美しく残酷にこの大地から......とまでは言わないのでちょっとの間幻想郷から出てってください。   作:妖念

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2.サムライガール、ただのガールになる

(幽々子様......私はここで生きていけるんでしょうか?)

 

 木々にぐるりと取り囲まれた広い運動公園。奥には大きなアスレチックも見える。グラウンドを囲むようにランニングコースも完備されており、妖夢は、粉雪舞い散る冬の朝を、白い吐息と共に走り込む──ランナーをトボトボ歩きながら見ていた。

 

 腰と背中が軽い。何も体調がいいわけではない。

 楼観剣と白楼剣、妖夢はいつも2振りの日本刀を携えていた。

 その愛刀たちは今、勤め先の小料理屋でインテリアとして行儀よく鎮座している。流石に外の世界でホイホイと刀剣を持ち歩く訳にはいかない。それは妖夢も重々承知だ。

 しかし、妖夢は剣士だ。やはり、不安で落ち着かなくて仕方がなかった。

 

 妖夢は手首の内側に目をやった。チッチッと時を刻む音がする。

 

(まだ、10時か......)

 

 時計の針は10時を少し過ぎた辺りだった。

 分かりきっていたが、散歩ごときではほとんど時間は経っていなかった。妖夢が潰さなければならないのはここから店の開店準備の4時までの6時間だ。

 軽い絶望感と虚無感が妖夢を襲う。

 

(......座ろ)

 

 妖夢はランニングコースを外れると、グラウンドの方へと向かった。雪がうっすら乗っかったベンチを見つけ、軽く払う。そのまま、ポツリと座り込んだ。

 グラウンドには先客がいた。近所の子どもたちだろうか。7~8人ほど、結構な人数で集まっていた。

 子どもは風の子、とはよく言ったもので、この寒さの中、軽装で大はしゃぎである。意地なのか、何なのか。何が彼を駆り立てるのか分からないが、半袖半パンの少年もいた。

 妖夢は目の前で元気に跳ね回る少年たちを、虚ろな眼で見ていた。

 しばらく、見ているとやがて少年たちは片手に大きな手袋をはめ出した。

 そして、わらわらとグラウンドに広がっていき、拳大のボールを投げ、棒を振り回してそれを返す。

 

(何て言うんだっけ? ......野球、だったっけ?)

 

 競技名すらうろ覚えでも、何もすることがない時には気が紛れるものである。

 妖夢はしばらく目でボールの行方を追っていた。

 そのやり取りを数回見た後だった。

 コロコロと妖夢の足元へと白球が転がってきた。

 

「あの、お姉さん?」

 

 妖夢はまじまじと足の間に入り込んだボールを見つめる。

 白い球、タマ、霊──そういえば目立つので、半霊も家に置いてきた。刀もなければ半身もいない、今、妖夢はアイデンティティーをほとんど失っているのだ。

 

「ボール......」

 

 ここでようやく妖夢は自分が呼ばれていることに気づいた。

 ビックリして反射的に腰に手がのびるが空振る。ああ、刀はないのだ──その考えが再び妖夢を憂鬱にした。

 

「あのー、お姉さん?」

「あ、ごめんごめん」

 

 慌てて少年にボールを放って返す。

 

「もしかして......野球、やりたいの?」

「へ? ち......」

 

 違う、と言いかけて妖夢は踏みとどまった。自分達が野球をやっているのをずっと見ていたり、ボールをじっと見つめたりすれば、そのように映るのかもしれない。それに、純粋な善意で誘ってくれているのだ。

 無垢な目には若干の憐れみすら混じっているように見える。

 

「え、ええ」

 

 妖夢はぎこちなく頷いた。

 

 ◇

 

(くたびれた......)

 

 妖夢は一軒の料理店の前で立ち止まった。

 店名は『秋刀雀』──ここの従業員たちが名前の由来である。"刀"の部分はもちろん妖夢だ。自分で言うのも何だが小洒落た店である。

 脇道を通り店の裏口に回り込むと、慣れた手つきでガチャリ、とノブを引く。

 

「お疲れ様でーす......」

 

 ドアを開けるやいなや陽気な鼻唄が厨房から聞こえた。

 中には既に"雀"担当──妖怪・夜雀のミスティア・ローレライがいた。

 

「......疲れてるのはそっちじゃないの?」

「静葉さんと穣子さんは?」

「今、出てるわよ。どこ行ったかは知らないけど。それより、どうしたの?」

 

 余程疲れが顔に出ていたらしい。

 ミスティアが皿洗いの手をとめ、怪訝な顔で妖夢に尋ねる。

 結局6時間という途方もないように思えた時間は、あっという間に過ぎた。

 

「ん......ちょっと、体動かして来たの」

「え、まさか......」

 

 ミスティアは店に飾ってある日本刀に目をやると、まだそこにあることに心底安心したような表情を浮かべた。

 妖夢はその動きに何とも言えない失礼さを感じ取った。

 

「......辻斬りなんかしてないわよ」

「いやー、やりかねないかなって」

 

 エヘヘ、と笑うミスティア。ここだけ見ると先ほどの子どもたちの無邪気さと変わらない。その正体は妖怪だが。

 

「ちょっとね、近所の子供たちと遊んだのよ。ほら、あっちにおっきい公園あるでしょ」

「へー、妖夢もそんなことするんだ。何したの? 鬼ごっこ? かくれんぼ?」

「色々やらされたわ。野球ってスポーツとか......まあ、疲れた疲れた。出勤前にやることじゃないわね」

「人間って子どもが1番強いわよねぇ」

 

 妖夢は布巾を手にとると、ミスティアが洗い終わった皿を丁寧に拭いていく。

 

「でも、何だか......楽しそうじゃない」

「野球やってみたいの?」

「いや、まあ、そっちもちょっと興味あるけど......そうじゃなくて。あんたが、よ」

「私?」

 

 妖夢の手がつい、止まる。

 

「目が何かイキイキしてるし。楽しそうに話すなぁと思って」

「え、そう?」

「うん。最近魂抜けたみたいになってたし。いいなー、私もストレス解消法欲しいなー」

「でも、好きに歌える場所があるからいい、みたいなこと言ってたじゃない? えーと、何だっけ?」

「カラオケ?」

「ああ、それそれ」

「確かに、すっきりはするけど......やっぱり私、誰かに歌を聞いて欲しいのよねぇ」

「バンドとか?」

「そうそう。ライブとかね。あ、この店でやろうか? ディナーショーってやつ?」

「やめときなさいって。秋さんたちに怒られるわよ」

 

 幻想郷でミスティアは山彦・幽谷 響子と『鳥獣妓楽』なるバンドを組んでいた。年寄りにはうるさすぎていささか不評だったが、若者には結構人気だったと記憶している。

 ミスティアのライブなら妖夢も何度か見たことがある。が、とてもじゃないがこんな落ち着いた料理店と合うものではない。

 

「えー? あの2人なら許してくれそうだけど。あ、でも、響子がどこにいるか分かんないしなぁ」

「こっちの世界にいるだけまだましじゃないの?」

「あー、妖夢の主人はこっちに来てないんだっけ?」

「ええ。紫様のお手伝いをするとか何とか。でも私には詳しいことはなーんにも教えてくれないんだもの」

「いいじゃん。上司がいないうちにさ、羽のばせば」

「そういうもんかしら」

「そうだよ。あ、妖夢も今度カラオケ行く?」

「外の世界の曲をもう少し覚えたら考えとくわ」

 

 楽しそうじゃない──ミスティアの何気ない一言が妖夢の中をぐるぐると回る。

 楽しそう、か。

 鼻唄混じりに上機嫌に皿洗いを続けるミスティア。

 そんな彼女が、自分を羨んだ。

 その事実が妖夢の心を軽くした。

 

 ◇

 

 次の日も妖夢は公園にいた。

 そわそわしているが、別に不安から来るものではない。今日は『秋刀雀』は休みだ。スキップ混じりでグラウンドに向かう。

 

「あ、妖夢のねーちゃん」

 

 1人が妖夢に気づき、右手を挙げた。次々と視線がこちらへ集まってくる。

 妖夢は少し照れながら手を振り返す。

 その時だった。ポツリと額に何か当たる。

 おでこを擦ると指先が湿った。

 

 時雨だ。

 

 水滴がどんどん目に見えるほどの線を描いていき、あっという間に大雨になり始めた。

 冬の雨は下手をすると雪よりも冷たい。

 流石の風の子とてこれには耐え難いらしい。

 蜘蛛の子を散らすように少年たちは木の下やトイレへと駆け込んでいった。妖夢もそれに続く。

 

 一同は呆然と降り続ける雨を見守る。

 

(多分通り雨だし、止むの待ってもいいんだけど......)

 

 妖夢は険しい顔で辺りを見渡した。

 グラウンドには水溜まりができ始めている。これでは止んだところで、だ。

 先ほどまでの高揚した気分が一転、妖夢の気持ちはしわしわに萎れていく。

 

 しばらく待っていると、想定どおり雨は止んだ。

 皆少しずつ屋根の下から体を出していくが、柔らかな地に足がとられる。

 妖夢は靴下に染み渡る雨水を感じながら、再びどんよりとした。流石にこれではグラウンドは使えない。

 そんな中で少年の1人が声高に叫んだ。

 

「『きりさめ』行こ!」

 

 ◇

 

 妖夢は案内されるがまま少年たちについてきた。何人かは、一度家に帰ってから合流している。濡れた服を着替えにでも帰ったのかと思ったら、そういうわけではないらしい。皆、リュックだったり、手のひらサイズの箱だったり色んな物を持って戻ってきた。

 

「こっちだよ」

 

 ボーッとしていた妖夢の手がグイと引っ張られる。

 

「ねーちゃん、手冷たいのな。雪みたい」

 

 手を引く少年が首をかしげた。

 確かに半分幽霊の妖夢は普通の人間よりも体温が低い。

 

「髪も白いしなぁ」

「かーちゃんが最近白髪増えて大変だって言ってたよ」

「ねーちゃん40代?」

 

 まさか自分は人間ではなく、半人半霊なのだと説明する訳にもいかない。なので、各々好き放題にしゃべる少年たちに苦笑いだけ返す。

 あんまりまともに年齢を数えていないが、まだ40年は生きていないはずだ。多分。

 

「そう言えばさっき髪緑の奴もいたよね」

「え? そんな奴いた?」

 

 そうこうしているうちに目的地周辺まで着いたらしい。

 妖夢たち一行は商店街の一角、一軒の店舗の前で歩を緩めた。

 元は黄色だったのだろうか。クリーム色の褪せたオーニングテントの店名をゆっくり読み上げる。

 

「駄菓子......とゲームとカード『きりさめ』?」

 

 "駄菓子"と白枠に赤字で書かれた文字の横に黒く"とゲームとカード"と少し乱雑な字で書き足されている。つい最近書かれたようで、テント本体と同じ色褪せ方をした"駄菓子"の文字よりもはるかにくっきりとしている。

 

「霧雨ー! ゲーム届いたー?」

「明日って言ったろ。まだだ、まーだ!」

 

 少年たちは一斉にまだ閉まっているシャッターへと駆け寄る。どうやら誰かいるらしい。

 

「何だ? 今日はやけに早いじゃないか」

「雨降ったから」

「なるほどな。ま、ちょっと待ってろ。店開けてやるから......よっ、と」

 

 ガラガラと店のシャッターをあげながら子どもと談笑するその後ろ姿。妖夢ははっきりと見覚えがあった。

 

「魔理沙......魔理沙じゃない!?」

 

 間違いない。普通の魔法使いこと霧雨 魔理沙だ。

 

「ん? ......妖夢じゃないか。何やってんだお前?」

「私はこの子たちに連れられて......あなたこそ自分の店開いたの?」

「あー、これか。違う違う。店の主人は別にいるんだよ。今日はいないけど。たまたま店の名前が一緒なだけさ」

 

 少年たちは我先にと店内に駆け込んでいく。

 外に残ったのは妖夢たち2人だけになった。

 魔理沙は立ち上がって膝の埃を払うと、親指をぐっと店の方へ突き出した。

 

「まあ、とりあえず中入れよ。色々積もる話もあるだろ?」

「そんなにないけど」

「......連れねえなあ」

 

 軽口を叩きながら、『きりさめ』の中へと入った。

 入ってすぐに視界に飛び込んできたのは所狭しと並んだ駄菓子、そして4つほど並べられたテーブルと椅子だった。

 妖夢はそのテーブルに違和感を覚えた。駄菓子屋でイートインというのはあまり聞かない。それに少し洒落た装飾がなされており、違和感に拍車をかける。

 入って右手の奥にレジとカウンターがあった。魔理沙はカウンターをひょいと飛び越えて行儀悪く内側に入る。

 

「ほら、ここ座りな」

 

 魔理沙がどこからか小さなイスをガシャンガシャンと雑に引っ張りだし、カウンターを挟んで自分の正面に置いた。

 妖夢は言われるがままに座り、耳打ちした。

 

「一体何なの?」

「ん?」

「これよ、これ」

 

 妖夢は後ろの白いテーブルを目で指した。ただでさえ狭い店内を余計に圧迫している。

 

「ん? ああ、近くのカフェが潰れてな。貰ってきたんだ。なかなかお洒落だろ?」

「いや、そうじゃなくて」

 

 魔理沙が重度の蒐集癖の持ち主であることは妖夢も承知の上だが、聞きたいのは入手経路ではなく、使用用途だ。

 

「霧雨、俺コレ!」

「俺ガム」

「はいはい、全員10円な」

 

 少年たちは駄菓子を手にとると、次々と魔理沙の方へと硬貨を放り投げ始めた。魔理沙は慣れた様子でそれをキャッチしていく。

 そして、少年たちはテーブルにつくと各々購入した駄菓子の包装を剥きながら、カードを2人組になって一斉に並べ始めていた。

 

「な、なんなの?」

 

 妖夢は再び魔理沙に尋ねる。

 代金をしまい終わった魔理沙が頬杖をつきながら、それに笑顔で応える。

 

「ん? ああ、トレーディングカードゲームって奴だよ」

「花札とかカルタ、みたいな?」

「......まあ、そんな感じだ。大人数で連れだってやろうと思ったら中々場所がないんだと。で、このテーブル使おうと思ったら駄菓子1個がショバ代って訳さ」

「ふーん......ちょっと面白そうね」

「何だ、興味あるのか? なんならルールブック見てみるか?」

 

 魔理沙はカウンターの奥から小さな冊子を取り出した。特にすることもないので妖夢はおとなしく受け取り、目を通す。

 

「そういや、妖夢は何でこいつらと一緒にいたんだ? 今何してるんだ?」

「ん? あー、私は居酒屋というか何というか......」

 

 妖夢はルールブックをめくりながらぼんやりと返事をしようとした。

 その時、バン、と大きな音と共に1人の少年がカウンターに両手をついていた。

 妖夢はビックリして冊子が手から滑り落ちるのを慌てて拾い上げる。

 

「霧雨! やろうよ!」

 

 どうやら人数が奇数だったため、2人1組では余ってしまったらしい。恐らく普段からそうしているのだろう。魔理沙を誘うためにカウンターに上半身を前のめらせる。

 

「んー? そうだなぁ......」

 

 が、その時魔理沙が妖夢の頭を鷲掴みにし、グイと少年たちの方へと向けた。

 

「今日はコイツに相手してもらえ」

「ちょっと、魔理沙!?」

「ルールブック読んだろ? じゃあ、大丈夫だ。デッキは私の貸してやるよ、ほら」

 

 魔理沙は小さな箱を妖夢に手渡した。パカリ、と開けて中を覗くと少年たちが並べていたのと同じようなカードが詰まっていた。

 

「私初心者なんだけど勝負になるのかしら?」

「おいおい、私のデッキだぜ? そうそう負けないさ」

「そういう問題?」

「強い、弱いだとか勝負になる、ならない......そういうのじゃない。新しく遊び相手が増えるのが単純に嬉しいんだと思うぜ。ほら」

 

 呆然としていると不意に裾が引かれる。

 見ると、空いていたテーブルではもう既にカードが綺麗に並べられ、準備が始められていた。どうやら、妖夢は最早対戦相手として認識されたらしい。

 

「分かったわ。じゃあ、ちょっと教え......」

「そうか、じゃあ、後は任せた!」

 

 魔理沙はそう言い残すと何とカウンターを飛び越え──店を飛び出して行った。

 

「ちょ、魔理沙!?」

 

 妖夢は風のように消えた魔理沙をポカンと見送るしかなかった。

 

 ◇

 

 既に日はとっぷりと暮れた。

 妖夢はテーブルに突っ伏してうつらうつらしていた。脳をフル回転させたせいで、身体中の栄養は頭にすっかり消費されている。

 不意に頬にひんやりとした感触があった。

 体を震わせ飛び起きる。

 頭が何かにぶつかった。

 

「いってぇ!」

 

 振り返ると目から火花を散らせた魔理沙が鼻をさすっていた。

 

「ご、ごめん」

「ったく、そんなにビビらなくてもいいだろ。子どもらは皆帰ったみたいだな」

「......魔理沙もまだ子どもでしょ」

「どうした? ぐったりして?」

「分かってて押し付けたでしょ」

「自分がはまってることを教える時の子どもの熱量って凄まじいからな。ほら、これでも飲んで休め」

 

 コトリ、と妖夢の前に缶が置かれた。先程の頬の感触はこれだったらしい。

 

「何? ってお酒じゃない、どうしたの」

「ちぇっ。何だ、思ったよりリアクションが薄いな」

「飲まないとは言ってないでしょ」

「そうこなくちゃ。わざわざ調達した甲斐があったぜ」

「どこ行ってたの? 酒屋?」

 

 魔理沙は首を横に振った。

 

「外の世界の酒屋じゃ私には売ってくれないだろうよ。香霖がそこで店やってるの知ってるか?」

「『香霖堂』の店主さん? そうなの?」

「そ。で、香霖から譲って貰ったってだけさ。まあ、ちょっと時間食っちまったがな」

「食い過ぎよ。何戦やったと思ってるの」

「そういや、妖夢は何してるんだ? さっき居酒屋がどうこう言ってたが」

「そうよ。秋姉妹とミスティアと」

「山の神様と夜雀? どういう組み合わせだ?」

「ま、色々あってね」

「いいじゃないか。今度お邪魔するとしよう。どこにあるんだ?」

「近いけども......ツケはなしよ」

「大丈夫、1人じゃ行かないって。鈴仙あたりがいいかな」

「......ほどほどにね」

 

 妖夢は魔理沙の財布として目をつけられた気の毒な玉兎に思いを馳せる。

 

「あ、そうだ。返すの忘れてた」

 

 妖夢は魔理沙のデッキをケースにしまい、返そうとした。が、魔理沙はそれを受け取ることなく、もう1つデッキを取り出した。

 

「そいつは私の"2軍"だ。お前にやるよ」

「え? いいの?」

「言ったろ? "自分がはまってることを教える時の"子ども"の熱量は凄まじいってな」

「......都合よく子どもに戻るんだから」

「さて、私と一勝負といくか? 結構面白かったろ?」

「まあ、そうね。楽しかったわ。野球といい、外の世界の遊びって新鮮ね」

 

 再びテーブルにカードを並べていく。妖夢の手つきももう慣れたものだ。

 カシュッと缶を開ける音が響く。

 

「しかし、気に食わん」

「何が?」

「何でお前が"妖夢のねーちゃん"で私は"霧雨"なんだ?」

「さあ? 子どもだからじゃないの?」

「お前には言われたかないぜ......1人でトイレ行けないくせに」

「なっ!? 何でそれを......」

「はーん、やっぱそうか」

「ぐ......」

 

 ニヤリと笑う魔理沙に、歯を食い縛る妖夢。

 結局その日は夜遅くまで『きりさめ』の電気が消えることはなかった。

 

(幽々子様......こちらの生活も悪くはないです)

 

 

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