士郎「それでは、これから恭也と佑介君の一本勝負。どちらかが負けを認めるかこれ以上は不可能と判断した時点で終わりとする」
お互い木刀を持って距離を置き、その間に士郎さんが入ってルール説明をする。
士郎「それでは、始め!」
そして手を挙げて試合の開始の合図をし、後ろに下がった。
佑介「……」
恭也「……」
どちらも直ぐには動こうとはせずに慎重に行くように木刀を構える。
佑介「(マッサージをした時にわかったけど、この人はかなり強い)」
普通に剣道をしているならそこまで酷い切り傷はないと思うのに恭也さんには無数の生傷が見えた。木刀以外のに刀も使っていたんだろう。生半可に剣術をしているわけじゃないことがわかる。
それに、手合わせをする前と今じゃ全然気迫が違うのが伝わる。
恭也side
いきなり父さんになのはと同じくらいの子供と手合わせをしろと言われたとき、正直意味がわからなかった。時々父さんの思考がわからない時がある。手合わせをするとしても子供が相手だし軽く流して終わる気だったが、始める前に俺が膝を怪我しているのを見破られ、挙句には治すとか言った時は巫山戯るなと思った。医者からも完治不可能と言われ、俺自身にはもう剣士として道は途絶えたと思っていたのに…
そして素直に座らせられて怪我をしている膝を見せている自分がいた。なぜだろうか、こんな子供に治せるはずがないと思っていたのだが、心のどこかではこの子なら治せるかもという希望があった。きっと、剣士の道を諦めきれなかったんだな
最初はかなり痛くて声が出そうなマッサージだったが、段々と膝の痛みが溶けていく感じがした。
そして終わる頃には最初と比べて驚く程の違いがわかった。今までの重く感じていたのが羽のように軽く、片足で立ったりジャンプをしたりと試したが一切痛みはなかった。正直夢でも見ているのかと思った。治ることはないと言われたのに治ったのだから。
士郎「それでは、始め!」
父さんが開始の合図をする。
佑介「……」
目の前で木刀を構えている子…佑介君と言ってたな。どうやら普通の子供だと思って舐めていると簡単にやられるな…
恭也「(それに構えに隙が感じられない…どうやら父さんの言っていた通りになりそうかもしれない)」
久しぶりの強者と出会えたことに笑みが溢れそうになるが内面に留めておく。
恭也「(膝を直してくれたことには心から感謝している。が、それも含めて全力でいかせてもらおう!)」
佑介「―――ッ!」
どうやって行こうかと様子を見ていたら、恭也さんの方から攻めてきた。
恭也「セイッ!」
離れていた距離を一瞬で詰めて、気づいたら既に木刀を振り下ろす態勢に入っていたが咄嗟に弾いてバックステップで距離を離す。
士郎「おおおぉ」
美由希「す、すごい!」
士郎さんや美由希さんが驚く。
恭也「……」
そして一番驚いているのが恭也さん。自分でもここまで動くことができるとは思っていなかったんだろう。あまりの嬉しさを隠しきれずに口元が笑っている。
佑介「(今のはちょっと危なかったねぇ)」
一定の距離を撮り、再び木刀を構える。わかっていたことだがやはりこの人は強い。真正面から来てくれたから咄嗟に防ぐことができたけど、最初からフェイントとか混ぜてきたら一撃でやられていたかもしれない。
佑介「(やばい、こっちも燃えてきたわ)」
魔力や能力無しの純粋な勝負。そして同じ刀を使うものとしてこれ以上の理由にして、燃えないわけがない!
佑介「次はこちらから行きますよ」
木刀を居合抜きをするように左の腰に当て、姿勢を低くして恭也さんに向かって思い切り地面をける。
佑介「シッ!」
動きを読まれないようにジグザグに近づき、自分の間合いに入ったら目では捉えられないような速度で横一閃に木刀を振る。
恭也「クッ!」
佑介「セイッ!らァッ!」
一撃目を防がれ、二撃三撃と間髪入れずに振るうが全て防がれる。
恭也「シッ!」
佑介「――ッ」
四撃目を入れようとさらに近づいた瞬間、タイミングを合わせるかのように木刀を俺の胸めがけて突き出しがきたが体を捻ってギリギリ躱し、後ろに跳んだ。
佑介「…ふぅ」
あぶねぇ…あのまま四擊目を入れていたら確実に終わってた。
恭也「せあッ!」
今度はこちらだと言わんばかりに次は恭也さんが高速で近づいて木刀を振る。
佑介「はぁ…っはぁ…」
恭也「はぁ…はぁ…」
始めてからどのくらい経ったのだろうか、攻めては防がれ、攻めては防がれてと中々決定打が無く続く。良くて掠る程度といった感じ。
佑介「(クソが、中々俺の流れに持ち込めねぇし埒があかねぇ。オマケに徐々に押されてやがる…)」
恭也「(徐々に押せているが、どんなに俺が早く動いても反応してくる…ホントに子供かと正直疑うぞ)」
佑介「(このままだとジリ貧だ……危険だけど、賭けるか)」
恭也「(今は押せてもいつ逆転されるかわからないな……やるか、アレを)」
お互い次で決めるために木刀を構え、同時に動いて一気に距離を詰める。
佑介「ハアァッ!」
動いたと同時に木刀を左の腰に当て、得意の居合抜きで横一閃に振るう。が、空を切っただけだった。
佑介「なッ!?」
恭也さんの木刀を喰らう覚悟で先に攻撃をし、完全に捉えていたはずなのに…と思っていると自分の中で嫌な感じがよぎり、咄嗟に振った木刀をそのまま流れるように後ろに持っていく。
佑介「がッ!?」
そして次の瞬間、俺は吹き飛ばされた。一瞬過ぎて何が起こったかわからなかった。さっきまで俺の前にいたはずの恭也さんが何時の間にか後ろにいる。
佑介「(それにあの一瞬で十回以上の攻撃がきただと…!?)」
身体が頭で考えるよりも動いてくれたおかげで半分位は防いだが、他はモロに喰らった。
恭也「ハァ…ハァ…ハァ…」
恭也さんはその場から動けず、立っているのがやっとの状態なのか肩で息をしていた。反撃するなら今が絶好のチャンスなんだが…
―――バキッ
と、俺が持っている木刀が先程の攻撃に耐えれずに砕けた。これじゃ戦えないし、半分も喰らった俺の体も限界ですわ…あちこち痛い
士郎「両者そこまで!」
士郎さんの合図とともに俺と恭也さんの手合わせは終わった。
士郎side
士郎「両者そこまで!」
佑介君の木刀が砕けてこれ以上は続行不可能とみなし、試合を止めた。
美由希「二人ともすごかったよ!」
美由希は二人の方へと向かう。やはり思っていた通り、いや予想以上のものが見れた。
最初は単に佑介君を一目見て刀を扱っていることを分かり、興味本位で恭也とやらさせてみたが…まさか恭也の膝の怪我を見抜き、治してしまうとは思わなかった。
そして治ったばかりとはいえ、恭也に『神速』を使わせるとは…
士郎「(二人の戦いを見て、昔の血が騒いできたよ)」
できるものなら僕も手合わせをしたいものだ…
佑介「い、てぇ…」
恭也「大丈夫か?」
試合が終わり、その場に座ると恭也さんが近づいてきた。
佑介「なんとか…」
やや苦笑いといった感じに答える。
恭也「そうか…いや、すまなかった。交えているうちについ熱くなってしまった」
と申し訳程度に謝ってきた。今まで思うように動かなかった膝も治ったのだし、無理もない。
佑介「いえいえ、おかげでこちらもいい経験をさせてもらいましたし」
剣術のみの勝負で久々に熱くなれたし、それに改めて自分がまだまだ弱いことを知ることができるいい機会だった。
佑介「それにしてもさっきのはびっくりしましたよ。いきなり消えたと思ったら後ろにいて、気付いたら吹き飛ばされていたんですから」
恭也「あ、あぁ。それは
なのは「みんなー、晩ご飯ができたよー!」
恭也さんからあの一瞬の出来事を聞こうとしたらなのはの登場で遮られた。あら、もうそんなに時間が過ぎていたのか…
士郎「お、もうそんな時間か。よし、この話はあとにしてご飯にしよう。佑介君もどうだい?」
佑介「え?あ、いえ、俺は別に」
正直ありがたいと思ったが、流石に迷惑と思ったので断る。話はまた後日でもできるし、その時に聞けばいいと思ったから。
なのは「お母さんが佑介君も呼んできなさいって言ってたから一緒に行こー♪」
佑介「いや、ちょ、ちょっと」
が、なのはに問答無用といった感じに腕を捕まれて連れてかれる。
恭也「…父さん」
士郎「何も言うな、わかってる」
美由希「あはは、なんか楽しそうだね。今のなのは」
ちょっとそこで話してないで俺を助けてくれませんかね!?
そして高町家の晩御飯を食べさせてもらい、今はお茶を飲んで休憩をしている。
佑介「なるほど、先程恭也さんがいきなり消えたのは神速と言って御神流の奥義を使ったから、ですか」
士郎「簡単に言えばそういうことだね」
あの一瞬の出来事の説明を受ける。自らの意思で瞬間的に認識速度を極端に高め、常人を越える速さでの状況判断、攻撃、移動を可能とする……聞いた感じだとマジで人間をやめていると思ったが、それを使うと肉体にかなりの過負荷をかけるために諸刃の剣らしい。
佑介「(まぁ、人間やめてんのは俺も同じなんだけどねぇ…)」
あれ?今思ったら俺かなりやばい状況だったんじゃね?
恭也「そのことについては本当に済まなかったと思ってる」
佑介「大丈夫ですよ、あはは…」
つい熱くなってしまった自分を反省しながら謝ってくる恭也さん。あれが真剣での勝負だったら間違いなく死んでいたかも……考えるだけでも恐ろしい
美由希「それにしても恭ちゃん相手によく長く戦っていたよね」
なのは「そうだったの?」
まぁ伊達に俺も刀とか使っているわけじゃないのでそこらへんの奴には負けることはないと思っている。
そしてそのあとも何気ない会話をして時間が過ぎていき…
桃子「あら大変、もうこんな時間だわ」
桃子さんの言葉を聞いて時計を見てみると、時刻は9時を過ぎていた。…しまった!
佑介「すみませんッ!長くお邪魔してしまって、すぐ帰りますんで!」
ヤバイ!油断してた。早くこの場から去らないと
桃子「そうね、佑介君の親御さんも心配していると思うし…」
クッ、やはり心配してきたか…今は子供の体だし、心配するのは当たり前か…
佑介「え、えぇ。俺の親も心配していると思いますんでここからへんで」
士郎「ふーむ、この夜遅くだ。大丈夫だとは思うが佑介君もまだ子供だ。一応家まで送っていこう」
佑介「だ、大丈夫ですよ。一人でも帰れますしお気持ちだけで十分です」
美由希「あ、もしかして佑介君の親って今仕事でいないとか?」
佑介「いや、親は」
桃子「あ、お家の電話番号と住所を教えてもらってもいいかしら?改めてなのはを助けてくれたことと恭也の膝を直してもらったお礼とかしたいし」
佑介「え、えーとですね…」
恭也「……」
どんどんやばい状況に陥ってるよ…親なんてこの世界にいるわけがないし家の電話番号とか聞かれてもそもそも家なんてない…
なのは「どうしたの?」
佑介「あ、あはは…」
なのはが純粋な眼差しで見てくる。…どうする!?どう答える!?まさか異世界から来たので親もいないし家もありません。なんて言えるわけがないしそもそも信じてくれるはずもない。
どうこの状況を乗り切るかを試行錯誤していると
恭也「……佑介君。君は昨日、何処で寝た?」
恭也さんのとんでも発言が放たれた。
……………
みんなが恭也さんの方を一斉に向き、数秒ほどの沈黙が訪れた。そしてその発言にすぐに答えることができたのならきっとこの状況を切り抜けることができたんだと思う。
なのは「どういうことなの、お兄ちゃん」
俺が答えることができずに固まっている間になのはが質問する。
恭也さんはそれに答えるように人差し指を立て
恭也「簡単なことだ。まず一つ目、いくらこちらが遅くまで居させていたとはいえ、子供がこの夜遅くまで連絡もなしに帰ってこないのに何も行動をしない親。普通なら何かあったと心配して警察とかに言うはずだ。そして考えられるのは仕事でいないか、あまり心配をされていないか」
次にといった感じに中指も立てる。
恭也「次に二つ目、何故住所や家の電話番号を答えない?まさかわからないなんてことはないだろう。それとも教えたくないのか、或いは知られたくない場所にあるのか」
最後に薬指も立てる。
恭也「そして三つ目、この夜遅くなのに一人で帰ろうとしたこと。いくら佑介君が強くてもまだなのはと同じ子供だ。夜道は危険で何があるかわからないのに誰も付けずに帰ろうとした」
恭也さんの推理にみんなが黙って聞く。
恭也「親が家にいないことを仮定してこれらをまとめて整理すると、二つの答えが浮かんだ。何か理由があって家に場所を教えることができないのか、そもそも家がないのか。違うか?」
佑介「………」
当たらかずと雖も遠からずといった感じだ。そして答えれずにいると高町家には肯定とみなされたようで
桃子「それって本当なの!?なんで教えてくれないのか言ってみなさい!ハッ、まさか教えてくれない理由って親から虐待でも受けているから!?」
桃子さんが即座に俺の前に立って両肩を掴み、前後に思いっきり揺らす。いや、それは流石に話が飛びすぎ…
なのは「にゃああ!?佑介君そうなの!?」
美由希「いやもしかして親が借金をして家を売ったけど、まだまだ残ってる借金を子供に押し付けて夜逃げをしたとか!それで帰る家がないと…」
なのは「えええええええ!?」
いやいやいやいやいや、それも飛び過ぎだって……
士郎「桃子、美由希、なのは。一旦落ち着きなさい」
士郎さんが桃子さんを俺から引き離し、美由希さんとなのはと一緒に座らせる。助かった…
士郎「…それで佑介君。話してくれるかな。君が家の場所を教えてくれないこと等をいろいろとね」
なのは達を落ち着かせたあと、改めて俺の方を真剣な顔で向く。あぁ結局答えるしかないのか……
佑介「…わかりました。まぁ信じてくれるかどうかは知りませんけど」
答えないと何時まで経っても出ることができないと悟り、話すことにした。
佑介「―――とまぁ、こんなもんです」
内容は俺がこの世界の住人ではなく、異世界から来たこと。元の世界に帰るために一人で転々と違う世界へと渡ってきたこと。それゆえに親はいないし、家もないこと。そして今は子供の姿だけど本当は大人だということなどを説明した。だが全部が全部を話していないので魔力や自分の能力については省いた。あまり混乱もさせたくないから
高町家全員「………」
高町家全員が何も言わずに黙っている。そりゃあいきなり人の前で自分は異世界人ですー♪とか言われたら頭は大丈夫かと思われるに決まっているし、見た目からして所詮は子供の発想でしたねで終わる。
佑介「なにか質問はありますか?」
簡単には信じてはもらえないよなぁ…と思いつつ何か質問はないかと聞く。
美由希「…はい」
まず最初に美由希さんが手を挙げた。
美由希「そのなんていうか…証拠みたいのってあるの?」
証拠か…うーむ、魔力や自分の能力関係なく説明するには……刀か。
俺は右手で自分の胸を当て、愛刀の隆桜を取り出してみせると美由希さんは「おおお」と驚いた。
なのは「すごい!何もないところから出てきた!」
まるでマジックショーを見ている感じに目を輝かせているなのは。
佑介「他にはありますか?」
もうこうなったら答えるだけ答えようと思って再び聞いたそのときだった
桃子「……グス」
佑介「え?」
桃子さんがハンカチを取り出して涙を拭いていた。
佑介「も、桃子さん?」
恐る恐る聞いてみると、いきなり両肩を掴まれ
桃子「グスッ…よく今まで一人で頑張ってきたわね。辛かったでしょう」
何故か慰められた。ど、どゆこと??
佑介「え?ええ??」
突然出来事で戸惑っていたら
士郎「佑介君。よければうちで暮らさないか。そして僕のことをお父さんと呼びなさい」
と、士郎さんに頭を撫でられた。
桃子「流石士郎さんね!佑介君、私のことはお母さんと呼びなさい!」
佑介「ちょ、ちょっと待って!え、なに、信じるの?信じちゃうの!?普通嘘だとは思わないの!?」
桃子「え?嘘、だったの?」
佑介「いや、嘘じゃないですけど…」
涙目でこちらを見つめてくる桃子さん。ヤメて!そんな目で見ないでッ!
士郎「ならいいじゃないか」
ハハハと、和やかになる士郎さん。ヤバイ、いきなりの展開に頭がついていけない。なんで簡単に信じてるの…
佑介「すみません、自分で言っちゃなんだけど、普通信じる?」
恭也「普通に聞いただけならそう思うかもしれないが、実際目の前で治るはずのない俺の膝を治してくれたしな。それに剣筋を見れば嘘をついていないことはわかる」
美由希「オマケに目の前でいい刀を見せてくれたからねぇ♪」
俺の疑問に恭也さんと美由希さんが答える。そ、そすか…
桃子「それじゃあ今日はもう晩御飯も食べちゃったし、歓迎パーティーは明日の朝にしましょ♪」
士郎「おお、明日が楽しみだ」
あれ?なんか話が勝手にここで暮らすことになってませんかね!?
恭也「諦めて受け入れたほうがいいこともあるぞ」
恭也さん、心を読まないで…
なのは「にゃはは、これからよろしくね。佑介君♪」
佑介「……マジですか」
こうして俺は流されるままに、これからは高町家で暮らすことになった。……いいのだろうかこれで