心は燃え上がる。
すべては思いのままに。
後悔しないように。
距離が縮まって来たあの日、わざと冷たいふりをした。近付きすぎると、胸が張り裂けそうになるから。
全国出場を賭けた試合の前、プレッシャーで押し潰されそうでも敢えて笑ってみせた。弱いところなんか、恥ずかしくて見せられないから。
看病をしたあの時、足を滑らせたふりをしてしまった。誰よりも側にいて、その顔を見つめていたいから。
それもこれも全部、一つの言葉が原動力だ。
大喜くんが好き、それ以外に何もない。
でも。居候だから、先輩だから。そんな理由で伝えられない。
大事な事だけが、伝わらない。
家族を捨ててでも日本に残ろうとした理由は、バスケだけじゃない。大喜くんと離れたくない、そう思ったからだ。
大喜くんが、泣きながら全てを諦めたあの日を思い出させてくれた。
私はまた、繰り返す所だったんだ。
どうせ無理だった。できなかった。仕方なかった。あの日のように、そうやって全部捨ててしまおうとした。
もし大喜くんがいなかったら私は、一頻り泣いて泣いて、そして栄明を忘れてしまっただろう。覚えてたとしても、それは只の思い出にしかならない。泣き崩れて、そこで気持ちを折ってしまっていた筈だ。
だからこそ、苦しい。大喜くんに近付けない今が、苦しい。
私が居候じゃなかったら、クラスメイトくらいだったら、――蝶野さんみたいだったら。
思いのままに生きられるのに。大喜くんへ思いを伝えられているのに。
ああ、どうして私は気付いてしまったんだろう。蝶野さんの事なんか、知らなければ良かった。
部活帰りに皆と来た花火大会なのに、気分は晴れない。
ついさっき、二人の後ろ姿を見掛けたから。見掛けてしまったから。
大喜くんと蝶野さん、二人はまるでデートのように、花火大会に来ていて。デートのように、近くて。まるで、二人は――。
取り乱してはいけない、と思いながらも心はザワめいていく。
渚たちの声が、何処か遠ざかっていく。気持ちはもう、大喜くんでいっぱいになっている。
来年は一緒に、なんて無理な話だ。高三の夏、遊ぶ余裕なんか無いだろう。そしてその先、私はもう猪股家にいない。どんなに望んでも、それは通らない。今年しか無かったのに、私は。
由紀子さんが花火大会の話をした時、大喜くんはすぐ側にいた。そこで誘えばそれで済んだ話なのに、私は何も言えなかった。大喜くんと距離を置いてしまった手前、何も言わなかった。
変な意地を張って、私は何をやっているんだろう。
せっかくのチャンスを明け渡して、こうやって後悔して。
私はずっと、私のままだ。そんな所だけ、変われないままだ。
――もう、後悔はしたくないのに。
「ごめん、先行ってて。後で追い付くから」
渚たちにそう言って、私は踵を返す。
人混みの中、たった一人を目指して進む。何処にいるかさえ分からないけど、それでも足を止めるな。
ここで諦めれば、世界の果てまで後ずさる事になるから。
先の事なんかどうでもいい。誰を傷つけようと、もう知らない。蝶野さんが泣こうが私を恨もうが、どうでもいい。
大喜くんが、ほしいから。
この思いを、届けなければならない。言葉よりも真っ直ぐに、今すぐにでも。
二度ともう、迷わない。迷う暇なんか、無い。
もう何も諦めない、何一つ取り零さない。全部、この手に掴んで生きる。
ここから全部、始めるんだ。
いつのまにか私は、走り出していた。
胸が熱い、でもまだ足りない。もっともっと、熱くなれ。
心を邪魔する何もかも、焼き払ってしまえ。
花火大会の日、まだ迷子を拾う前の想定です。
あの歌が聞こえてきたら、扇町さんの勝ちですからね。