都内の一角のそれ程周りにビルが多くないその土地に、幻想郷の大使館は建てられたわけではなく八雲紫によって持って来られた。
そんな経緯を持つこの場所は既に東京の観光名所となっていた。
では何故、観光名所になっているのか?それは土地の端から中心に向かって生える結界によって包まれており、その結界が紫色に薄ぼんやりと光ることで、外の世界では他の場所では見ることができない唯一無二の美しい光景となっていたからだった。
そんな他には無い光景の大使館も話題だが、勿論幻想郷の話題はそれだけではない。
先日遂に幻想郷に幻想入りせず行って帰って来た外交使節団という大きな話題があった。
以下、そんな大使館や幻想郷に関するネットの反応。
『いや~行ったのは昨日なのに、もう幻想郷の写真とか動画が公表されるなんて、政府は有能だな~』
『やった~!!遂にこちらの世界で魔法が学べるんだ~!!これで幻想入りする方法を探す必要は無くなったんだ~!!パチュリー様~万歳~!!』
『動画のレミリア様とフラン様の決闘は美しくも手に汗握るもので、私!朝から一日中興奮が止まりません!』
『今回は沢山妖精ちゃん達が映っていて興奮が収まらないんです、例えば怖がって遠くからこちらを眺めている姿も、無邪気な笑みも、メイドさんをしている姿も、霧の湖の妖精さん達のリーダーのチルノちゃんも、その全てで妄想が止まらないんです』
『幻想郷の大使館って、今まで何かの役に立っていたっけ?基本的に誰も入れず幻想郷とこの世界を直接繋ぐものの、大使以外は出て来ない大使が暮らすだけのこの場所が!』
『図書館に居た小悪魔さんはホフゴブリンさん達を除くと今までで一番普通の生き物とかけ離れた見た目をしていましたね、だって背中と頭から合わせて二対の翼なんてこっちの世界には存在しないですし』
『今までも多少は例外があるのは知っていましたが、私はもっと幻想郷は和風な世界だと思っていました、実際は海外からも様々な方々が幻想入りしているのですね』
『動画で映っていたプリズムリバー三姉妹の頼み事、最初何を言っているのか分からなかったけど、藤原大使の補足説明を聞いて、納得と同時に共感で悲しくなりました』
『紅美鈴さん、何かしっかりしたお姉さんって雰囲気で~なんか膝枕とかで甘えさせてもらって~、よしよしされたいな~』
『雷鼓さんで初めて付喪神が登場しましたが、赤い髪の色と身体の周りに本体のドラムが浮いてなければ、人間にしか見えないですね』
『さっき、凄い動画を見ちまったんだ、スカーレット姉妹の決闘にレミリアのテーマ曲を合わせた動画が幻想郷公式チャンネルから出てたんだよ、それでさっきから興奮で震えが止まらねえんだよ』
『そういえば、幻想郷の大使館を囲むあの結界は侵入者を阻止するものなんだってな、あれって地面から生えているんじゃなくて球体だから地面の下も囲っているらしいな』
『ウケる~!もう欧米ではプリズムリバー姉妹の末裔を名乗る人が沢山でてんだってさ!実態は偽物から本物まで玉石混淆らしいがな!』
『流石は幻想郷の大勢力の一部なだけあって紅魔館にはリアルでメイドが居るのは凄いね、それにメイド長の十六夜さんはナイフ投げて時間と空間を操ってメイド以外の業務も万能だしね』
『博麗神主が作曲した曲はどれも名曲でしたね~しかも今回演奏された全曲の楽譜を幻想郷公式アカウントで公開してくれましたし~』
『大使館があるわりに、今は未だ幻想郷と大して交流出来てないですよね、幻想郷から来るのは許可を得た方がちょっと来ただけですし、こちらからは先日やっと行けただけですし、一般国民の意見としては間近で交流したいです』
新年早々でも幻想郷関連の話題は尽きず、幻想郷についての話は世界中で楽しい娯楽として定着していた。
そんな最中、1月6日の昼に中身が妹紅の幻想郷公式アカウントから大きな発表がなされた。
『1月7日より当大使館の敷地内においては、私か各勢力のトップからの許可さえあれば誰でも来れて、既に何人か来ることが決定しています。』
一方その頃大使館の中の執務室では、今朝まで呑んで二日酔いになった身体を破棄した妹紅が、スマホ片手に幻想郷から連れて来たとある人物と話していた。
「いやー助かるよー、ここ広いから掃除が大変そうだし、庭園の管理の方法なんて私にはわからないから、本当に来てくれてありがとうな妖夢。」
「いえ、いいんですよ紫様に勧められた形ですが、私も外の世界に来てみたかったので。」
そう、連れて来た人物とは白玉楼剣術指南役兼庭師の魂魄妖夢だった。
「それにしても、こっち来て良かったのか?妖夢は幽々子のお世話をするのも仕事だろ。」
「大丈夫です、幽々子様には許可を貰いましたし、毎日夕方には白玉楼に帰るので、それにそもそもの話ですが、普段から幽々子様のお世話は私以外に幽霊達もしているので問題ありません。」
そうなのである、妖夢は幽々子から正式に許可を貰い、給料無し体調不良時の休日だけで定期の休日も無いブラック企業も真っ青な環境から一時的に転職して、大使館の清掃役兼庭師として暫くの間毎日少しずつ清掃などの仕事をすることになっている。
「そういえば妹紅さん、何で私はこの屋敷から出てはいけないんですか?私は庭師として来た筈なのですが。」
妖夢がそんな疑問の声をあげているように、今日は屋敷から出ることも外から見える位置にも行かないでくれと妹紅に頼まれている。
「だって、未だ私以外はここに基本入れないことになっているから説明が面倒だし、私の仕事の一環として驚きや衝撃が薄れるようなことをしてはならないからな。」
「つまり、外の世界に私が居ると説明する必要が発生する上、私の存在が話題に上がりにでもすれば後で私の紹介として出た時に驚きが少なくなるから止めて欲しいということですね。」
「そういうことだから、今日はここの内側の部屋と廊下の掃除だけ頼む。」
ちなみに大使館である以上、外の世界で唯一見れる幻想郷だから様々な方法で多くの人間が見ているし、結界は紫色に光っているだけなので窓際に居ればバレる可能性がある。
「では先ず始めとして、この部屋の掃除からするので妹紅さんは浮いていてください。」
「うん、浮いているから掃除よろしくね。」
そうして、妹紅はプカプカ浮かびながらスマホ片手に執務室の掃除をする妖夢を眺めることにした。
妖夢の掃除風景は半霊にはたきを持たせて埃を落とし、半人は箒を持ち掃き掃除をしていた。
「~♪~~♪」
箒片手に可愛らしい鼻歌を歌う妖夢を妹紅と妹紅のスマホが見ていた。
「あの妹紅さん、掃除している間ずっと気になっていたのですが、さっきから妹紅さんはそれで何をしているんですか?」
執務室の掃除が一段落したところで妖夢は妹紅が手に持つスマホを指しながら質問をする。
「うん?ああこれか、これでさっきからいろいろなことを公表しているんだよ。」
「?……!、確か外の世界では機械を使えばどこでも世界中の情報を手に入れたり公表できるんでしたっけ、外の世界出身の幽霊から聞いたことあります。」
あまり機械について詳しくないのでスマホに関して質問した妖夢だが、妹紅の話と幽霊から聞いたことを合わせて納得する。
「それならもう一つ質問をさせてください、何を公表していたんですか?」
「いや、明日から色んな連中をここの敷地内に入っていいことになったって話を公表していたんだよ。」
「ということは、明日から私も庭師としての仕事を始められるということでしょうか?」
話の文脈から、妖夢はそう想像する。
「ま、その程度のことどんなに時間掛けても十分も掛からないから別のこともしていたけどな。」
「他のことですか?何をしていたんですか?」
妹紅がしていたことに全く見当が付かず、新たな疑問に妖夢は質問する。
「妖夢の動画を撮っていた…と言ってもわからないか、分かり易く言うなら写真より少し劣る程度の質で漫画より高密度に連続で風景を記録するものだな。」
「その動画?でしたっけ、そんな物も聞いたことはありますが実物は見たことないんです、気になるので見ていいですか?」
「いいよ、妖夢の意見も聞かないとだしな。」
そういうことで、妹紅の少し不思議な話し方に気づかないまま、妖夢は無邪気にスマホを覗き込む。
「~♪~~♪」
その動画は先ほどの、妖夢の掃除風景を鼻歌含め撮ったものだった。
「!?え…、そのえーっと、何故私が映っているんですか!?」
「いや、妖夢もここで働くから紹介の動画でも作ろうかなって、ほら妖夢ってさ半人半霊って名前の珍しい種族だから、その一番の特徴である半霊が実際にどう動くか分かり易いかな~ってね。」
実際、半人半霊なんて外の世界では誰も聞いたことないだろう。
「その動画は止めましょう!鼻歌とか恥ずかしいですから!」
「いや、妖夢は凄い可愛い見た目してるし、鼻歌も可愛いから皆喜ぶと思うぞ。」
「私の意見はどうしたんですか!?」
「いや、聞いたじゃないか。」
「参考にするんじゃないんですか!!」
全力で動揺する妖夢に妹紅は畳み掛ける。
「というわけで次は自己紹介の部分を撮ろうか。」
「待ってくださ~い!!」
そういうわけで、1月6日は妖夢が疲れはてて終わった。
判明している限り妖夢の労働環境は丁稚奉公より酷いですが、幽々子の性格上お小遣いくらいは渡してそうですね。