

 その言葉に嘘はない。入学早々兄さんからお小遣いを貰い、CPもある程度キープ出来ているため手持ちのポイントにはまだ余裕はあるが、それでも大手を振れるほどではない。一般的な高校生基準で見れば月に数万単位というのは十分過ぎるのかもしれないが、食費やら何やらでじわりじわりと減っているのが現状だ。愛里さんや波瑠加さんとの行動も増えたため、更に減少は加速する。

 そもそも、プリクラは一人で撮ってもつまらない。クレーンゲームは景品次第で欲しくもなるが、『幾らで確実に手に入る』という保証が無い以上、どうしても二の足を踏む。リズムゲームもまた然り。あれは一人でやっても楽しめるだろうが、上を見るとキリのない代物だ。

 そんな理由もあって、如何な趣味娯楽と言えど私一人だとゲームセンターは中々候補に挙がらないのである。それよりは図書館から本を借りて読んだ方がよっぽど有意義だ。

 

「ただ、ゲームセンターに限ったわけじゃないけど、誘われたなら行くのも吝かではないわ。今日みたいにね。……なので、軽井沢さんも、良ければ今後色々と誘ってちょうだい。その時の都合次第になるでしょうけど、可能な限り応えたいと思うわ」

「……やっぱり意外。堀北さんって、一種の線引きしてる人だと思ってたから」

「間違いではないわ。……けど、この学校だと、それじゃあ通用しないから。私個人が一刀さんや華琳さん、或いは高円寺くんやほどに突き抜けた実力を持っていたなら、それでも良かったのでしょうけどね。才が無いとは思っていないけれど、それでも今の私の実力は努力と取捨選択の結果でしかないのも事実なのよ。

 そして今はまだ良いでしょうけど、連帯責任制である以上、今まで切り捨ててきたモノにも目を向けないと、そのうち本当について行けなくなってしまうわ。だから、コミュケーション下手なりに頑張っているところよ」

「……入学式の日から思ってたことだけど、ホント、強いね。ううん、堀北さんだけじゃない。北郷くんも、平田くんも、櫛田さんも、坂柳さんに綾小路くんだってそう。どうして隠すべき――隠しておきたいようなことを人前で堂々と言えるのか、あたしには分からないや。

 あたしにはそんなこと出来ない。今もまだ逃げ続けている。一人じゃ無理だからって、平田くんまで巻き込んで」

 

 そう言って、軽井沢さんは俯いた。

 

「それは違うよ。僕は巻き込まれたわけじゃない。それに、軽井沢さんは僕に過去を打ち明けてくれたじゃないか。それだけで逃げていることにはならないし、君の言ってくれた一言が、確かに僕の心を救ってくれたんだ。

 むしろ、巻き込んでいると言うのなら、僕こそが軽井沢さんを巻き込んでいるのかもしれない。……こんなことをしても贖罪になんかなるわけがないと理解しているのに、やり直しになんてなるわけがないのに、『もう2度と見過ごしたくない』という思いから、軽井沢さんを放っておけないんだ。

 本当、失礼なことだよ。軽井沢さん個人を蔑ろにしているに等しい行為だ。……そう理解していても、僕はこの行動を止められそうにないんだ。

 クラスの和だのと言っておきながら、その実は自分の心の安寧を優先しているにすぎないんだよ、僕は。我ながら呆れた男さ」

 

 その横で、平田くんは乾いた表情で自虐した。

 一体何がいけなかったのだろうか。頑張ってコミュニケーションを取っていただけだというのに、空気がどんよりと重くなってしまった。

 ただ、分かることはある。背負う過去が起因して、この2人は一緒にいるのだ。早い話が『傷の舐め合い』だ。

 そう察したところで、私に出来ることは無い。この状況を上手く回復出来るのなら、そもそもコミュ障なんてやってない。

 

「別に良いんじゃないか、それでも。安寧を求めるのは人間の性だよ。

 2人共、相手に迷惑をかけるのはともかく、かけられるのを厭っているわけじゃないんだろ? なら、そこまで気にすることもないさ。互いに迷惑をかけあうのが、友人だったり仲間だったり家族だったりするんだから。今現在は、より仲良くなるための過渡期なだけさ。

 俺は軽井沢さんの過去は知らない。洋介の過去だって、洋介自身が語ったことしか分からない。誰だってそんなもんで、それで世の中を渡っていくしかないんだ。――けど、そんな中でも過去を知り、認めてくれるヤツはいるもんだ。

 実際、俺だって課外授業でぶっ倒れて、一年以上目を覚まさず方々に迷惑かけまくった。それでも見舞いに来てくれるヤツはいた。鈴音なんて兄である学を通しての付き合いだったのに、それでも定期的に来てくれていたみたいだしな。……何でもかんでも話せばいいってわけじゃないが、自分が気にするほど過去を気にしないヤツは少なからずいるんだ。そんなヤツに出会えたのなら、その幸運をこそ喜べばいいんだよ。

 俺は洋介を友人だと思っているし、軽井沢さんとも仲良くしたいと思ってる。――2人はどうだ?」

 

 そう言って、一刀さんは微笑んだ。

 こういうのを見る度に、敵わないと思ってしまう。

 年齢と比較して、一刀さんは懐が大きすぎるのだ。また、物事を伝えるのにも、相手に応じて言葉を変える器用さがある。気遣える余裕がある。

 それは私に無いものだ。ズバズバと言うだけなら私にも出来る。……が、そこに相手に対する気遣いはない。言葉を解体すれば言っていることの内容は同じでも、気遣いを伴わぬ以上、鋭すぎる刃となって相手を打ちのめす。

 中学時、私に友人が出来なかったことの一因がこれだ。私自身が友人を欲していなかったことも大きいだろうが、多少言葉を柔らかくするだけでも結果は違ったはずだ。……と、今だからその考えに至れるが、当時は全然分からなかった。

 兄さんたちが卒業し、一刀さんが目覚めるまでの間は、本当に苦痛だった。……まあ、当時の私はそれを苦痛とは感じていなかったが。むしろ、話が合わないならそれで良い、と自分を高めるのに躍起になっていた。

 一刀さんが目を覚ましてからはそれを注意され、桔梗さんも一緒に行動するようになってからは、しばしば社交性の低さを小馬鹿にされたものだ。言われるだけだと我慢が出来ないので、学力や運動能力の面で言い返していたが。……それが互いの刺激となったのも、否定出来ない事実だ。

 

「……僕も、一刀くんのことは友人だと思ってるよ」

「あたしだって、仲良くしたいと思ってるし……」

 

 一刀さんの言葉と空気は、平田くんと軽井沢さんにも届いたらしい。多少歪ながらも、2人は笑みで応えた。

 

「なら、それで良いんだよ。改めて、これからよろしくな」

 

 柔らかな笑みを浮かべたまま、一刀さんは手を差し出した。

 

「うん、よろしく。……そう簡単に過去を吹っ切れるわけじゃないから、今日みたくダウナー入って迷惑かけちゃうこともあると思うけど」

「よろしく」

 

 2人も手を差し出して握手をし、その流れで私も握手をした。

 その後は多少冷めてしまった食事を平らげて、予定通りボウリングに向かった。

 ボウリングをやったのは久しぶりだったけれど、全員が割かし接戦だった。

 ただ、私のスコアが一番低かったのは悔しいので、暇を見つけてボウリングに来ようと思った。……愛里さんに波瑠加さん、桔梗さんを巻き込むのも良いかもしれない。




鈴音とのデート回。……と言うほどデート描写はしてませんが。

平田と軽井沢は過去が過去故に傷の舐め合い状態。一緒にいることで救われてる部分もありますが、否応なく過去を思い出しちゃうのでダウナー入ることもしばしば。

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