鋼鉄の心:亡霊との戦い   作:アイゼンパワー

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半年も間をあけて申し訳ない……
今回も説明回です……


幕間 反攻作戦の開始

 「閣下、移動要塞の建造がついに完了し、補給物資の積み込みも完了しました。」

 「よろしい。」

 

 グラン・ミュールの基部を元帥は歩く。彼の側には漆黒の制服を身に纏った銀髪の少女、上級准将の位階を賜ったヴラディレーナ・ミリーゼが歩いていた。

 

 「戦隊(エスカドロン)の用意は?」

 

 「戦隊(エスカドロン)はすでに装甲列車に搭乗しております。もちろん太陽(ル・ソレイユ)も。」

 

 そういうとレーナはタブレット端末を元帥に渡し、確認を求めた。端末の画面には浅黒い肌の女性と複数名の写真が表示されていた。そして一つの異様な影が。レギオンの戦車級の車体の上に黒い布がかけられているが、その車体の中心、本来ならば砲塔が存在する場所には不自然なまでに巨大な丸い膨らみが存在している。

 

 「ふむ……問題はなさそうだ。」

 「それでは本車両を作戦手順にのっとり、移動要塞内に収容いたします。」

 「頼む。」

 

 元帥はタブレットをレーナに返すと、かつてはサンマグノリア共和国東の玄関口として活躍していた高速鉄道駅へと向かって歩いていった。そこでは百七十万を超える将兵が、彼のことを待っているのだ。

 

 星歴二一四九年、十月一日。

 サンマグノリア第二共和国、またはサンマグノリア人民共和国は正式にギアーデ帝国に対して宣戦布告。

 帝国主義的かつ無思慮、無配慮な侵攻を声高に非難し、善隣諸国及びサンマグノリア第一共和国大陸軍、制空軍が被った損害、共和国が失った領土及び多数の民間人の命について言及し、再びギアーデ帝国を声高に、今度は口汚く罵った。

 

 「本日、私は共和国大統領の権限を持って、悪辣にして醜悪なるギアーデ帝国政府に対し、ギアーデ帝国を支持するすべての勢力に対し、サンマグノリア人民共和国及びサンマグノリア国民公会、国民評議会、サンマグノリア大陸軍の名においてギアーデ帝国に対し宣戦を布告する!」

 

 斯くして、革命戦争以来初めてサンマグノリア国家は正式に防衛戦ではなく、ギアーデ帝国領土への侵攻を視野に入れた大規模な対外侵攻作戦を展開することとなった。

 

 国内では十年ぶりにすべての経済活動が停止され、すべての産業が軍への物資供給のために稼働を始めた。すべてのトラックは物資運搬のために徴用され、すべての自動車工場はフェルドレス生産及び修理工場へと転換され、すべての水道管工場は銃砲工場へと転換された。今やサンマグノリア第二共和国の全てが大陸軍に従属していると言っても過言ではない。

 

 全てはギアーデ帝国にその蛮行の代価を支払わせるために。全てはサンマグノリア共和国の勝利のために。

 

 元帥は歩く、革靴の底が石造りの床を叩く。

 グランミュールの外、かつては高速鉄道駅前広場として賑わっていた場所はレギオン戦争開戦以来放置されており、国民公会における選挙によって元帥閣下が正式に大統領と就任してようやく性質は違えどかつての賑わいを取り戻しつつあった。

 

 そこでは二百万の将兵が銃を持ち、フェルドレスが砲を担ぎ、元帥を待っていた。

 

 レギオンは八月の攻勢で多くの戦力を失ったのか共和国戦線にはかつてほどのレギオンが押し寄せてくることはなく、大部隊の集結は順調に行えた。

 

 スチール缶に手足が生えたような見た目の強化外骨格を身にまとい、プレス加工が多用された少し不安になる見た目の十五ミリ対戦車ライフルを背負った復讐に燃える歩兵たちが装甲兵員輸送車の側に立ち、無数のフェルドレスが復讐の鉄槌を帝国主義の忌まわしき殺人機械に下すべく、高速鉄道駅前の再整備された広場に並んでいた。

 

 「諸君、ついにこの日が来た。我々の苦しみの日々はついに終わりを迎える!ギアーデ帝国はついにその侵略的かつ抑圧的な行為の報いを得るのだ!」

 

 十月の太陽が黒く塗られたフェルドレス、強化外骨格を照らす。そしてその光は反射することなく、ギアーデ国家に対する底のないサンマグノリア国家の憎しみを表すような黒い装甲に吸い込まれていく。

 

 「我々は全軍二百七十個師団、うち百二十個多兵科師団、五十個歩兵師団、そして百個“無人機”機甲師団、そして移動要塞を伴い、北東方面へと向かって、悪の巣窟たるギアーデ帝国に向かって進軍する!」

 

 移動要塞、サンマグノリア陸の誇り、現代科学の髄を凝らして作られた強大なこけおどし、サンマグノリア労働者の血と汗の結晶。二門の大型迎撃砲と無数の要塞砲が据え付けられ、分厚い装甲に守られた八本の巨大な脚がその巨体を支える。その躯体は塗装が間に合っておらず、赤黒いさび止め塗装の上に間に合わせで国籍マークである巨大な百合の花の印が描かれているに過ぎない。その巨大な倉庫はすでに砲弾、銃弾、支援物資に食料、水など軍事行動必要となるすべての物資が詰め込まれている。全軍の行動を数か月は支えられるだろう。

 

 移動要塞というものの、想定されている役割としては要塞ではなく移動する補給拠点である。大量の物資を詰め込み、躯体の下部からリフトを用いて物資を分配し続けることで何もない平原のど真ん中においても二百師団もの大軍勢に物資を補給し続けることができる上に前線に対して火力支援を行うことができる。

 

 「偉大なるサンマグノリア国家の勝利、そして復讐のために、誉れあるサンマグノリアの子らよ、サンマグノリア大陸軍(グランダルメ)よ!前進せよ!」

 

 元帥は叫び、こぶしを突き上げると、兵士たちもこぶしを突き上げ、叫んだ。

 

 「Vive la victoire!(勝利万歳) Vive la république!(共和国万歳)

 

 その声とともに、サンマグノリア共和国誕生以来最大の軍事作戦は始まった。

 

ーーー

 

 星歴二一四九年、九月二十八日。国防庁会議室にて。

 

 「諸君、そろったな。」

 

 軍帽をわきに抱え、指示棒を右手に持った元帥が巨大な地図が敷かれた机の前に立っていた。

 

 「それでは今次の攻勢に関する最終確認を行う。」

 

 そういうと彼は、サンマグリアの東端に指示棒の先を置いた。

 

 「ここが、今回の集結地点である。東サンマグノリア駅。ここに今回の攻勢の中核を構成する無人機部隊及び諸兵科師団が集結し、移動要塞もまた彼らの後ろに補給基地としてつく。十月一日にギアーデ帝国に対して宣戦布告し、高速鉄道に沿って前進する。機関車の徴発は?」

 

 すると一人の男が立ち、答えた。

 

 「はっ、サンマグノリア大陸軍(グランダルメ)輜重部総責任者トラフィカント上級少将であります。現在われわれは国内における軍需物資生産に必要となる機関車を除いたすべての機関車を徴発、その総数は四十両になります。そのうち三十両が前線への物資輸送へ用いられ、残り十両が秘密作戦に用いられます。」

 「素晴らしい。」

 

 元帥がそう言うと男、トラフィカントは座った。

 

 「さて、高速鉄道に沿って前進し、ポイント5D87にて停止、そして暗号名戦隊(エスカドロン)をクロイツベック駅へと送り込む。これについては責任者であるヴラディレーナ君に説明してもらおう。」

 

 元帥が左手を軽くレーナが座っている方に向けると、彼女は即座に席から立ち上がった。

 

 「はっ、サンマグノリア大陸軍(グランダルメ)上級准将ヴラディレーナ・ミリーゼであります。まずは皆様に一つご確認をさせていたきます。現在からご説明する秘密計画は、皆様もご存知であると思いますが、現共和国内における最高機密であります。所定のセキュリティクリアランスを持つ者以外に口外した場合、口外した者及びそれを聞いた者両方が作戦の終了まで拘禁され、作戦終了後に機密漏洩および国家反逆罪に準じて革命軍事法廷にて裁判にかけられます。」

 

 ごくりと、誰かが唾を飲む音が聞こえた。

 

 「それではご説明いたします。前線がポイント5D87に到達後、暗号名戦隊(エスカドロン)及び護衛部隊は装甲化された高速列車を用いてクロイベッツ駅に向けて暗号名太陽(ル・ソレイユ)を運搬し、目的地に到達後、暗号名太陽(ル・ソレイユ)の起爆手順を開始、その後十分間のカウントダウンが開始します。その間に暗号名戦隊(エスカドロン)は退避。暗号名太陽(ル・ソレイユ)の爆発を持って作戦の成功を宣言し、作戦を終了いたします。ご質問のある方は?」

 

 一人の老将軍が手を挙げた。

 

 「どうぞ。」

 「第一軍集団総司令官グラツィアーニ上級大将。暗号名太陽とやらについてだが、ミサイルで飛ばすのじゃダメなのか?」

 

 ミリーゼは灰皿の上に置かれていた細い紙巻きたばこを咥え、軽く吸い、答えた。

 

 「今回の作戦はギアーデ帝国軍に対する一大反攻作戦であると同時に、我が国にとっては全く新しい兵器たる太陽の試験の側面があります。共和工廠第一設計局秘密計画特別部によると、現作戦環境においては阻電攪乱型の影響により、ミサイルに搭載して試験行うのでは不確定要素があまりにも大きく、試験失敗の確率は無視できないほど大きくなってしまうとのことでした。」

 

 老将軍は食い下がる。

 

 「一つの部隊が突出して作戦行動を実施するというのは補給面でも作戦面でも望ましくないように思えるが、どうしても列車で運ばないといかんのか?」

 「遠隔起爆が理想的という事でしたが、電波は届きませんので、やはり戦隊による起爆が必要となります。」

 

 ミリーゼがそう言うと、老将軍は納得したのか、葉巻を強く吸って椅子の背に背中を預けた。

 

 「そうか。これ以上の質問はない、ありがとう。」

 

 それを聞き、ミリーゼは会議室を見渡した。薄暗い会議室の四隅にはライフルを抱えた兵士が立っており、それぞれの将軍の後ろには保安局の職員が一人立っていた。盗聴、盗撮の疑いを排除するために壁からはあらゆる装飾品がはがされ、殺風景この上ない部屋となっていた。部屋の中には二十人を超える数の将官が座っていたが、元帥閣下はその中でも格別の存在感を発していた。

 

 「それでは元帥閣下、続きを。」

 

 元帥は立ち上がり、再び指示棒を手に取り、地図の上に先端を置いた。

 

 「秘密作戦終了後、全軍は防護装備を装備したうえで前進を継続、最初に出会ったギアーデ帝国軍に対して攻撃を開始する。レギオン行動予測局対人部門によると、最前線部より二百四十キロメートル地点でレギオンの反応が消失しているためおそらくその地点周辺で、ギアーデ帝国軍に遭遇すると思われる。遭遇次第私に連絡するように。状況を確認次第攻撃を開始せよ。以上で攻勢を終了、補給線の再建を開始し、また装備の補充を開始する。」

 

 何か質問は?元帥がそう言うも手が上がることはなかった。すべての将軍は黙りこくってうつむき、何かを考えているようだった。

 

 「それでは諸君、攻勢計画に変更はなく、三日後に進軍を開始する。以上、解散!」

 

 

 




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