美しく残酷にこの大地から......とまでは言わないのでちょっとの間幻想郷から出てってください。   作:妖念

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おまけです。短めです。


extra
Ex.1 格の違いを見せてやる!


 

 外の世界の元日の夜。

 

 出演者が「目玉が飛び出すような高級品」と「一般のお手頃な物」を判断し、審美眼の"格付け"を行う番組が放送されていた。

 

 第1チェック ワイン ~ロマネ・コンティ

 

「ワインなんて飲まないと分かるわけないじゃないですか」

 

 美鈴が諦めたように笑いながら言う。テレビの画面越しには飲食物の判断など不可能に等しい。番組側もそれは承知の上で、このワインのチェックに関しては視聴者へ考える時間を与えることなく、答えを発表するようだった。

 すると、鼻を小さく鳴らしたレミリアが咲夜、とメイド長の名を呼んだ。

 

「......A」

 

 呟くように答えた咲夜。

 しばらくして発表された答えは......Aだった。

 

「すごっ......咲夜さん。見ただけで分かるんですか?」

「ええ、色味や透明度である程度は、ね」

「私、飲んでも分からない気がします......ほぇー」

 

 感心のあまり口がポカーン、と開ききっているのはパチュリーの使い魔だ。

 

「ブルゴーニュ産のワインは濃厚でコクがあるのに対して、ボルドー産のは淡泊で腰がある......っていうのが一般的だけれども、ロマネ・コンティはどちらかと言うと意外とあっさりしているの。高級なヴィンテージワインは力強くて豊穣な味──って先入観を持っていると飲んだ方が分からないかもしれないわ」

「......へ、へぇー」

「まあ、結局は50:50だから偶々当たっただけかもね」

 

 美鈴は咲夜が何を言っているのかほとんど理解できなかった。分かったのは、謙遜こそしているものの咲夜がただ単純に2分の1の問題を当てたのではないということだけだ。

 

「でも、これ面白そうね。今度うちでもやりましょうよ」

「承知致しました。いつでもできるよう準備しておきます」

 

 咲夜がレミリアににこりと微笑む。

 美鈴がまた賑やかになるなあ、などと呑気に考えていると、パチュリーがのそりと顔を近づけてきた。

 

「あら、"三流門番"や"美鈴のそっくりさん"......いえ、"雇う価値無し"にならないよう今から勉強しておいた方がいいんじゃないの?」

 

 そして、珍しくいたずらっぽく笑いながらパチュリーがボソリとささやく。

 

「ご、ご冗談を......」

 

 ◇

 

 第2チェック 音感~四重奏(カルテット)

 

 一般的な人々──つまり多くの視聴者にとっていかに楽器が凄いかは値段でしかはかれない。そこで、使用されている楽器の価値を示すために、その金額が画面に表示されていた。しかし、この三姉妹にとっても興味をそそったのは肝心の音色ではなく、むしろ楽器の値段の方だった。彼女たちの場合の理由は簡単に聴き分けられるからである。1+1は? と聞かれているようなものだ。

 

「わお! 億って......ストラディバリウスってそんなにするんだあ」

 

 メルラン・プリズムリバーがテロップを見てため息を漏らす。外の世界の金銭感覚がさほど身に付いていなくてもそれが並みの人間が手にすれば震えが止まらなくなるようなレベルの代物だということくらいは分かる。

 その様子を見ていた末っ子のリリカがそうだ、と何かひらめいたようにポンと手を叩いた。

 

「じゃあ、姉さんのバイオリン売ったらもっと高いじゃない!」

 

 ここで言う姉さんとはメルランのことではない。メルランはトランペット担当、この照準はプリズムリバー楽団の長女・ルナサへと向けられていた。

 冗談とも本気ともつかない品定めをするような顔でリリカはルナサのバイオリンをじっと見つめる。

 

 

「......馬鹿言わないで」

 

 ルナサは狙われた愛用のバイオリンを守るように抱きかかえた。

 栗色を帯びているボディが部屋の明かりをほのかに反射する。きちんと張られた琴線の一部だけがきらきらと白く映える。彼女のバイオリンは件のストラディバリウスを優に越える逸品だ。

 

「まあ、私たちの楽器全部幽霊だからね。そもそも売れないんじゃない?」

 

 メルランはチェックの対象が金管楽器の合奏でなかったことに感謝しながら、軽く助け舟を出した。残念ながら......なのかどうかは分からないが三姉妹が操る楽器は三姉妹と同じくいずれも霊的存在、既にこの世に存在しないものだ。

 

「うーん、どうにかして......」

「......だから、できたとしても売らないわよ?」

 

 なおも首を捻って粘ろうとするリリカをルナサはジトーっと制した。

 

 ◇

 

 第3チェック 味覚、食感~牛肉

 

 

「へー、松阪牛ってのはそんなにおいしいのかねぇ」

 

 にとりが店内でつけっぱなしにされているテレビを漠然と観ていた。霖之助はチラと壁掛け時計を見た。今日は元日、それも夜の10時過ぎだ。にとりが霊夢家でバカ騒ぎをしてもどってきたのが、お昼過ぎ。眠くはないが体はだるいのだろう。帰ってきてからは目だけは冴えて、ただボーッとしていた。店も営業時間外だが、閉めるのが面倒なのでどうせ誰も来ないだろうと開けっ放しにしてある。

 

「霖之助、君の能力なら直ぐに分かるんじゃないのかい?」

 

 にとりが霖之助を振り返った。年越しの宴会に参加せずに規則正しく起きている分、眼鏡越しの表情はいくらか眠たげに見えているかもしれない。

 

「いいや。画面越しでは僕の能力は通用しないようだな。今分かるのは君が観ているのが"テレビ"という名前であることと"表示される映像を観て楽しむ"という用途があるということだけさ」

「ふーん......私もキュウリだったらちょっとは自信あるけどなあ。じゃあ、直接見れば全問正解間違いなしかい?」

「うーん、どうだろうね。オブラートのような口に含んでも問題ない製品ならともかく普通の食品の名称は僕には分からないよ。"道具"ではないからね」

「なるほどなぁ......」

「それに、さっきの音楽の問題なんかは僕の能力は無関係だ。そもそも目隠しされたら分かるものも分からないよ」

「あ、そうか......でも耳の後ろなんかにマイクロカメラをつけるだろ、で、目に小さなモニターを埋め込んでさ、目隠ししてても見えるようにしたら?」

「さりげなく恐ろしいことを言うな、君は。それに、さっきも言ったが僕の能力はカメラ越しには......」

 

 内容に注意を払う必要もなく、気の利いた返しが素早くひらめく必要もない、気の抜けた会話のキャッチボールを2人がしていると、

 

「どうも、こんばんは」

 

 突如としてそのやり取りが断たれる。

 

「おや......?」

 

 元日のこんな時間には誰も来ないだろうと踏んでいたが、甘かったらしい。霖之助もにとりも入り口へと目をやる。自分が思うよりも話に集中していたのか、扉が開くと鳴る鐘には全く気づかなかった。

 背中一杯に溢れるほど広がる黒髪の艶やかさに霖之助は一瞬息をのむ。

 

「あなたは......」

 

 蓬莱山 輝夜がそこにはいた。

 

「うちのテレビが壊れてしまったので」

「修理してほしいの?」

「いいえ、そっちは永琳が直してくれているわ。てゐがここにテレビがあると言っていたから......」

「まさか、テレビを観るためだけにここに来たのか......」

「ええ」

 

 輝夜はさもそれが当たり前のように微笑むと先程まで2人が観ていた番組を眺める。

 

「そう、これよ、これ。あなたたちも観ていたのね」

「え、ええ......まあ。全然当たんないですけ、ど......」

「折角いいお肉なのだからスプーン1杯じゃなくて、もっと食べさせてあげればいいのにねぇ」

「いや、それだと趣旨が......」

 

 テレビに釘付けになりながら自分のように振る舞う輝夜に突然の来訪者に怯え混じりに面食らうにとり。その2人をまるで他人事のように俯瞰で見る霖之助。

 

 霖之助は外の世界であろうと、今年も平穏な生活にはなりそうにはないな、と1人静かに思うのであった。

 




案を頂いた方、ありがとうございました。
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