ある日、傷だらけの狐を拾った。 作:嘘吐き
合間の時間で書いた軽息抜き。
狐に噛みつかれて普通に痛みに叫んだ。
この野郎、意外と歯牙がブッ刺さって痛かった。
「……ったく、強く噛みやがって」
お陰で血が出ている。
狐って肉食系だったか?深い歯形が出来た。包帯を無駄に使っちゃったじゃないか。とは言え狐はグッタリしている。血が足りてないのか。まあ、あんだけの傷で生きてるだけ不思議だが……俺のした事はあくまで応急処置に過ぎない。
「おら、大人しくしやがれ。一回包帯外す。暴れると痛えぞ」
そう言うと、シュンと大人しくなった。
言葉分かるのか?めっちゃ賢い。包帯を外し、狐の身体を見る。酷えな、特に腹部が深く傷ついている。裂傷や打撲というより、包丁のような鋭利なもので切り裂かれてるみたいだ。動物病院って土日やってたか?
「動くなよ」
流石に風呂に入れたら傷口に染みてキツいだろうから、お湯で温めたタオルで優しく全身を拭く。傷は酷えが、出血は治っている。結構毛並みは綺麗な方だ。艶のある毛並みに若干宝石のようなピンクの毛が生えている。狐についてよく分からないが結構美人さん?
「悪いな、雑な治療しか出来なくて、明日動物病院に連れて……ん?」
狐は俺の包帯を噛んで引っ張る。
いっ、コイツ噛んだ傷口を舐めやがった。ちょ、血を舐めるな危ねぇ。
「汚いから止めろ、拒絶反応起きるぞ」
そして普通に染みるから止めろ。
狐の舌ってザラザラすると思ったが、痛くはない。でも舐め方がなんか気持ち悪い。つか舐め方が嗜虐的な感じがするのは俺だけか?
「ん?」
傷口、さっきより塞がってねえか?
特に腹部、さっき見た切り傷が目に見えて塞がっている気がするんだが…、まあいいか。普通に手を洗って包帯と巻き直す。とりあえず処置は終わりだ。
「ほらおしまい。狐って何食うんだ?てか、俺の家に何があったっけ…」
立ち上がり冷蔵庫を開ける。
酒と、枝豆と卵と牛すじ煮込み、実家から貰った高級豆腐と油揚げ、と昨日の作り置きがいくつか。米も冷凍ならある。野菜は結構あるし、肉は明後日くらいに使い切らないと腐りそうだ。
「やっぱ稲荷寿司か?お前食えるか?」
おお頷いた。やっぱ言葉分かるのか。
とりあえず俺は作り置きで何とかなるから稲荷寿司を作る。
作り方は簡単だ。冷凍されている米をレンジであっためて酢を適量かけて冷ます。沸騰したお湯を油揚げにかけて、何個か油揚げを切る。味醂、しょうゆ、砂糖で油揚げを浸し時間を置く。
その後、味がついた油揚げを冷まし、内側を開いて米を入れるスペースを作る。秋だからすぐ米が冷める。あとは寿司の握りでシャリを油揚げに入れれば完成。
まあアレンジとしては細く切った人参や枝豆、ひじきもいいアクセントになるんだよなぁ。
「ほら、とりあえず三つ。残してもいいから」
皿に三つ並べて稲荷寿司を狐の前に置く。
まあ、大きくはないが、とりあえず三つもあれば足りるだろう。
「あ?おい」
両手使って食べる狐なんて初めて見た。
あっ、落とした。傷治ってないから力が入らないだろうが。
「ったく、ほら」
稲荷寿司を口元まで運ぶ。
狐は動きを止め、渋ったような動作をしていたが、やがて稲荷寿司に食いついた。
「美味いか」
顔を逸らしながら狐は首を縦に振った。
「そりゃ良かった」
作った甲斐があったわ。
俺は次の稲荷寿司を持って、狐の口元へ運び始めた。
★★★★★
私の裸体(狐姿)を隈無く見た無礼な男を噛み付いて、少しは鬱憤は晴れたが、やはり私の身体は霊核が酷く損傷して、力を出せない。なんて惨めなのだろうとため息を吐く。
傷口に包帯を巻く男を見る。
パッとしない人で、デリカシーのない人だが、私を拾って怪我を治そうとしている。何が目的だったのだろう。死にかけた狐なんて拾っても何の意味もない。素通りした方が寧ろ利口な方だろうに。
優しく私の身体を拭いている。
うっ、地味に傷口にタオルが当たるの痛い。傷口を回復させるだけの魔力が足りない。
仕方ない、この男の血から魔力を貰いますか。
精々雀の涙程度にはなるでしょうし、包帯に噛み付いて、血が滲んでいる傷口を舐める。
……えっ?思った以上に魔力が回復する。
魔術回路が何本かあるようですね。質だけなら普通の魔術師より高い。まあ量はそれ程ある訳じゃないですが、これなら全快とはいかずとも特に酷い腹部だけならなんとか。
「汚いから止めろ、拒絶反応起きるぞ」
あっ、男の手が離れた。
これ以上は無理のようだ。まあいいでしょう。最悪この男の寝首を掻いて魔力を回復出来る。完全体に戻れずとも人間の肉体まで戻れそうですし。包帯が巻かれ終わると男は立ち上がって何かを作ろうとする。
「やっぱ稲荷寿司か?お前食えるか?」
稲荷寿司。
この身体だ、魔力補給の為にも食事はとった方がいい。それとは別に大好物だ。私は首を縦に振る。男は慣れた手つきで稲荷寿司を握る。意外と料理上手ですね。手際がいい。
「ほら、とりあえず三つ。残してもいいから」
差し出された稲荷寿司を両手で掴んで食べる。
むっ、この身体意外と面倒ですね。犬食いなんてしたくありませんし、頑張って掴っ!?っ〜〜!身体が引き裂かれる痛みに稲荷寿司を落としてしまった。
「ったく、ほら」
男が稲荷寿司を口元まで持ってきた。
く、屈辱だ。今度は餌付けのように差し出してきた。愛玩の獣であった頃とは比べ物にならないくらいに堕ちている事実にプライドは粉々だ。
だが、最早生きているのが不思議だ。
死ぬなら死ぬで構わないが、精々惨めに生きて再び愛玩の獣に戻る為の試練だと考えたほうが有意義だ。
屈辱だが、私は稲荷寿司に食い付く。
普通に美味しい。酸味も油揚げの下処理も絶妙。特にこの身体だから更に美味しく感じているのか、悪くないですね。
「美味いか」
勘違いしないでください、と言葉に出来れば良かったのだが、生憎この身体だ。素直に頷いておこう。まあ、稲荷寿司は普通に美味しかったですし。
「そりゃ良かった」
男が軽く笑った。
この人、こんな風に笑うんですか。また次の稲荷寿司が運ばれる。人間は嫌いだ。自分勝手だからこそ獣である私達を生み出した。大嫌いなのに、自然と目の前の男に対して嫌悪感はなかった。
まあ、この身体ですし、今回は素直にこの人に甘えますか。
そう心の底で言い訳しながら私は次の稲荷寿司を頬張り始めた。