「あっごめーん、待たせた?」
「ん?いやさっき着いたとこだよ」
よく晴れた日曜日。今日は君とデートの日だ。
私は大学に進学し一人暮らしを始めて、まだ慣れないながらも楽しい毎日を過ごしていた。
ただなかなか時間が合わずこんな風に休日にがっつりデートに出掛けるのは久しぶりだった。待ち合わせ場所に着くと春らしくさっぱりと纏まった出で立ちの君が既に待ってくれていた。
「じゃあ行こうか」
「うん」
「…あっと…そのワンピース可愛いね」
「え?…うん、ありがとっ!」
こないだ買ったばかりの春物のデニムワンピースを褒めて貰って嬉しくなる。実は君がワンピースが好きだって前に言ってたからこれにしたって言うことは内緒だ。
今日は特に行き先とかは決めてない。何となくブラブラしながら買い物とかお茶とかをする予定だ。私たちのデートは割といつもそんな感じだ。
街中を歩きながら互いに近況を語り合う。連絡は定期的にしたりしてるから「こないだ話してたあれってさ~」等と振り返り合ったり、君が今も通ってる高校、私の母校にいる先生たちの近況なんかを話して貰う。
君はニコニコと話を聞かせてくれる…けれど、話してる時の要所要所で少し落ち込んだ様な表情を見せる。最初は「気のせいかな?」なんて思ってたけれど、何だか胸のどこかにモヤモヤを抱えてる様だった。
やがて街中の少し開けた広場に着いた。
「ちょっと休憩しようか」
「うん」
二人で並んで空いてたベンチに座る。
「次どこに行こうか」
「う~ん…どこでもいいけど…」
「ご飯とかも食べるなら大型ショッピングモールとかにする?丁度雑貨屋も見たかったんだ」
「そう?じゃあそこにしようか。え~とバスで行くから時間は…」 君はスマホを取り出してバスの時間を調べだした。
うん。いつも通りと言えばいつも通り。でも、やっぱりどこか元気が無い様に見える。
「…ねぇ、何かあった?」
「え?何で?」
「いや、何か元気無いように見えたから…」
「…」
「何かあったなら話して欲しいな…」
「…ははっ。やっぱり千夏は凄いなぁ…」
君は少し困った様に吹き出して笑った。
「ごめん…。いやほんとに大したことじゃないんだけどさ…」
そう言いながら君は話し始めた。何でも昨日の晩に寝る前に一人でスマホで映画を観てたらしい。友達に勧められたものらしいのだが、これが少し辛い内容だったらしい。
主人公の少女が理不尽に辛い現実を突きつけられ、その苦難の中で必死に状況を打破しようとするものだったらしい。最終的に少女の努力は報われるのかと思ったのだが、何と少女は絶望的な状況のまま物語は幕を閉じてしまった。
「何か凄く凹んじゃってさ…。勿論フィクションのものってのも分かってるんだけど…ごめん、なんかくだらなくて…」
君は俯きながら自嘲気味に言った。しょうもない話してしまったなって感じだ。
「君は優しいね…」
私は静かにそう口にした。
例え作り物の存在が相手であろうと、そんな風に相手のことを想える人間がくだらない訳がない。
それにそんな風に優しい君だから、あの日一人で泣いてた私を見つけてくれたのかもしれない。私は…君を好きになったのかもしれない。
「ねぇ…」
隣で情けなさそうに俯く君にそっと声をかける。
「ん?………え?」
「…チュッ」
少しだけ上がる君の横顔にそっとキスをする。人もいる所だから一瞬だけど、私からの目一杯の気持ちを込めて。君は「え?え?」といった感じに慌てている。可愛いなぁ…。
「少しは元気出た?」
ちょっと恥ずかしかったけど君の眼を見てそう聞くと、君は顔を真っ赤にしながら「…うん」と頷いてみせた。それを見て嬉しくて笑う私の顔もきっと赤くなっていることだろう。
「よ~し!せっかくのデートだもん!昨日の嫌な思い出、上書きしちゃおう!」
私はスッと立ち上がり、君の方へ振り返ってそう伝えた。
ちょっと呆気に取られてたけど、君は「はい!」と言って同じように立ち上がった。
「よし、じゃあこれからショッピングモールで昼飯と雑貨屋見て…え~と、次はどこ行こうか?」
そう君に聞かれて私は満面の笑みで答える。
「どこだっていいよ!」
君と一緒に行けるならどこだって、どんなところだって構わない。私たちの楽しい一日はまだ始まったばかりだ。