ようこそ天の御遣いのいる教室へ   作:山上真

6 / 30
2話

 教室内には半分くらいの生徒の姿。時間の割に人数が少ないような気もする。

 それぞれの机にはネームプレートが置かれているようだ。自分の席を探すと中央列の前から二番目。おかげで黒板が良く見える。まあ、未だ何も書かれてはいないのだが。

 

「お隣だね!」

 

 鈴音は後方、華琳は右側とばらけた中で、何と桔梗は隣の席だった。嬉しそうにそう言ってくる。

 

「……だな。よろしく」

 

 応え、グルリと教室内を見渡す。入学したてということもあるのだろう。大体は一人で席に着いている。資料を読んだりボーっとしてたりとやっていることは様々だが。

 そんな中で、一部の生徒たちはおしゃべりに興じている。前からの知り合いなのか、或いはこの短時間で仲良くなったのか。後者だとすれば、そのコミュニケーション能力は侮れないだろう。

 まあコミュニケーション能力では俺も負けているわけではない。時間もあるし、早速行動に移る。

 

「ちょっと人脈構築に行ってくる」

「行ってらっしゃい。私も動くね」

「そうか。無理はするなよ」

 

 桔梗と互いに声を交わして動き出した。

 真っ先に向かったのは太めの男子のところ。太っている、というのはそれだけでマイナスな目で見られがちだ。特に多感な年頃ともなれば。

 それを悪いとは言わないが、それによって孤立が生まれるのは望ましくない。必ずしも彼が孤立するとは思わないが、こういった可能性の芽は潰しておくに限る。

 

「やあ、初めまして。北郷一刀だ」

「……やや。進んでの挨拶、痛み入る。拙者、外村秀雄と申す。どうぞよろしくお願い致す」

 

 件の男子に話しかけてみれば、返って来たのはこんな言葉だ。侍口調とは流石に意表を突かれたが、俺のコミュニケーション能力を侮ってもらっては困る。

 

「……そうか。よろしくお願いする、外村殿。人は私を『天の御遣い』と呼ぶ。級友として、共に切磋琢磨していこう」

「ああ……なんと温かなお言葉か。しかし、拙者、得意なのはコンピュータに関したことのみ。勉学も運動もからきしでござる。この学び舎に入学出来たのは喜ばしいが、果たしてついていけるかどうか……」

「何を言う。人は決して万能でも全能でもないのだ。その中で誇れる能力がある事。まずはそれを喜び、自信を持つことが肝要なのだ。この情報化社会著しい昨今、外村殿の能力は十分誇るに値する。……人より劣っている部分に目を向けるのは、その後でも十分だ。言ってしまえば開き直りだが、そうする事で選べる道も増えるというもの。貴殿に必要なのは、まず自信をつけることに他ならない。

 とは言え、それは勉学と運動を捨てることではない。なにせ運営元が運営元だ。苦手だからと何の努力もしないようでは、切り捨てられる可能性は決して否定出来んだろう」

「拙者に……出来るでござろうか?」

「勿論だとも。自ら成そうとする意志があり、その上で努力をすれば、着実に血肉となる。外村殿に努力する意志があるならば、及ばずながら私も力を貸そう」

「……忝い。その時はどうかよろしくお願い致す」

「うむ。……では、私は他の級友にも声をかけに行く故、この場は失礼する」

 

 一礼し、外村くんの元を去る。ゲームキャラクターの口調を真似てみたのだが、ファーストコミュニケーションは上手くいったと判断してもいいだろう。

 

「やあ、よろしく。北郷一刀だ」

「……ああ。幸村だ、よろしく」

 

 次にやって来たのは、これまた一人でいる眼鏡をかけた男子生徒。見るからに頭が良さそうな印象を抱かせる。及川から軽薄さを除いたらこうなるだろうか?

 

「……意外だな。進んで彼みたいな生徒に声を掛けたのだから、俺に話しかけてくるとは思わなかった」

「なるほど、君はそういうタイプか。なら、俺よりは鈴音の方が気が合いそうだ。紹介してもいいかい?」

「俺が向き合う保証はないが、それで良ければ好きにしてくれ」

「じゃあ、そうさせてもらおう。……鈴音、少し来てくれ!」

 

 印象通り、学力を重視する傾向にあるようだ。学生の本分は勉強だし、それはそれで結構な事だが、他を切って捨てるのはいただけない。……と、いうわけで傾向としては似たタイプの鈴音を呼ぶことにした。

 鈴音にももう少し人付き合いに精を出してほしいところだし。

 

「何かしら、一刀さん。あまり大声で呼ばないでほしいのだけど?」

「悪いな。こちらは幸村くんだ。鈴音と気が合いそうだと思ったんで呼ばせてもらった」

「はぁ……。堀北鈴音よ」

「幸村だ」

 

 簡単な自己紹介を終えた後、幸村くんは元々眺めていた入学資料に目を戻した。

 

「幸村くんはその資料を見て『話が旨すぎる』とは思わなかったかしら?」

「……学生の本分は勉強だ。優秀な学力を持つ生徒が優遇されるのは当然だろう」

「その点については同意なのだけれどね。どうやらここはそう甘い学校でもなさそうよ。心構えはしておいた方が良いわ」

「ふむ、話を聞こう。君はそこらの学のない生徒とは違うらしい」

「それじゃあ、俺はこれで失礼するよ」

 

 資料を置いた幸村くんが鈴音に向き直ったことを確認してその場を離れた。

 

「やあ、北郷一刀だ。よろしく」

「……あ、ああ。綾小路清隆だ。よろしく」

 

 次に向かったのは鈴音の隣席に座る生徒だ。

 

「鈴音とは仲間でね。取っ付きにくいところもあるだろうが、仲良くしてやってくれると嬉しい。もちろん、俺ともな」

「オレはコミュ障でな。自発的に話しかけようと思っても、何だかんだ理由を着けている内に機を逃してしまうんだ。そんなだから、話しかけてくれてすげえ嬉しいよ。

 北郷は次々に話しかけてたみたいだが、どうやればそんな積極的に慣れるんだ? なんかコツでもあるのか?」

「う~ん、コツって言われてもな……。やっぱ心がけ次第なんじゃないか? 理由がどうあれ、人間、必要と思えば行動出来るものだからな。反対に、必要と思わなければ意欲もそこまで湧かないだろうし。あとは、まあ慣れだろうな」

「そんなもんか。まあ、友人は沢山いらないが、ある程度いればいいっていうのがオレの考えだし、急いで作らなくてもっていう思いがどこかにあるのは否定出来ないかもな……」

 

 そう言って綾小路は考え込んだ。

 考え込んだのは俺も同じである。まあ、俺の場合は目の前の男子についてだったが。

 自分で言った通り『コミュ障』である事は間違いないのだろうが、どうにもそれだけじゃないような気がする。その理由は綾小路の目だ。一般的な生徒が浮かべるものと比較して、彼の目は無機質に過ぎる。

 ああいった目には心当たりがなくもない。……あれは華佗との旅の最中だったか。そもそもが荒んだ時代だ。魏・呉・蜀といった統治の行き届いた光の側から離れれば離れるほど、必然として闇もまた強く濃くなる。

 生きるために殺すのは仕方ない。この一言で済ませたくはないが、そういった時代だった。綺麗事は大切だが、それだけでは回らない時代だったのだ。

 中には生きるために狂わざるを得ない者たちだって少なくはなかった。……そう、相手が人であると理解しながら、人であると認識しないようになってしまった者たちがいたのだ。

 とある村に一夜の宿を求めた際だったか。ボロ小屋ではあったが、快く村はずれのそこを貸してもらうことが出来た。そして深夜、村人総出で襲われた。拭いきれていなかった血の臭いに疑問を抱いた華佗が警戒を絶やさなかったからどうにかなったが、何か一つでも違っていたなら、あそこで死んでいてもおかしくはなかった。

 そこの村人たちにとって、旅の者とは衣類や金、村の生活を潤すための物を運んでくる道具でしかなかったのだ。賊が蔓延る、生命が安い時代ならではの方策だった。何の変哲もない村人は、理性を持った狂人と化していたのだ。

 無論、この綾小路が村人と同じとは言わない。……が、常識では考えられないような事が起こるのもまた現実だ。俺が三国時代へ飛ばされたように、華琳がこの世界へやって来たように、時として理不尽な事が起こり得るのだ。

 ならば、綾小路もまた、そういった常識では考えられないような経験をしていたとしても不思議ではない。

 俺の考えすぎならそれでいいが、よくよく注意しておくべきだろう。

 

「さて、いい時間だし俺は席に戻るよ。今後ともよろしくな。綾小路さえよければ、あとで俺の仲間を紹介するよ」

「……ん? ああ、悪いな。無視して考え込んでしまった。北郷さえよければよろしく頼む」

 

 結論を出したところで時間を確認。いつ担任が来てもおかしくはない。俺は綾小路に一声かけてこの場を辞した。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「新入生諸君、私はこのDクラスの担任となった茶柱佐枝だ。教科は日本史を担当している。この学校では年次のクラス替えが存在しないので、卒業までの三年間、お前たちと一緒に学んでいくことになるだろう。よろしく」

 

 チャイムが鳴るのとほぼ同時に入ってきたスーツ姿の女性――私たちの担任となるらしい茶柱先生は、持ってきた段ボール箱を教卓の上に置いてそう言った。

 茶柱先生の言葉は続き、今から一時間後に体育館で入学式が行われる旨と、それまでの時間を使ってこの学校の特殊なルールを説明する旨が告げられた。

 説明を分かりやすくするためだろう。入学案内と一緒に届けられた資料が前から配られる。持ってこなかった者がいないとも思えないが、念のためだろう。私のは何度も読み直してボロボロになってしまったため正直ありがたい。

 コンビニやスーパーは元より、カフェ、映画館、カラオケ、ブティック、ゲームセンター等々……生活に潤いを与える上でおよそ必要と思われる多くの施設が学校の敷地内に用意されている旨が語られる。もはや小さな街と言っても過言ではないだろう。

 

「続いてSシステムの説明に移る。大丈夫とは思うが、自前の携帯を持ち込んでいる者はいないな? もしいた場合、正直に言えば今ならまだ退学処分は免れるぞ? ……いないようだな。安心したぞ。毎年一人二人は資料を読み込まずに持ち込む者がいるからな。

 では、今から当学園の学生証端末及び携帯電話を配布する。これは一人ずつ配っていくから大人しく待っていろ」

 

 言って先生は段ボール箱を開け、その中の物を取り出した。何の変哲もない、白くて小さなケースだ。それがある程度まとまってビニール袋に入れられている。

 

「毎度のことだが、この作業は面倒でならないよ。最初の席ぐらい、五十音順でもいいと思うんだがな……」

 

 などと小さく愚痴を零しつつ、茶柱先生は小箱とネームプレートを見比べながら、各席に一つずつ置いていく。

 もちろん私の元にも届いた。渡されたそれを見れば、ケースにはネームシールが貼ってあった。

 ケースを開けると、入っていたのは二つの物体。内の片方は見慣れた形状をしている。そう、スマートホンだ。必然、残る片方が学生証端末ということになるだろう。

 

「よし、全員に行き渡ったな。左側が学生証端末、右側が携帯だ。まあ、見れば分かると思うがな。あと蓋の内側を見てみろ。ビニール梱包されたカードが貼り付けられている筈だ」

 

 言われて内蓋を見ると、確かにカードが貼りつけられてある。剥がしてみると、名前、生年月日、顔写真、僅かな空白を置いて下部にはバーコードがあり、その上に学生番号が記載されていた。……間違いなく学生証だ。

 

「そのカードが学生証の本体だ。買い物をするだけなら、これだけで事足りる。……のだが、こんな薄っぺらいカードだ。例年、落としたり無くしたりが後を絶たんのが現実だ」

 

 茶柱先生は教卓真ん前の生徒から学生証を借り受けてペラペラと振る。

 

「それを防ぐために用意されたのがこの端末だ。側面にスリットがあるだろう? ここに学生証を差し込め」

 

 そのまま端末も借り受けて、実演してみせる。差し込んだ後で生徒にはきちんと返していた。

 私も同じように学生証をスリットに差し込む。僅かな時間の後、端末に学生証と同じ画面が映った。――いや、『同じ』と言うと語弊があるだろう。学生証にはなかった映像も映っているのだから。最上部には幾つかのアイコンがあり、カードでは空白部分だったところにptという項目が増えている。数えてみると、なんと10万ッ!?

 

「施設によりけりだが、基本的にはカードを通すか、バーコードを読み取ってもらうことで支払う形になる。当然、ポイントは消費するがな。学校内――正確には学校の敷地内では、このポイントで購入出来ないものは無い。何でも買えると言っていい。

 肝心のポイントだが、基本的には毎月一日に自動で振り込まれる。お前たち全員、既に10万ポイントが支給されている筈だ。そして1ポイントにつき1円の価値がある。……それ以上の説明は不要だろう?」

 

 そう言って茶柱先生はニヤリと笑った。

 数瞬遅れて教室内がざわつく。無理もない。ポンと10万円を貰ったようなものだ。高校生に渡すにしては大金に過ぎる。

 

「額の多さに驚いたか? この学校では実力で生徒を測る。狭き門を潜り抜けて入学を果たしたお前たちにはそれだけの価値と可能性がある、と言うことだ。10万ポイントはそれに対する正当な評価だ。自由に使え。

 ただし、このポイントは卒業時に学校側で回収する事になっているからな。その事は憶えておけ。無駄に貯めても得はないぞ。

 ああ、そうそう。ポイントは譲渡も出来る。学生証からでも出来るが、携帯でも出来る。やり方は簡単だ。まずは携帯の電源を入れろ。電源を入れたら同期のために学生番号を求められるから入力しろ」

 

 言われるままに携帯の電源を入れ、学生番号を入力する。

 

「初期アプリの中に『ポイント確認』があるからそれを開け。使用履歴やら何やらあるが、その中に『ポイント譲渡』があるからタッチしろ。あとは渡すポイントと、相手の学生番号かメールアドレスを入力すればいい。打ち間違いがなければ、最終確認のあと譲渡は完了だ。……譲渡に関してだが、無理やりカツアゲするような真似はするなよ? いじめ問題には敏感だからな。

 何か質問があるなら手を挙げろ」

 

 茶柱先生がそう言うや、すかさずに手を挙げた生徒が二人。――一刀さんと華琳さんだ。

 

「ふむ、ではそちらのお前――北郷か。質問は何だ?」

「ポイントの支給についてですが、毎月10万ポイントが支給されるということでよろしいですか?」

「……言っただろう? 実力を評価されたポイントが支給される。――では、そっちの、あ~、坂柳か。そちらの質問は何だ?」

「ポイントで買えないものはないとの話だったけれど、先生の知る限りで構わないので、最低額と最高額を教えてもらえないかしら?」

「……ッ!? 私の知る限りでは最低ゼロ円。最高は優に100万を超すな。ただ、最高額の方はその時々で変動するからハッキリとは言えん。――他に質問はないか?」

 

 答えと言えない答えを言った後、茶柱先生は教室内を見渡した。他に手を挙げる生徒はいない。

 

「ないようだな。では、良い学生ライフを送ってくれ。入学式に遅刻はするなよ」

 

 片手を振って茶柱先生は出て行き、途端に教室内は騒めきに包まれた。




外村はより侍っぽい口調になりました。
そして幸村や綾小路との初接触。サラッとですが。
学生証と携帯はこんな感じに。
一刀以外の視点でも書いてみました。基本は一刀視点ですが、これから先も他キャラの視点があります。
感想・評価お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。