後先考えずに出したけど、まぁいいか…
パンケーキを大量生産し、自分の体重とにらめっこすること約2週間。ようやく作りまくったパンケーキをすべて食べ終え、若干の体重増加という犠牲の下にヒメとミコトが楽しむ姿を見れた。
最後当たりでは私はパンケーキに飽きてきていたが、ヒメとミコトはがっつがつと食べまくっており飽きている様子はなかった。寧ろ食べまくって1週間も持たなかったくらいである。
「最後はサンドイッチのパン代わりにしたけど甘すぎたなぁ…」
「飽きちゃった?」
「ん、ちょっと作りすぎたなって。ヒメとミコトが食べたいならまた今度作るからね」
「やったー!」
相も変わらずヒメちゃんは部屋の中を探検するためにあちこち元気に動き回っている。反対にミコト君は、たまたま盆栽の隣で干していたぬいぐるみの上でお昼寝したら気持ちよかったのか、大体ぬいぐるみの中で眠っている。なんというか、動き回るヒメちゃんの充電をミコト君がしているようにも見えなくはない。もしそうだとすれば一回ヒメちゃんをストップさせてミコト君も自由にさせたいところではある。
「(犬と猫の差、ではないよね…。そもそも梅だし、妖精って言ってるし)」
「ぴゃーーー!」
「あー、こらこら。まな板を滑り台にしないの」
いつの間にか台所にワープして、まな板を滑り台にして遊び始めたヒメちゃんを捕獲。流石に包丁とかもあるから危ない。首根っこを掴まれれば子猫のようにおとなしくなるヒメちゃん、犬なのか猫なのか分からなくなってきた。いや、妖精だけど。
捕まえたヒメちゃんを頭にのっけてリビングに戻る。するとちょうど戻ったタイミングでスマホに着信が入って来た。
今まで聞いたことのない音にビクッとするヒメちゃん。ぬいぐるみの上で寝ていたミコト君も起きて音が鳴ったテーブルの方をじーっと見ていた。うん、完全に小動物の反応そのものだった。まあちょっとした通知のバイブなら聞きなれただろうけど、割と大きめの音で流れる着信音は初めてだからしょうがない。ましてや2人が生まれたであろう時代にはこんなものはなかっただろうし。
「大丈夫だよ。あぁ、それと今からここに居ない人と話をするけど静かにね?」
「はーい」
「───もしもーし」
『はろーやーやー!おひさー」
「久しぶりだねぇ。どうしたの急に」
『いや、ちょっと遊びに行こうかなって思ってアポの電話』
「えっ。いつも何も言わずに急に来るくせに電話でアポ取ってくるとか…別人か?詐欺か?それとも熱でも出たか?」
『ひどいなぁー!流石に一人暮らしの所にアポなし突撃して居ませんでしたーだったら悲しいでしょー!』
ブーブー、と拗ねた口調で文句を言ってくる友人の声に変わらないなぁ、と考えながら本当に珍しいとも思った。
自由奔放、有言実行、フリーダム過ぎるが故に傍若無人と言われたこともある友人からアポの連絡など来るとは予想がつかないであろう。
そしてスマホから聞こえる声に興味津々な妖精2人、いつの間にか2人そろってテーブルの上からこちらをじーっと見てきている。特にミコト君は気になっているのか、いつも以上にそわそわしていた。
「それで、いつ来るつもりなの?マキ」
『今!』
「は!?」
「───お邪魔するよー!」
「ほわーーー!」
「うわぁああ!?」
「ちょっ、おまっ、ステイ!」
突然開かれる玄関扉、ビビッて叫びながら消えて隠れる妖精、学生時代の癖でステイと叫ぶ私。すぐにリビングへとつながる扉も開き、突撃してきた本人がギター片手に入って来た。
訂正、アポ取っても誤差だった件。
▽▽▽
「で?何か弁明は」
「何もないです…はい…私が悪かったです…」
「よろしい」
突撃をかましてきた友人、弦巻マキを正座させて説教。高校の時から任された役割を社会人になって尚発揮するとは誰が思うのだろうか。そもそも発揮されちゃいけないでしょう、
正座で足がしびれたであろうマキは開放されたためその場で横になって呻いている。自業自得だ。
呆れのため息とともに壁に掛けられたギターをふと見れば、なんとそこにはミコト君が。しかも手を弦に掛けようとそーっと伸ばしている、ちょっとまて、気になるのはいいけど今出てきたらいけないでしょ!?
「(ミコトくーーーん!!!??!?!?)」
「うぅ…歩きっぱなしは慣れたけど正座つらい…高校の時以来だから余計痛い…」
「───自業自得だわ。近所にどれだけ悲鳴が響いたと思って」
「だから大人しくしてたじゃーん…うぁーん、足しびれて動けない」
ちょっとマキがゴロンゴロンしてギターの方向に視線が行かないか気になりすぎて困る。ミコト君はミコト君で弦に触ってすっごい楽しそうな顔してるけど、お願い、それ今鳴らさないでね…琴と同じで弦で鳴るからね。
鳴らすなよ…鳴らすなよ…と願えばなんとそこに追加の梅の妖精が出てくる。まてヒメちゃん、お前さんはもっと駄目だ。ミコト君以上に気になってるだろうけどそれを今鳴らせばアカンのだ。
「これも琴なのかな?」
「変わった形だね。多分これが弦だから引っ張れば鳴る、かな?」
「引っ張る?」
「駄目だよヒメ、これはあのおっきい人のだから」
「…うん?ねえ、スマホで今なんか流してる?」
「(あああああああ!!駄目だよおおおおお!!)」
「わぁ!ここなんだろう?回るねー!」
「今の琴って変わった形なんだね…すごいなぁ。でもこの空洞は何だろう?」
「近所の子供じゃない?」
内心汗をだらっだらに流しながら答える。いや、まずいでしょ。流石に梅の妖精と一緒に住んでますなんて言えないし、あの2人は最初の頃は私に姿を見せなかったんだからそう易々とバレちゃいけない。多分。
バレちゃいけないよね、そうだよね!?と心の中で2人に叫ぶが当然届くわけがなく。しびれが次第に取れてきたであろうマキが復帰し始める。
頼む隠れるんだ2人とも、マキがギターをもってあちこち放浪しながら稼いでるのを知ってるから仕事道具に不用意に触るんじゃない。などなど、私の心は日本海の如く荒れ狂って焦っている。
そわそわ、うずうず。興味津々でアグレッシブに不思議パワーを発揮しながらギターを眺める2人。しかし諺にもあるように好奇心は猫を殺す、というがこの場合は梅の妖精が見つかってしまう。それは困るのだ、主に知り合いにその方向に詳しい人がいるから尚更。
しかし悲しいことに不思議パワーで動き回っていた妖精は、うっかり弦に足を引っかけて鳴らしてしまったのだ。
素人でもわかるいい音が、控えめとはいえ鳴ってしまう。突然音が鳴った自分のギターと言う異常に、素早く顔を向けたマキのその表情は真面目なもの。大切な仕事道具の異常を見逃すことなどなく、そして視線の先には「やばい」といった表情で固まる梅の妖精が。
マナーモードの如くバイブレーションしている梅の妖精、固まる友人、そしてやらかした始末をどうつければいいか考えたくなくて天井を仰いだ私。
若干の静寂の後、固まっていた友人が一番最初に復帰した。それが、運が悪いと知らずに。
「…えっと、その。可愛い同居人だね」
「………うん、かわいい。可愛すぎて写真のフォルダが埋まりかけてる」
「「ぴゃっ…」」
「「ぴゃ…?」」
「「ぴゃああああああああああああああああ!!!!!!!!」」
お隣さんにお詫びしに行く羽目になった。
▽▽▽
あのあとやらかした妖精2人を抱えて大人しくさせたり、お隣さんにかなり騒がしくして申し訳ないと謝りに行ったり、そして遊びに来たマキに説明したりと色々してればあっという間に夜になった。妖精2人は基本的に暗くなると寝てしまうので、今は部屋に置いてきた。その為マキと2人で外に出てきているところである。
「いやー、びっくりだわ。てかそんな愉快なことあるんだねー」
「愉快かどうかは分からないけど、まあ少なくとも楽しいよ。そもそも最初なんて梅の盆栽貰っただけだったし。あの2人が出て来るなんて思わなかったし」
「そりゃそうよ。いやー、こんなことならゆかりも誘って来ればよかったな」
「やめてくれ私が休めなくなる。お前ら2人になるとストッパーがもう一人いないときついわ」
「ワンマンじゃん」
「そうだよ」
フリーダムにフリーダムを組み合わせるんじゃない。足し算じゃなくて乗算になるから余計に困る。
そんなたわいもない会話をしながら駅までマキを送る。久々に会えて楽しかったことに変わりはないのだ。
「ここまでで大丈夫だよ。いやー、今度はあの妖精にでもなんかお土産もって遊びに行くわ」
「今回みたいに電話はしてね。今日は仕事なかったからいいけど、突発で入ることもあるから」
「ういうい。そんじゃー、元気でね」
手を振って見送り、帰る。ふと思えば仕事が終わった後は必要なことばかり考えていたが、あの妖精2人が来てからは楽しみが増えた気がする。
マキがお土産、と言っていたが駅まで来たのだからちょっとくらいいい物を買って帰ってもいいだろう。思い立ったら吉日、ということで駅近くのケーキ屋へと立ち寄ることにした。
今夜はもう寝てしまった2人だけど、明日起きたらまた騒がしくなるんだろうな、と楽しみに思いながら寄り道をして帰る。
「うん、明日が楽しみだ」
今後は気まぐれで出していきます。特にこれといった書き溜めもオチもないのだ!