オーガの里で刀を打ち続ける鍛冶師   作:あSづいぐいあD

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剣を作るためだけに

 火花が散る。

 溶岩を彷彿とさせる赤と黒が混ざった獲物に俺は愛用の金槌を振り下ろす。

 再度、悲鳴を上げて火花を飛ばす獲物。

 その欠片が頬にかかるが、そんなものはとうの昔に慣れた。

 何千回、何万回と振ってきている俺からすれば、ちゃちな火花程度では蚊に刺されたぐらいにしか感じない。

 だんだんと獲物も抵抗する力がなくなってきたのか、俺が想像している形へとその身を変形させていく。

 角度、強度、温度。

 それら全てに細心の注意を向けつつも、それでも俺は全力で金槌を何度も振るう。

 

 そして、頬を流れる大量の汗を首に巻いた布で拭い“それ”が完成したことを確認すると、燃え盛る炎を傍に置いていた水釜で消した。

 

「………いい、刀だ」

 

 思わず、見惚れてしまう刀身の輝き。

 窓から差し込む日の光を全身に浴びて煌めく刀は、間違いなく俺の最高傑作であり渾身の一振りだった。

 

 だが、それゆえに痛感してしまう。

 こんなものでは俺の目指すあの刀には辿り着けない、と。

 

 小屋を出た俺は里の外れにある丘へと向かう。

 木々の影に隠れた、俺のお気に入りの場所だ。

 

 そこに着くのにさほど時間はかからなかった。

 ゆるやかな傾斜が続く、少し横に長い丘。

 そこだけくり抜いたように草木は生えておらず、剥き出しの大地がその存在を露わにしていた。

 

 

 その丘を登った俺は適当な場所に刀を突き刺し、一礼した後にその場を去る。

 こんな鈍で満足しては駄目だと、不甲斐ない自分への怒りを込めた一刺しの感触は、いつになっても不快なものだった。

 

 そうして、見習い鍛冶師としての生活は今日も終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 オーガの里。

 大きく切り立った岩々を天然の要塞として活用し、二重に建てられた白亜の塀が里を囲む。

 その中には森の上位種である大鬼族(オーガ)の戦士達が住まい、日々その肉体を鍛え続けている里。

 はっきり言ってこれを打ち破れる者などいるのか、そもそもそんなこと考えるバカがいるのかと疑うほどの無敵っぷりを誇る我が第二の故郷。

 戦争の“せ”の字もない平和な里は、今日も平穏な一日を享受している。

 

 

 そんなオーガの里を、日照った身体を冷やそうと夜風に当たっていた俺は改めて好意的に感じる。

 弱きを助け、強きを挫く。

 その言葉を体現したように里の者全員が優しいこの場所は、かつて知ったるコンクリートジャングルとは違い不思議な温かみがある。

 疲れ切った俺が骨を埋めてしまうのも仕方がないと言えた。

 

「ってうおおおおおおおおおおお!?おま、服!ふくううう!」

 

 そういやあのクソ上司不倫バレたのかな、いやバレていてくれと心の中で悪態を吐いていると外野がうるさいことに気づく。

 

「?……なんだ、若か」

 

 振り返ってみてみれば、赤い髪をした美青年が一人喚いていた。

 というか、この里の長の息子……若だった。

 

「若か、じゃねえ!服着ろって言ってんだアホォ!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶ彼の姿は必死そのもの。

 はて、何故彼はそんなにも必死なのだろうか……?

 

 なんて天然ぶるわけでもなく、原因は俺の姿にある。

 下半身は無印の道着、上半身は―――――――――――首からかけたタオル一枚だった。

 

 刀の錬成の際は汗がめっさ流れるので、俺はいつも服を脱ぎ捨てて(流石に下半身は脱いでいないが)金槌を振るようにしている。

 そして、熱くなった身体を冷やすために又もや服を着ていなかった。

 男だったころの感覚が今も残っているらしい。

 胸には存在感を主張するアレがあるというのに、まだ女としての自覚が足りないようだ。

 

 確かに、これは思春期真っ盛りである若には刺激が強すぎるかもしれない。

 でも大事なところはタオルに隠れて見えないから、俺は良いと思うけどな。

 公然わいせつ罪なんてこの世界にはありゃしないだろうし。

 

 しかし、そんな理屈は若には通用しなかったようだ。

 

「ほ、ほら!コレやるから早く着なさい!」

 

 目を片手で隠し、もう片方の手で自分が先ほどまで着ていた服を差し出してきた。

 心なしか口調が可笑しくなっていたのは、しかたのないことだろう。

 元男としてそれは同感できるものであったから。

 

 

 顔をタコのように真っ赤に染める今の若からは想像もつかないだろうけど、彼はこう見えてなかなかにやる男である。

 剣の腕じゃ師匠に勝ててないらしいが、それでもこの里で十本指には入るであろう実力者。

 加えて炎系統の妖術を心得えており、まさに屈強な大鬼族(オーガ)の戦士といったところか。

 鍛冶師である俺とは戦う機会こそないが、同年代なことと刀を打つ俺と刀を扱う若という関係なおかげか、そこそこ仲良くさせてもらっている。

 まあ、それでも今世も含めれば三十を超える俺からすれば若などまだまだ青いんだけどね。

 

 若の服を着た俺は、恥ずかしそうに目を逸らし続ける若に一応感謝を伝える。

 

「若、臭いです」

 

「そりゃさっきまで師匠の稽古を受けていたからな……今度からはちゃんと着ろよな?心臓が持たん」

 

 それは無理だな。

 最早ルーティーンと化しているし、やめられないだろう。

 

「それで、今日も刀を打ってたのか」

 

「はい。まあ納得のいくものは作れませんでしたけど」

 

「俺からすりゃ結構な一品だと思うんだが……」

 

 いや、あんなガラクタなど俺の目指すものとは程遠い。

 ただ切れ味のいい刀は山のようにある。

 だが俺は、この世界に唯一にして絶対なる刀を、いつかこの手で作りたいのだ。

 それにどれだけ時間がかかっても構わない。

 例え、この一生を捧げて得られるのであるならば、俺は喜んで捧げる。

 

「若は、どうでしたか?」

 

「聞くな聞くな。滅多打ちにされて終わりだよ」

 

 そんなことは若の身体に広がる痣で分かるのだが、やはりそうだったらしい。

 俺は剣の修行など何の楽しみがあるのか分からんが、それと同じように彼も鍛冶師としての遣り甲斐など分かるわけでもないだろう。

 共通しているのは、目指している理想像が“最強”という点だけなのだがそれだけでも何となく分かるっちゃ分かる。

 

「ま、とにかく頑張るしかないだろ」

 

「そうですね。やり方は違いけれど、目指すモノは同じです。気張っていきましょう」

 

「おう!」

 

 

 一向に進歩をみせない自身への怒りと悔しさを飲み込むように、お互いに拳を合わせ、少しだけ笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




好評なら続くかも。
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