普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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更新が随分と遅れて新年まで届いてしまいました


仕事が忙しすぎるから執筆時間とエネルギーがとれなくて……


年末年始の休みで一話分だけできたから更新




いつも誤字脱字指摘ありがとうございます


逃走と脱獄

 レーザーソード(災厄の象徴)が、砕け散った。 

 絶対切断、超広範囲、Ms.ダークライの最強にして最大の武器。使えば確実に全てを終わらせる絶望の刃。10年以上に渡り、『普通の個性』を持つ限界を失くした一人の少女が鍛え続けた心の拠り所。

 

 それが、破られた。

 

 

 

 

 「『嘘』」

 

 

 

 

 使い手が違うが故に同列には語れない。

 しかしてその体は同一であり──────精神も一部は同じ。ヴィランになると考え誰にも寄りかかれない精神で、少女が唯一つだけ没頭できた光。それが無くなることなど考えることもできない……だからこそ、個性は自分自身のことだと言い聞かせてもいた。周りに自然と告げられたのは何よりも自分自身がそうだから。

 

 それしかなかった少女が、それを失くした結果……茫然自失と呼ぶ他無い姿をしていた。

 

 

 

「ごふっ」

 

 

 

 ただ、受け止めた烈怒頼雄斗も相応の衝撃を受けていた。熱と光が奪われ、ただの斬撃となっただけとはいえ刃の勢いと膂力は変わらない。耐えたとはいえ恐ろしい勢いで鈍器に殴られたのと変わらないのだ。

 刃を割り、烈怒頼雄斗の表面は無事に見えるが当人が衝撃を堪え切れてはいなかった。腕が粉々に折れ、体も無事な部分の方が少ないほどだ。

 

 ドサリと倒れる烈怒頼雄斗を視界に入れるMs.ダークライに、一人の声が届く。

 

 

 

「成生ちゃん!逃げるですよ!」

 

 

 

 トガが親友の元へ駆け出す。数十mもない距離が、成生とトガにとっては一歩にも満たない距離が、少しだけ遠く見えていた。

 

 

「仕方ないな。まさか切り札が止められるなんて思ってなかった」

 

 

 荼毘はエンデヴァー達と相対しながら驚いていた。二人共成生の性格と実力を知っている。()()()()()()()()()()()と分かっていても、強さという一点は信用していた。

 その象徴である武器が止められた。それだけで戦局が変わるのは明白だ。

 

 

 

「撤退だ」

 

 

 

 さらにオールフォーワンが命じる。戦況が変わってしまったのは明白。ならできうる選択の中から最良を選ぶのはオールフォーワンにとって得意中の得意だった。

 

「Ms.ダークライ。僕達を逃がしてくれ」

「……えぇ。灯火、足止め」「わかった」

 

 呆然自失でありながらも個性は動く。『なりたい自分』ならそうする、であるがゆえに……左手を伸ばし転送門を展開するMs.ダークライ。数舜ほどかかるそれだが、一秒すら争う戦場においては長すぎる時間でもある。

 

 

 

「「「止めろぉぉぉー!!!」」」

 

 

 

 烈怒頼雄斗を除くヒーロー達がなりふり構わず突撃する。デク、ホークス、ベストジーニスト、キセルマイトにルミリオン。満身創痍でありながらも、Ms.ダークライのそれは止めなければならない行動だった。

 Ms.ダークライは転送を展開中に動けないわけではない。が、門という形を作る都合上、離れられない。接近戦ならまだしも、遠距離攻撃の多い戦場では的になってしまう。

 

 それをカバーできるものも、ここにはあった。

 

 

「ハイエンド、Ms.ダークライの盾になり数秒稼げ」

 

 

 オールフォーワンの無慈悲な指示が飛ぶ。ハイエンドは超再生が付与されているため盾には最適。

 そして奇しくもヒーローとヴィラン双方の鉾となるのは、もう一つの脳無の姿。

 

 

「どけ!灯火!」

「勇也兄の馬鹿は止めないと……先に、フレイムドーム!」

 

 

 球状に展開される炎の幕。生半可な力の持ち主や重傷を負った者を遮る壁ができ、ヒーローの動きを一瞬止める。

 

 止まらずに突っ込んだのは一人だけだった。

 

 

「止めろ灯火!」

「目の前の一人も救おうとしないくせに何がヒーローだよ……!この馬鹿兄が!」

 

 

 灯火のセリフに一瞬だけ目が揺れる勇也。その隙に灯火が肘打ちでカウンター気味に吹き飛ばす。

 

 

「がっ!?」 

「キセルマイト!」

 

 

 一瞬の攻防。吹き飛ばされたキセルマイトにデク、ルミリオンが巻き込まれるも、代わりに空いた穴からベストジーニストとホークスが侵入する。

 が、そこにあったのはハイエンドの壁。

 

「ここまで来て!」

「私が全員止める!ホークスは行け!」

 

 ベストジーニストがハイエンドを全員捕捉、ワイヤーで拘束し動けなくする。

 後ろでは炎の壁を全員で打ち抜く。時間は数秒、デクとルミリオンも即復帰し、力で炎の壁をぶち抜いて進む。

 

 先頭のホークスがMs.ダークライを捕捉し────横から蹴り飛ばされた。

 

「私が止めるのです」

「くっ」

 

 Ms.ダークライの横にはトガがいた。速度以外の身体能力ではトガもMs.ダークライに負けていない。

 そしてホークスは片翼が落とされている今では速度も目で追えてしまう程度しか出せない。

 

 

 援護は、意外な形で届いた。

 

 

「いや、まだ!

 

 行って!ホークス!」

 

 

 限界を何度も超え、満身創痍のネジレチャン。しかしまだ動け、さらに『波動』の個性は一時的な身体強化をもたらすことができる。炎の壁は打ち抜かれ、邪魔になるものは何もない。

 

 先頭に行き過ぎていたが故にホークスの位置は蹴り飛ばされて尚先頭。そこに片翼が落ちているとはいえ速度強化。トガの目に映らない速度でMs.ダークライへ肉薄する。

 

 

 

 

 

 しかしてその混沌の瞳は、肉薄するホークスに視線を合わせていた。

 

 

 

 

 

「速度で私に敵おうとする人、まだいたんですね」

「がっ!?」

 

 

 

 

 速い動きをするということはカウンターで反撃されると自らに速度が跳ね返るということ。しかもMs.ダークライの身体強度はハイエンドと比べても遜色ないほどまで強化されている。

 突っ込んでくるホークスに、反応できない速度で手の平を顔面に向けるだけ。それだけでホークスは自身の速度で強打されることになる。

 

「ホークス!」

「デク!止めるのが先決だ!」

 

 ホークスが迎撃されるまで一秒程度の時間。ただそれだけの時間。

 それだけで、ヴィランは準備を整えた。

 

 

「もう遅い」

 

 

 トガと共にやってきていたスピナーが手遅れを口にする。その理由は簡単だった。

 

 

「マキアは無理か……仕方ない」

 

 

 猛攻によって息も絶え絶えだったオールフォーワンが形はどうあれ動けるようになったからだ。

 

「泥ワープは体の大きさで速度が変わる……先に牽制『秒突』」

 

 接近戦ならMs.ダークライ単独でも数人で同時にかからなければならない。だというのに即死クラスの攻撃がオールフォーワンから散発的に放たれる。

 避けながら同時に接近戦を仕掛けるのはオールフォーワンの攻撃速度を遥かに上回る速度がなければ不可能だ。

 

 そしてその速度に到達できるのは、ホークスとキセルマイト、そしてデクの100%のみ。そしてデクはまだ100%の動きはできず、キセルマイトは灯火に止められている。

 

 

「っ!まだ、手はある!」

 

 

 デクは握っていた手を開き、再び握る。それを一瞬のうちに数回繰り返す。

 

 未だ使えない────ワンフォーオールの継承者達が持つ特別な個性。けれど対Ms.ダークライ(なりたい自分になる個性)ならば、一瞬だけは使える。

 

 

 

「『発勁』────デラウェア・スマッシュ・ピアーズ!」

 

 

 すべての指を使うにはどうやっても制御がうまくいかない。故にデコピンによる一点貫通型のスマッシュ。一点に貫通させる方法はキセルマイトから教わっていた。

 

 秒突すら粉砕する、トガもスピナーも防げない、そしてMs.ダークライは動けない。ならば確実に直撃する。

 

 ヴィランがとった一手は、Ms.ダークライによる防御。長髪がさらに伸び、球体のように形状を変化させて守っていた。一点特化のスマッシュすら、防げる強度もある守りだった。

 

 

 

 

「……むぅ」

 

 

 

 

 だがあまりにも緊急の一手。ロングの髪がかつての姿であるショートまで切られるように吹き飛んでいた。髪の長さの部分によって強度を分けていたが故に、ショートまでは素の強度、そこから伸ばした分は耐えられる程度の強度としていた。そのために髪は千切れるのではなく途中から切断されるように吹き飛んでいた。

 

 そして、それが最後の時間だった。

 

 

「終わりですね」

 

 

 転送門が完成した。瞬き程の速度で別の場所に転送できるようになり、ヴィランの逃走は確定した。

 

 

「集めようか」

 

 

 オールフォーワンが泥ワープの個性を発動する。この個性はほぼ動作と同時に発動するのはオールマイトとの戦いで見せたとおりだった。

 泥ワープの距離はMs.ダークライの転送程遠くまで移動できない。が、近くの戦場にいる面々を一か所にまとめるくらいなら容易だった。

 

 呼ぶのは、マキアを除く荼毘たちだ。各戦闘地点でのヴィランが、口から泥を吐いた。

 

「ははは。ここでおさらばか。やっぱり集合したらすぐだったな。灯火のことも話したかったが……仕方ない。

 

 エンデヴァー、もう少しお前の顔を見たかったよ」

「燈矢」「クソ兄貴!」

 

 荼毘は消えるその寸前、呪いの言葉を残しその姿を消した。

 

 

 

「まだまだ踊ってくれよエンデヴァー。

 

 俺はまだここにいるぞ」

 

 

 

 そして同時に転送の個性が発動。マキアを除く主要ヴィラン全員が姿を消したのだった。

 

 

 強制的な戦いの終結。だがヒーロー優勢での決着。しかも主要な超常解放戦線の構成員を除けば大半を捕まえることに成功した。

 

 勝利と呼んでもおかしくないほどの戦果。

 

 

 

 

 それは────この一瞬だけの話だった。

 

 

 

■■■

 

 決着した戦場跡。ヒーローは救助活動に動いていた。

 

「成生……」

「気絶だけはしちゃダメだよ。去り際から……おそらく未だ暴走状態は解けてないんじゃないかな」

 

 烈怒頼雄斗は最後の攻防に参加できなかった。声だけは聞き逃さないようにしていたものの、成生の姿を見ていない。

 

「先輩、緑谷達は」

「全員無事だ、個性も奪われてない。見た感じ後遺症は残らない程度のダメージだろう。一番の重傷が君、烈怒頼雄斗だ」

「キセルマイト。……君の兄弟たちは」

 

 キセルマイトが合流し、情報を伝えてくれる。背中に一人のヒーローを背負いながら。

 

「まぁいずれこうなるとは分かってた。遅かれ早かれさ」

「……次から兄妹喧嘩は他所でやってくれよ?」

「あー……そうだな。確かにそうだ、反省しよう。そんなことよりだ、連れてきたぞ」

 

 キセルマイトが背中から下したのは、所属する事務所の所長、サー・ナイトアイだった。

 

 

 

「引き分けだな」

 

 

 

 大半を捕まえてなお勝利と呼ばないナイトアイ。文字通り大半を捕まえたのだ。オールフォーワンと同時に逃げた者を除けば、強大な個性を持つものは全員捕まえていた。

 特にかつて解放軍と呼ばれていた面々だ。幹部クラスはほぼ全員が捕まっていた。

 

「これで、ですか。サー」

「まずこれは勝利ではない。しかし負けてはいない……それなら引き分け呼ぶしかない。Ms.ダークライを武力衝突で止めた……烈怒頼雄斗、君のおかげだ」

 

 身体を動かせない烈怒頼雄斗は聞くことしかできない。ただ烈怒頼雄斗は限界を超えて全力を尽くした、それだけは言い切れる心持ちだった。

 

「死柄木弔に依光成生。二人は同時に止めなければ止められない、片方が片方を補う動きをしているからな。今回は強襲をかけて、暴走にかこつけて引き離して……それでもこれだ」

 

「ただ未来を分かっていて信じられなかったこともあった。それがあの光の刃だ」

 

「レーザーソードと呼んだか?。あれは以前視た未来では止めることは不可能そのものだったからな。万物を切り裂く最強の剣だった。

 

 それを止めた。Ms.ダークライの呪縛でヒーローがヒーローを諦められない現状では希望そのものだ。

 

 Ms.ダークライを打倒可能にし得る可能性だからな」

 

 烈怒頼雄斗を褒めちぎる言葉。嬉しくない訳がない……が、烈怒頼雄斗────切島鋭児郎の表情は暗かった。

 

「……でも」

「分かっている。そもそも打倒は出来ん、しようとすれば彼女は個性の全力を……自身の生死などお構いなしに使い、ヴィランもヒーローも皆殺しにしてくるだろう。それが一番の最悪だ。

 

 それで言えば、今回は理想的にも近い。『止めた』、だからな」

 

 今回の戦いの結果がヒーローとして理想的な結果だった。

 

 烈怒頼雄斗はそれを吞み込めるヒーローだ。が、切島鋭児郎は男として呑み込めないものだった。

 

 

「……そう、思えない」

 

 

 なぜなら見てしまったから。戦いの最中、苦しんでいる依光成生の姿を。一瞬だけ確かに見えた碧色の瞳を。

 だから、結末が納得いくものではなかった。

 

「自分を探して、別人になるなんて何をどう狂ったらそんなことに」

「思考を止めたいなら、『ヴィランだから』にしておけ。止めたくないのなら。彼女の別れ際の言葉でも考えて己を奮い立たせておけ。身体は動かんだろうがな」

 

 拳を握る切島。瞼の裏に浮かぶのは、切島鋭児郎にだけは確かに見えていた成生の表情だった。

 

 

 

「私は、どこにいるの……?」

 

 

 

 今にも倒れそうな表情と泣きそうな声。

 幻覚だったのかもしれない、幻聴だったのかもしれない。

 

 けれど確かに、切島鋭児郎には届いていた。

 

 

「……まだ、いる」

 

 

 それは依光成生のヒーローだけに届いたもの。たった一瞬、競り合ったときに目が合ったからこそ見えた最後の姿。

 

 

 

 男が拳を握る理由には、十分すぎた。

 

 

 

 Ms.ダークライ達がワープした先、死柄木達によってタルタロス大量脱獄が発生していることが発覚するまであと数分。

 

 

 

■■■

 

 

「何故『次がある』と思うんだろうね。ここからはずっと、僕達のターンだ」

 

 大監獄タルタロス。その上空に彼らの姿はあった。

 逃走してすぐにオールフォーワンはMs.ダークライにタルタロスへ移動するよう指示した。今なら言葉を聞いてくれる確信があった。

 

 協力することに完全に同意状態であるMs.ダークライがいる。それだけで今からの戦いはオールフォーワンからすれば勝ち戦以外の何ものでもなかった。

 

 完全にメタ極まる防御(烈怒頼雄斗)。そんなものは簡単に持ってこれない。である以上、最強の鉾が貫けないものはない。

 

「疲れ知らずの脳無たちよ。今から僕の本体を解き放つんだ」

「私の子供たちは……どうやら来ないようね。広範囲電波のジャミングが大きいから助かるわ」

 

 茫然自失の状態から復帰したMs.ダークライが現状を把握する。ナイトメアの面々が居ればすぐに終わる戦いだったが、居ないのであれば自ら手を下すまで。

 

 ただその横にいたトガは、依光成生の姿が見えていた。

 

「成生ちゃん。大丈夫なのですか?」

「……オールマイトと戦う訳でもない。ただ移動して壊すだけなら……考える必要もないから、逆に楽」

 

 タルタロスは本土から離れた沖に建造された監獄。通常時は海面下に隠されている橋が浮上し、本土からの通用門となる。そこ以外に地上から進行する方法は無く、それも正門までくれば高い壁により隔たられている。

 

 通用門までの橋は当然海の中から浮上することもないため、空からヴィランたちは攻め込む。弔、成生、両者共に広範囲電波が使用可能であり、最深部にいるオールフォーワン本体からの電波受信も容易だった。

 

「正門より、侵入者。あれは────緊急事態!セキュリティレッドを発令せよ!」

「コットス、シーカ、出撃」

 

 タルタロス防衛部隊がMs.ダークライの姿を視認した瞬間、タルタロスが対迎撃に体制をシフトする。

 迎撃用と、監視用のメカを出撃させて時間稼ぎをさせ同時に部隊は逃走、タルタロスの監獄内部へ走り出していく。

 

「拍子抜けだな」

「監視は邪魔ですね。先に行きます」

 

 だがここにいるのは電波系の個性を使用できる二人だ。しかも広範囲に影響を与えることができる。

 

 Ms.ダークライが別の脳無に飛び移り先駆ける。後ろではオールフォーワンが手を振り下ろすだけですべての期待が墜落していっていた。

 

 

 

「──ヴィラン確認!Ms.ダークラ」

「全部切れて」

 

 タルタロスの部隊が連携をとるよりも速く、Ms.ダークライのレーザーソードが監獄タルタロスを切り裂く。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」「早く退避を!」「収監されているやつらが逃げ出す!部隊は鎮圧へ」

 

 

 

 一瞬で現場は混乱、施設としては中央の塔とその背後以外を残し、タルタロスは切り裂かれていた。

 

「おや?耐え切れるものではないはず……?」

「まだ本調子じゃないからです」

 

 トガに言われて確かにと納得するMs.ダークライ。レーザーソードは熱と光と斬撃の三複合の特性だ。

 どれも耐え切れることが出来ないからこそ最強の刃だが、体力を大幅に消耗した後である今は火力が落ちていた。

 

 『指先を発光させられる』個性のデメリットは、体力の消耗なのだから。体力がなくなっていれば、必然威力も落ちる。

 

「けど十分、あとは任せていいでしょう。……オールフォーワン?」

 

 背後を振り向きオールフォーワンへMs.ダークライが視線を向ける。が、そこにあったのは口だけが動いている姿だった。

 

「今は休むんだ弔」

『休まってないだろ』

「やることをやってからさ」

 

 弔とオールフォーワンの内部闘争。弔はオールフォーワンの手駒にはならない意思を明確にしており、身体を乗っ取ろうとするオールフォーワンの計画通りにいっていなかった。

 

「俺は、あんたの駒にはならない」

「勘違いするな弔。君は大事な──────次の僕さ」

 

 まだまだ内部闘争は続く。自らの内部から視線を外し、タルタロスへ視線を向けるオールフォーワン。崩れていく姿が目に映るが、こんな簡単に成功するとはかつては思いもしなかったことだ。

 

 

(まったく……タルタロス。仮にマキアを連れて来たとしても、身体が完成していたとしても僕達だけでは外からの攻略は難しかっただろう)

 

 

 『崩壊』、ギガントマキア、どちらがあってもタルタロスの物量には圧殺される。例外は目の前の彼女(Ms.ダークライ)だけだ。

 上限さえ無ければ(マスターピースであれば)国すら滅ぼせる究極の個性『なりたい自分になれる』個性。彼女を見たときにマスターピースに成ることは正解だった確信を得た。彼女の力は個性社会における頂点、神とすら言える段階に届くレベルだ。

 

 

 オールフォーワンが思い返すのはかつてオールマイトと話した時の会話。

 

 

『流石の僕も神への反逆となると一苦労するだろう』

『出られないさ』

『いいや、彼女が協力さえしてくれれば容易もいいところだろう』

『彼女の性格は知っている。やらないはずだ』

 

 

 彼女の性格上やらない。それは間違いではなかった。

 

 

「そんな会話もしていたね」

 

 

 しかし現実は変わった。何事も簡単には思い通りにいかないものだ。

 

「監視システムダウン!三秒で復帰する!」

「いや待てこれは」

 

 オールフォーワンですら未だ届かない力、これがあれば最早ほかには何もいらないとすら言いたくなる。まさしく支配者の冠にふさわしい。

 

「人の想いなど移ろうもの。こう転ぶとは思いもしなかったが、僕のモノになることに変わりはない」

『何を言ってる……!俺もあいつも、誰かのモノにはならない』

「今はいいから眠るんだ弔。僕たちは最早ここにいるだけで十分なのだから」

 

 Ms.ダークライはヴィランを助けるヴィランだ。満身創痍になるほどのダメージを受けた後の連戦なら、必ず動いてくれる。ならばダメージが抜けてない今、動く必要など無い。

 

 

 

 

 

「……遅いですね。もう少しだけやっておきますか」

 

 

 

 

 

 動かないオールフォーワンに業を煮やし、Ms.ダークライは動き出す。

 

「弔君まだ動けそうな感じなのに……。……安心しちゃった?」

「まぁそれもあるでしょう。システムを落としますか」

 

 切った建物の配線に指先を伸ばし、感電状態になる。常人なら自殺行為であり、超再生を持つMs.ダークライでさえもダメージは負う行為だ。

 もちろん『なりたい自分』が帯電状態もダメージを受けないなら、その限りではない。

 

「成生ちゃん!?」

「大丈夫。……数秒もいらないですね」

 

 電気と光は仲間。である以上、指先から光を操るMs.ダークライにとっては電気も触ることができれば操ることができる。

 わざわざ電波をどうこうする必要もない。直接機械そのものにアクセスできるようなものなのだから。

 

「ハードをクラッキングされてる!電気の速度じゃない、光速で機械の反応がおかしくなって」

「光を操れる私には簡単なこと。一か所侵入できれば……電気は基本繋がりがある。

 

 電流は流れ。その流れが繋がる箇所は全て私が侵入できるようになる」

 

 光の速さでアクセスできるなら、システムの抵抗も無視してぶち抜く速さとなる。

 個性由来のエネルギーで動かせる機械はあれど、汎用的に人が扱える機械は電気で動く。それは個性社会到来以前の名残ではあるが、それ以上に電気が汎用性があまりにも高すぎるエネルギーだからだ。

 

 タルタロスの機械も当然、電気で動いていた。

 

「ダメだ!機器が動かない!」

「……!内側に気づかれた!システム戻りません!居房が中から解放されていきます!」

「鎮圧部隊急げ!」

「出ます!開かない扉はぶち抜け!」

 

 一挙に動かなくなった機械に、鎮圧部隊が動き出すも扉でさえもロックをかけられるMs.ダークライの手腕に動きが阻害される。

 

 その間に、凶悪なヴィランたちは気づいてしまう。

 

 

「間に合っ────!」

 

 

 到着と同時、凶悪なヴィラン達が解き放たれる。歴代の凶悪なヴィランが収容された大監獄だ、一人一人の力はタルタロスの部隊など蹴散らす戦力が揃っていた。

 

「娑婆の空気はうめぇなぁ!」

「肉」

「誰だか知らねぇがありがとよ!」

 

 それだけではない。ここにいるヴィランには、彼女の影響を受けたヴィランもいた。

 

「あの方の下へ行かねば」

「あの光はどこに……」

 

 あらゆる場所に現れたMs.ダークライの狂信者となったヴィランも数人いた。軽犯罪レベルなら地方に収容されている罪人になるが、重大犯罪ならタルタロスにいるのだ。

 

 けれど纏まりがなければ所詮は烏合の衆。ヒーローが駆け付ければそれで終わる集団でしかない。

 

 だがここには、頂点に君臨するカリスマがいた。

 

 

 

「友よ。僕達と共に来て欲しい」

「……私についてきなさい」

 

 

 

 オールフォーワン本人とMs.ダークライ。心酔する信者など掃いて捨てる程にいる二人だ。憧憬を魅せるには十分すぎた。

 とはいえ脱獄したヴィラン全員がすぐに協力的になったという訳ではない。だがタルタロスから本土へ脱出するのに協力するのには、二人を一目見るだけで意思統一がなされていた。

 

 

 

 ────たった一人を除いて。

 

 

「Ms.ダークライ……いや、別人か」

 

 ステイン────赤黒血染だけは依光成生と会ったことがある。オールフォーワンなどオールマイトの敵である以上、カリスマなど効きはしない。

 そして依光成生のカリスマを知っているが故に、今の彼女からは当時の自分ですら巻き込みかねないカリスマを欠片も感じられない。

 

 である以上、別人と感じていた。

 

 が、その姿は明確に当時のそれとほぼ同じ。瞳が最早見るに堪えない色をしているくらいだ。

 

「正気に戻さねば勝ち目が────いや、あの様子は」

 

 オールフォーワンの横に立つ姿。当時とは別人だが本人ではある。

 

 ならばオールフォーワンの手に堕ちた…………訳ではないのもステインには見えていた。

 

 

 

 彼女の指先が、僅かに震えていた。

 

 

 

「何かしらの策に嵌められているな。ならばお前を信じよう、依光成生」

 

 

 かつてのカリスマ(普通の少女)を信じ、赤黒血染はタルタロスの情報を手にし、海へ飛び込んだ。

 

 

 




次の更新も遠いからゆったりと待っていてほしいです。

エタるつもりはないけど時間がなくて折れそうにちょいちょいなってる
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