ほんの少し慎重になったスバル君を異世界に投入する話   作:面白い小説探すマン

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始まりの王都編
一話


「これはえらいこっちゃ」

 

 目の前を闊歩する獣耳の人間。さらには日本では見慣れない竜車が道を通過していた。その中で異色を放つ一人の黒髪黒目の少年ナツキ・スバルは現状を正しく理解する。

 

「異世界召喚ってやつか」

 

 調べた所、言葉は通じるが文字が読めない。さらに日本通貨はここルグニカでは使えないようだ。そして、たった今その情報を得るのと引き換えにリンゴ屋、もといリンガ屋の店主からナツキ・スバルは無一文だと看破されて追い払われてしまった。

 

「路地裏にまわるのはやばいよな」

 

 ここは日本とは全く異なる国・ルグニカ。治安も日本と異なる可能性が高い。ナツキ・スバルは人通りの多い道を探索することを決意した。

 

「てか初期装備貧弱すぎ」

 

 ナツキ・スバルはコンビニ帰りである。その帰路で異世界に召喚された訳だが、歩きながら持ち物を確認した。ガラケー・カップ麺・スナック菓子・ビニール袋・着ていたジャージの上下。これがナツキ・スバルの初期装備である。

 

「どこかで仕事を探すべきか」

 

 無一文で装備も貧弱。ナツキ・スバルが生きるためにはこれしか思いつかなかった。路地裏を避けて、人通りの多い道を進んでいるとナツキ・スバルは鎧を身に纏った人間がいる施設を発見した。

 

「いわゆる詰所ってやつか」

 

 このルグニカにも警察のような組織があることを確認したナツキ・スバルは早速、詰所に入っていく。

 

「何か用か?」

 

 入る直前で衛兵の一人に声を掛けられた。

 

「えーと、俺はここに来たばかりで仕事を探してるんだ。仕事とか紹介してくれる場所って知ってる?」

 

「…お前はどこから来たんだ?」

 

「日本ってとこなんだけど知ってる?」

 

「いや…聞いたこともないな」

 

 やはりここは異世界で間違いないとナツキ・スバルは確信する。

 

「あー。まあちょっと遠い国。それで、仕事とかって紹介してもらえる?」

 

「いいや。今、国は少しごたついている。もう少し先にならなければそういったものは出てこないだろう」

 

 その返答にナツキ・スバルは希望を砕かれた。しかし、それはさておき気になったことを聞く。

 

「国がごたついてるって一体どうしたん?」

 

「今、この国は王が不在なんだ」

 

 

 ナツキ・スバルは噴水広場のベンチに腰を掛けていた。

 

「王が不在ねぇ」

 

 あまり詳しくは聞けなかったが断片的に知ったルグニカの現状。しかしそれ以上に今は仕事を紹介していないという事実に落ち込んでいた。こうなっては地道に足を使って探すしかない。

 

「いや、待てよ。俺にも特殊能力の一つや二つ備わってんじゃね?」

 

 異世界物特有の突然目覚める強力無比な力。自分にも宿っている可能性を感じたナツキ・スバルは力を開放した。叫び、拳を振るい、手のひらに力を入れて前に突き出し、地面を蹴る。しかし、何も起こらなかった。

 

「ま、まだ…開放イベントは…迎えてないのか」

 

 若干の息切れを起こしながら嘆くナツキ・スバル。広場の椅子にどっしりと腰を下ろして大きなため息をついていると、幼さを残した高い声がかけられた。

 

「おにーさん。何してるの?さっきの踊りって何?」

 

 先ほどのナツキ・スバルの奇行が目撃されていたらしい。杖を持った小さな猫耳の少女が目の前にいた。ナツキ・スバルは顔を赤くしながら言葉を紡ぐ。

 

「えーと、あれは…それはだな、俺に秘められているかもしれない力を開放してみたんだ」

 

「おにーさんには何か力があるの?」

 

「いや…何もなかったよ」

 

 自分で言ってて少し悲しくなった。

 

「ところで君は誰よ?迷子?」

 

「ミミ?ミミはミミだよ!!迷子になってるのは団長!!全くけしからんですな!!」

 

 ミミは元気よく答える。

 

「ミミっていうのか、どう考えても迷子になってるのは君のほうじゃね?」

 

「ところで、おにーさんの名前は?」

 

 ナツキ・スバルの指摘には意を返さずミミは聞いた。それにナツキ・スバルはゴホンと咳ばらいをすると大きな声で言う。

 

「俺の名前はナツキ・スバル!!無知蒙昧な天下不滅の無一文!!よろしくなミミ」

 

「よろしくー!!おにーさん無一文なの?」

 

「ああ、そうなんだよ。この国じゃ俺が持ってきた金は使えないみたいでな。これから仕事を探すところだ」

 

「ふーん。ところでおにーさん、なんか食べ物持ってない?ミミおなかすいた」

 

「しょうがねーな、食べ終わったらミミの連れを探しに行くぞ」

 

 小さい子には甘くなってしまうナツキ・スバルはビニール袋の中からスナック菓子を取り出した。

 

「わかったー!!それなーに?見たことなーい!!」

 

 スナック菓子に騒ぐミミを横目にナツキ・スバルは袋を開けるとミミの前に置いた。

 

「これは俺の国から持ってきたスナック菓子というものだ!!」

 

 ナツキ・スバルが一つ食べたのを皮切りにミミがスナック菓子にがっつく。

 

「うまー!!これはなかなかいけますぞー!!」

 

 ナツキ・スバルはもう一つ食べようとしたがミミの鉄壁のガードに阻まれて手を伸ばせない。

 

「ちょ!!それ全部食う気か?!」

 

 結局、スナック菓子は最初の一個以外は全てミミの腹の中へと消えた。

 

「ミミは満足!!大満足!!」

 

「まあ、満足したならよかったよ」

 

 ナツキ・スバルは立ち上がってミミの手を握る。

 

「んじゃ、次はミミの連れを探しに行くぞ!!」

 

「あいあいさー!!」

 

 ナツキ・スバルとミミは町へ繰り出した。ミミの言う団長を呼びかけながら探しているとナツキ・スバルは自分と同じようなことをしている二人組を見つけた。二人と二人は道の真ん中で向かい合う。見たところ、銀髪の女の子が小さな女の子の連れを探しているようだ。

 

「あー、君も保護者探し?」

 

「ええそうよ。あなたもなのね」

 

 鈴の音のような声にナツキ・スバルはもう少し話していきたい気分になるがミミの団長を見つけてやらなければならない。

 

「んじゃ、お互い頑張ろうぜ!」

 

「うん。あなたも頑張って」

 

 ナツキ・スバルは銀髪の少女と分かれるとミミを連れて再び歩き出す。

 

「あ!!団長だ!!」

 

「あの人か」

 

 団長と思わしき犬の獣人に走って駆け寄るミミを追ってナツキ・スバルもついていく。

 

「こら、ミミ!!今までどこにいっとったんじゃ!!」

 

「このおにーさんが食べ物くれた!!」

 

 団長はナツキ・スバルを見ると大きな声で言った。

 

「ミミが世話になったようやな、兄ちゃん」

 

「ははは、どう見ても迷子だったからな」

 

「ワイはリカード言うねん。よろしゅうな」

 

「俺の名前はナツキ・スバル。ミミの連れが見つかったんなら俺はもういくよ」

 

 今、ナツキ・スバルはその日を生きるために仕事を探さなければならない。

 

「じゃあなミミ、今度ははぐれんなよ」

 

「おにーさんもまたねー!!」

 

「おう!!」

 

 ミミとリカードに分かれを告げるとナツキ・スバルは早速行動を開始する。

 

「保護者探しも終わったことだし、今度は仕事探すか」

 

 しかし、それからいくつもの店をまわってみたがどこも雇ってくれるところはなかった。住所不定な上に文字も読めない、さらにはその鋭い目つきが決め手となって見事に全敗。

 

「目つきが悪いとかどうしょうもねぇよ」

 

 ナツキ・スバルはこのルグニカの王都が一望できる高台の広場で休んでいた。もうすぐ沈む夕日を眺めながら、今日はこの広場で野宿することになるだろうと思っていたナツキ・スバル。そこへある異変が現れた。

 

「雪?」

 

 ナツキ・スバルが空を見上げた瞬間、体の芯に響き渡るような声が耳に届く。

 

『僕は契約に従いこの世界を終わらせる』

 

 王都の一角に出現した巨大な影。

 

「獣?」

 

 ナツキ・スバルがそう認識したときには既に王都がもの凄い勢いで凍っていた。その氷の波はあっという間にナツキ・スバルのいる高台にまで到達し、その命を飲み込む。ナツキ・スバルは声すら発する間もなく氷像となった。

 

 

 

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