3Bがモブの画策で異空間に閉じ込められてモンスターを嗾けられる話。バトルシーンは書けないのでカット。ブロットを原料に魔法を使ってブロットを増やすオーバーブロット者、増殖炉っぽいなと思ったので「シュラウド(核燃料+制御棒の覆い)」(軽水炉のパーツなので増殖炉には使われてないけども)なイデア氏。※ツイステ受動喫煙※「前のオルト」くんが物質世界のどこにもいなかった世界線
イデア・シュラウドは、
その魔法がかけられたとき、ケイト・ダイヤモンドはイデア・シュラウドと肩を組んでいた。勿論ツーショットを撮るためだ。
「君の望む場所より僕の望む場所へ。
「へ?」
間抜けな声を上げたのは、イデアとケイトのどちらだったのか、そもそもの魔法の標的がどちらだったのか。そのどちらとも判然としないまま、二人は足元に現われた大穴に飲まれて消えた。
結論だけを言えばそれは他者を指定した地点へ転移させるような
「……ここ、どこ」
大きすぎる月だけが照らす荒野の有様に、イデア・シュラウドは眉を顰めてそう言った。月明かりでは判然としない薄墨色の靄を吸ったその一呼吸に、イデアはこの場にいるうちの一人が自分であったことを幸いと断じた。
「何処かは分かんないけどやばいことは分かる」
ケイト・ダイヤモンドは魔法士である。正確にはまだ仮免許の段階だが、それでも緊急時であれば他の人間に対して致傷可能性のある呪文を向けて許される立場だ。この空間の異常性を視覚に依らずして察知することは容易かった。
この粘つくような魔力反応を知っている。薄暗い靄も、髪を焼いた様な微かな臭気も。人の心を蝕む、出所不明の不快感も。飽和して大気に散らされた
「それは拙者でも解るが……。電波ダメ、軍用の魔導併用回線すら通ってな──魔力反応!」
イデアの声に弾かれたかのように顔を上げる。暗闇に光る様な金の先に、犬狼に似た六足の獣。ポケットのマジカルペンを摑み、
「シールド起動!──待ってケイト氏、魔法石見て!」
鋭く尖らせた鉄杭の
倒れ伏した魔獣の空いた大穴から流れる鮮血の色でさえ、この空間では黒だった。インクの色だった。
消音、消臭、光学迷彩、魔力認識阻害、
「イデアくん、魔法石見せて」
眦を吊り上げてそう言うケイトに、イデア・シュラウドは困った様に薄く笑った。ケイトはそれを笑みとは認識しなかったかもしれないが、ともかくイデアとしては微笑んだつもりだ。
「あ、や、拙者は平気なんで」
「いいから」
ケイト・ダイヤモンドは知っている。この状況で大丈夫というやつの九分九厘までは大丈夫ではない。例外はマレウス・ドラコニアのような人間の規格を理解していないタイプの強者だろう。イデア・シュラウドの力量を疑うわけではないが、ケイトの知る限り彼がヒトとして規格外なのは頭脳であってブロット許容量ではない。確かに、許容量限界に達するほどの魔法を使うのを見たわけではなかったけれど。
イデアは何かに迷うように逸らした目を瞬かせて、諦めたように口を開いた。問答そのものだけの話ではなくて、何か別の物をも諦めたように、ケイトには見えた。例えば三年前までのケイトの、沢山の
「……。ほんとに、ブロットの問題はないんだ。僕は魔力で魔法を使ってるわけじゃない」
引かれるだろうな、とイデアは思った。何故って、真っ当な生き物は当然ブロットを避けるようにできているからだ。己の精神を
ただ
「厳密に言えばちょっとは魔力も使ってるけど、高エネルギー物質であるブロットをエネルギー源としてる。この状態でも魔法使用によってブロットは発生するから、語弊はあるけど永久機関と思ってくれて構いませんぞ」
ケイトは、本当のことを言うなら、恐ろしいとは思わなかった。ただ、なんとなく、それが自然に生まれるものではないような気がして、もしそうだとしたら悍ましいと言えるような何かが、イデアの背後にあるのだろうとは感じた。けれどそれ以上に何かを思うには、ケイト・ダイヤモンドは
増殖炉、という概念がある。燃料Aを入れて、燃料ではない物質Bを一緒に入れて、エネルギーを取り出す。その時の副産物でBがAに変化するので燃料回収が1を超える。そういう
オーバーブロットという状態は、まさにそれだった。点火のための僅かな固有魔力と、魔法的に高エネルギー物質であるブロットを消費して、消費量以上の
だから
誰かが手慰みに造った機械を、誰かが趣味で組み上げたプログラムを、誰かが童心に返って遊んだゲームを、
「というわけで此処での魔法は引き受けるんでケイト氏には下手人の捕縛・尋問とか教職員と該当寮の寮長への報告とかを丸投げしたいなーなどと」
言いながらブロットの霧を風魔法で追い払ったイデアに、ケイトは諾と頷いた。適材適所というやつだ。
「で、どうやって帰るの?」
イデア・シュラウドはそれは当然と最も確実性の高い方法を答えようとしてやめにした。イデアだけが帰るなら簡単だ。その辺のブロットを燃料に、嘆きの島の緊急帰還用マーカーを対象に、
「拙者一人なら逆召喚とかでいいんだけど、まあ座標特定して転移するか正攻法で封印解いて通常空間に出るかですな」
想定されている機能が「移動の省略」である転移魔法は通常、自己を原点として座標を決定する。イデアも座標変換用のプログラムこそ組んだが、相対座標法の転移魔法を使っている。ここが実世界に存在する場所ならば外部に原点を置く方法でもなんとかなったが、流石に亜空間から同行者を連れて不慣れな方法での転移となればさしものイデアも五体満足で済む確信はなかった。
「封印解いて、って……封鎖処置の方法も解んないのに簡単に言うなあ」
そうぼやくケイトも、封印魔法の強度を上げる単純な方法は内部からの解除手順を設定することだと知っている。「正攻法」がある封印や結界は、それ以外の方法に対してめっぽう強くなる。だがご丁寧にその正攻法を知る手段まで内部に用意する必要は全くないので、ケイトは座標確定に輪をかけて非現実的な解決法だと判じた。
ケイトのその判断はイデア・シュラウドが嘆きの島を継ぐ者でさえなければ正論だったが、実際のイデアにはこの手の亜空間封鎖処置にはパターン化できるくらい覚えがあった。魔法を使う相手を封印する手法は古今を問わずほとんどが元を辿れば嘆きの島で開発されたものなのだから、当然と言えば当然の話だったが。
「あー、半生物モンスターの封印には少々知見がありまして……仮説くらいなら」
「ふんふん。それで?」
「多分だけど、マーキングしたモンスターから魔力を吸い出して封鎖させてる。魔法を使いっぱなしだからこんなにブロットが蔓延してるんだ。そこの連中からマーカーの解析もだいたい終わってるよ」
「イデアくん」
ケイトは半眼になった。何が「仮説くらいなら」だ。どっからどう見ても確証があって言ってるじゃないか。
「はい」
「報連相」
「はい……いや今したじゃん」
「そういうとこ!えーと、つまり何匹いるか判んないモンスターを全滅させなきゃいけないわけ?」
「まあそう。マーカーで位置判るし僕はガス欠しないしあとはケイト氏のブロットが溜まりきる前に終わらせれば良いんでTAしますがよろし?」
「了解。オレは魔法使わない方が良い?それとも防御くらい自力でやった方が良い?」
「できれば使わないで欲しいかな……ところでケイト氏、体力に自信ある?」
「うーん、バランス感覚には自信あるけど体力は……あ、でもイデアくんよりはあるか」
「事実だけど辛い。レオナ氏とかならいっそ負ぶって移動してって言うんだけどどうしよっかなって」
「やるよ」
「いいの?」
「とりあえずオレくん背負って歩くくらいならできるし、イデアくんたぶんオレくんより軽いでしょ」
「それは……まあそうだろうね」
「それ女の子に言っちゃ駄目だからね」
「言う機会があるとお思いで!?」
「問題はそこじゃないから……よっ、と」
「んじゃ二時の方向に移動ヨロ。
背負ったイデアが耳元で囁いた言葉に、ケイトは無茶言うなあと思いつつも頷いた。
「九時方向の不確定名三首の鹿釣りますんでちょい止まって」
「おっけー」
「十一時方向から五頭来てるけどそのまま進んでおけ」
「あっうん了解」
「うわわわちょ、イデアくん!?群れが来てるんですけど!?」
「引きつけてるんだよ……はい
「火真っ白だし群れごと消し炭じゃん……どんだけ火力高いのさ……」
「いやリドル氏だって本気出せば余裕でしょこのくらい。てか今のはフィールドバフありきのごり押しなんで褒められても嬉しくない」
「さいで」
「よし。この先のは全滅したんで九時方向に転身して」
「ん。……ねえ遠くの方に小山が見えるんだけど」
「あ、うん。とりま
「いや報連相……」
「どうにでもできる範疇だし要らんくない?」
「要らんくない!」
「そっかー。後残ってるのは大物五匹だけなんでとりあえず一番小さいやつね」
「あれで一番小さいの??三階建ての家くらいはあるのに??」
「ブロット……魔力が蔓延してて他のモンスターもいっぱいいる環境にずっと居るんだからあんなもんっすわ。あと物理的なサイズじゃなくて魔力量とか神秘強度の話なんで」
「ど、ドラゴン!?」
最後の一体がいるという方角に、フィクション以外では一生見ることはないだろうと思っていた形状の影が見えて、ケイトは目を剥いた。
「っすな。下ろして貰っていい?あれは流石に本気でかからんと無理っぽい」
「あの、言い出したオレが言うのも何だけどドレイクでもワイヴァーンでもなくてマジでドラゴンなの?」
「うん」
こともなげに肯定された内容に、ケイトは心底慌てる羽目になった。
「待って待って
「ゆうて拙者もほぼ原発みたいなもんですし……あ、ケイト氏ペン出して」
「ん?よく分かんないけど、はい」
「悲嘆の夜、黎黒の淵、此岸の嘆きもこそ我が元へ。
差し出したペンの先、だいぶ黒が目立つようになった魔法石に病的なまでに白いイデアの指先が触れる。ケイトの人生で一番と言っていいほどに貯まっていたブロットの全てが、その指先に吸い込まれるようにして消える。
「……は?」
見慣れた
まだブロットの安全な輸送法が確立される前のことだ。もう数百年も前の。「他者のブロットを吸収する」魔法を生まれ持ったその魔法士は、少ない魔力量に反してひとの三倍もブロット容量があった。魔法石の産地から遠く離れた村に生まれた彼の周りにはなんの偶然が七人も魔法士がいて、うちの一人は二度に一度も雨乞いを成功させるほどの大気干渉の天才だった。自然、他の魔法士たちがもっと沢山の魔法を使えるようにブロットを引き受けることが彼の役割になった。そしてある日村は魔法を使う大猪に襲われ、七人のブロットを引き受け続けた彼は、オーバーブロットを起こすことになる。
彼の
半汚染状態にある魔法石を破壊せずにブロットのみを抜き出す方法。ブロットの原液や、術者を既に取り殺して定着してしまった
「はい。
イデアがそうやって何でもないような顔で言うのが、他言無用の一言さえないのが、ケイトには一層恐ろしかった。他人のブロットを引き受けられるなら、反対に流し込むことだってできるだろう。それを実行に移すほど冷酷な人物ではおそらくないけれど、いっそのことそう言って脅してくれた方が
「バフよし、デバフ解除よし、防護魔法よし。デバフはどうせ通らんから無視するとして……ケイト氏、分身一体出して。炎特化の防御とブレスが収束する様なバフかけとくんで射線に僕らが入らない様な位置取りして貰ってね」
「オレはコイツで、コイツはアイツ。
「鏑矢代わりに派手なの行きますぞ!輝石と黄金、剣と兜!
「……お、お疲れ、さま……オレ死んでない?もしくは夢じゃない?マジで
死ぬかと思った。むしろ生きていることに確信が持てなかった。ケイトは風魔法でブロットを散らされた領域から出ないまま囮の
「乙乙。だいぶ変質してたからもう
そう言ったイデアが、妙に表情を硬くしてケイトに近づいてくる。緊張の糸が切れてしまって茫漠とする頭でも、なにかがおかしいと思った。
「……イデアくん?」
イデア・シュラウドではあるだろう。けれど。
「悪いけど、詳細は忘れてもらうよ。君は異空間の特異な魔力で記憶が混濁するんだ」
「え、ちょ、」
魔導工学の台頭によって
「死人にくちなし、乙女にざくろ、生ける人にはなわすれのくさ。
倒れ込んだケイトを、身体強化を使いつつ支える。世界そのものが現世の入口を残して閉じていく中で、イデアは自分でも理由の分からない懐かしさを覚えていた。これでもかというくらいに魔法を使って、今までにないくらいのブロットを抱え込んでいることに。完全に閉じているが故に行き場をなくして飽和しきったブロットの霧に。
それは
厄災を、