Common life 日常的非日常   作:Dangelo

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No,5.3

 体育は全て運動会の準備の時間となっている。クラスごとに好きに使っていいと言われているので、練習をしたり、体力測定をしたり様々だ。そしてDクラスは絶賛体力測定中である。

 

「清隆くん握力すごかったらしいじゃん」

「いや、平均くらいだ」

「もうそれは通用しないよ。クラス2位だって聞いちゃったもん」

「……失敗したな」

「いまのところ腕頭骨筋とトウ側手根屈筋のみが著しく発展した平凡な人間ってことになってるけど大丈夫?」

「死体撃ちをしないでくれ」

「こういう時のために世の中の平均はきちんと把握しておかないと。わたしが昨日『16歳 体力測定 平均』で何回検索をかけたか……」

「そういう努力が必要だということがよくわかった。ちなみに杏樹はどれくらいだったんだ?」

「わたし? 26」

「低いな。調整したのか?」

「これは本気。力はあんまりないの。必要がなかったから。その代わり、指の力は強いと思う」

 

 綾小路と駄弁っていると注意されてしまった。次は借り物競走の代表枠を懸けたじゃんけん大会が行われるようだ。

 

 ホームルームや放課後の時間も使って競技の練習をしていくらしい。日本人の運動会に対する情熱はすごいな。アメリカではやりたいことをやりたい人がやりたいだけやってバイバイが定番だったのに。

 

 

 杏樹は気づいてしまった。二人三脚とはとても危険な競技であるということを。

 

 それを実感したのは初めての二人三脚練習日。

 

 ペアは適当に組んで走りやすい人同士組んで行こうということになった。走りやすさは大抵が足の速さと身長で決まる。そして足の速さ的に杏樹は櫛田にペアをさそわれた。

 

 断る理由もなく安易に承諾する。この時点で、自分の悪口を言っていると思われる人とペアを組む杏樹の危機感のなさが露呈しているがまぁそれは置いておこう。

 

 走り始めると彼女とピッチや歩幅が微妙にずれる。ちゃんと『1、2、1、2』と声かけをしあっているのにだ。しかもまたこれが微妙なズレで、足を少し緩く結んでいるのもあり転けそうにはない。ただ、足に食い込む紐が痛いがそれは作用反作用的にお互い様だろう。

 

 そしてこのズレがこれが意図的なのか、それともこの競技特有の現象なのか杏樹には判断がつかなかった。走っている最中は、彼女にぴったりタイミングがあったと思ったらしばらくすると狂い出す、これが繰り返されていた。

 

 その少しのズレが徐々に足の負担になる。いつ捻挫してもおかしくない状況、いつ転倒してもおかしくない状況でなんとかノルマの距離を走り切った。

 

「私たちめっちゃタイミング合ってたね、杏樹ちゃん! これなら優勝できるかも!」

 

 そう櫛田は笑顔で言い放った。

 

 たしかにタイムも女子の中で1番だったし、期待されていた堀北たちなんかよりは明らかにタイミングは合っていた。だからと言ってこの競技はこんな過負荷な状態でもタイミングが合っていると言えてしまう競技なのか?! と杏樹は目を白黒させた。

 

 そんなことを考えている間に櫛田は平田にペアの報告をしてしまったらしい。杏樹は結局櫛田以外を知ることなく、ペアを決定されてしまった。そして杏樹はクラスの雰囲気のためにも泣き寝入りするしかなかった。

「よろしくね、杏樹ちゃん」

 

それが悪魔のささやきに聞こえたのは仕方ないだろう。

 

 

 9月半ば早くも体育祭まで二週間切った。堀北や須藤を筆頭に本番に向け日々練習に励んでいる。

 

 今回1番のニュースは杏樹は騎馬戦の指揮官の役に任命されたことだろう。任命された流れは以下の通りである。

 

 杏樹はずっとリーダーを堀北がやるもんだと思って、参謀気取りで色々な作戦を伝えていた。こうすればいいだの、なぜさっきのところで指示を出さなかった? など。口うるさい家臣である。邪智暴虐な王ならば一瞬で首が吹っ飛ぶ。

 

 堀北はそんな王ではなかったが、いちいち細かくああしろこうしろ言ってくる杏樹にイラつきキレたのだ。

 

 そんなに言うなら一回杏樹がやって見せてくれと。

 

 どうも杏樹の出す作戦は無謀と判断されていたらしい。やらなかったのではなくやれなかったということらしい。

 

 だから無知な杏樹を黙らせるために指揮を一回とらせてわからせてやろうということになった。ほとんどの女子がそれに同意する。あまりにも堀北が無茶振りをされていて同情票が入っていた。

 

 そうして発生したミニゲームは杏樹をボコボコにする予定だったのだが、杏樹陣がボロ勝ちしてしまったのだ。

 

「嘘、杏樹あなたこんなところに才能があったのね」

「え?」

「もうこれは杏樹がリーダー一択でしょ。さっきは疑ってごめんね」

「賛成! 杏樹ちゃんよく自分が動きながら味方と敵の動きが分かるね」

「え?」

「なんかやってたの? 杏樹ちゃんのカリスマを見た気がする」

「え?」

 

 最初は戸惑っていた杏樹も、みんなが自分より乗り気なので、なんだかんだのせられて楽しくなってしまった。これが一致団結ってやつかと。

 

 そこで杏樹の火がついてしまった。やるなら徹底的にと。

 

 Aクラスとはバラバラな作戦で本番を挑む予定だったが、急遽杏樹による説得が始まった。坂柳は杏樹の実力が見たいと快くOKを出す。

 

 その後、模擬戦でAとDで戦うと必ずAがコテンパンにされるので葛城派の女子も流されるように杏樹の指示に従うようになった。杏樹が嬉々としながら指揮をとる様子は、杏樹の父が戦っている時の笑顔と通ずるものがあった。

 

 

 土曜日の朝。杏樹は綾小路に偵察に行くお誘いを受けたので待ち合わせ場所に久しぶりの私服でロビーに立っていた。

 

「おはよ、桔梗ちゃん」

「杏樹ちゃんの私服初めて見た…すごい

「ん?」

 

 杏樹はミニスカートのセットアップの中に白いキャミ、黒いブーツ。杏樹のスタイルの良さが際立つファッションだ。

 

 普通に街中を歩いていたら振り返るレベルの可愛さに思わず櫛田はそう呟いた。櫛田も可愛らしい服装で男受けは良さそうだが、杏樹が隣に立つとそれがどこか霞む。露出度は圧倒的に櫛田の方が高いが。

 

「おはよ清隆くん」

「お、おう。おはよう杏樹。櫛田もおはよう」

「おはよう綾小路くん」

 

 二人の美女が綾小路を待っているという事実は綾小路を動揺させた。特に私服となるとなんだか特別な感じだ。まぁやることはただの偵察なのだが。

 

「急に変な頼み事をして悪かったな櫛田」

「ううん、全然。今日は特に予定も入れてなかったし。それに誘ってくれて嬉しかった」

「そ、そうか」

 

 杏樹は仲良さげに話す二人の話を聞きながらキョロキョロと周りを確認する。予定だとあと一人もうすぐくるはずなのだが、姿が見えない。

 

「……待たせたわね」

「おはよう堀北さんっ」

 

 変わらぬ笑顔で堀北を迎える櫛田。一方堀北はどこか不機嫌だ。必死にそれを隠しているようだった。

 

 4人で寮を出て向かったのは学校のグラウンド方面だった。朝のグラウンドにはすでに多くの生徒たちで賑わっていた。

 

「おーやってるね!」

 

 櫛田の目線の先にはサッカー部の朝練風景。男子生徒がボールを蹴る音が響く。試合中の平田の姿もすぐ見つかった。チームは1年から3年の混合らしい。

 

「部活を偵察して他クラスの生徒の情報を掴む。なんだか諜報員みたいでドキドキするね」

「諜報員か……」

 

 杏樹の中にはママとパパの姿が思い描かれる。彼女達は今頃元気にやっているのだろうか? しばらくは日本の家で過ごしているようだが……

 

「そんな立派なものじゃないけどな。得られる情報はたかが知れている」

「だけど堀北さんはそうは考えなかった。だね?」

「得ておくに越したことはないわ。何が鍵になるかわからないものよ」

「そうかもねー。でも優しいよね綾小路くん。堀北さんのために協力してあげるなんて」

「後でうるさいから仕方なくだ」

「本人を前によく言えるわね」

 

「今日私を誘うって決めたのは綾小路くんだよね?」

「どうしてそう思う」

「だって堀北さんが私を誘うとは思えないし」

「堀北が誘うとは思えないって、どうして?」

「あはは、それはちょっと人が悪いよ綾小路くん。私と堀北さんが仲良くないのは知ってるでしょ?」

「正直いまだにそれが信じられないっていうか。半信半疑な面はあるんだけどな」

 

 櫛田はわざとかわからないがその後も杏樹をほぼいないものとして話を展開していく。無視というのは語弊があるが、杏樹を会話から外すような話の進め方と杏樹から綾小路と堀北が見にくいように壁になっているのが少し気になる。まぁ杏樹も別にこの会話が必要ではないので早々に諦めて偵察の方に集中する。

 

 

「おーやってるやってる。今日も活気があって最高だなー!」

「南雲先輩おはようございます」

 

 隣にいた櫛田は顔見知りなのか南雲に声をかけた。

 

「お? 君は確か桔梗ちゃんだっけ。休日に男の子とデートなんてやるなー」

「あはは、そういうのじゃないんですけど……ちょっと気になって見に来ました」

「ゆっくりしていきなよ、で、そっちの子名前は?」

 

 杏樹の方を見ながらそう尋ねる。

 

「1のD、烏間杏樹です」

「その持ってる紙とペンちょっと貸して?」

 

 言われた通りに差し出すと、何か慣れたように書いて返ってきた。そこには南雲の名前と連絡先が書かれていた。

 

「何かあったらいつでも連絡して、うちの部員のことくらいなら教えられるかもよ?」

 

 パチっとウインクを決め、南雲はグラウンとのフィールドへ合流した。杏樹は今もらった連絡先をとりあえず端末に登録しておく。杏樹は櫛田からなんらかの視線を受けた気がしたが気づかないフリをしてグラウンドを眺め続けた。

 

「うちの学校って生徒会と部活の掛け持ちオッケーだったか?」

「禁止はされてないみたいだけど、もう今は退部してるよ。でもやめてても一番うまいから、ああやって練習には顔だして指導してるみたい」 

 

 しばらく4人でサッカー部を見ていたと思っていたが約1名はコートを見ず違うものを見ていたらしい。そのことを櫛田が言及する。

 

「そんな目で見つめられちゃうと困っちゃうな!」

「これ以上オレから聞かないことを約束するから一つだけ教えてくれ。お前と堀北、仲が悪い原因はどっちにあるんだ?」

「ずるい聞き方だよね。本当にそれだけだからね」

「ああ約束する」

「私だよ」

 

 いつの間にか偵察が綾小路と櫛田の心理戦へと変わっていた。

 

「やめだな、考えるだけ時間の無駄な気がしてきた」

「あはは、そうだよ。今は偵察して情報を集めるのが優先でしょ?」

「だな……」

「あ、ちなみに今ボールを持ったのが園田くん。結構足速いね」

 

 話を変えるように櫛田が一人で話し始める。

 

「ーーでも堀北さんもちゃんとクラスのことを考えてくれてるんだよね……嬉しいな」

「Aクラスに上がるために必要なことはするつもりだもの、仕方なくね」

「私ももっと頑張ってみんなに貢献できるようにがんばらなくちゃ」

 

 

 しばらく試合を眺めていると試合を終えた選手が休憩を始めた。杏樹の周りに何人かが集まってくる。

 

「サッカーに興味があるの?」

「烏間さんだよね?」

「よかったらもっと近くで見ない? 俺部長に聞いてくるよ」

「ありがとうございます、みなさん優しいですね」

 

 杏樹は綾小路とアイコンタクトをとって3人と別れ、グラウンドのもっと見やすいところに部員にエスコートしてもらう。

 

「砂とかあれだろうから、ここに座りなよ」

「もっと日陰の方がいいだろ?」

 

 杏樹はあれよあれよと特等席に案内されてしまった。

 

 ミニゲームを見ているのは楽しかった。ベンチメンバーが実況までしてくれる。一通り楽しんだところで杏樹のクリップボードには南雲以外の連絡先がいっぱい書かれていた。どうもこれが目的だったらしい。ご丁寧に名前、クラス、連絡先、一言と並んでいる。

 

 杏樹が解放された頃にはみんなどこかに行ってしまったらしい。仕方がないので杏樹は一人でショッピングに行くことにした。せっかくの休日、楽しまないともったいない。

 

 

 様々な練習を重ね、ついに体育祭まで一週間となった。

 

 今日のうちに参加表を提出しなければならない。平田が教壇に立ち、チョークを握っている。

 

「ではこれから、全種目全競技の最終的な組み合わせを決めていきたいと思います」

 

 毎日記録を取り続けた結果が集約されたノートを元にクラスで話しあった組み合わせ、勝つ法則を盛り込んだ順番で話していく。そしてそれぞれが自分の役割が決まった競技と順番をメモしていった。これまでの功績から判断される結果に異論を唱える生徒は一人もいない。揉めることなく進行していった。

 

「最後の1200mリレー、アンカーは須藤くんで決まりだね」

「妥当なとこだろう」

 

 杏樹は5番手に決定していた。

 

「ちょっと杏樹と平田くんいいかしら?」

 

 声をかけられ行ってみるとそこには須藤もいた。

 

「先ほど決めた参加表に関して一つ相談があるの。体育祭の最後に行われるリレーのアンカー私に譲って欲しいの」

「いや、でもよ。アンカーは普通一番足の速いやつがやるもんだろ? それとも俺がアンカーじゃ不安なのかよ」

 

 男子と女子では基本的な身体能力が違う。堀北も女子の中では速いが、男子に交ざったら平田にすら勝てないだろう。その平田より速い須藤がアンカーをやるのは必然だ。それに女子の中で一番足が速いのは杏樹だ。堀北がアンカーをやる理由は全くない。

 

「いいえ、そうじゃないわ。あなたの実力は練習の時からわかってる」

「だったら俺でいいじゃねぇか。せめて5番走ってことなら……」

「理由がないってわけじゃないわ」

 

 スタートダッシュが云々と堀北が言うがそれがいいわけでしかないのは杏樹にはわかっていた。

 

「はいはい。そんな説明じゃ誰も納得できないよ鈴音ちゃん。ちゃんと自分の気持ちを言葉にしないと」

 

 杏樹の促しによって少しずつ話し始めた。

 

「……私の兄が……アンカーだと思うから」

「確かに堀北先輩アンカーって言ってたね。足超速いらしいね」

 

 なんで杏樹が知っているのかという目で見られたが、杏樹は3年にお友達がいっぱいいるのだ。特に科学部やサッカー部だが。情報源には困っていない。

 

「突然何かとおもったけどよ、そういうことか……俺としちゃアンカーやりたい気持ちもあるが、そういうことなら譲ってやってもいいぜ」

「そうだね、わかった。須藤くんと堀北さんを入れ替えて提出するそれでいい?」

 

 平田も同意し、結果堀北がアンカーになることになった。

 

「えっバトンの練習また1からやらなきゃなの?!」

 

脱力している杏樹の肩に綾小路はそっと手をおいた。

 

 

 いよいよその日がやってきた。長い1日になるであろう体育祭の幕開け。ジャージを身に纏った全校生徒が練習通り行進して入ってくる。行進といってもただ歩いているだけだが。

 

「いいとこ見せて桔梗ちゃんに猛アピールだぜ!」

 

 池が思惑を興奮気味に言う。特別運動神経がいいわけでもない中でどうやってアピールするつもりなのか綾小路は疑問に思ったが、秘策などなく気合の空回りという結論に落ち着いた。

 

「清隆くんがんばろうね!」

「あぁ、杏樹は楽しそうだな」

「うん、せっかくだからいいとこいっぱい見せたいしね。でも、本当はリレーは清隆くんにバトン渡したかったなぁ。練習いっぱい付き合ってもらったし」

「俺はリレーには出てないから仕方ないな」

 

「ねぇ棒倒しってどんな感じ? 作戦とか」

「須藤がいち早く棒にしがみついて残りは頑張るって感じだ」

「結構単純なんだね。わたしが知り合いにビデオ見せてもらった棒倒しは、まずプロレスみたいに敵に投げ飛ばされて、その後土台にタックルしようとした敵たちを棒で押さえつけて、その間に客席を使った鬼ごっこをした後、最後は助走をつけた子を飛ばして棒を勢いよく倒して勝ってたんだけど……やっぱりこんなことって稀なのかな?」

「いろいろ突っ込みたいところがありすぎるんだが、それは本当に起こったことなのか?」

「これを頭の中で創造するほどわたし想像力豊かじゃないよ」

 




長くなってしまいました。
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