反転ドラ×反転ロナル子。鬱。
グロ描写が少しあるので注意を。

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神の庭

 

「わたくしたち、いつまでも一緒にいましょうね」

そう言って微笑んだひとは、一輪の薔薇のようだった。

 

 

この城に季節というものはなかった。ひどく寒いか、すこしばかり寒い。少なくとも私の記憶にあるかぎり、ここはいつもそのような場所だった。

両親に追い出されるようにこの居城に移り住んでから、幼い頃は孤独と恐怖に泣いたこともあった。だが、その記憶もとうに霧の向こうに去り、天井に浮かぶ一点の染みのように、時おり私を微かに憂鬱な気持ちにすることはあれど、もはや恐れなど感じることもない。この城を覆う魂の底へ染み渡ってくるような暗さにも、いつしか私は慣れきっていた。

 

それが、春の木漏れ日のような笑いが降り注ぐようになったのは、いつの頃だったか。

 

「次はジョン様の番ですわ!」

きゃらきゃらと笑い声をあげながら駆けてゆく赤い背を、ぴょこぴょこと丸いいきものが追いかける。何がいったいそんなに楽しいのか、ひとりといっぴきは飽きもせず庭を駆け回っては、あちこちで兎が跳ねるような笑い声を立てている。

「ねえ、ドラルク様もご一緒に遊びませんこと?」

「……え?」

その姿を眺めながら、ふと昔のことに思い馳せていたせいか、反応がつい遅れてしまった。

いつのまにかこちらにまで駆け寄ってきたお嬢様は、森の奥にひっそりとたたずむ湖のように澄んだ瞳を、まるで幼子のように輝かせながら、こちらを見上げてくる。神か悪魔に愛されたかのごとき美貌も、そうするとまるで童女のようで、つい苦笑が口元に浮かんでしまう。

「それは構わないが、一体何をするのかね」

そう問えば、ぴょこんと肩に飛び乗ってきたアルマジロ──ジョンに意味ありげに目配せすると、お嬢様はぱっと花開くように笑った。

「かくれんぼですわ!」

「ヌヌーイ!」

ドラルク様、10数えたらお探しになって!

くすくすという笑い声を残し、ぱっとお嬢様は薔薇の咲き誇る庭へとその身を踊らせる。

「はあ……」

その場に取り残された形になり、溜め息をつく。まさかこの年になって隠れ鬼に興じる羽目ことになるとは思わなかった。仕方なく10数えると、歩き出す。この城の庭はとても広い。月光を浴びてさえざえと光る薔薇たちをかきわけながら、そのなかにひときわ赤い背を追い求める。

「お嬢様。ジョン」

呼んでみたが、返ってくる声はない。当たり前だ。声を出せばそれはもう隠れ鬼ではない。だが、わかっていても、胸がざわつく。呼ぶ声にこたえてくれる声がないことに。

「お嬢様、お嬢様」

ふと、天上の月だけが話し相手であった幼き頃のことを思い出す。いくら呼んでも、話しかけても、両親はこたえてくれなかった。ようやく振り向いてくれたその顔に浮かんでいたのは、疑いようもない恐怖だった。

毎夜もう目覚めないようにと祈りながら棺に横たわる日々。名誉を、安寧を、時にはこの城に隠されたとかいうありもしない財宝を求め、襲ってくる退治人どもの血を浴び続けた。幾晩も、幾晩も。

「お嬢様……」

もう、ひとりにしてくれ。

ひとりにしないでくれ。

「……ロナルドくん……」

どすんと背中に衝撃を感じ、息を詰める。思わず振り払うよりもはやく、二本の腕が伸びてきて、しっかりと抱き締められた。

「ここにいますわ」

ぎゅう、と腕に力がこもる。細い見た目とは裏腹に、その力は強く、決して離さないと言いたげだった。

「わたくしはずっとドラルク様と一緒にいます」

それが当然なのだというように、彼女は囁いた。どんな運命もその前にはひれ伏してしまうだろうと思わせる、決して揺るがない声で。

「だからそんなに寂しそうになさらないで」

恐る恐る振り向くと、彼女はこちらを見上げ、潤んだ瞳のまま、それでも笑った。神の庭に咲く薔薇がもしあるのだとすれば、それはきっと彼女の形をしているのだろう。そう思わせるほど、その笑みは美しかった。

「……お嬢様、」

そっとその手をとる。見上げてくる瞳に、そのまま吸い込まれてしまいそうだと思った。そうされても惜しくはなかった。少しも。

「わたしは、きみを……」

「ヌヌー!」

ガサッと音がして、大輪の薔薇の中からジョンが飛び出してくる。そのまま肩に飛び乗ってくると、ぐりぐりと頬にすり寄られた。

「ヌヌー!ヌヌヌヌヌ、ヌヌヌ!」

「ふふ、『ぼくも忘れないで』ですって」

「……ああ、もちろんだとも」

水をさされた形になったが、愛らしい使い魔に文句を言う気にもなれず、そっとその頭を撫でてやる。ぴこぴこと尻尾を揺らすジョンに、お嬢様はくすくすと笑った。

「さあ、隠れ鬼はおしまいにして、そろそろお茶にしようか。良い茶菓子が手に入ったんだ」

「ヌー!」

「まあ!チョコあ~んぱんはあるかしら?」

「チョコあ~んぱんはないかな……」

残念、と言いながら、お嬢様はそっと手を握ってきた。

「ねえ、ドラルク様。わたくしたち、いつまでも一緒にいましょうね」

こっそりと秘密を打ち明けるように囁かれ、思わず目を細める。

 

 

答えようとして──夢から覚めた。

 

 

びちゃ。

びちゃり。

びちゃびちゃ、ぐちゃ。

もう動かなくなった体をなおも踏んでいると、飛び散った血が頬にぴっと跳ねる。

汚いな、と思ったが、拭う気も起こらなかった。

辺り一帯に散らばった『人間だったもの』に目を遣る。ここはもう終わりだ。次のところにいかなければ。

 

皆殺しにしてやる。

 

「……いーち、に、」

 

ふと、これは何の呪文だったろうか、と思う。

 

「さーん、し、ご、ろく」

 

なにか、とても、とても大切ななにかと、大事な約束をした気がする。

だが、いくら考えても、記憶は霧がかったように朧で、ただこの胸を満たすのは純然たる憎しみだけだった。

 

殺してやる。

一匹残らず、皆殺しにしてやる。

殺して、報いを受けさせてやる。

 

でも、なんの?

 

「しち、はーち、きゅう……」

わからない。わからないまま、ただ、探している。

「じゅう……」

もういいのよ、と言ってくれるだれかを、きみを、神の庭から追放された身で、今も、探し求めている。

 

end.

 


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