皇帝の見えない折れた杖   作:冬眠復帰

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リハビリです


夢と願いの追跡者

マルゼンさんが連れてきたストーカー(仮)はライスシャワーって名前と簡単な自己紹介を終わらせた。しっかし、小学生でもできるような自己紹介にどんだけ時間をかけてるのだか。しかもそのまま黙り込んでしまうのだから誰も喋らない時間が無駄に過ぎていく。私としてはどう考えてもめんどくさいことにしかならない気がしているからこのまま時間が過ぎてくれてもいいのだけれど、このまま石を占領し続けているのも居心地が悪いしそろそろマルゼンさんにでも話を振ろうと思った頃合い。俯いていたライスシャワーが意を決してような表情で話し始めた。

 

「ライスね、勝ちたいんだ」

 

ウマ娘として、この学園にいるものとして当たり前すぎることが出てきた。だけれどもその表情が、背中に見える何かがそれだけではないと強烈に訴えかけてくる。さっきまでのオドオドしているだけの子供であれば相手にする気もなかったけど、今のこの子なら話を聞いてあげてもいいかも知れない。なんとなくそう思ったのだ。決して何も言わずにニコニコと私たちを見ているマルゼンさんに絆されたわけではない。

 ひとまずは視線で続きを促すとどうやらライスシャワーはこの前のブルボンに憧れを持っているらしい。それだけなら珍しい話でもない。ここではなぜか血縁関係でもないのに特定のウマ娘に憧れを持つウマ娘というのが一定数存在する。けれどもライスシャワーのそれは少し違うもののようだ。

 

「ブルボンさんはカッコ良くて、強くて、いつも先頭を走り切る。だからね、そんなブルボンさんに勝ちたいの」

 

……なんとなく、本当になんとなくマルゼンさんが私に連れてきた意味がわかってしまった。確認とほんの少しの恨み言を込めてマルゼンさんの方を見ればいい笑顔でサムズアップが返ってきた。

 

「そういうことなら先輩ぴったりです……痛いイタイイタイ!」

 

ニヤニヤという言葉の例として辞書に載せたいぐらいのムカつく顔した後輩のつむじを思っ切り押し込みながらため息が漏れる。もう1人のシチーもよくわかっていないけど楽しそうな顔をしてこっちを眺めている。

 

「ごめんなさいね、でもこの子は放って置けないような、何か運命的なものを感じてしまうの。だから協力してくれないかしら?」

 

ちょっと申し訳なさそうなマルゼンさんにトドメを刺されて白旗の代わりに両手を上げるしかできない。それでも私個人の都合でどうしても先に通しておかないといけない筋というものがあるのだ。それを伝えればライスシャワーはちょっとびっくりしたような表情をした後いい笑顔で頷いた。 

しかしまあ、そうしてこうめんどくさい後輩ばっかりが集まってくるのか。どうせならチヨみたいない素直でいい子だけにしてほしいものだ。

 

 

 

「というわけで悪いんだけどあんたの担当のライバルも鍛えることになったわ」

 

日付を変えて私はブルボンのトレーナーの部屋に乗り込んでいた。押し切られたとはいえ一度引き受けた相手の不利益になるようなことをしようとしているのだ。それをなあなあで済ましてしまうのは後味が悪い。もしここでダメだと言われたら申し訳ないけどライスシャワーのサポートは断るしかない。マルゼンさんにも申し訳ないけど仕方ない。そんなふうに考えていたのだけど

 

「了解した。であれば可能な限りライスシャワーのトレーニングのスケジュールを教えてくれ。こちらでもできる限り被らないように調整する。ああ、もちろんこちらの計画も渡そう」

 

 そんな、なんでもないと言わんばかりの回答が返ってきた。考えるそぶりすらなく、さも当然のように返ってきた。それでいいのか、自分の担当に不利益になるかも知れないのだと問えば

 

「問題ない。これでもこのトレーナーのバッジをつける意味は理解しているつもりだ。ただ一度のクラシック戦線。そこで勝つために、少しでも前に進むために努力をするウマ娘を応援こそすれ、邪魔をするわけがない」

 

「……悪かったわね、あんたたちのプライドを軽視していたわ」

 

 流石にこれは私が悪い。そういえばそうだ。ここトレセン学園でトレーナーなんて難儀な職業を、生き方を選んでいる人間だ。彼らはたとえ自分の担当でなくてもウマ娘を支えずにはいられない生き物だ。

 ともかくこれで憂いは無くなったことだし、さっさと帰ろうと適当に話をつけて部屋を出ようとした時、背中に静かに、それでも万感の強さを持った言葉がぶつけられた。

 

「それにだ、たとえどんなライバルが現れようと、ブルボンは強い。アイツと俺でどこまでも鍛え上げ必ず勝つ」

 

熱い、何度も挫折を、経てなおそれでも進み続けてきたものが持つ熱がそこにはあった。きっと私たちが一生に一度の苦悩を、絶望を背負ってなお諦めていない何かに満ちた言葉だった。

 

「それ、ちゃんと本人に直接言ってあげなさいよ」

 

ああ、やっぱりレースはいいわね。

 

 

 

 

 

 

 

「やってる、やってる」

 

 皐月賞も近づいてきた頃、コースを見ればファルコンとブルボンが逃げてフラッシュと……、誰かしらね小柄なウマ娘が少し離れて併走をしている。スペックでゴリ押しの逃げをかましているファルコン、その後ろでペースが乱れ始めているけど根性で押さえつけているブルボン。ご自慢の体内時計を維持しているフラッシュ、本番も近くなってきてだいぶんと熱が入っている。おそらく設定された最終コーナーを曲がったあたり奈瀬トレーナーが大きく右手を上げて。一拍遅れて最後尾から小柄な……ああタイシンか。が一気に速度を上げて追い込んでいく。それで未だデビューすらしていない身で厳しいのだろうある程度差を縮めた後それを維持するので精一杯のようだ。

 結局ファルコンがぶっちぎり、そこからフラッシュ、間を空けてブルボン、タイシンの順番で仮置きのゴール板を過ぎていった。まあ、よく考えなくてもダートコースだし、そりゃそうなるわね。

 トレーナーを交えて色々話しているけど流石に声は聞こえないし、見つかっても邪魔にしかならないだろうしその場を後にする。しっかし、慣れないダートで前と後ろに一級品を置いてであってもブルボンのタイムのブレは小さかった。それどころか道中でズレを認識して直すことまでやってのけた。どちらかに肩入れする気はないけれど、ライスはこれ結構大変ね。

 

 

 

 

 

「そんなわけで今日は併走をします」

 

「そんなわけって言われてもライス解らないよ……」

 

 今日はライスの面倒を見る日。ライスのトレーナーとも相談はして今日は併走、それも後ろから追い詰めるテクニックとメンタルのトレーニングの予定だ。

 

「色々サポートしてもらって助かっているけど、今日は誰と並走するんだい?僕にまで教えてくれないからライスが不安がって大変だったんだよ」

 

 ライスのトレーナーから感謝大半とちょっぴりの恨み言を受け取っておく。だがしかしこれは仕方ないのだ。この小動物は覚悟が決まればふてぶてしくなる割にそこに至るまでがめんどくさいのだ。今回はその辺りの改善も含めての特訓だ。

 

「あんたは後ろから詰めていく走り、それも自分の走りを押し付けるというよりは相手にプレッシャーをかけながらの走りが得意でしょ。そのためにちょうどいい奴らが暇してたら引っ張ってきてやったわ」

 

「それはとってもありがたいんだけど、どうしてライス勝負服なの? ちょっと恥ずかしいよ……」

 

 それはそうだろう。ライスは真っ黒な勝負服。体操服やジャージの紅白の中に1人真っ黒がいれば嫌でも目立つだろう。

 もちろん、これはプレッシャーとか視線に慣れる為なんかではない。そもそもこの子はいざ本番となれば腹をくくれるタイプだ。

 じゃあ、なんでかっていうと

 

「やあ、ライスシャワー。君の力になれるよう今日は奮励努力走らせてもらおう」

 

「そうだな、私も精一杯やらせてもう」

 

まあそう言う訳で

 

「えっ、え……?」

 

 おそらくまだ目の前の光景を飲み込めていないのだろうポカンと口を開けているライスと、飲み込めたが故すごい顔になっているライスのトレーナーの目の前にいる2人。緑の軍服風に装飾をジャラジャラとつけたバカことシンボリルドルフと白を基調にした正統派の勝負服を纏ったオグリキャップ。彼らに合わせるために勝負服を用意させたのだ。

 

「悪いわねオグリ。忙しいでしょうに」

 

「いや大丈夫だ。私が力になれるのであればいくらでも手伝わせてもらおう」

 

 やっぱり素直でいい子ね。終わったらこの前もらったレストランのウマ娘コースの食事券を渡しておきましょう。

 

「私には何かないのか? これでも忙しい身なのだが」

 

「ほーん、可愛い後輩の併走のお願いも聞けないほど仕事が遅いのなら今すぐ生徒会長引退することをお勧めするわよ」

 

 めんどくさいバカには軽めのジャブで返答しておく。そんなこんなで3人で適当にだべっていたらやっと再起動したライスが声にならない叫び声で突っ込んできた。

 

「あ、も、か、なんで!?」

 

「頭ん中整理してから喋りなさい。強敵たちと鎬を削り続けたオグリの勝利への欲求からくるプレッシャー。強いでも速いでもなく、レースが上手いと言わせたバカのテクニック。どっちも今のあんたに必要なものよ。ああは言っても忙しい2人が無理して時間を作ってくれた今この瞬間必ず何かを身につけなさい。それにあれ」

 

 未だ混乱の収まりきらないライスの後ろを指差せば、そのトレーナーが慌ただしくカメラや、チームメイトを巻き込んでタイムの計測なんかを準備している。一瞬前のアホづらなんてどこにもなく、どんな細かいものでも見逃さぬと。必ずや担当の血肉にしてみせると真剣な大人の姿があった。

 それ見て、見つめてライスの纏う雰囲気が変わった。俯くことなく、臆することなく、オグリとルドルフに対面する。

 

「今日はライスのためにありがとうございます。ライスが勝つためにオグリさんも会長さんも目一杯利用するので全力でお願いします。そしてライスは2人にも勝てるような、あの人に勝てるウマ娘になります」

 

 後輩からの熱烈な宣戦布告に、最大限のラブコールに2人の纏う空気が変わる。後輩のためにちょっと胸を貸すぐらいだったのが、明確に倒すべき1人としてライスを認識する。

 

「大言壮語、いい気迫だ。だが未だクラシックすら走り切っていない君に負けるほど皇帝の名は軽くはないぞ」

 

「ライスもそう思います。だけどお姉さまもコバンさんもお二人もライスのためにここまでやってくれたんだもん。ライスもやらなきゃいけないの」

 

「ああ、そうだ。それこそがレースを走るウマ娘だ。私も今まで共に走ってきたライバルたちに恥じぬ走りをしよう。怪物と呼ばれたこの走り全てを君にぶつけよう」

 

 バチバチと見えないはずの火花が、メラメラの感じるはずもない背負う炎の熱さが私にまで届く。側から見れば大人気ない蹂躙でしかないかもしれない。でも強くなると言うには、どこまでも狭いレースの勝者という冠を頂くためには必要なことだ。

 ここから先はライスのトレーナーに任せて気楽な観戦と行きましょう。こんな残念な私でも無駄にキャリアだけは長いのだ。岡目八目、一つぐらいはアドバイスはできるでしょう。

 

「さて、今のままだとちょっとライスに肩入れしすぎだし、ブルボンの方にも何か考えないとけないわね」

 

頭の中で色々回しながら始まりを待つ。ライスとブルボンにかかりっきりで拗ねたキングの相手に手を焼くのはもう少し後の話

 

 




不定期でも投げていきたい今日この頃
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