美しく残酷にこの大地から......とまでは言わないのでちょっとの間幻想郷から出てってください。 作:妖念
慣れた様子でテレビのリモコンを扱う金髪の少女。洩矢 諏訪子は顎をこたつの上に乗せ、つまらなそうに口を尖らせる。これでもれっきとした神様、それも非常に強力な土着神だが、今はその面影は無いに等しい。机上にはミカンの皮が見るも無惨に散乱していた。
「ちぇっ。どのチャンネルもこのニュースしかやってないや」
「あんなに爆発したのに自分が仕掛けたのは1つだけだ、なんて見苦しい奴もいたもんだねぇ」
そして同じく神である八坂 神奈子は暖かいお茶を1杯すすった。
大半の幻想郷の住民にとって未知の場所である外の世界だが、神奈子たちにとっては馴染み薄い地ではない。
神様というのは基本的に信者の信仰心が力の源である。外の世界で信仰心を集め辛くなったことから、神奈子たちは神社ごと幻想郷へと移住したのだ。
外の世界へ戻るということで信仰不足は心配事ではあったのだが、それに関しては元幻想郷の住民の分で一応何とかはなっている。
そんなわけで、こと守矢神社の2柱にとっては年末年始の"帰省"のような感覚でのんびり過ごしていた......はずだった。
シャーッと、勢いよく襖が開く音。柱と襖の縁がカンッとぶつかる。
「神奈子様! 諏訪子様! ショッピングに行きましょう!」
「え?」
「ん?」
2柱が同時に見返った。守矢神社の風祝・東風谷 早苗が今から出陣する武将のような勢いで佇んでいた。
ずかずかと2柱のもとに歩み寄ると目の前に紙束を叩きつける。
「そろそろお店も再開するところが増えてますし。見てください! 初売りのチラシがこんなに......」
早苗のあまりの勢いに気圧され、2人とも思わず身を引く。
「な、何でそんなに......」
「いいじゃん、正月くらい家でゆっくりしようよ......」
早苗はこたつに手をつくと口々にブー垂れる神様達を順番に見渡していく。
まず、諏訪子を早苗は翠に燃える瞳で見詰めた。諏訪子は文字通り蛇に睨まれた蛙のように竦み上がる。
そして、神奈子の番がやってきた。早苗がジリジリと神奈子を睨み据えた。その眼の光りの強烈さ、凄まじさに思わずたじたじになる。
「正月くらいって......いっつも初詣の対応で忙しかったのに久々に暇なお正月なんですよ?」
「だから、ゆっくり......」
「だから、どこかお出かけしたいじゃないですか!?」
確かに神社の正月は神事や参拝客への対応で忙しい。が、最早こちらの言い分を聞く気はないらしい。
「諏訪子様もおミカンばっかり剥いてないでコタツから出ましょうよ!」
早苗は自分が持ってきたチラシの1枚でテキパキと箱を折ると、諏訪子が散らかした皮を放り込んでいく。
「でもおいしいよ、これ。はい」
すっかり黄ばんだ手で諏訪子は2房ほどのミカンを早苗の口に押しこんだ。
「む、むぐむぐ......たひかにおいひいでふけほ......」
「何て品種だろうね。ほら、ここ座って一緒に食べよ?」
トントンと四角いこたつの空いた辺を叩く諏訪子。
早苗は一瞬、食べ物で隙を見せたように見えた。
が、直ぐに何かを振り払うように、風呂上がりの犬の如く首を振る。
「だめです、だめだめ! こたつは1回入っちゃうと自力で出られなくなるんですから!」
神奈子はその様子を見て、腹を括った。というかもとより、そこまで頑なに拒否するつもりもなかった。
「分かったよ、行こうか」
こう見えて早苗は1度決めたら意外と頑固なところがある。我慢比べで勝てるとも思わない。
(誰に似たのかねぇ......)
「本当ですか!? ありがとうございます! 神奈子様! ほら、諏訪子様も......」
「嫌だー! 出たくないー! 寒いー!」
「いいんですか? もうおミカン買って来ないですよ!?」
コタツから子孫に引っ張り出される情けない土着神をよそに、神奈子はよっこらせ、と出かける支度を始めることにした。
◇
最寄りの駅前はさほど混雑はしていなかった。三が日は過ぎているとは言え、もとよりそこまで大きい駅でもないし、学校はまだ始まっていないところが多いだろうし、そもそも通勤や通学時間でもないからだろう。
「電車乗るのも久々ですねー」
淡いベージュのコートに身を包んだ早苗が懐かしげに切符の券売機へと向かった。黒いポシェットから財布を取り出す姿はやけに大人びて見える。
2柱もその後に続く。
「早苗、いくらだ?」
「えーと3つ先の駅だから......180円ですね」
早苗の後に、神奈子も肩掛けバッグから財布を取り出し、切符を購入する。
(切符ってこんな小さかったか? 失くしそうだな)
久し振りに手にした切符の感触に不安感を覚えながらも、神奈子は改札前で待っている早苗のもとへと向かった。
「買えました?」
「ああ、諏訪子は?」
「諏訪子様はまだ......あそこです」
見ると諏訪子が券売機の前でボーッと立ち尽くしていた。神奈子はやれやれ、と諏訪子のもとへ歩み寄る。
「何やってるんだ、諏訪子。切符の買い方忘れたか?」
「忘れたか? って私たちそんなに電車乗ったことあったっけ?」
「......ない、かもな」
外の世界とて神様が電車で移動するかと言われれば......答えはNOだ。せいぜい早苗の付き添いで乗ったことが数回ある程度である。
「ま、切符の買い方ぐらい分かるけどさ。そういうんじゃなくて......」
諏訪子は券売機の路線図と手元の小銭を交互に見比べた。
「......私は頑張ればギリギリ子ども料金でもいけるんじゃない?」
諏訪子はいじらしく膝を少し曲げて見せる。
「......何千年生きてるんだ、バカ」
◇
駅のプラットフォーム、アナウンスと軽快な音楽と共に電車が入ってくる。久し振りに見る電車の表面は真冬の弱々しい日光を反射し、鈍い銀色に光っていた。
プシュー、と空気が漏れるような音で電車の扉が開く。扉の前にいた2人程が降りるのを待って、その後に3人は乗り込む。
中はあまり、人はいない......と言ってもまだ冬休みの学生だろうか、若者が多く電車の座席がちょうど埋まるくらいには人がいた。
「ほら、諏訪子。座れ」
横掛けの座席に1つだけ空いた箇所を見つけ、神奈子は諏訪子に座るよう促した。
「何で私? 早苗が座ればいいじゃん」
「私は大丈夫ですよ。諏訪子様、どうぞ」
「お前だけ吊り革に届かないからだ」
どこか釈然としない顔でちょこん、と諏訪子が座り込み、無言で神奈子の肩掛けカバンを引っ張る。
「......何だ?」
「持ってやるから貸しな」
どうやら諏訪子なりの優しさだったらしい。神奈子はカバンをスルリとおろすと諏訪子に預けた。
車窓に映る一軒家と商業施設の割合が逆転し、大きな道路と行き交う車が見えた頃、目的の駅への到着を知らせるアナウンスが鳴る。
次々と乗客が席から立ち上がり、ドアの前へと集まり始める。ほとんどの客はここで降りるらしい。次の駅には隣接した巨大なショッピングモールがある。多くの乗客、そして神奈子たちの目的地もそこだ。
◇
明るい照明、至るところに貼られた初売りの3文字、数階上層まで見える吹き抜けの解放感、そして何より人々の活気。モール内に入ると、家を出るのを渋っていた諏訪子も自然と気分が高まった。
隣の神奈子も気持ちは昂っているようだが、「妖怪の山にもこんな施設を作れば......」などとぶつくさ呟いている。高まったのは変な商売気の方らしい。
「しかし、大きいな......どこに何があるのやら」
「どうぞ、フロアガイドです」
早苗がいちはやくフロアパネルの隣に設置されているパンフレットを取って、神奈子と諏訪子にそれぞれ渡す。諏訪子は早苗から受け取ったパンフレットを開いてモールのマップを見ると、口元を歪めた。
「うへぇ、ファッション、ファッション、ファッション......服屋ばっかりだねぇ」
恐らく店によって品揃えや価格、違いはあるのだと思うが、ジャンルと店名しか書いてないこのガイドでは諏訪子には全く同じ店がいくつも建ち並んでいるのと変わりはしない。隣の神奈子に目をやると、同じように難解なパズルでも解いているかのような顔をしていた。少し、安心したところで諏訪子はあることに気がつく。
「ん? 何か皆私たちの方見てるな」
通る人通る人の視線が皆1度諏訪子たちを経由する。小さい子に至っては親が呼ぶまでほぼガン見だ。神様なりのファンサービスで軽く手を振ってみたりもする。
「そりゃそうですよ。お2人とも格好変ですもん」
「へ、変?」
しばし、全ての音が聞こえなくなった。ゆっくりと早苗の言葉を反芻し、ようやく意味を理解した諏訪子が次にとる行動は、もちろん反論だった。
「諏訪子はともかく......」
「神奈子はともかく......」
神奈子と視線が合う。お互い考えることは同じらしい。睨みあった両雄は1歩も譲らず、このまま数千年振りに第2次諏訪大戦に突入するかと思われたが、早苗によってあっさりと終戦した。
「どっちもどっちです! 幻想郷や神社の境内なら神様らしいですし、凄くお似合いだとは思います。でも、こんなところなら目立つに決まってますよ!」
早苗は物言いがいい方だとは思っていたがここまでどストレートに言われると、手を振っていた自分が少し恥ずかしくなってくる。少しでも視線を切りたくて諏訪子は目深に帽子を被る。しかし、彼女はその目玉のついた市女笠が何より道行く人々の視線を集めていることには気づいていない。
「せっかく外の世界に戻って来たんですから私はお2人ともっともっとお出かけしたいんです。なので、まずはお2人の服から選びましょう!」
しかしながら、イメージというのは下がってから上がると、ギャップでより良く見えるものである。例えば、サラリーマンが老人に席を譲るよりも、不良が譲った方が印象深くなるように。
「早苗......」
──もっとお2人とお出かけしたい。
ボロクソに言われた後のこの早苗の一言は良く言えば、痛烈に2柱に刺さった。悪く言えば......神様たちはチョロかった。
◇
「着替え、終わったけど......」
尻すぼみの神奈子の声が蛇腹折りの白いカーテン越しに聞こえてきた。諏訪子には見なくても分かるが、間違いなく照れている。
「開けますよー」
早苗がカーテンを一気に引く。
露になった鏡張りの壁を背後に、立っていたのは諏訪子の知る戦神・八坂 神奈子ではなかった。
キャーッ、と憧れのスターにでも出会ったような黄色い悲鳴を早苗はあげた。
「かっこいいです!」
「ほう......」
思わず諏訪子も感嘆の息を漏らす。
えんじ色のブラウスに黒いジャケット、そして深い紺のデニム。早苗が選んできた服に身を包んだ神奈子は腹が立つくらい新鮮に映る。いつもそばにいる分、本当に別人のようだ。
「神奈子様は背が高くて足も長いのにスカートで隠れてていっつももったいなぁと思ってたんですよ」
「そ、そうか?」
しかし、似合うには似合っているのだが、普段は見せない神奈子の満更でもない表情と仕草が、諏訪子にどうしようもないむず痒さを受けさせる。
諏訪子は自分の番では絶対にあんな態度はとるまいと固く誓った。
◇
「はーい、着たよー」
先ほど神奈子が入ったものはカーテンで仕切られていたが試着室にも店によって色々形式があるらしい。諏訪子の声は木製の扉の奥から聞こえてきた。
「かわいい......かわいいです! 諏訪子様!」
袖口が絞られた少し緩めのセーターに茶色いチェック柄のサスペンダースカート、白いフリルのソックス。市女笠の土着神だったあの諏訪子はもういない。全く真逆のスタイルに仕上がった諏訪子に神奈子は声が出なかった。
「あ、そう? じゃあ、これにしよっか」
「はい、是非!」
しかし、だ。愛娘同然の早苗に服を選んでもらい、それがかわいいと絶賛され、実際に似合っている。にも関わらず、どこかスン、とした態度をとり続ける諏訪子のその根性が気に食わない。内心では確実にウキウキでとび跳ねているのに、だ。
会計を済ませ、店を出た。一通り現代風に仕上がった2柱の神は、端正な出で立ちゆえに人目はある程度集めるものの、深海魚でも見るかのような好奇の目で見られることは何とか無くなった。神奈子も諏訪子も買ったばかりの新品の香りを鼻いっぱいに感じながら、一仕事終えたような達成感に浸っていた。が、早苗はすぐに歩き始め、尚も何かぶつぶつと言っている。
「次はお2人に合うアクセサリーを......神奈子様はイヤリングでしょ、諏訪子様は帽子......黒いキャスケットがいいかな。それから靴も......」
「あ、あのー早苗?」
「お腹空かないかい?」
そんな早苗になんとなく恐怖を覚えた神様2人は、一旦早苗の別の欲求、例えば食欲に訴えかけることにした。
「確かに少し......」
早苗がお腹の辺りをさする。時刻はちょうど正午。そろそろお昼にしても構わない時間帯だ。どうやら、ひとまず彼女の気を逸らすことには成功したらしい。
「こういうところでご飯を食べると言ったらフードコートですよね」
「あの屋台みたいな所か。行こう行こう」
3人は少しよれよれになってきたフロアガイドを頼りにフードコートにたどり着く。丼物、揚げ物、うどん、そば、ラーメンの麺類、果てはアイス等のデザートまで何でも選び放題、レパートリー豊富な飲食店がずらりと並ぶ。
フードコートはちょうどお昼時ということもあって、モール中の賑やかさが集まっているようだった。
空いている4人用の席をやっとこさ見つけ、3人は座る。1つ余った席にはもともと着ていた服の入った紙袋を置く。
「じゃあ、私荷物見ておきますのでお2人お先に選んで頂いていいですよ」
「任せたよー、何にしようかなぁ......」
諏訪子はスキップ混じりで雑踏の中に消えていく。
「じゃあ、私も......」
正直神奈子はそこまで空腹ではなかったが、こうやって実際に人々が食事をしている様子や料理が視界に入るとどうしてもそそられるものがある。
腰をあげ、色とりどりの店舗へと足を向けた。
◇
「ふー、食った食った」
フードコートを出た途端、お手洗いに行く、と言い残して消えた神奈子。残された2人は近くのベンチでしばし食後の余韻を楽しんでいた。
「そういえば諏訪子様、凄く迷われてたんですね」
「え? 何の話?」
「お昼ご飯ですよ。だって、後から選びに行った私よりも帰ってくるの遅かったじゃないですか?」
「えー、あ、うん。そうだね......」
その時ガラン、ガランと鈴の音が鳴る。
諏訪子は反射的にそちらを振り返る。そこまで大きな音でもないのでびっくりしたわけではない。これは神様としての職業病である。神社の鈴、本坪鈴が鳴るということは参拝客が来た、という知らせで神としては聞き逃すわけにもいかない。
が、当然今鳴った鈴は神社とは何の関係もなかった。
法被を着た男性が目に入った。福引きの抽選会をやっていたのだ。紅白の派手な幕の前には数人が並んでいた。どうやらちょうど誰かが当たりを引いたらしく、法被の男性がベルを片手で大きく振っていた。
「そう言えば福引券もらいましたね。神奈子様待ってる間にちょっとやってみましょうか」
「何枚あるの?」
「そうですね......に、し、ろ、は、と......すごい、20枚もありますよ!」
「いいねぇ。年始めの運試しといこうか」
◇
「ただいま。いやぁ、遅くなってすまん......ん?」
神奈子が戻ってきたところ、どうも2人の様子がおかしい。早苗はどこか気まずげにあたふたしているし、諏訪子はうずくまったまま動かない。
「どうしたんだ? 2人とも?」
「あ、神奈子様。い、いや......その......」
「......ここの地盤、溶かしてモールごと土中に埋めてやろうか」
物騒なことを口にする諏訪子。彼女なら本当に出来てしまうことゆえ、余計に過激で質が悪い。
相も変わらず体を丸め込むようにした諏訪子が向けたのは本領の祟り神としての目だった。
「神奈子様をお待ちしている間にあそこの福引きを引いたんですけど......」
神奈子は早苗の指す方を振り向いた。確かに紅白で彩られた福引き会場がある。華やかなものだ。
「20回もやって......」
諏訪子は立ち上がった。その時、うずくまるように抱えていた何かがボトボトと床に落ちる。
大量のボックスティッシュだった。
「全部残念賞なんてことある!?」
「......あるだろ。ほら、袋にいれておけ」
とても早苗の前で平静を保とうとしていた諏訪子と同一人物とは思えないほど地団駄を踏んで悔しがる。
少し呆れながら、神奈子は散らばったボックスティッシュを拾い上げていった。
◇
「さ......そろそろ帰ろうか」
両手に大荷物──主にボックスティッシュを抱えた神奈子がヘロヘロな声で申し出る。しかし、2柱にとっては不愉快な疲れ方ではなく、何か達成感のようなものを伴っていた。
「そうですね。いっぱいお買い物できて楽しかったです!」
「ああ、早苗」
諏訪子が早苗を呼び止めた。そして懐から小箱を取り出す。
「私、ファッションはよく分からないからさ。服じゃなくて......こういうのを」
綺麗に包装されたそれを、早苗は訳も分からぬまま受け取り、促されるままに開く。
「わ、ブローチ......まさか、お昼遅かったのは......?」
「ん? あ、そうそう。あの時じゃないと早苗に隠れて買えないと思ってさ」
「嬉しいです! ありがとうございます!」
早苗はしげしげと中のブローチを眺めた。透き通るような緑色の石を銀色の装飾が縁取る。
諏訪子が照れ隠しに下を向いている時に、こぼれ落ちそうなほど目を見開いていた人物がいた。
「す、諏訪子......」
神奈子だ。
「あの、早苗......一応......」
明らかに青ざめている神奈子は震える手でもう1つ小包を差し出した。包み紙を剥がすと諏訪子から貰ったものと同じ小箱が顔を出す。このあたりで嫌な予感がしたのか、諏訪子も口元がひくひくと動き始める。
早苗が箱を開けると瓜二つ......というか全く同一のブローチが姿を現した。
「神奈子......」
「お手洗いに行く振りをしてこっそり買ったんだが......よもや、あげる物までか、被るとは......」
どん底に叩き落とされたような顔をする2柱。
顔に残っているのは弛緩しきった表情の残骸、亡者のように窪んだ 眼窩 の奥に何とも言えない虚ろさがひろがっている。
こっそりと仕掛けたサプライズがこんなに裏目に出ることもない。
が、そんな2人とは対照的に早苗は顔を背けてただくすくすと体を震わせる。
「私はお2人から何か頂けただけでも嬉しいんです。でも、お2人のプレゼントが同じっていうのがおかしくて......こんなの"奇跡"じゃないですか?」
再び2人の方を向いた早苗は涙が出るほど笑っていた。早苗は嬉しくてしょうがなかったのだ。プレゼントを貰ったことも、大好きな2人が『似た者同士』であることも。
「でも、お2人共全く同じくらい私を大切に思ってくださっているってことですよね?」
神奈子と諏訪子は顔を見合わせる。
「まあ......」
「そうなるのかねぇ」
2柱は何だか急にこっ恥ずかしくなってきて、互いに決まりの悪い顔をした。
「神奈子様、諏訪子様。ありがとうございました!」
「いいや、こちらこそ......こんな素敵な服選んでもらったんだ。またお出かけしなきゃ。ね、神奈子」
「そうだな」
この和やかなムードはしばらく3人を包み込むのだった。──帰りの電車で神奈子が切符を失くすまで。