「バクシンバクシン!」
ああ、またバクちゃんが走ってる。ほんろいつ見ても元気なんだから。あれで短距離では負けなしなんだからほんと見た目って参考にならない。どうか考えてもスプリンターなのに中長距離も走りたいなんて言ってトレーナー希望の人たちを困らせてたのも昔の話。結局今のトレーナーと短距離マイル路線で重賞を荒らしまくってURAファイナルも短距離で圧勝していったはずだ。
「やっほー、何してるの?」
「これはこれは! 今度のレースに向けて自主トレーニングをしていたのですがわからないことが有ったので質問するべくトレーナーさんを探しているところです!」
私の声に気づいて近づいてきてくれたのは嬉しいけどちょーっと声のボリュームは落としてほしかったかな。相変わらず元気120%って感じだけど、もう次のレースの準備を始めてるんだ。ついこの前URAファイナルで走ってたのに元気だねー。
「へー、次は何のレース走るの? 時間合ったらまたクラスの皆と応援に行くよ」
「ありがとうございます! 次のレースは大阪杯の予定ですので!」
「え?」
聞き間違いを疑った私は悪くないと思う。大阪杯といえば芝2000m、どう考えてもバクちゃんの距離じゃない。今までだってほとんどが短距離、違ったとしてもマイルに出るぐらいはずだった。それがいきなり中距離、しかもG1レースに出るなんて何考えてるの? いやいや、バクちゃんがずっと中長距離を走りたいって言ってたのは知ってるけどトレーナーに丸め込まれてスプリンター路線を向かったのを可愛そうだけど仕方ないと思ってた。ここまで適正がはっきりしているウマ娘を本人の希望だからって適正のない距離を走らせるのはおかしいと思うし、その結果があの勝利の数々だ。それが次は2000m? URAで勝ったから記念出走? でもその方がまだ分かる。そう一縷の望みを掛けて今後のレース計画を聞いてみれば、迷うそうぶりもなく教えてくれた。
「なるほど! 委員長である私の出走計画を参考にしたいと、お目が高い! では皆さんの模範である私のレース予定をお教えしましょう! 大きな目標としては春夏で大阪杯と宝塚記念、秋冬は天皇賞秋と有マ、そして来年は春秋シニア3冠どちらも頂く予定になっています!」
開いた口が塞がらないの例にもなりそうな間抜けな表情をしている自信が湧いてきてしまう。え? なに完全に王道路線じゃん。今までのスプリンター路線は何だったの? そう思ってきてみるといつもと同じ自信満々で答えが返ってきた。
「トレーナーさんの計画ですね! まずは得意な短距離マイルのG1をすべて勝つ、その後トレーニングを重ねながら中長距離のG1も勝っていこうという予定です! テストと同じでまずは得意な分野をミスなく完璧に取ってから次に向かうまさに委員長的模範レースプランです! まあ、クラシック三冠を走れなかったのは残念ですがトレーナーさんの言うことですからちゃんと意味は有ったのでしょう!」
何も言えなくなる。バクちゃんの言ってることをそのまま鵜呑みにすればバクちゃんとそのトレーナーは全距離のG1を取るって言ってるいるようなものだ。そんなことできるはずがない。生徒会長シンボリルドルフ先輩、だって不可能だろう。なのに目の前の私達の委員長はそれを目標でも夢でもなく予定だと言った。願うものでも叶えるものでもなくそうなるだろうと確信しているんだ。
「す、すごいね、 でもそうなると会長とかオグリ先輩とも走るかもしれないよ?」
言外に無理じゃない? なんて気持ちを込めて問いかけるけど
「ええ、そうですね、皇帝、怪物なんて色々呼ばれている方々ですからきっとお強いのでしょう。しかし! 私は委員長ですから、もちろん勝ちますとも!」
愕然半分、やっぱりって気持ち半分な回答はいつものバクちゃんだった。きっと負けるなんてこれポッチも思ってないんだろうな。そういえば昔短距離で一回だけフラワーちゃんに負けたレースでも悔しいでもなくただフラワーちゃんの凄さを話してたっけ。結局そのまま無敗で走りきっちゃうんだからほんとにもうね?
「流石だね、距離の長い天皇賞春が来年なのはやっぱり適正の問題?」
「いえいえ、委員長である私に適正のない距離など有るはずがありません。しかし、ライスさんやブルボンさんと走る約束がありますので。委員長である私といえど中途半端な仕上がりでお二人と走るのは失礼ですからね。今年の後半からしっかりと長距離に向けて仕上げる予定です!」
「そこで負けるかも、って言わないのがバクちゃんだね」
それから色々話を聞くとトレーナーさんもバクちゃんの希望を叶えるために数年かけての計画を練っていたらしい。さっきは丸め込んでいるなんて言ってこごめんさい。どうやらあなたは本気でバクちゃんと向き合って覚悟を決めてたんですね。そんなことを話すと
「そう、トレーナーさんは委員長レベルの高い素晴らしいトレーナーさんなのです! 小耳に挟んだのですが私を中長距離走らせることで陰口を叩かれているらしいのが不思議でなりません……」
バクちゃんには悪いけど私だって何も知らなければ言っちゃうかもしれない。ここまで輝かしい短距離での功績を持ったウマ娘を急に中長距離で走らせるなんて自分の実績のために無茶してるって方が納得できるレベルだ。でもきっとこの二人ならこなしちゃうんだろうなってそんなことを思っちゃう。
「おお! 結構時間が経っていますね。すみませんがトレーナーさんを探している途中でしたので私はこれで!」
「ああ、ごめんね。時間取っちゃった」
「いえいえ、クラスメイトの相談に乗るのも委員長としての役目ですので! ではこれで! バクシンバクシーン!」
いつもみたいに元気全開で走って行っちゃった。これからきっと苦しいレースばかりになるんだろうでもきっとバクちゃんなら勝っちゃうんだろうね。
満開の桜の中で名は体を表すて言わんばかりの勝負服。私達の委員長サクラバクシンオーがいつもみたいにウィナーズサークルで元気に高笑いしてるんだろうな。