人は眠っていて夢を見る時「これは夢だ」と気づく人はそう多くないと俺は思う。無限に走っても疲れなかったり、よくわからない敵と武器を持って戦っていたりと、どんな非現実的な夢だとしても夢だと理解すること無く、大体はそのまま楽しんだりすることが多いはずだ。
俺もどちらかと言えば夢を夢だと自覚できない方だ……まぁ何が言いたいのか簡潔に答えるのなら、今の俺は夢の中に居るのだと理解している。強そうな敵が目の前にいたり、城の一番高い塔にいる可愛いお姫さんが助けを呼んでいたり―――なんて事はなく、ただ辺り一面が真っ暗で何もない空間に俺一人だけがポツンと突っ立っている状態。
正直自分の夢にしてはもっと風景とかあってもいいのではと思うのだが…
誰か―――の声を――
…ん?
ち―らを貸して―――
なんだ?どこからか声が聞こえてくる。
助けを求めているように聞こえるのだが、生憎途切れ途切れでよく聞こえないし、能力で声の存在を確かめるにもここは俺の夢の中なのでどうすることもできない。
俺はこのまま夢が覚めるのを待つしかなかった。
士郎「うーん、今日も美味しいなぁ。特にこのスクランブルエッグが」
桃子「本当!トッピングのトマトとチーズとそれからバジルが隠し味なの~」
なのは「……」
佑介「おいなのは。いつまでもぼーっとしてるとバスに遅れるぞ?」
銀行強盗事件から数日、朝っぱらから士郎父さんと桃母さんの未だ新婚気分バリバリオーラを見せつけられている中、どこか遠くを見ているなのはに声をかける。
なのは「はにゃ!?え?あ、ご、ごめんなさい」
声をかけただけなのにそんなに驚くことないだろう……俺は咄嗟に謝るなのはを見て、若干苦笑しながら朝食を食べた。
あ、このスクランブルエッグマジで美味い。
担任「あー、前にお前らに調べてもらった通り、この町には多くの店があったな―――」
相変わらずやる気のなさそうな担任の授業を聞きながら、今朝の夢を思い出した。
佑介「(そういえば、なんだったんだろうなぁ…あの夢)」
夢だと分かっているのだが、声だけしか聞こえてなかったがどこか現実味があった夢だったなぁ…
担任「―――んで、将来何になりたいか、今から考えておくのもいいかもしれないな」
キーンコーンカーンコーン―――
担任「んじゃ、今日はここまでだ」
生徒「きりーつ」
やっべ、もう授業終わっていたのか。俺は日直の号令に従い、起立をした。
なのは「将来の夢かぁ…みんなはもう結構決まってるんだよね?」
現在は昼休み、いつも通り屋上で昼食を食べていたら、なのはが先程の授業で言っていたことを尋ねてきた。
アリサ「うちはお父さんもお母さんも会社経営だし、一杯勉強してちゃんと跡を継がなきゃくらいだけど?」
すずか「私は機械系が好きだから、工学系で専門職がいいなと思ってるんだけど」
ほー、二人は意外と考えているんだな。
なのは「そっかー、二人ともすごいよね」
アリサ「でも、なのはは喫茶翠屋の二代目じゃないの?」
なのは「うん…それも将来のヴィジョンの一つではあるんだけど…やりたいことは何かあるような気もするんだけど、まだそれが何なのかはっきりしないんだぁ」
そう言うとなのはは持っていた箸をお弁当の上に置き、顔も下へと俯く。
なのは「私、特技も取り柄も特にないし…」
おいおい、自分で振っておいてなんか勝手に沈んでるぞ。
アリサ「バカチン!」
アリサがなのはの言葉に対し、激情して弁当に添えられていたレモンをなのはに投げた。
佑介「こらアリサ、食べ物を粗末にするんじゃありません」
アリサ「あ、ごめん…って違う!今はこっちが大事なんだから邪魔しないで!」
いやいや、だからと言って食べ物を投げるのもどうかと思うぞ…
佑介「まぁ、アリサの言いたいこともわかるよ。なのはは自分のことを卑下しすぎだ」
すずか「そうだよ、なのはちゃんにしかできないこと、きっとあるよ」
俺に続けてすずかも便乗する。
アリサ「大体あんた!理数の成績はこのあたしよりいいじゃないの!それで取り柄がないとはどの口で言うわけぇ?」
そういえばアリサは普段から成績とか競い合うのって結構好きなんだっけ?この前のテストもなのはやすずかと勝負してたな。まぁ先程アリサが言っていた通り、理数に関してはいつもなのはに負けているから今回のなのはの言葉に対して反応したんだろう。
なのは「だってなのは文系苦手だし、体育も苦手だし」
すずか「あ、二人とも駄目だよ…」
アリサ「このこの!」
アリサがなのはの上に乗って両頬を引っ張り、それを止めようとするすずか。
なんだか微笑ましいな。
すずか「佑介君も笑ってないで止めてよ~」
自分の言葉に止まる気配がないと察して俺に懇願してくる。このまま見ていても面白いと思うが、もうじきお昼休みが終わるので二人を止めに入る。
佑介「はいストップ。いつまでもやってると昼休み終わっちまうぞ?」
アリサ「あ、もうそんな時間!?」
なのは「た、助かったよ…」
佑介「それにな、なのは。将来がまだ見えないからって焦る必要もないだろ。時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり考えて自分に出来ること、自分にしかできないことを探せばいいさ」
と、元気づけるように軽く頭を撫でる。
なのは「…うん、わかった!」
いい返事だ。
アリサ「あ、そういえばあんたの夢って―――」
キーンコーンカーンコーン―――
佑介「はいお昼休み終了ー」
アリサ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
佑介「次は体育だから先行ってるぞー」
チャイムが鳴ったと同時に空になった弁当箱を持って教室へと戻る。後ろでアリサが怒鳴っているが気にしないでおく。
なのは「今日の体育凄かったね。すずかちゃんと佑介君かっこよかったね」
アリサ「確かにあのドッジボール凄かったよね」
すずか「そんなことないよー」
佑介「そうか?クラスの殆どの男子を無双してたじゃん」
アリサ「そういうあんたは一度も当たってないじゃない」
佑介「その代わりに誰も当ててないけどなぁー」
学校が終わり、今日はなのは達は塾だということで雑談しながら送っていくことにした。前はタイミングよく俺が居たものの、今後強盗みたいなのに巻き込まれる可能性があるので一応念のためにだ。それに男がいるのといないのじゃ、差が大きいしな。
まぁ、もし何かあったら俺が守ればいいだけだし。あ、勿論こいつらの前では殺しなんてしないぞ?
アリサ「あぁ、こっちこっち。ここを通ると塾への近道なんだ。ちょっと道は悪いけどね」
すずか「え?そうなの…?」
おいおいアリサよ…いくら俺が守るとしても自ら厄介事を持ってくるなよ…
佑介「待てよ、なのはから聞いたが、前に強盗事件に巻き込まれたばかりだろ。忘れたのか?」
明らかにあの場にいませんでしたよアピールをしながらアリサの提案に不安そうにするなのはとすずかを見つつ、呆れた口調で言う。
アリサ「大丈夫よ。何かあったらあんたが守ってくれるんでしょ?」
まぁ、そうなんだが…つか、なんでそこまで俺を信頼できるんだよ。
佑介「…わかった。この私が全力で守らせていただきますよ、お嬢様」
頼ってくれるのは悪い気分ではないが…まぁいいか。そんなことを思いながら執事のようにアリサの前でお辞儀をする……あ
アリサ「え?あんたそれって」
やべ!無意識にやっちまった…!!ば、バレたか!?
アリサ「もしかしてあの時の仮面執事の真似?」
……良かった。バレてないみたいだ。
佑介「そ、そうなんだよアハハハ~どうだ、似てただろ?」
すずか「すごく似てたね」
なのは「うん、結構似てたね」
よ、よし、こいつらにもバレてないみたいだ…てかなんでこんなに焦らなくちゃいけないんだよ…
佑介「さて、早いとこ行こうz――」
『助けて』
佑介「ん?」
なのは「え?」
すずか「どうしたの?二人とも」
あれ?この声、どこかで…って今なのはも反応したか?
佑介「今何か聞こえなかったか?」
アリサ「別に…」
すずか「聞こえなかったかな…」
アリサとすずかには聞こえていない…?
『助けて!』
なのは「ッ!」
アリサ「なのは!?」
すずか「なのはちゃん!?」
再び頭に直接聞こえる声になのはが突然走り出した。
佑介「おい待てなのは!チッ、俺たちも急ぐぞ」
突然走り出したなのはに遅れて俺達も追いかけるように走り出す。
佑介「(今ので確信した。あの声、なのはも聞こえていたのか)」
頭に直接語りかけてくる声…確実に念話だな。しかも魔法を使っての
佑介「(ん?微かにだが血の匂い…急ぐか)」
なのはを追っている途中に、何度も嗅いだことのある匂いに気づき、アリサとすずかを置いてかないように注意しながら速度を上げる。
なのは「あ、佑介君…」
追いつくまでそう掛からなかったが
佑介「なのは無事か…?」
なのはに追いつくとそこには
佑介「フェレット?」
赤い宝石のペンダントを首に提げているフェレットが倒れていた。しかもかなり弱っているし、血の匂いもこの子からみたいだ。
アリサ「どうしたのよなのは、急に走り出して…ってそれってフェレット?」
すずか「あ、この子、怪我をしてるみたい」
俺が着いてから数秒後、ようやく追いつくアリサとすずか。
なのは「ど、どうしよう…」
アリサ「どうしようって、とりあえず病院?」
すずか「じゅ、獣医さんだよ」
なのは「えーと…」
佑介「お前ら一回落ち着け」
怪我をしているフェレットを見てテンパっている三人に落ち着くよう促す。
佑介「(見た所、まだ息がある。チッ、傷を癒すにもこいつらの前で能力(力)を使うわけにもいかない)」
このフェレットがあの時の声の主かどうか気になることが多いが、まずは
佑介「とりあえずこの近くに動物病院があったはずだ。そこに行くぞ」
俺の言葉に三人が頷き、なのはがフェレットを優しく持ち上げて俺達は動物病院へと急いだ。
獣医「怪我はそんなに深くないけど、随分衰弱しているみたいね」
俺達が着いた病院―――槙原動物病院の院長の槇原 愛(まきはら あい)さんが言うには安静にしていれば良くなるみたいだ。
なのは「院長先生、ありがとうございます」
アリすず「ありがとうございます」
愛「いいえ、どういたしまして」
なのは達がお礼を言うと愛さんは優しく微笑んでくれる。
アリサ「先生、このフェレットはどこかのペットなんでしょうか」
愛「フェレット…なのかしら。変わった種類みたいだけど、それにこの首輪についているのは宝石、なのかな?」
フェレットを囲んで話していると、そのフェレットは起き、辺りを見回すとなのはのところで止まった。
アリサ「なのは、見られてるよ」
なのは「あ、え、えっと…」
佑介「撫でてみればいいんじゃないか?」
なのは「う、うん」
俺の言葉になのはは恐る恐るフェレットに手を近づけると、フェレットはなのはの指先を舐めた。が、また直ぐに気を失って倒れた。
一応この飼いフェレットか野良フェレットかはわからないが、とりあえずは愛さんが明日まで預かることになり、俺達は病院を出て塾へと向かった。
佑介「さて、何か痕跡がないか探すとしますか」
俺はなのは達を塾まで送り、その帰り道にあのフェレットが倒れていた場所まで足を運んだ。
ただのフェレットならここまでする必要がないのだが、生憎と普通ではなかった。
前にも説明をしたと思うが、自然に生きている動物等は自然エネルギーを貯めることができ、微かにだが魔力を持つ奴もいる…といってもマジで本の微量だけどな。
だが、あのフェレットからは普通の動物にはありえないほどのかなりの魔力を感じられた。それにあの怪我の仕方、自然にできるようなものじゃない。
佑介「(…やっぱり)」
フェレットが倒れていた近くに消えかけているが微かに残っている湿った跡を見つけ、しゃがんで触り、確信した。
佑介「(フェレットと戦っていたと思われる敵の…血か体液かまではわからないが、微かに魔力を感じる)」
相当激しい戦いだったのだろうな…至るところに飛び散っている。
佑介「(周りを見た感じ、敵の死体が見当たらないとみると消滅したか、はたまた逃げたのか…)」
まぁ、助けを呼んでいたのだから逃げたと考えるのが妥当か。
佑介「…さて、そろそろ帰らないと桃母さんが心配するか…ん?」
捜索を一旦打ち切り、しゃがんでいた体制から立ち上がると視界に何か光るものが見えた。
佑介「なんだこれ?…指輪?」
気になって近づいてみると、雑草の茂みの中にまるで蒼炎が秘めてそうな小さい宝石がついている青い指輪を見つけた。
佑介「見たことのない指輪だなぁ…しかもかなり高そうだな」
拾って改めて見ると、これまた傷一つない綺麗な指輪だった。
佑介「誰かの落し物か?」
にしても、随分と綺麗に使っているんだなぁ。
佑介「…ってあれ?これってどういうことだ?」
持ち主を調べようと能力を使ってみたが…誰も使った形跡がなかった。普通なら誰かが触った、身につけていたのなら指輪にその人の存在があるはず……あぁー、わかりやすく例えるなら、指紋みたいなのがあるはずなのだが…今現在俺が触っている以外、何もこの指輪から感じられなかった。
佑介「丁寧に箱にでも入っていたのか」
それならこの指輪から何も存在を感じることが出来なかったのに納得がいく……のはいいのだが、どうしよ。これじゃあ落とし主がわからん…もしかしてあのフェレットの物だったりしてな。
佑介「ま、見たところ結構珍しい指輪だし、その内新聞かニュースにでもやってるか」
落とし主が見つかるまで俺が持っていればいいか。そう思って拾った指輪をポケットの中に入れ、家へと帰宅することにした。
なのは「という訳で、そのフェレットさんをしばらくうちで預かるわけにはいかないかなって」
夜の晩御飯時に、塾から帰ってきたなのはがすずかとアリサの三人が塾で話し合い(内容は晩御飯前に聞き、俺も説得して欲しいとのこと)、先程のフェレットの件について士郎父さん達に相談していた。
士郎「フェレットか……」
士郎父さんはなのはの説明を最後まで聞き、腕を組んで真剣に考えている。
士郎「ところでなんだ?フェレットって」
おいおい、さっきまで考えている素振りはなんだったんだよ…
恭也「鼬鼠の仲間だよ父さん」
美由希「だいぶ前からペットとして人気の動物なんだよ」
よくわかっていない士郎父さんに簡単に説明をしてくれる恭兄さんと美由姉さん。
桃子「確かフェレットってちっちゃいわよね」
桃母さんも知っているのに…士郎父さんよ、あなたはもっとテレビを見たほうがいいですよ…
士郎「知っているのか?」
なのは「うんと…これくらい。だったよね?佑介君」
佑介「あぁ、そうだったな。結構大人しそうだったし、ケージにでも入れればいいと思いますけどね」
なのはが両手で大体の大きさを示し、俺も続ける。
桃子「恭也と美由希はどう?」
恭也「俺は特に依存はないけど」
美由希「私も」
桃母さんが恭兄さんと美由姉さんにどうするか質問するが…これはいける感じの流れなんじゃないか?
士郎「だそうだよ」
桃子「良かったわね」
なのは「うん!ありがとう!やったね佑介君!」
どうやら元から反対する気なんてなかったのかな。家族全員から承諾を受け、満面の笑みでお礼を言うなのは。ほんとに嬉しそうだな。
佑介「今からコンビニに行ってくるけど、何かついでに買ってきて欲しいとかある?」
冷蔵庫に飲みたい飲み物がなかったので近くのコンビニへと行こうとしたが、丁度いいので皆に買ってきて欲しいものがないかを聞く。
美由希「あ、私お菓子お願ーい」
恭也「すまないな、俺はスポーツドリンクで頼む」
りょーかい。美由姉さんにはこの前新発売のお菓子と恭兄さんにはいつものスポーツドリンクっと。
士郎「なら僕はお茶で頼む」
桃子「私も同じのお願いね。あ、なのははもう自分のお部屋に行ってしまったけど、なのはの分もお願いね?」
恭也「そうだ。佑介なら大丈夫だと思うが、一応何かあった時のために」
これを、と恭兄さんからケータイを受け取り、財布が入っているポケットとは逆のポケットに入れる。そういえばなのは達は持っているのに俺だけ持ってなかったな…まぁ、特に持ってても使わない時の方が多いんだけどね。
佑介「ありがたく借りるよ」
桃子「道中、車に気をつけるのよ?」
佑介「わかったよ。んじゃ、行ってきまーす」
桃母さんに答えながら外靴を履き、外に出てコンビニへと歩いて行った。
やっとこ原作に突入することができました…
これでちょっとは更新速度が上昇するといいですけどね(ーー;)