オーガの里で刀を打ち続ける鍛冶師 作:あSづいぐいあD
今思えば、コイツが元凶だったと理解できる。
それほどまでに、純粋な悪。
当時の俺はその凶悪さに、気づくことが出来ていなかった。
何度、過去に戻りたいと思ったことか。
何故自分が生きているんだろうと疑問に暮れたことか。
叶うことならば、もう一度――――――――――
-----------------------------------------------------------
「お前に“名”を授けてやろう」
シルクハットにモーニング、手には杖を携えた小柄な男。
どこか上から目線の言動は、どこから湧いてくる自信故のことだろうか。
ゲルミュッドといったその男は、偉そうに俺にそう言ってきた。
いや勝手に小屋に入って来て第一声がそれかよ……。
N○Kの集金かっての。
そもそも、鍛冶師の仕事場は神聖なものである。
極限の集中力を保つために、雑音どころか外との世界から隔絶されているのだ。
そうした環境を創り出すためにわざわざ里の離れに建ててもらったってのに。
内心で愚痴る俺だったが、それは表に出さない。
現代社会で鍛えられた表情筋は伊達ではないのさ。
こういうのは当たり障りない、妥当な返事をするのが最適解である。
「いりません。誰とも知れない輩から、ものを貰ってはいけないと父から教えられていますので」
その言葉に、ゲルミュッドはチッと舌打ちをする。
「くそっ……どいつもこいつも俺様の名づけを拒みやがって……」
……どうやら俺以外の里の者にも声をかけていたようだ。
彼の反応と言動から見るに結果はよくなかったらしい。
そりゃそうだ、見本みたいな不審者の恰好をしている男がいたらそりゃ警戒するだろうさ。
俺が一人で納得していると、ゲルミュッドはそれが気にくわなかったようで杖をこちらに向けてきた。
「まあいい。丁度俺様もヒマをしていたところだ。そこの女、怪我をしたくなければ抵抗せずに言う通りにしろ」
「はあ」
「チッ……気にくわない顔だ。しかしそれが歪むところも見たいまであるな」
「は?」
「みてくれだけは悪くないからな、俺様直々のおもちゃにしてやろう」
なんだコイツ。
息を荒くして近づいてきやがった。
手をワキワキしてて気持ち悪いな。
とてつもなく殴りたい気持ちで一杯なんだが。
そこで俺はふと、あることに気づく。
よく考えれば、小屋の中に男と女(元男)が二人きり。
ナニも起きないわけがなく……。
ぶっ殺すぞ?
俺は男になど興味はない。
普通に女の子が好きだ、そんなアブノーマルな趣味は持ち合わせていないのだ。
とはいえ、ここで手を出してはいけない。
日本で正当防衛という言葉があるように、相手が手を出していない限りその防衛は正当だとは言えなくなる。
それに、このゲ……なんだっけコイツ、ゲロみたいな名前だったのは覚えてるんだけどな。
全然興味がないから忘れちまったよ。
俺が何も言い返さないことをいいように、ゲロは俺の服に手をかけ――――――――
「え」
はーい確信犯。
逆に俺がゲロの服を掴み、勢いをつけて背負い投げる。
腐っても森の上位種であるオーガの一人、その腕力が並みの人間に負けるわけがなく、やすやすとゲロを投げることに成功した。
壁に強く背中を打ったゲロは、ぎゅえっと奇妙な声を上げて倒れる。
やはりコイツきもいな。
なんかこう……あくまで直感だがよくない気配がする。
「いでええええええ!?き、貴様ァ!?下等種の分際で上位魔人たるこの俺様になんてことを!」
「上位魔人だがなんだか知りませんけど、さっさと出てってください。仕事の邪魔です」
邪魔?まさか……この俺様が?と喚き始めるゲロ。
貴方以外にいませんよ、なんて火に油を注ぐことはしない。
それを無視して、俺は錬成の準備を始める。
この前若様から依頼が入ったからな、その準備を始めなければならないのだ。
依頼人はともかく初仕事なのでたっぷり時間を持った上で挑戦したい。
だからゲロとかいう上位魔人さんにかまっているヒマはないのだ。
火打ち石を使って、窯の中に火を起こす。
おー燃える燃える。
「ちっ!お、覚えていろよな!お前達全員ブッ殺してやる!」
いつのまに回復したのか、そう言って小屋を去っていくゲロ。
一体何がしたかったんだか……物騒なこと言ってたけど、どうせ口だけだろ。
見る感じ小物だったし。
ゲロの背中を見ることなく、俺は錬成へと意識を向けた。
それから数分経った頃には、既にゲロのことなど頭の内から消えていた―――
数時間後。
姫様に手伝ってもらった妖術の件だが、硬質化や不純物の排除に使えそうとのことだった。
本来ならばもっとバリエーションがあるとかないだとか、如何せん姫様も修行中なので覚えている妖術ではこれぐらいが限界らしい。
まあそれくらいが妥協点かなと俺も思うので不満はない。
むしろやる気がUPしたな。
こんなかわいい子も頑張ってるんだ!俺もちゃんとやらないと!みたいな。
「漆塗りの際に炎のエフェクトを表現したいのですが」
「えふぇくとっていうのはよく分かんけど、炎を表現したいならこうやって何層にも塗り直すのが良いべ」
俺の質問に、親父が実践してくれる。
なるほど。
よく分からん。
漆塗り……いわゆる刀の黒い部分にあたる話だ。
ただ塗るのなら俺だって出来るが、炎を表現しようとして行き詰っていた。
そこで登場するのは我が家の大黒柱、名もなき親父。
オーガの里の錬成部門筆頭といっても過言ではない実力で、その刀を目当てに他の国から商人がくるほどらしい。
今世での俺のファザーにあたる。
俺の派手な容姿とは違ってTHE仕事人!ってな感じの見た目。
地味だが、そのかわり鍛冶師とはこうあるべきという思いを抱かせる。
貫禄っていうのかね、少なくとも俺よりは何倍も錬成は上手い。
だからこうやって師事を請いているんだけど、横から真剣に見てても何やってんのか分からん。
速度もしかることながら、そのmm単位の正確無比なコントロール。
はっきり言って神、俺との実力差を見せつけてくるね……泣きたい。
「ほら、お前もやってみんな」
「はい」
筆を渡されて刀の前に座らされたけど、どうしたらいいんだコレ。
……いや、怖気づくんじゃない俺。
俺は前世の夢を叶えるために転生したんだろうが。
それなのにこんな初歩的な所で躓いてどうする。
そう意気込んだ俺は、筆を握りしめて――――――――迷いを振り払うように、一気に下ろした。
ぐちゃりと音を立てて潰れる筆先。
飛び散る漆の数々。
ついでに漆を浴びる俺(と親父)。
そして静まる小屋。
「ス、スミマセン……ちょっと力んじゃったみたい、です」
「そうみたいだべな、誰だって初めては緊張するだ。気張っていくべ」
優しいかよおおおおおおおおおおおお!
悪は理不尽で、突然大事なものを奪い去っていく。