ほんの少し慎重になったスバル君を異世界に投入する話   作:面白い小説探すマン

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十三話

 

 

 ロズワールが帰った次の日の朝、エミリアとレムもロズワール邸へ帰ることとなったのだが、

 

「アナスタシア様、レムはスバル君の側に居たいと思います」

 

 あの夜の襲撃を共に乗り越えてもレムはナツキ・スバルを未だに疑っていた。それほどまでレムにとってナツキ・スバルが身に纏う魔女の悪臭という代物は唾棄すべき物だったのだ。レムはナツキ・スバルの監視を至上の命として動く。ロズワールからも既に了承を得ていた。

 

 アナスタシアとしてはあからさまにロズワールの息が掛かっていると思われるレムを懐に抱え込みたくはなかったが、アナスタシア陣営とエミリア陣営は先日の会合で同盟を結ぶ事が決まったため、真っ向から拒否するわけにもいかない。さらに、ナツキ・スバルには奴隷という枷を付けたが、枷が更に増えるならそれに越したことはないという腹積もりだった。アナスタシアも未だにナツキ・スバルに対して疑念を持っている。

 

 目的は違えど同じ考えを持つレムをアナスタシアが拒絶する訳はなかった。こうしてレムはユークリウス邸の滞在が決まる。

 

 しかし、そうなると困るのはエミリアだ。ロズワール邸へ帰還するための御者がいなくなってしまう。アナスタシアの方から御者を出すという提案もあったが、ロズワール邸の方から後日迎えを出すという連絡があった。こうして、エミリアも迎えが来るまでの間、ユークリウス邸の滞在が決まる。

 

 そして、場所は例の応接室。そこにアナスタシア、ユリウス、ナツキ・スバルの三名が顔を合わせていた。

 

「今のウチらに必要なんは現状確認や」

 

 アナスタシアが話を切り出すが、そこにナツキ・スバルが手を挙げる。

 

「これってアナスタシア陣営の会議だろ?俺が聞いててもいいのか?」

 

「ナツキ君はウチの奴隷やろ?もう既にアナスタシア陣営に入ってるねん」

 

「そ、そうなのか……」

 

 ナツキ・スバルも納得したことで、アナスタシアは早速本題を切り出した。

 

「まず最初にはっきりさせたいんわ、ナツキ君。君、本当は何者や?」

 

「何者?それは前に話さなかったか?日本から来た異世界人だよ」

 

 しかし、アナスタシアが本当に聞きたいのはそれではない。

 

「昨日の辺境伯との取引で思ったんや。あの辺境伯、ナツキ君にめちゃくちゃ執心しとるで」

 

「あのピエロのおっさんが?まあチラチラ見られてるのは感じてたけど……」

 

「鈍すぎるやろナツキ君。あの辺境伯はなウチと交渉してる間、ずっとナツキ君の事見とったで。ケツの穴でも狙っとるんとちゃうか?って思ったくらいや」

 

「え?そんなにか?」

 

 しかし、ナツキ・スバルにロズワールから執心される理由は見当たらない。ユリウスは主であるアナスタシアの少々下品な物言いに苦言を呈そうとしたが、話の腰を折るべきではないと判断してグッと堪える。

 

「あのおっさんが俺に執着する理由……か」

 

「ナツキ君に聞かんでも、ウチは大体の検討ついてんねん」

 

「そうなのか?」

 

「ナツキ君の未来視。きっと眉唾物じゃないな?」

 

 アナスタシアは一見何の見所もないナツキ・スバルにロズワールが何としてでも手に入れようとする理由を考えていた。

 

「そもそも、辺境伯があの場で初めて会ったナツキ君にあそこまで入れ込むのは不自然すぎるやろ?いくらエミリアさんの恩人だとしてもや」

 

「まあ、そう言われてみれば確かに」

 

「味噌っカスなナツキ君に価値があるんとすれば、ウチは未来視の事しか思い付かん」

 

「味噌っカスって……。前からちょくちょく思ってたけど、アナスタシアさんも相当口悪いな!!」

 

 ユリウスにも思うところがあったのか、心なしか表情が晴れやかになる。

 

「問題はそこやない。辺境伯がその事を知っとることや。ナツキ君に関する素性はあの王都まで。それ以前の素性はどうやっても見つからん。ウチが保証したる。にもかかわらず、辺境伯はナツキ君をだいぶ前から知っとるみたいやった。ナツキ君が過去に辺境伯と繋がっとったとしても、その経歴を消しとったら必ず歪みが出てくるねん。その歪みすらないってことは、ナツキ君はあの日王都に突然出現したってことや。辺境伯が前から知っとるのはおかしな話やで」

 

 ナツキ・スバルはアナスタシアの意見を聞いて確かにその通りであると感じた。ユリウスも色々と考えを巡らせている様だが、ロズワールが前からナツキ・スバルとその能力を知っているという矛盾に対する答えは出ない。未来視に関してはレムから漏れたとしても、あの襲撃を体験していないロズワールがすぐさまそんな眉唾物を信じられるのだろうか?

 

「あの辺境伯、腹に色んな物を隠しとんで。辺境伯にとってナツキ君はかなり重要な存在らしいわ。これからもばれへん様に何かしら仕掛けてくるやろし、ナツキ君は特に気ぃ付けや」

 

 それがアナスタシアの出した結論だった。議題は変わり、次はユリウスが口を開く。

 

「先日の襲撃に関する報告です。あの襲撃はスバルの読み通りユークリウス邸の隠し階段による侵入を想定していました。しかし、あの階段の存在を知る者は屋敷の中でも限られています。当家の使用人を調べたところ一人の女性が行方不明となっていました」

 

「その消えた女性がユークリウス邸の情報をエルザたちに流したってことか?」

 

「そう捉えて間違いないだろう」

 

 ユリウスはナツキ・スバルの考えに即座に同意した。

 

「それで、その女性は一体誰なん?」

 

「その女性の名は──」

 

 アナスタシアに尋ねられたユリウスがその名を口にする。

 

「──リューズ・カルマだ」

 

 

 ユークリウス邸激動の5日目を越えた。アナスタシア陣営による現状把握会議が終了すれば、ユークリウス邸に来たときの生活が戻ってくる。しかし、その時とは違ってユークリウス邸は騒がしい。『鉄の牙』の顔ぶれが襲撃を凌いで以降もこのユークリウス邸に留まっていた。

 

「なんや兄ちゃん、そのへっぴり腰は?もっと力込めて振らんかい」

 

 ナツキ・スバルの剣の修行に『鉄の牙』団長のリカードもミミと共に付き合ってくれている。ユリウスは例の消えた使用人であるリューズ・カルマの調査に忙しいらしく、付き合ってはくれないがリカードとミミによる稽古も中々に充実していた。

 

「だぁーー!!もう動けねぇ」

 

 ナツキ・スバルは大の字になって庭に寝転がると、ミミが上から覗いてくる。

 

「おにーさん、もう終わりー?」

 

「結構、頑張った方だろ?獣人の体力って半端ねぇな」

 

「まぁ、ワイらは傭兵やからな」

 

 リカードら『鉄の牙』は魔獣の群れを一掃できるレベルの傭兵だ。あの戦いを見ていた者として素直に納得できる。

 

「なあ、リカードのおっさん。あの時言ってた大罪司教ってなんだ?」

 

 リカードが援軍として来てくれた時に確かそんなことを言っていた。今回は大罪司教はいなかった……と。

 

「なんや兄ちゃん知らんかったんか?大罪司教ゆうたら魔女教の幹部連中や」

 

「幹部連中?」

 

「そうやで。色々おってな。中には城壁都市をたったの一人で落とした奴もおるがな」

 

「そんなにヤバい奴らなのか、あの時の襲撃で一緒に来てたらマジやばかったな」

 

「そうやな。まぁ戦ったワイらだから分かる。あれは威力偵察や」

 

「威力偵察?」

 

「本命をぶつけるための小手調べ。こりゃあ本格的に奴らとやり合うことになりそうや。兄ちゃんにも期待させてもらうで」

 

「お、おう」

 

 リカードらが信じているナツキ・スバルの未来視。しかし、彼らは知らない。その代償がナツキ・スバルの死であるということを。ナツキ・スバルはリカードに苦笑いで応えた。

 

 リカードとミミが去っていくと、ナツキ・スバルに一つの人影が近づく。ナツキ・スバルの監視の為に残ることを決めたレムだ。

 

「おー、レム。どうしたんだ?」

 

 ナツキ・スバルは体を起こして話しかける。

 

「スバル君も既に承知していると思いますが、レムはスバル君の監視をすることにしました」

 

「あー、まぁそうだよな」

 

 問答無用で殺されない分、ユークリウス邸一度目のループとは天地の差だ。

 

「あの戦いでスバル君はレムを守ろうとしてくれましたが、レムはスバル君を助けようとはしませんでした」

 

 『死に戻り』の暴露により魔獣の標的をレムから自分に移すことには成功したが、その結果リカードが来てくれなければ自分は死んでいた。レムにとって、ナツキ・スバルが命を顧みず自分を救ったあの行動は心の中で大きく引っ掛かっているのだ。

 

「この気持ちが何なのかは分かりません。ですが、あなたは奴らと同じ臭いを発していたとしても、奴らとは違う存在であると思うようになりました」

 

「そっか」

 

 その言葉を聞けただけで、頑張った甲斐があったとナツキ・スバルは思った。しかし、その反応がレムにある疑問をつくる。

 

「怒らないのですか?スバル君は助けた相手に未だに疑われているのですよ?」

 

「まぁ、そうだな。思うところが何もないわけじゃないけどな」

 

 しかし、ナツキ・スバルはレムからかつての境遇を聞いてしまった。だからこそ、

 

「レムの立場からすればその対応で当然だろ?疑いが晴れた時は、また教えてくれ」

 

 それがナツキ・スバルの答えだ。

 

 レムがその答えに納得したのかは分からないが、複雑な顔をしながらユークリウス邸に戻っていった。

 

 

 昼食を食べ終わり、ナツキ・スバルがユークリウス邸をブラブラしているとユリウスと鉢合った。

 

「ユリウス」

 

「スバルか」

 

「なんか忙しそうだな。リューズ・カルマか?」

 

「それもあるが、来客があった」

 

「来客って言うと、エミリアちゃんのお迎えか?」

 

 レムの代わりにエミリアの御者を務める人物がやって来たのだろうか?

 

「いや、そうではない。ラインハルトが来たんだ」

 

「誰?」

 

 当然ナツキ・スバルが知る故もない人物。そんなナツキ・スバルにユリウスが説明する。

 

「ラインハルトは私と同じ近衛騎士で今代の『剣聖』だ。ラインハルト・ヴァン・アストレア、それが彼の名だ」

 

 ユークリウス邸二度目のループでユリウスから聞いた情報にあった『剣聖』。400年前、嫉妬の魔女を封印した一族の末裔がユリウスと同じ騎士をやっているとは聞いていたが。

 

「そいつがラインハルトか」

 

「丁度いい。スバルも来てくれ。彼に紹介したい」

 

 ナツキ・スバルはユリウスに付いて、例の応接室へ向かった。

 

 扉を開くとその部屋には既にエミリア、レム、アナスタシアがいた。そして、もう一人初めて見る人物がいる。ユリウスと同じ騎士服に身を纏う赤髪、青瞳のイケメンだ。

 

「君がナツキ・スバルだね。ユリウスから話は聞いているよ。僕はラインハルト。よろしくね、スバル」

 

 その男─ラインハルトはさらっと距離を詰めてきた。

 

 全員が席に付くと早速会話が始まる。最初に話を切り出したのはナツキ・スバルだ。

 

「ラインハルトさんってユリウスと同じ近衛騎士なんだよな?」

 

 ナツキ・スバルの質問にラインハルトは朗らかに答える。

 

「そうだね。若輩の身だけれど、近衛騎士を務めさせてもらっているよ。それと、ラインハルトさんは硬いね。ラインハルトで構わないよ、スバル」

 

「お、おう」

 

 ラインハルトの距離を詰める速度は尋常ではない。それは戦闘にのみ限らないということだ。

 

「えーと、じゃあ。ラインハルトもユリウスみたいに王選候補者の誰かの騎士をやってんのか?」

 

「いいや。僕はまだ誰かの騎士になった訳じゃないんだ。王選候補者は既に4人が見つかっているが、最後の一人が未だに見つからない。僕がここへ来たのも最後の候補者についての情報を集めるためなんだ」

 

 そう言うとラインハルトはエミリアとアナスタシアを見る。

 

「ここに王選候補者であるお二方がいらっしゃったのは幸いだった。何か情報はありませんでしょうか?」

 

 ラインハルトはエミリアとアナスタシアに尋ねるが結果はあまりよろしくない。

 

「王選候補者って確か徽章の石が光った人がなれるんだっけ?」

 

「そうやで」

 

 そう言うとアナスタシアは懐から例の徽章を取り出した。アナスタシアが手に持つ徽章に埋め込まれた宝石が赤く光る。エミリアもアナスタシアに倣って徽章を光らせた。エミリアの顔には「今度はなくしてません」と書いてある。

 

 その姿に苦笑しながらもナツキ・スバルには光る徽章を見て、引っ掛かることがあった。

 

「徽章を光らせた人が王選候補者なんだよな?」

 

「何か思い当たる事があるのかい?スバル」

 

 腕を組んで唸るナツキ・スバルにラインハルトが尋ねる。

 

「なんか、アナスタシアさんたち以外にも徽章を光らせてた奴がいた気がするなぁ」

 

「本当かい?!それは一体誰なんだい?」

 

 詰め寄ってくるラインハルトにナツキ・スバルは唸り続けた。

 

「いた気がするなぁ。でも、表に出てこないなぁ。最近だったと思うんだが」

 

 焦れったいナツキ・スバルにラインハルトは肩を揺さぶろうか悩む。そこにユリウスが助言した。

 

「スバル。徽章を持てる機会なんて滅多にないよ。それこそ誰かが盗まない限りはね」

 

「あ!!」

 

 ユリウスの一言によりナツキ・スバルは思い出してしまった。確かにあの子は徽章を光らせていた。だが、あの時はこれから王都に出現する氷の獣を倒そうと意気込んでいたため、今の今まで思い出せなかったのだ。

 

「思い出したんだね!!教えてくれ、スバル」

 

 そこでナツキ・スバルは初めて悩む。言うべきか言わないべきか。

 

「言ってもいいのかなぁ?」

 

「何を悩んでいるんだい?言わない理由なんてないだろう?」

 

 ナツキ・スバルの脳裏に思い描かれる徽章を光らせた金髪の少女。

 

「なんかさ、その子。騎士とか表の人間が嫌いっぽかったんだよな」

 

 ナツキ・スバルが教えることによってあの子の平穏が失われてしまうのではないかと考えた。

 

「いいかい、スバル」

 

 そこで初めてラインハルトはナツキ・スバルの肩に触れる。

 

「五人目の候補者が見つかるということは、ルグニカにおいて王選の開始を意味するんだ。君の証言如何によってルグニカの歴史が動くかどうかが決まるんだよ」

 

「でもさ、ルグニカの歴史を動かすとか、あの子が望んでるとは限らないだろ?」

 

 ラインハルトはナツキ・スバルの目を見て真剣に語り掛けた。

 

「その子を見つけても決して無理強いはしないと、騎士として誓うよ。だから、その人の事を教えてほしい」

 

 ナツキ・スバルは最後にユリウスをちらりと見る。

 

「あー、分かったよ。教えるって」

 

 ナツキ・スバルの言葉にラインハルトは顔を明るくした。

 

「その子の名前は───」

 

 

 ナツキ・スバルから名前と身体的特徴を聞き出したラインハルトは風のようにユークリウス邸を去っていった。

 

「あれだけの情報で見つけられんのか?」

 

「ああ。ラインハルトならあれで充分だろう」

 

 ラインハルトの居なくなった応接室でナツキ・スバルがユリウスと会話をする。

 

「ユリウスとラインハルトってどっちが強いんだ」

 

「私とラインハルトが戦えば、間違いなく私が負ける。勝負にすらならないだろう」

 

「マジで?」

 

「ああ。ラインハルトはそれほど規格外の英雄なんだ」

 

「信じられねぇな。ユリウスが勝負にならないって、一体どんなレベルなんだ?」

 

「さあね。私もラインハルトの本気は見たことがないよ」

 

 そう告げるユリウスの顔には少しだけ、陰りがあった。

 

 

 次の日、ユークリウス邸に新たな来客があった。その客はナツキ・スバルを発見するや否や目を細くして睨んでくる。

 

「あなたがナツキ・スバル様ね。いいえ、あなたなんてバルスで充分だわ。よくもレムを誑かしてくれたわね、この卑劣漢!!」

 

 レムとそっくりの赤髪のメイドだった。

 

 

 

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