ほんの少し慎重になったスバル君を異世界に投入する話 作:面白い小説探すマン
「クソッ!!こんな場所にこれ以上いて堪るか!!」
質素な晩飯を掻き込む様に食べ終わったナツキ・スバルは現状を打開するべく動く。アナスタシアの奴隷となったナツキ・スバルはアナスタシアの命令には従わなければならない。きちんとした令状はあったが自分をこんな場所へ移送させる理由がわからなかった。
「見つけた!!」
ナツキ・スバルが一目散に駆け寄るのはホーシン商会の職員。アナスタシア陣営とエミリア陣営の同盟によってなし得たエリオノール大森林の魔鉱石採掘事業はホーシン商会が中心となって行っているため、ホーシン商会の人間も当然いる。
「待ってくれ!!アンタ、ホーシン商会の人間だろ?」
「ええ。そうですが?」
「俺はナツキ・スバル。アナスタシアさんの奴隷って言えば分かるか?」
「ああ、あなたが…。どうかしましたか?」
「俺がここに連れてこられたのは本当にアナスタシアさんの指示かどうか確認してほしいんだ」
ユークリウス邸からエリオノール大森林に連れて行かされる直前、自分の側にいたレムに命令の真偽をアナスタシアに確かめて貰うように頼んだが、向こうの状況が分からないため自分でも行動する。
「令状はお持ちですか?」
「ああ、これだ」
ナツキ・スバルは渡された令状を職員に渡した。その令状に目を通すと職員はナツキ・スバルに答えを告げた。
「これは正式にホーシン商会から発行された物で偽造は不可能です。従って会長からの指示は本当ということになりますね」
「クッ!!」
やはりレムに見てもらったときと同じ結論か。こうなった以上、エリオノール大森林での魔鉱石サバイバルに身を投じる他ないのか。
ナツキ・スバルのそんな心情を察してかホーシン商会の職員がある提案をした。
「あなたがホーシン商会所属の奴隷であることを公表しましょうか?そうすれば滅多な輩には手出しされない様になると思いますし」
この職員もエリオノール大森林の魔鉱石を巡った水面下での争いを知っているのだろう。その提案はナツキ・スバルにとってユークリウス邸に戻れない以上最も望んでいた物だ。これで自分の生活に少なからず平穏が訪れると。
「ああ!!よろしく頼む!!」
自室に戻ったナツキ・スバルを出迎えたのは相部屋になった破産商人オットー・スーウェン。
「どこに行ってたんですか?ナツキさん」
「あーまぁ、ちょっとな。今日、魔鉱石をカツアゲされただろ?その対策として俺がホーシン商会会長アナスタシアさんの奴隷ってことを大々的に広めてもらうように頼んできた」
「本当ですか?!今から明日の事について話し合おうと思っていたのですが、流石ナツキさんです」
「流石って…まだ会って間もないだろ?」
「いえいえ、アナスタシア会長の奴隷になることができる人間なんてほんの一握りですからね」
「そうなのか?」
「え~と、ところでですね。明日の作業なんですけど、僕も御一緒していいですか?」
「オットーの場合一人になったら、また狙われるしな。1日一緒に作業したよしみだ。明日も一緒にやろうぜ」
「ありがとうございます~!!」
エリオノール大森林二日目。
ジリリリリリリリリ!!
「よし、行くかオットー!!」
「はい!!」
作業開始のベルでナツキ・スバル、オットーコンビは行動を開始した。
「これは確かに凄いな」
「そうですね」
ナツキ・スバルがアナスタシアの奴隷であるという事実が公開され、どの奴隷たちもナツキ・スバルに一目置いている。それから次第に奴隷たちは魔鉱石を集めるため、散り散りになっていった。そんな中、ナツキ・スバル一行に近づく複数の影。
「お前らは!!」
その男たちは昨日、ナツキ・スバルとオットーから魔鉱石をカツアゲした連中だった。
「まぁ、待てよ。俺たちはやり合いに来たんじゃない」
「何?昨日俺たちから奪っておいて何言ってやがる!!」
「知らなかったんだ。アンタがホーシン商会会長アナスタシア・ホーシンの奴隷だと知っていれば手は出さなかった」
そう言うと男は昨日ナツキ・スバルとオットーから奪った魔鉱石の3倍を差し出した。
「これで手打ちといかねぇか?」
昨日、ラッセルグループリーダーに借りた魔鉱石を返しても十分に余る量。ナツキ・スバルは渋々といった感じで同意しようとするが……
「ちょっと待って下さい!!」
横から口を挟んだのはオットー。
「あなた方はご存知だったはずでは?成果を上げられない奴隷がどういった目に合うのかを」
「そ、それはだな……」
ここエリオノール大森林では魔鉱石を集められない奴隷に価値はないと言わんばかりに身体を痛め付けられる。こんな辺境で怪我をしてしまえば生命にすら関わるだろう。
「僕たちの命の値段がこれですか?見くびらないでください。……二倍です。この更に二倍の魔鉱石で手を打ちましょう」
「これの更に倍だと?!こちらが下手に出ていれば……」
「いいんですか?アナスタシア会長の奴隷に手を出しても?ホーシン商会を敵に回しますよ?」
「クソッ!!」
目の前に積み上げられた大量の魔鉱石の入った袋。これを換金すれば一体いくらになるんだ?
「うは~。凄いですねぇナツキさん。僕たち今だけ大金持ちですよ」
「何言ってんだよオットー。これはホーシン商会に納めなきゃいけないんだろ?」
「そうですけど……」
「それにしてもオットー。お前すげぇな、昨日カツアゲされた連中相手にここまで引っ張るかよ」
「それはこちらにナツキさんがただの奴隷ではなく、アナスタシア・ホーシンの奴隷という最強のカードがあったからですよ。でなければ僕もここまでしません」
ここエリオノール大森林においてアナスタシアの奴隷という肩書きはナツキ・スバルが認識する以上に価値があるようだ。それを差し引いてもこのオットーの交渉力は目を見張るものがある。
「流石は商人。交渉させたらピカイチだな。なんで奴隷なんかになってんだよ?」
「あれ?言いませんでしたっけ?僕は油で失敗して……」
「それは聞いたよ。足元掬われたんだろ?んじゃ、ここでは足元掬われない様にこの魔鉱石の山を処理するぞ」
「分かりました。半分は納めて、もう半分はいざというとき時のために隠しておきましょう。昨日、リーダーに借りた魔鉱石も上乗せして返さなければいけません」
「そうだな」
その日は結局、魔鉱石の隠し場所を探すことに重きを置いたため、実際に収穫した魔鉱石は微々たるものだったが、その甲斐があり秘密の隠し場所を見つけることに成功する。
「ナツキさん。ここなら大丈夫です。この辺り一帯に僕ら以外の奴隷はいません」
「なんでそんなことが分かるんだ?」
「僕には『言霊の加護』がありますからね。この辺りの動物や虫たちに聞いたんです」
「お前、加護持ちだったのかよ!!」
「ええ。そうなんですよ。今でこそ自由に扱えていますが、この加護のせいで幼少期は地獄でしたけどね」
オットーが語る所によると、未熟だった『言霊の加護』はありとあらゆる生物の声を拾ってしまうため脳内を意味が分かるような分からないような言葉で延々と殴り続けられている感じだったらしい。
「あらゆる方向から政治家の演説を聞かされるようなもんか」
「あながち間違いじゃないです」
作業が終了し、ナツキ・スバルとオットーはラッセルグループのリーダーと落ち合う。昨日借りた魔鉱石、その倍をリーダーに差し出した。
「お前ら、上手くやったみたいだな」
「あぁ。昨日は助かったぜ」
「少し多目にお返ししますね」
「まあ、こちらも利があると判断した上での結果だ。これからも困ったことがあれば遠慮なく言え」
「そうだな。何かあったら頼らせてもらうわ」
「自分はラッセルさんの奴隷になって間もないですがよろしくお願いします」
場所はナツキ・スバルとオットーの相部屋。負債から解放された二人は布団で寛いでいた。
「あのリーダーマジいい人だな」
「そうですね。僕が同じラッセルさんの奴隷だったというのもありますが、初日は助かりましたね」
「今日は誰にも絡まれなくてよかったぜ」
「ナツキさんのアナスタシア・ホーシンの奴隷という肩書きとラッセルグループリーダーとの繋がりがあればここでの生活には苦労しなさそうですね。後は地道に返済して奴隷から解放されるだけです」
「俺の場合、素直に解放してくれるかねぇ?」
「ナツキさんの負債額はいくらですか?」
「負債とは少し違うんだよな」
ナツキ・スバルはアナスタシアと交わした契約の大まかな概要をオットーに教えた。『腸狩り』エルザ、魔獣、魔女教徒といった連中を撃退するためにホーシン商会の私兵団『鉄の牙』の力を借りた契約だ。
「それはやってしまいましたねぇ。金額が明記されていない以上、アナスタシア・ホーシンのさじ加減一つで全て決まるでしょうね」
「だよなぁ。でも俺、ここに来る前まではユリウスの屋敷で贅沢三昧してたんだぜ?奴隷のままでもあの生活が戻ればいいんだけどなぁ」
「『最優の騎士』の邸宅ですか?!羨ましすぎますよ!!って言うかナツキさんがここに飛ばされたのって『最優の騎士』の邸宅でゴロゴロしすぎていたせいではないですか?」
「う!!」
言われてみれば襲撃を乗り越えたという解放感から実のない生活を続けていたのかもしれない。自分ではミミやリカードと鍛練を頑張っていたと思っていても、アナスタシアから見れば……ということもある。
「ま、まぁそうかもな。でも、ここで成果出せばアナスタシアも見直すだろ」
「それは間違いありませんね」
それからのエリオノール大森林での生活は正に平和そのもの。面倒な輩に絡まれることなく、着々と成果を重ねラッセルグループと一緒になって飲むという日もあった。ナツキ・スバルは未成年なため酒ではなくジュースにしたが。
エリオノール大森林での日々が三日、四日、五日と過ぎた。
「いくらなんでも遅いな」
「何がですか?」
ナツキ・スバルはエリオノール大森林5日目の作業の疲れを癒すべくオットーと一緒に寛いでいる。
「アナスタシアさんの指示の真偽の確認だよ」
そう。ここに来る前、レムにアナスタシアさんの指示を確かめてくれと頼んだ。ついでにエリオノール大森林にいるホーシン商会職員にも。
「結局、真偽はだらけきったナツキさんを更正するためにアナスタシアさんがエリオノール大森林へナツキさんを飛ばしたってことになりませんでした?」
「んッ……まぁ、多分そうだろうけど、アナスタシアさんの命令が本当か嘘かの結果報告くらいはあってもいいんじゃないかと思ってな。俺のお付きのメイドならすぐに駆け付けてくれると思ったんだが」
「お付きのメイド?!なんですかそれ、初耳ですよ!!奴隷の身分でメイドまで付いてたんですか?」
「監視だよ、監視。オットーが想像してることなんて起こらねぇって」
「どうですかねぇ~」
「明日もあるし、もう寝ようぜ」
「ナツキさんにメイド。ナツキさんにメイド。ナツキさんにメイド。ナツキさんにメイド。ナツキさんにメイド」
「うるせぇぞオットー。もう寝ろ」
エリオノール大森林六日目の朝。
ナツキ・スバルは………
「ナツキさん!!ナツキさん!!ナツキさん!!ナツキさん!!ナツキさん!!」
デカイ声でオットーに叩き起こされた。
「なんだよオットー。作業までまだ時間あんだろ?」
「作業?一体何を寝ぼけてるんです!!今、この1分1秒が僕たちの今後の人生を大きく左右するといっても過言ではないんですよ!!」
「はぁ?」
「取り敢えず今すぐに行きますよ!!ナツキさん早く準備して下さい!!」
「行くってどこに?」
「決まってます、エリオノール大森林で魔鉱石を回収するんです!!」
ナツキ・スバルはオットーに急かされるまま、外に出る。
「他の奴らもだいぶ慌ただしいな」
作業までまだ時間があるというのに、外ではかなりの奴隷たちが右往左往したいた。
「ナツキさん!!」
「おお、オットー……ってなんだそりゃ!!」
オットーはどこからか荷台付の竜車を持ってきていた。
「なんとか竜車の争奪戦には勝利しました。ですがいつ奪われるとも限りません、早く乗ってください!!」
ナツキ・スバルは終始オットーの言いなりだったが、竜車が走り出したのを確認すると、オットーに事情を尋ねる。
「なぁ、オットー一体……」
「ナツキさん!!追っ手です!!少し飛ばします!!舌を噛まないようにして下さい!!」
オットーの声を合図に竜車は更に加速した。道なき道を進み追っ手を撒こうとする。エリオノール大森林でのカーチェイスが始まった。
追ってくる竜車は少なくとも3台。通常であれば勝ち目はない。道の分からないエリオノール大森林なのだから。
しかし、この男─オットー・スーウェンには当てはまらない。『言霊の加護』により森の生物から巧みに進路の情報を得る。
ナツキ・スバルの体感にして30分くらいだろうか、ナツキ・スバルとオットーの乗る竜車は追っ手を撒いた。
「全く……朝から意味がわかんねぇよ」
ようやく落ち着いた事もあり、ナツキ・スバルは今度こそ事情をオットーに尋ねる。
「なぁ、オットー。さっきの追っ手は一体なんだ?」
「恐らくは僕たちの竜車が狙いでしょうね。後は僕たちが隠している魔鉱石の居場所を吐かせると言った所でしょうか」
「はぁ?状況変わりすぎだろ!!」
ナツキ・スバルのアナスタシア・ホーシンの奴隷という肩書きとラッセルグループリーダーとの繋がり。これさえあれば平穏な日々を享受できるのではなかったのか。いや、実際前日までは楽しい日々を送れていた。
「ま、まぁ…いい。所で、なんでみんな俺たちを含めてこんなにバタついてんだ?」
オットーの叩き起こしから始まり、エリオノール大森林でのカーチェイス。今までで体験しなかったことを一度に詰め込まれた。
「朝も言いましたが、これは僕たちの今後の人生を大きく左右します。僕たちは無一文で商売をするにしても先立つ金がいる。その為には魔鉱石を大量に運べる竜車が必要で、あれば更に人生の選択肢は広がります。こんな好機おそらく二度とないでしょう。──────丁度今、僕たちのいる場所がエリオノール大森林で唯一、誰も採掘権を保有してない場所なんですから!!」
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「更にはそんな場所に誰も所有してない竜車が捨てられている。ここで僕たちは人生をやり直すことが出来るんです!!」
どういうことだ?だってここは──
「アナスタシアさん率いるホーシン商会が所有してる場所だろ?」
「ナツキさん──」
オットーから言葉が紡がれる。
「アナスタシアさんって誰のことですか?」