ほんの少し慎重になったスバル君を異世界に投入する話   作:面白い小説探すマン

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五話

 

 

「スバル。相手はアナスタシア様と同じ、王選候補者の方だ。礼を尽くしても尽くしすぎることはない」

 

 覚醒する意識。

 

「ああぁぁぁぁああぁあ!!」

 

 ナツキ・スバルは絶叫と共に顔を掻き毟る。

 

「熱い熱い熱い熱い熱い熱い」

 

 顔面が否、頭蓋骨そのものが灼熱で犯されるが如くの痛み。血が出てもお構いなしに頭を机に叩きつける。この灼熱の痛みがが和らぐのならこれくらいどうということはない。

 

「一体どうしたんだ?スバル!!」

 

 目の前でいきなり急変したナツキ・スバルにユリウスは慌てて駆け寄る。ユリウスが力ずくで押さえない限り、ナツキ・スバルは何度でも頭を叩きつけるだろう。

 

「クア!!スバルを眠らせてくれ!!」

 

 このままでは不味いと判断したユリウスは己が契約する精霊の一体、水を司るクアにナツキ・スバルを眠らせる。淡い水色の光がナツキ・スバルの顔を包み込むと、ようやく静かになった。

 

「一体どうしたというんだ、スバル」

 

 

 

 ナツキ・スバルが目を覚ますと見慣れた天井が目に入った。この天井はナツキ・スバルがユークリウス邸に住むことになった二日前から貸し与えられている一室のものだ。

 

 ナツキ・スバルは涙が止まらなかった。異世界に召喚されて自分も例外なく持っていた特殊能力。時間を巻き戻すといえば最強クラスの能力だ。初めて死に戻りが発動した時は死んだという実感が薄かったため、勘違いしていた。

 

 人は死ねば意識が失われる。それは偏に人という存在は自分が死んだという意識に耐えきれないからだ。しかし、ナツキ・スバルは違う。死んでもなお、意識が残る。

 

 前回の王都では死の実感も薄いまま、二度目のループで死を回避してしまった。都合よくユリウスに協力を取り付け、都合よくエミリアを救う。そんな都合のよさが今、代償となってナツキ・スバルに牙を剥いた。

 

 死とはそんなに生易しいものではない。ナツキ・スバルは自分が死んだという事実に耐えきれなかった。

 

 ナツキ・スバルはまた泣いた。

 

「スバル」

 

 ドアがノックされた後、ユリウスが部屋に入ってくる。ナツキ・スバルは窓の外に目を向けてユリウスから顔を逸らした。ユリウスにこんな情けない顔を晒したくないというささやかな抵抗だ。

 

「エミリア様はお帰りになられたよ。スバルの体調が優れないことを知って日を改めるそうだ」

 

 ナツキ・スバルにはもう何かを考える余力など残っていない。それほどまでに、頭蓋を砕かれて死ぬという記憶が強烈だったのだ。

 

「一体君はどうしたんだ?」

 

 何も答えないナツキ・スバルにユリウスは目を瞑る。

 

「しばらくゆっくり休むといい」

 

 そう言うとユリウスは部屋から出て行った。それを確認したナツキ・スバルは再び泥のように眠る。

 

 眠りとは記憶の整理を行う時間だ。今までの記憶が夢となって現れる。

 

 ユリウスと剣の修行。全く勝てない。いつか一本取りてぇな。

 

 

 ──頭蓋を砕かれる。

 

 

 この料理めちゃくちゃ旨いな。貴族って毎日こんなの食ってんのか。

 

 

 ──頭蓋を砕かれる。

 

 

 この世界の文明って日本よりも遅れてるよな?なんで風呂がこんなにでかいんだよ。

 

 

 ──頭蓋を砕かれる。

 

 

 死ね!!魔女教徒!!

 

 

 ──頭蓋を砕かれる。

 

 

 ──頭蓋を砕かれる。

 

 

 ──頭蓋を砕かれる。

 

 ──頭蓋を砕かれる。

 ──頭蓋を砕かれる。

 ──頭蓋を砕かれる。

 ──頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を、頭蓋を──

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 ナツキ・スバルが飛び起きるとそこは既に夜だった。汗でグッショリ湿った服。

 

「はぁはぁはぁはぁ」

 

 眠れば、あの記憶が呼び起こされる。ナツキ・スバルは部屋を出て外の空気を吸いにいった。剣の修行をした庭に寝転がる。心地よい風が汗を乾かし、夜空で輝く星々が目に映った。少しずつだが死の記憶が和らいでいく。モノを考える力がナツキ・スバルの中に生まれた。

 

「あのメイドか……」

 

 前回、ナツキ・スバルを殺したのはエミリアに付いてきた青髪のメイド─レム。最期に見えたのは自分を睨み付ける青い瞳と、頭蓋を砕いた何かだ。

 

「クソッ」

 

 成り行きとはいえ自分はエミリアを助けたというのに、その仕打ちがこれか。従者であるレムがナツキ・スバルを殺すことを是とするなら、その主人であるエミリアもまた……。

 

「クソッ!!」

 

 二度目の悪態。あんな可愛い顔して、腹の中はそれかよ!!このユークリウス邸から離れた瞬間に自分は死ぬ。それも助けた女の子に殺される。

 

「そんなバカな話が……」

 

 しかし、それとは別に竜車を取り囲んでいた連中がいた。

 

「魔女教徒って言ってたな」

 

 レムがアイツらとナツキ・スバルに向けて言った言葉。そして、魔女の匂い。連中と同じ匂いがすると言う。自分で匂いを嗅いでみても何も感じない。分からない事が多すぎる。

 

「ユリウスん家から出なければなんの問題もないんだが」

 

 しかし、それは難しいだろう。アナスタシア陣営の一の騎士であるユリウスの食客という立場である自分が真っ向からエミリアたちの謝礼を蹴れば、エミリア陣営との関係悪化を招く。ここ数日でユリウスとは仲良くなったが、ナツキ・スバルと主であるアナスタシアを天秤に掛ければ、ユリウスはアナスタシアを取るだろう。

 

「このまま体調が悪いってことにして、エミリアを追い払い続けられれば」

 

 だが、きっとそれでも政治的には関係の悪化を招くことには違いない。

 

「今日、エミリアが来るって言ってたからセーブポイントは死の4日前で更新か」

 

 いっそのこと王都に戻れれば、今度こそエミリアを助けずに獣だけを討伐するという未来を掴むために動いていたというのに。

 

 何の光明も見えぬまま、ユークリウス邸での二度目のループが始まる。

 

 

 翌朝。

 

「スバル、体調はもう大丈夫なのかい?」

 

「ああ。大丈夫……とは言えないがだいぶましになった」

 

 前回のループでエミリアを迎えた例の応接室でナツキ・スバルはユリウスと話していた。

 

「では、これからエミリア様を迎えても問題はないだろうか?」

 

「そうだな。あんまり遅すぎてもユリウスに迷惑かかるだろ?」

 

「スバル……」

 

 ユリウスは驚いた様に目を見開く。

 

「俺は大丈夫だから呼んでくれ」

 

「わかった」

 

 それから数時間後にエミリアが到着するということになった。その時間にナツキ・スバルは少しでも情報を集めるために動く。

 

「なあユリウス。魔女教徒って知ってるか?」

 

「魔女教徒?この国では知らない者の方が少ないと思うが」

 

「教えてくれ、頼む」

 

「魔女教徒というのは魔女を崇める魔女教の教徒だ」

 

「魔女?」

 

「この国において魔女という言葉が指す存在は一つしかない。嫉妬の魔女だ。魔女教の目的はその嫉妬の魔女を復活させることだと言われている。そのために動く存在を魔女教徒と言う。そして各々が福音と呼ばれる黒い教本を持ち、それを見て行動する」

 

「復活って、封印でもされてんのか?」

 

「ああ、ルグニカから東にある魔女の祠に三英傑によって400年前に封印された」

 

「すまん。三英傑ってのも教えてくれ」

 

「三英傑とは剣聖、賢者、神龍のことだ。剣聖の末裔はこの国の騎士で、賢者は今でもプレアデス環視塔から魔女を見張っている。そして神龍は大瀑布の彼方よりこの国を見守っているんだ」

 

「大瀑布?」

 

「大瀑布は魔女の祠の更に向こう、世界の終わりに存在する巨大な滝だ」

 

 何となくだが魔女教徒、魔女教周りのことが分かってきた。

 

「魔女教って今までにどんなことをやってきたんだ?」

 

「街を壊滅させたり、村人を皆殺しにしたりとそれはもう酷い悪行だ」

 

「魔女教って倒せないのか?」

 

「奴等は神出鬼没。行動の予測など出来ないさ」

 

「そうなのか」

 

 そんな魔女教に間違われる匂いを発しているらしいナツキ・スバル。確かにあの状況では殺されても仕方ないのかもしれないが、無関係なもんは無関係で冤罪だ。エミリアとレムはナツキ・スバルがユークリウス邸から離れたら殺しに来る。しかし、それまでは安全な筈だ。前回のループでもユークリウス邸では悠々自適に暮らせた。この屋敷を出る前になんとかするしかない。

 

 ユリウスに同行してもらえれば万事解決だが、それは難しいと前回のループで本人が言っていた。

 

 ユリウスから情報を聞いた後でも、何一つ策が浮かばないまま時間が過ぎる。そして遂にエミリアを迎える時間となった。

 

 

「改めまして、先日はありがとうございました。体調が悪いって聞いたけどスバルは大丈夫?」

 

 白々しい。ナツキ・スバルは目の前で可愛く振る舞うエミリアを見て、そう思った。しかし、それを表に出せばユリウスが困ることになるので尾首にも出さない。

 

「ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」

 

 この少女はいずれ自分に牙を剥く。ナツキ・スバルは心底、あのとき腸狩りに素直に殺されておけと思った。恩を仇で返されるくらいなら、ない方がましだ。

 

 

「何かお礼をさせてほしいの」

 

「それなら、君の事を教えてくれよ」

 

 何事にもまずは情報収集だ。

 

「私の?」

 

「ああ。王選候補者なんだってな。何で王を目指すんだとか教えてくれよ」

 

 生かすにしろ殺すにしろ相手の手札は出来るだけ多く知っておくべきだろう。その後は、自分を直接殺したレムについても丸裸にしてやる。ナツキ・スバルは笑顔でエミリアに頼んだ。

 

「ええ。そんなことでいいんだったら、喜んで」

 

 俺が受けた痛み、苦しみ、全てをお前に返してやろう。

 

 

 エミリアは自分の生い立ちについて語った。要約すれば、自分はエリオノール大森林に引きこもっていたエルフのハーフで、ある日森が凍ったから、氷に閉じ込められた仲間を助け出すために王を目指しているらしい。

 

「なるほどな、ありがとう」

 

 たいして、有益な情報はなかったかとナツキ・スバルは内心舌打ちする。

 

「ボクも君にお礼をしなきゃね」

 

 前回のループ通り次はパック。しかし、こいつは悪意や敵意を触れて察知できる。今のナツキ・スバルは内心ではエミリア死ねと思っているため直接触るのは危険だろう。やはり、情報収集だ。

 

「パックって精霊なんだよな?」

 

「そうだよ」

 

「エミリアちゃんとどうやって契約したんだ?」

 

「どうしてそんなこと聞くんだい?」

 

 少し怪しまれたか?心の中で深呼吸して言う。

 

「俺も精霊と契約したくてな。参考に聞きたいんだ」

 

「なるほどね。それなら話そう」

 

 パックの話を要約すると、凍っていたエミリアを助け出したのがパックであり、そこからエリオノール大森林を出るまでずっと行動を共にしているらしい。

 

 結局、パックの話にもたいした収穫はないと分かると頭を抱えたくなる。

 

 その後は前回のループと同様4日後にロズワール邸へ向かうことが決まった。エミリアとレムも同じく4日、ユークリウス邸に泊まる。会議はそこでお開きとなった。

 

 

「それにしても、また4日後か」

 

 前回のループであれば、昨日それが決まったためユークリウス邸を出るのが今回のループより1日早いことになる。前回よりも1日だけ長くいることで何が変わるのか。もしかすれば、あの魔女教徒と遭遇しなくなる可能性だってある。ナツキ・スバルは自室に寝転がりながら思考に耽った。

 

「ユリウスのやつ。今回は途中退室しなかったな」

 

 前回のループでは王選候補者であるエミリアの前で退室したはずだが、今回は特になかった。エミリアの訪問が1日遅れたため、用事もなくなったのだろうか?その用事は昨日にあったということだろう。

 

「うぅ」

 

 だいぶ気が楽になってきたが、それでも未だに死の痛みが浮かび上がる。部屋に籠っていても気が晴れないため、外に出て剣を振るうことにした。道中、エミリアやレムと遭遇してもここがユークリウス邸である限り襲われることはないだろう。

 

 

「ハッ!ハッ!」

 

 死の恐怖を掻き消すように剣を振り下ろす。しばらく剣を振っていると横から声がかけられた。

 

「おにーさん、精が出ますな!!」

 

 そこにいたのは猫耳の獣人少女ミミ。

 

「ミミか」

 

 ユークリウス邸で会うのはこれで二度目となる。

 

「むむむ?ミミ、おにーさんと何処かで会いましたかな?」

 

 もっとも、ミミの方は覚えていないが。

 

「何でもない。スナック菓子持ってきてやる」

 

 ミミは自分が毒味しなければ食べない。今回も最初の一つを除いて全てミミに食べられた。

 

「なあミミ。明日もここに来いよ。また話そうぜ」

 

 ナツキ・スバルにとってミミとの会話は安らぎになるため、明日も誘う。

 

「ミミ明日はいないよ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。おじょーが帰るから」

 

 また現れたおじょーなる存在。そういえば前回のループでもミミはエミリアが来てから二日後にいなくなっていた。それが今回、予定が1日ズレたことによってミミはエミリアが来てから1日でいなくなるのだ。

 

「おじょーって誰だ?」

 

「おじょーはおじょー」

 

 やはりミミからは何も聞き出せないようだ。

 

 

 ミミがいなくなってから残りの3日は相変わらずユリウスと剣の修行を行っていた。たまにすれ違うエミリアと世間話をし、内心死ねと思う。そして、遂に明日の朝、ロズワール邸へと向かう、ユークリウス邸での最後の夜を迎えた。

 

「いよいよ明日か」

 

 結局、1日ずれただけでは何も変わらない。このままロズワール邸へ向かえば間違いなく殺される。ユリウスには悪いが、ナツキ・スバルはユークリウス邸から逃走することにした。腸狩りから奪った二本のククリナイフを護身用に身に付けて道を駆ける。すると目の前に人影が現れた。

 

「こんな夜更けにどこへ行かれるおつもりですか?」

 

 エミリアの従者レムだ。前回と同じようにまた殺されるのか。ナツキ・スバルは心底怯えた表情をする。

 

「そんなに怯えなくても今はまだ何もしませんよ」

 

 問答無用で殺されないことに内心安堵した。

 

「あなたにもう一度問います。こんな夜更けにどこへ行かれるおつもりですか?」

 

「ちょっとその辺りをランニングに……だな」

 

「では、腰に指してある二本のナイフは何ですか?」

 

「護身用だ!!危ない目に遭うのは懲り懲りなんだよ!!」

 

「そうですか。最後に聞きます。あなたは……魔女教の関係者ですか?」

 

 魔女教、またそれか。ここの問いかけで自分の生死が決まると言っても過言ではないことをナツキ・スバルは実感する。単純に否定するだけではダメだろう。

 

「違うって言っても信じてはくれないよな?」

 

「ええ。そうですね。あなたから漂う魔女の残り香がそれを証明しています」

 

 魔女の残り香。魔女の匂い。やはりナツキ・スバルには分からない何かが目の前のレムには分かるようだ。

 

「その残り香があれば魔女教だと断言できるのか?」

 

「疑わしきは罰する。メイドとしての心得です」

 

「俺は魔女教じゃないって証明できるぜ」

 

「どうやって?」

 

「魔女教ってやつはみんな福音っつう黒い本を持ってるらしいぜ。調べてくれていい。俺はそんなの持ってない」

 

 ユリウスから得た情報を早速活かした。

 

「なるほど。ですが、そんなもの何処かに隠せば済む話です」

 

 だが、レムはこちらが黒だと決めつけている。

 

「俺はユークリウス家の食客だぜ?殺すのはまずいんじゃねぇの?」

 

「そうですね。ですが、あなたはこうしてユークリウス邸を離れました。森の魔獣に殺された風にしておけば問題はないかと」

 

 行動が全て裏目に出た。ユークリウス邸は安全だとあれほど自分に言い聞かせていたのに、このままでは明日死ぬという意識がそれを曇らせてしまった。

 

「喰らえ!!」

 

 ククリナイフをレム目掛けてぶん投げる。しかし、それはレムが取り出した鎖に弾かれた。その一瞬でナツキ・スバルは森の中へ逃走する。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

 すぐ後ろの木がモーニングスターに吹き飛ばされた。あれが頭蓋を砕いた武器か。

 

「しくじった、しくじった、しくじった」

 

 敵はナツキ・スバルの魔女の残り香を便りにこちらの位置を常に捕捉してくる。全速力でユークリウス邸へと戻るナツキ・スバル。鎖の音と共に背後からモーニングスターが襲いかかる。

 

「ぐおぉぉぉ!」

 

 最後のククリナイフを盾にしてモーニングスターから身を守った。このナイフは元はと言えばあの『腸狩り』エルザの武器。そう易々と壊れたりはしない。

 

「見えた!!」

 

 ナツキ・スバルの視界にユークリウス邸が映る。あれを潜れば俺の勝ち──

 

 モーニングスターがナツキ・スバルの腕をククリナイフごと吹き飛ばした。

 

「ごぁぁぁあぁぁあ!!」

 

 今の衝撃でユークリウス邸には入れたものの、自分の右腕がもがれたという事実に声にならない叫びを上げる。視界が涙で曇る中、目の前に人影が映った。

 

「どうしたの?スバル!!」

 

 鈴の音の様な声を持った少女、エミリアが駆け寄ってくると治癒魔法でナツキ・スバルの右腕を治療する。

 

「どうじで?」

 

 君は俺を殺そうとしたんじゃないのか?どうして治癒してくれる?

 

「動かないで!!じっとしていて」

 

 段々と視界が晴れてはっきり見えるようになったエミリアの顔は自分を治すことに集中していた。今になって思い出す前回のループの最期の記憶。レムがあのモーニングスターで自分を殺したとき、この子は最後までレムに静止の声を呼び掛けていた。

 

 痛みが引いていく自分の右腕。俺は勝手にこの子を疑って、助けたことを後悔して、あまつさえあの時死ねと思った。

 

「ごべん」

 

「え?」

 

「ごべんなざい」

 

 事情を理解出来ないエミリアは、それでも優しくナツキ・スバルを撫でる。

 

「もう。大丈夫だからね」

 

「エミリア……」

 

 ナツキ・スバルが見上げたエミリアの顔は──

 

 

 首がなかった。

 

「え?」

 

 力なく倒れるエミリアの胴体。すぐ後ろには巨大な犬のような生き物がいた。そのぐちゃぐちゃと咀嚼している大きな口からはきれいな銀色の髪がはみ出ている。

 

「あ?」

 

 それはゴクンと飲み込むと大きな赤い口を開けて──

 

「うえ?」

 

 ナツキ・スバルを噛み砕いた。

 

 

 

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