ピクシヴとかソナーズとかにもありますが
ハンドルネームが違うだけだったりします。
アグネスタキオンと男とトレーナーの会話
【モルモットと側にいること】
「やあ、トレーナー君。元気かな」
「朝にトレーニングであったばかりで、今日は休むんじゃなかったか」
「休んでいるんだよ。だから来たんだ」
アグネスタキオンが自身のトレーナーである男トレーナーがいるトレーナー室へとやってくる。部屋はごちゃごちゃとしているところは
ごちゃごちゃなのだが、整頓されているところはされている。気が向いたら整頓をするようにはしていると聞いてはいる。
男トレーナーは自分の机の側にある椅子に座っていた。部屋は何日か前に来たが、前になかったものがる。
「トレーナー君、新しい紅茶が増えてないかな?」
「貰った」
紅茶の葉はそれなりに片付いてるテーブルの上に置いてあった。
貰ったとだけ言われる。サンプルらしい紅茶が一回分だけ入った透明なパックや高そうな紅茶の缶、袋入りの紅茶もあった。
トレーナー室には簡易キッチンがあって、クッキングヒーターが置いてある。ガス台が良かったのだがガスは無理だったと前に彼が、
話していたことを覚えている。
「アッサムの葉か。珍しい」
「CTCが多いからな」
トレーナーは話ながら、紙の束を読んでいた。アグネスタキオンが見つけたのはアッサムの葉だ。紅茶は殆どが取れた国や地方の名がつく。
アッサムは有名な紅茶葉の一つだが、CTCと呼ばれている葉を機械的に丸める製法で葉が丸まっているものが多い。
CTC製法だとよく紅茶が出るのだ。置いてあるアッサムはリーフだ。
「飲みたいなぁ」
「飲めばいいだろう」
「君、淹れてくれないのかい?」
仕方がなさそうにトレーナーは読んでいるものにクリップを挟んだ。目印にしたようだ。細かい。となる。彼は大雑把なようでいて、
細かいところは細かいのだ。アッサムのリーフの入った袋を手に取ると、簡易キッチンの方まで行って棚から薬缶を取り出すと
水道水を勢いよく入れた。蓋をするとクッキングヒーターの上に置いてスイッチを操作する。
ティーポットを取り出して、ティーカップも取り出した。
アグネスタキオンは近くにあったパイプ椅子に座る。
「コーヒーは嫌いだろう。俺はどっちでも飲めるが」
「嫌いだね。葉は貰ったというと誰に?」
「身内」
「君って女をとっかえひっかえしているって噂があるけど、本当かい?」
「誰が言っていた」
身内、とだけ答えられた。
アグネスタキオンは噂を本人に聞いてみる。最初に教えてくれたのはダイワスカーレットだろうか。何故かタキオンを慕ってくれている。
トレーナーさんが女の人と歩いていたと聞いて、そうか、ぐらいだったのだが、次にアグネスデジタルがトレーナーさんが女の人と歩いてきたと
教えてくれたのだけれども、別の女だった。
面倒そうに、声音が変わる。怒っているようでいて、説明をするのが面倒なんだがといった様子だ。
「何人かが」
「……身内だ身内」
身内と一言で解決させられた。タキオンは考え込む。長い白衣の袖が揺れる。
「結婚相手を選んでいるとか」
「そこまで俺は結婚には夢を見ていないが。長男だけど家に関しては放置でいいとは言われている」
結婚には夢を見ていないとすっぱりと言われた。身内と片付けられているのだが、アグネスタキオンは男トレーナーについては詳しいことは知らない。
モルモットではあるのだが、知っていることと言えば新人のトレーナーで、アグネスタキオンのトレーナーであるということだ。
「夢を見ていないのかい」
「そういう環境じゃなかったんだよ。どれだけ苦労したか」
「苦労かぁ」
どれぐらいの苦労だったのかと聞いてみたいところだが、遠い目をしていた。
「ウマ娘でも結婚に憧れているのはいるし、ウェディングドレスも人気だったな。今度は白無垢でも出るのか。アレは掛け布団を着込んでいるみたいだとは
一番上の姉は言っていたが」
「ほう」
「? 着たいのか?」
「そうではないよ。トレーナー君の一番上のお姉さんが着たのかな」
”一番上の姉”とトレーナーは言った。アグネスタキオンは反芻するように質問をする。
「結婚式の時にな。皆で喜んだよ。苦労した人だから」
(トレーナー君、身内は多そうだね)
その時のことを想いだしたのか彼が嬉しそうにしていた。
会話からして恐らくは姉が一人以上はいて、他にもきょうだいがいるとは分かる。苦労した人ということは、身内で何かあったのだろう。
結婚関係で夢を見られない状態で苦労してきて、なおかつ一番上の姉が結婚してとても喜んだ。両親については聞かないほうがいいようだとは
結論付ける。もしも聞いてみるとするならば……とは考えて、その時ではないと判断。
話していると薬缶が音を立てて、沸いたことを知らせてくれる。
彼が薬缶のふたを開けてお湯を確認してから火を止めた。お湯は沸かしすぎても美味しくはないし、かといって、
余り沸かさないのも美味しくはない。程よい具合のお湯がいるのだ。
ティーカップとティーポットに軽くお湯を注いだ。
ティーポットはガラス製で二人分の紅茶が入る代物である。ティーポットをデジタルばかりにのせて上からティースプーンで
紅茶葉をいれていく。
「どれぐらいの濃さがいい?」
「任せるよ。砂糖を入れるから」
「……糖分補給なら菓子を出すから砂糖はそこまで入れるなよ」
「好きでいいじゃないか」
「入れすぎだ」
彼ならば美味しく入れるだろうと任せる。入れすぎだというけれどもお湯と砂糖を同一にしているだけだ。それだけだ。
前に男トレーナーは大きなスーパーで売っていそうな巨大な瓶に入ったマーマレードをアグネスタキオンに食パンと一緒にくれたけれど
食パンに沢山載せるだけのせて食べて、それでも足りなかったからスプーンですくって食べていたら妙な顔をされた。
糖分補給をしていただけなのにである。
「トレーナー君は妙な顔ばかりをするよね」
「誰のせいだ」
話ながらも規定量の茶葉をティーポットに入れてから、ティーポットを移動させて、台に置いてトレーナーは勢いよくお湯を
ティーポットに注ぎ込んだ。注ぎ込んでから蓋をしてセットしておいたタイマーのボタンを押す。
「今度のレースはどれに出ればいい? 気分が乗っているなら出るよ」
「候補は絞っている。決めたら知らせるさ。中距離か長距離のレースがいいし」
「楽しみにしている……ジャンピングがよく出来ているね」
アグネスタキオンはパイプ椅子から立ち上がるとトレーナーの側に来る。ティーポットに入れた紅茶葉が浮き上がっては舞っている。
ジャンピングと呼ばれている現象だ。
「これ見てると落ち着くんだよな」
「現実逃避が好きなのか」
「誰かさんのせいで」
「私のせいではないね」
彼が黙る。
アグネスタキオンも黙った。二人して、ジャンピングを眺め続けている。
「ウマ娘の可能性を知りたいなら次のレース、勝てよ」
「勝つさ。君がどんなレースを用意してくれるか楽しみだ」
ウマ娘の可能性を知るというのがアグネスタキオンの命題だ。そのためには自分だって実験台にするし他者も巻き込む。
トレーナーも巻き込まれるに巻き込まれているが、アグネスタキオンのトレーナーではいてくれた。タイマーが鳴る。
置いてある目の細かい茶こしを手に取ると温めておいたティーカップのお湯を捨ててから、ティーポットとティーカップの間に
茶こしを置いて紅茶を均等に注いでいった。注ぎ終わってからティーソーサーを持ち、アグネスタキオンの前に出す。
「出来たぞ。糖分補給も出す」
「君の紅茶には私の開発した薬品を入れてもいいかな」
「いれるな」
アグネスタキオンはパイプ椅子へと戻り、座って紅茶を口にそっと運ぶ。アッサムはそこそこに濃く入れてくれた。
何も入れずに飲んだが、ふくよかで、匂いもいい。トレーナーがいれる紅茶はとても美味しい。茶葉がいいからだとだけ
言っていたけれども、
(君がいれるから美味しいのだろうね)
茶葉ですべてが決まるようで決まっていないだろうし、不確定要素があるのだ。トレーナーがアグネスタキオンに
紙箱を渡してくる。
「ポテトチップチョコレート、スペシャルウィークがくれた。故郷から送ってもらったんだと」
「これ、好きだよね」
スペシャルウィークは北海道にいたウマ娘だ。北海道には美味しいチョコレートブランドがあり、ポテトチップチョコレートは
そこの会社が出している。トレーナーがこれを好んでいることをアグネスタキオンは知っていた。
「今度、北海道物産展があるからそこで買い込んでくる」
「それなら、私の荷物持ちをしてくれよ。トレーナー君。行くから」
「いきなりだな」
「君は私のモルモットなのだから」
「トレーナーだよ。……全く」
全くと言っておきながら、付き合ってはくれる。北海道店に行くことは決定だ。決定にした。
アグネスタキオンはポテトチップチョコレートを二枚手に取ってから口に放り込み、紅茶を飲む。甘じょっぱさが口に広がる。
とてもいい休憩がとれていた。
【Fin】