↑のスレの三次創作です
特別な相手だというのは、それは否定なんて到底できない。己の馬鹿に付き合わせた挙句に庇われて、彼女の体には今も大きな傷が残っている。けれどそれが果たして恋慕なのか、サテツにはわからない。
仲が良い友人だ。馬鹿話だってできる。頼り甲斐のある仲間だ。彼女が後ろで銃を構えているのを知っていればこそ、自分はどんな強そうな吸血鬼にも殴りかかっていける。隣にいれば楽しいし、背中を預ければ安心できるし、いつだって笑っていてほしいし、世界で一番幸せでいてほしいし、本当はいつも、自分のそばにいてほしい。でもそれが、恋なのかわからない。
だって自分たちのスタートは、紛れもなく加害者と被害者だった。馬鹿な勘違いで危険に晒した。サテツが彼女を特別に思うのはその負い目からかもしれないし、彼女がサテツと仲良くしてくれるのはサテツがあの時のことを気に病んでいるのを知っているからかもしれない。なにしろ彼女は、すごく優しい。
この気持ちが恋なのかわからない。だからサテツは、笑顔を向けられて顔に上る熱もうるさい心臓も、ふとした時に触れる白い肌の滑らかさに詰まる喉も、全部扱いかねていた。恋だったらどうにでもできる。失恋するなり玉砕するなりできる。だけど恋かわからないのにそんな、伝えたり困らせるようなことは、あんまりにも不誠実だ。
ずっとサテツがぐるぐるぐるぐる考えてきたこの悩みは、答えが出ないまま膨れ上がり、かといって伝えることもせずに年単位で時間が経ち、そうこうしているうちにロナルドは見習いから一人前の退治人になり、独立して自分の事務所を構え、小説まで書いて有名になり、果ては吸血鬼とバディを組んで同居までしている。その吸血鬼は家事一般ができる。料理もできる。サテツもご相伴に預かったことがあるが、すごく美味しい。
「だからもう、告白するとかはないかな……。恋だろうが恋じゃなかろうが、もう俺が入る隙とかなさそうだしさ……」
「め、」
めんどくせぇ、と言いかけて、ショットは口を噤んだ。軽い気持ちで「告白しねえの?」と聞いたらこれである。なんか30分くらいサテツの話聞いてた気がする。
「めんどくさいな腕の人」
「ヌー」
「俺がせっかく言わなかったのに!!!」
サテツを挟んで向こう側でドラルクが真顔で言い放ち、その向こうでジョンが頷いている。彼らの様子がよく見えるのは、真ん中に座るサテツがほとんどカウンターに突っ伏すくらい背を丸めているからだ。めんどくさい、と蚊の鳴くような声で繰り返して、サテツはとうとうカウンターに頭をゴン、と落とした。ズゥン、となんかどんよりしたオーラを纏っている。落ち込み方もめんどくさい。
「え、これ本当にノンアル? 本当に酒は入ってないのかね、腕の人は」
「そこは間違いないだろ。ノンアルコールって書いてあるし」
「えぇ、間違いなくノンアルコールですよ。シャンメリー」
「可愛いもん飲んでんな」
マスターが見せてくれた瓶は、確かに子供がよくクリスマスとかに飲ませてもらうアレだった。これでこんなグダグダになってんのかサテツ。
「俺なんて……気も小さいし体も嵩張るし優柔不断で馬鹿力くらいしか取り柄ないし第一印象最悪だったし独立した後なんてなんか話しかけづらくってショットと違って自分から連絡とったりもしなかったし……」
「いやそういう奥ゆかしいところもお前の良いところだろ。元気出せよ」
「うっうっ、ごめんショット。こんなめんどくさいやつの相手させて」
「自己評価が地の底を這っている。これはめんどくさいぞ」
「ちょっと黙ってようなドラルク。ほら、サテツ。まだ日付だって変わってねえんだ。いつ吸血鬼が来るかわからねえんだからシャッキリしろよ」
「ごめんな、こんなの退治人失格だよな……」
「……」
だめだこりゃ、とは口に出せずに、唇を結んで黙り込む。完全に負のループに入っている。何を言っても無駄な気がする。サテツの向こうでドラルクが何か言いたげにこちらを見ているのがわかる。気持ちはわかる、と頷いてみせる。
カランカラン、とドアベルが鳴った。
「あっいた! おいクソ砂、また人のツケで飲んでやがんのか!!」
「正当な報酬です〜〜〜優秀で頼れるブレインドラドラちゃんが五歳児のお世話までしてやってるんだから牛乳の百杯や千杯くらい頭を垂れて献上して然るべスナァ」
「るっせ砂居候の分際で何ほざいてやがる」
「ヌーーー!!!」
「ジョンはいいんだよ♡♡♡ ココアおかわりいる? ケーキ食べたくなぁい???」
渦中の奴が来たな、とショットは遠い目になった。入店から颯爽と殺された砂を見もせずにマジロに溶けきった笑顔を向けていたロナルドは、ジョンが床に降りて砂をかき集めたあたりでこちらに視線を向ける。
「よっ。なに話してたんだよ」
そうして当たり前のように、カウンターに突っ伏したサテツに背中から抱きつくように体を預ける。
「……」
「……えっなんだよショット。話せないこと?」
にわかに静まり返った店内。ショットの近くで音もなく再生したドラルクが、ショットにしか聞こえないように耳打ちする。
『本当にこれで付き合ってないの?』
ショットは遠い目で微笑みを浮かべることしかできない。目の前でロナルドは、訳がわからんという顔でサテツの背中にくっついている。これがいつもの光景だ。これで付き合ってないの、はショットのセリフである。
俺はなんでラブコメに巻き込まれとるんだ、とショットはちょっと泣きそうになって、とりあえずロナルドを立たせてサテツをぶん殴った。