某所で書いてたスマートファルコンの短編です。シナリオ見たらこう色々と

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孵化する隼

最近ルームメイトのファルコンさんの様子がおかしい。最近アオハル杯が始まってその練習とウマドルとしてのレッスンで疲れているのかと思いましたがそうでもないようで。いつもであれば疲れたときは寝坊しかけたりすることも多かったのにそれどころか日によっては私よりも早く起きていることもあります。それだけなら珍しいこともある、で済む話かもしれませんがその時のファルコンさんはどこか異様な雰囲気でした。早朝という時間でも寝ぼけているような感じもなくベッドに腰掛けてどこか虚空を見ている。いつも元気で明るいファルコンさんと比べればひと目見て何かがおかしいとわかる様相でした。ルームメイトだからというわけではなく、ファルコンさんのファンとして、そしてなにより一人の友人として心配です。しかも意を決して話してみれば

 

「心配させちゃってごめんね、でも大丈夫! 皆のウマドルファル子はキラキラしていないといけないんだからすぐに元気になるからね!」

 

 空元気を隠せていないのにそんな風に言うのですから私もその言葉を信じてそれ以上の追求もせずこの話はお終いになりました。きっとテストの点数が悪かったか課題を忘れて怒られてしまったんだろう。少し失礼ですがそう思うことにしました。もし本当に問題があるのならきっといつもの一生のお願いと一緒に相談してくれるでしょう。そう考えて昨日よりは幾分安心して就寝した私はファルコさんがつぶやいた言葉を、誰に言うわけでもないその言葉の意味を理解できていませんでした。

 

「そう、ファル子はウマドル……、キラキラして誰よりも輝いてなきゃいけないんだから……」

 

 その翌日からファルコンさんが私よりも早く起き早朝トレーニング、夜も門限ギリギリまで帰ってこない日々が続きました。日に日にやつれていく姿を見ていられなくなって無理やり部屋に閉じ込めてからは少しはマシになりましたがそれでも何かを削るように自分を追い込む日々が続きました。本人に言ってもだめならトレーナーさんにと思いましたが運悪く長期の出張に言っているそうです。一緒にウマドルとして活動している

 スズカさんやブルボンさんに相談してもお二人も心配して声をかけているそうですが進展はないそうです。最近は少しはマシになりましたがそれでもファルコンさんの目にはなにかギラついた光があるように思えます。そう、あれはクラシックからシニアに上がった時のような……

 

 

 

 

 

 今日のトレーニングもほしい成果は出なかった。タイムだけを見れば少しずつではあるけど確実に速くなっている。でもファル子が欲しいのはそれじゃない。今必要なのはファル子たちを見た人が引き込まれるような何かだ。

 

「もうだめ……一歩も歩けない……」

 

 重賞前と同じレベル、下手したらそれ以上に追い込んだ結果最近はトレーニングが終わる頃には休まないと動けないのもしょっちゅうだ。でも正直にトレーナーさんに話してよかったいい顔はされなかったけど故障しないギリギリのレベルのメニューを準備してくれた。今隣にいないことは寂しいけど離れていてもファル子の夢をちゃんと理解して手を差し伸べてくれる。トレーナーさんに出会えて本当に良かった。

 

「……ふう、そろそろ帰らないとまたフラッシュさんに怒られちゃう」

 

 棒になった足を何とか動かして帰る準備を始める。この前怒られたときは怖かったな……ベッドにくくりつけて

 

「私の考えた休養スケジュールに従ってもらいます! 一切の変更は許可しません!」

 

 だなんて怒っているのに泣きそうな顔で言われたら流石のファル子もうなずくしかなかった。フラッシュさんが本当に心配してくれていることはわかる。今の悩みを相談すればきっと一緒に考えてくれる。ファル子なんかよりずっと賢いしいいアイディアを出してくれるかもしれない。でもそれじゃダメ。きっとファル子がやろうとしていることはすごく遠回りだし、もしかしたら間違ってるかもしれない。でもファル子には、私にはこの方法しか無いんだ。そう決意を改めて、寮へと歩き出そうとした時だ。いつの間にそこにいたのか

 

「へい! そこのイケテル彼女! 今から私とお茶しない?」

 

 そんな今時ドラマの再放送でも見ないような古典的なナンパをしてきたのはマルゼン先輩だった。

 

 

 

「ごめんなさいね、いきなり誘っちゃって」

 

「いえいえ、ちょうどお腹もペコペコにだったから」

 

 そうは言うけどあの後有無を言わせずマルゼン先輩の愛車に押し込まれて気がつけば夜のドライブとなってしまった。お腹が空いてるのは本当だけどあんまり一緒にいたくない気分なのに……。マルゼン先輩にどこに行くかを聞いてもはぐらかされるし、ダッシュボードにある時計を見ればもう寮のご飯は諦めないとダメな時間だしこうなったら開き直って美味しいご飯に期待しよう。

 そう考えてながらマルゼン先輩と少しの世間話をして後車が止まったのはなんの変哲も無いアパートだった。

 

「……ここは?」

 

「ジャジャーン、本邦初公開! お姉さんの秘密のお部屋よ」

 

 マルゼン先輩が寮ではなく学園の外で一人暮らししているのは知ってたけどこんなアパートだったんだ。でもこれだとレストランの豪華な食事は諦め無いといけないかも、残念……

 車を降りてマルゼンさんと二人アパートを進んでいく。あそこが私の部屋よ。なんて指さされた窓には電気が付いていた。他にも誰かいるのかな? でもマルゼン先輩のことだし電気の消し忘れかも、なんて失礼なことを考えていたらマルゼン先輩がドアノブに手をかける前に内側から開いた。そこにいたのは

 

「足音が聞こえてね、しかしマルゼン、数日前に私とエアグルーヴで掃除をしたのにどうしてすでに散らかり始めているんだ?」

 

 トレセン学園生徒会長、シンボリルドルフ会長が困ったような顔で立っていた。

 

 

 

 玄関での会話もそこそこに二人とともにリビングに向かう。そこには先程まで私が準備していた料理が並んでいる。

 

「これって、もしかして……」

 

「ああ、私の手料理だ。レストランの料理に負けるがそれでもよければ一緒にどうだい?」

 

 ここまで連れてきておいて酷いことを聞いている自覚はあるが今だけ許して欲しい。

 

「いやいや、本当に美味しそうで、でもいいんですか? 私夜間外出とか何も申請してないですよ?」

 

「ああ、それは安心してくれ。こちらで提出済みだ」

 

 そう言って食材の準備のために先に学園を出た私の代わりに書類をお願いしたマルゼンの方を見ればあらぬ方向をみて顔を青くしている。まさか……

 

「ごっめーん、忘れてたわ」

 

 笑いながら謝罪するその姿に軽く目眩がする。スマートファルコンの方といえば今まで電源を切っていたのだろうスマホを見てマルゼン以上に青い顔をしている。

 それからスマートファルコンはルームメイトに謝罪が続き、私といえば寮長に謝罪と遅ればせながらの申請をお願いした。私達二人の電話が終わるまで犯人のマルゼンには正座をかしておいた

 それから三人で夕食となった。私は食事中にあまり話す方ではないがマルゼンが中心となって会話に花が咲く。スマートファルコンも初めのうちは元気がなさそうだったがマルゼンの明るさに釣られて徐々にいつもの明るさを取り戻していった。やはりこんな場面での彼女の人徳は流石だ。だからといって今日の連絡忘れを許す気は無いが。

 全員が食事を終え食後のお茶を飲んで少し経っただろうか。今日の本題を切り出す。

 

「さて、スマートファルコン、少し話があるのだがいいだろうか」

 

 私の言葉を聞いてビクッと肩が跳ねたのがわかる。できる限りリラックスできるようにしたようだがまだ不足していたか……。もっと精進せねば。

 

「大丈夫大丈夫、お説教なんかじゃないわよ。最近ねファル子ちゃんがトレーニング頑張りすぎて怪我しないか心配! っていろんな子から相談を受けてね? で、どうせならご飯でも食べて仲良くなるついでに悩みごとがあるならお姉さんたちが相談に乗ろうってわけ」

 

 いやはや、緊張を解くと同時に今日の本題をそのまま伝えている。流石のコミュニケーション力だな。しかしスマートファルコンといえばまだ下を向いたままだ。もしや何か重大な悩みを抱えているのだろうか。そうであれば自分の実力不足に腹が立つ。しかしここで更に聞こうとすればより彼女を追い詰めてしまうかもしれない。もどかしいが今は待つしか無い。それか少しの時間が立ちポツリポツリと話し始めてくれた。

 

「アオハル杯って今やってるじゃない? アレのチームスカウトに関して思うところがあって……」

 

「もしや何か嫌なことでもあったのか?であれば話して欲しい。私のすべてを持って対処しよう」

 

 始まりこそ理事長代理との対決という形で始まったが今は純粋なチーム対抗戦として学園内も活気づいている。そのことで満足してなにか見落としていたのだろうか。

 

「いえ、そういうことじゃないの。そんなのじゃないの……」

 

 顔を挙げないまま苦しそうに話し始めてくれた。

 

「アオハル杯が始まってみんながチームを組み始めた頃いろんなチームに誘ってくれたんだ。最初はすっごく嬉しかった。レースもウマドルも頑張ってきた意味はあったんだって。でも、ダートでよく一緒になる友達に聞いても皆同じぐらいスカウトされてたんだ。その時は皆の努力が実ったね、なんて無邪気に喜んでたの。でも話を聞いていたらそれは違った。」

 

 顔を上げることもなくいつもの彼女からは想像もできない声で続ける。

 

「どうもダートを走れるウマ娘が少ないから片っ端から声をかけてたんだって。メンバーを集めないと参加できないからって。きっと皆も悪気あるわけじゃないと思う、ダート専門だからって差別なんてしないし一緒に頑張ろって言ってくれた。きっと本心だと思う。でも、でもね? それってファル子じゃなくてダートを走れるからスカウトされたんだって思っちゃったの」

 

 苦しみながら話し続ける声に泣くような声が混ざる。

 

「ウララちゃんもスカウトされたんだって。ダート走れるならってチームに入ったんだって。でもおかしくない? 確かにウララちゃんはダートで活躍できるウマ娘だよ。でもウララちゃんの魅力はそれだけじゃない……!」

 

 ついに私達の方を向いたその顔はウマドルスマートファルコンのものではなかった。

 

「ない!? ダートを走れる娘がいてよかった!? 私達の価値はそれだけだって言うの!? 誰もそんなことを思ってないってわかる、わかってるはずなのに誘われるたびにダートを走れるなら誰でもよかったんじゃあ、て思っちゃう。私は砂のサイレントスズカじゃない! スマートファルコンだ! 芝のを走る娘達は距離や脚質なんかで相談してたり誰に声をかけるかを決めてるのに私達はダートを走れる。それだけで決められる。そうじゃない! ダートにだって逃げも先行も差し追い込みもある! スタミナ自慢の娘もスピード自慢の娘も皆バラバラでみんなみんなちがうん!」

 

 振り絞るような声に何も言うことができない。そしてその目は深くギラついていた。

 

「だから私は決めたの。ダートレースの真髄を見せ付けるんだって。私達は芝で走れないからダートを選んだんじゃない。ダートこそ一番輝ける場所だから選んだって。そのためにまずは私が誰よりも強くなる。会長さん、あなたに皆が憧れたように、誰かの憧れになるように、スマートファルコンの走りを見せつけるんだって。だから嫌だけど、悲しいけど、悔しいけどウマドルは少しお休みしてレースを走る一人のウマ娘としてアオハル杯に挑むってそう決めたの」

 

 ……何ということだ、何が学園が活気づいてよかっただ。私今目の前にいる学園の都合で傷ついているウマ娘に手を差し伸べるどころか気づくことすらできていなかった。……!

 

「すまない、私の……」

 

「謝らないで、こんなの勝手に傷ついてる私が悪いだけ。だから誰のせいでもないし、私だけのせい。これは私一人でケリを付けないといけないの」

 

 謝罪も助けることも許されず、どうすることもできない。散らかった思考では何かを思いつくこともなく重い沈黙だけが過ぎていく。そんな中私でも彼女でもない誰かの笑い声が聞こえてきた。

 

「何を笑っているんだマルゼン……! 状況がわかっているのか!?」

 

 あまりにもこの場にあっていない笑い声に問い詰める声も大きくなってしまう。けれどもそんなものはどこ吹く風と笑みを絶やさず言葉を続ける。

 

「ファル子ちゃん、半分正解、半分不正解よ」

 

 意味のわからない言葉に私とスマートファルコンは無言で先を促す。そんな私達に未だに笑みを隠すこともなく話続ける。

 

「レースを見せつけるっていうのは私もいいと思うわ。どんなに言葉を重ねるよりても渾身のレースに勝るものはない。でもだからってウマドルである自分自身を否定しちゃダメ」

 

「けど! だけど走る姿で見返すためには……」

 

「走ることとウマドルを分けちゃダメなのよ。コースを走るスマートファルコン、ウマドルとしてのスマートファルコン。二人は別人じゃないんじゃない? どっちもファル子ちゃんでどっちもあってこそのファル子ちゃんだと思うな。思い出してみてあなたが走ってきた道は、輝いてきたステージはそんな簡単に切り分けられるような単純なものなの?」

 

 マルゼンの言葉にうつむきながら少しの間考え込んだ後問いかける。

 

 

「でもそれで本当にいいのかな? ファル子は全部揃ってファル子だと思うけどそれでも皆にダートを走るキラキラを伝えられるかな?」

 

「伝えようなんて思わなくて大丈夫。ファル子ちゃんが全力を出せばレースでだってステージでだってすぐにみんなを虜にできるわ。それに伝えようなんて考えなくてもただファル子ちゃんらしくあればいいの、そうあるだけであなたの背中を、笑顔をみせてあげれば大丈夫、なんたって私達逃げ切りシスターズのリーダー、ウマドルファル子ちゃんなんだから!」

 

 相変わらずマルゼンの思考回路はわからない。途中までであったり部分部分は正論のはずなんだがまとめるとどこか、ずれた答えが出てくる。

 そして顔を上げたスマートファルコンに先程までの重く暗いものなく、それでもギラギラとした輝きがあった。

 

「……そうだよね! マルゼン先輩、会長さんありがとう! ファル子勝手に悩んで落ち込んでたけど話を聞いてもらってアドバイスもらって完全復活☆! そうだよねずっと、ずっとずっとこんな私を応援してきてくれたファンのみんなを裏切ることなんてできない☆! ウマドルファル子のキラキラをみんなに見せてあげるんだから☆!」

 

 ……ああ、そういえば隼は大型の猛禽類だったか、私は今新しい怪物の誕生を見せつけられたのかもしれないな……

 


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