ほんの少し慎重になったスバル君を異世界に投入する話   作:面白い小説探すマン

7 / 15
七話

 

「スバル。相手はアナスタシア様と同じ、王選候補者の方だ。礼を尽くしても尽くしすぎることはない」

 

 意識が覚醒する。

 

 体が粉々に砕ける最期だった。しかし、苦しくはなかった。全身の感覚が遠のいていったから。

 

 こんな死に方、前にもあったなとナツキ・スバルは思い出す。あれはこの世界に召喚されて初めてのループ。王都に出現した獣に凍死させられた時と似ている。死の実感が薄いため、こんな感じで死に戻りをした後でも物を考える力があった。

 

「スバル?」

 

 だから今回はユリウスの前で、二度目、三度目の様な無様を晒さずにいられる。

 

「エミリアが来るのってあとどれくらい?」

 

「一時間もしない内にお越しになるだろう」

 

 ここで倒れる訳にはいかない。二度目、三度目のループでは共にこの1日目を無駄にしてしまった。今だからこそできることがあるはずだ。

 

 

「改めまして、先日はありがとうございました」

 

 ナツキ・スバルはエミリアの相手をしながら考える。

 

「それで、何かお礼をさせてほしいの」

 

 前回のループではこのユークリウス邸を囲うように結界石を配備してもらった。本来であれば屋敷の中に魔獣は入れないはずである。しかし、魔獣は屋敷の中に現れた。その結果、結界石が魔獣を屋敷の中に留めてしまい、ユークリウス邸が地獄と化したのだ。

 

「もう少し考えてもいいかな?」

 

 魔獣に対して結界石が有効であることは分かっている。ナツキ・スバルが前回のループで魔獣が跋扈するユークリウス邸に突入したとき、魔獣の被害には遭わなかったからだ。しかし、今、このタイミングで結界石を配備する場所を決めるのは早計であると思った。

 

「わかったわ。決まったらいつでも言ってちょうだい」

 

「ボクも君にお礼をしなきゃね」

 

 次は今まで通り、パックのお礼。しかし、エミリアと違って何をお願いするかは既に決まっている。

 

「パックを吸わせてくれ!!」

 

 世界を何度やり直してもこれだけはやめられない。

 

 パックの匂いを嗅いでいると、突然ユークリウス邸の使用人がやって来てユリウスに耳打ちをした。

 

「なんだと?」

 

 ナツキ・スバルの予想が正しければ、その内容とはおじょーであるアナスタシア・ホーシンの訪問。

 

「エミリア様、それにスバル。私は急用ができました故、ここで一度失礼させていただきます」

 

「待ってくれユリウス!!」

 

 恐らくここが、アナスタシアと会うことのできる最後の機会となるだろう。やってきてすぐに顔を合わせれば隠れるもクソもない。

 

「俺も行っていいかな?」

 

 ユリウスは困った顔をする。

 

「スバル、悪いがそれはできない。だが、あの人の許可が下りれば会うことも出来るだろう。私の一存では決められないことを理解してほしい」

 

「それもそうか」

 

 

 ユリウスが戻ってきたその後は一度目のループと同じように4日後にロズワール邸へ赴くことが決まったが──

 

「ちょっと待った!!ロズワール邸へ行くのは5日後にしてほしい」

 

 このまま4日後で行くと一度目のループと同じように4日目の朝にはユークリウス邸を出発する。それでは4日目の夜に行われるユークリウス邸の襲撃に対応できない。

 

 この提案には青髪のメイド─レムが反応を見せた。

 

「何故4日後ではダメなのですか?」

 

 疑われている。ここで突飛なことを言えば更に疑いが増すだろう。4日後に襲撃があると言っても証明できるものは何もない。それどころか襲撃を企てた一味だと見なされる。ここで言うにはやはり時期尚早。

 

「俺がユリウスの屋敷で世話になってるのは剣を教えてほしいからなんだ。少しでも長く練習したい」

 

「そうですか」

 

 ひとまずレムは納得してくれたようだ。話は5日後の朝にユークリウス邸を出発することで纏まった。

 

 

 会議もお開きとなり、自室へ戻る途中でナツキ・スバルはユリウスに声をかけられた。

 

「スバルに伝言を預かっている」

 

「伝言?」

 

 これはどう考えても先程の会議でユリウスに付いていっていいかどうかを聞いたことが影響している。

 

「あの方からの伝言だ。『会いたければ探してみろ』だそうだ。そして期限は3日後だ」

 

 

 ユリウスからアナスタシアの伝言を聞いた後、ナツキ・スバルは自室で考えを巡らせていた。考えることは山ほどあるが、まずはアナスタシアの伝言についてだ。

 

「3日後か……」

 

 本来であれば、アナスタシアはミミと共に2日後、ユークリウス邸を去る。これは前回のループと同じ状況になったということ。

 

「そういや、前回も今回も俺がアナスタシアについて探ろうとしたら期限が伸びたな」

 

 前回はミミとユリウスにおじょーの正体を聞いて、今回は直接会おうとした。前回はミミとユリウスから、今回はユリウスからナツキ・スバルがアナスタシアを探っているという情報を得たことで、アナスタシアはユークリウス邸に1日長く滞在することを決めたのだろう。

 

「やっぱ、スパイだと疑われてんのか?」

 

 徹底した情報秘匿。前回だけならそう考えていただろう。

 

「会いたければ探してみろ……か」

 

 今回、明確に示されたアナスタシアからの挑戦状。ご丁寧に期限まで教えてくれている。

 

「スパイだと疑ってるやつにこんなこと言うか?」

 

 ここで前回、屋敷の結界石の見回りを優先する前に考えていたことを思い出した。

 

「俺とアナスタシアの勝負……か」

 

 アナスタシアを見つけられればナツキ・スバルの勝ちで、見つけられなければナツキ・スバルの負けだ。アナスタシアが何を考えてこんなことを仕掛けてくるのかは分からない。幸い期限は3日ある。見つけた後に問いただせばいいだけだ。

 

「さて、そろそろ本題を考えるか」

 

 本題とは勿論、4日目の夜に起こる色んな奴らの襲撃である。

 

「何故、結界石を潜り抜けたんだ?」

 

 ユークリウス邸にくまなく配備されていた結界石。ナツキ・スバルも念入りに確認したから間違いない。それでも魔獣は現れた。

 

「内部発生か」

 

 外からでなく中から。それしか考えられない。

 

「この屋敷にあんな巨体が通れる抜け道でもあんのか?」

 

 仮に、そんな抜け道があるのだとしたら結界石に引っ掛からず魔獣達が内部発生した理由にも説明がつく。

 

 ナツキ・スバルは部屋を飛び出してユリウスに真偽を確かめに行った。

 

 

「ユリウス。この屋敷の出入口って玄関だけか?」

 

「……何故、そんなことを聞くんだい?」

 

 ユリウスにしてみれば家の機密を探られているに等しい。そんなユリウスの想いを知ってか知らずかナツキ・スバルは話し続ける。

 

「もし、ドデカイ抜け道があるんだとしたらヤバい!!その道を通ってこの屋敷が襲撃される可能性がある!!」

 

「……なんだって?」

 

 ユリウスがこんな突飛なことを言われるのは二度目であった。一度目は王都の詰所で初めてナツキ・スバルと出会った時だ。本来であれば戯れ言として処理するが、一度目は戯れ言として処理しなかった結果、王選候補者であるエミリアを救うことができた。ナツキ・スバルの言う獣こそ現れなかったが。

 

「わかった。君には見せよう」

 

 故に、ユリウスはナツキ・スバルに案内することにした。

 

 

「これか……」

 

 ユリウスに見せられたのは屋敷の一階にある一際大きな部屋に隠されていた階段だった。ユリウス曰く、この階段を出現させるスイッチはこの部屋の中にも隠し階段の通路にもあるとのこと。

 

「間違いねぇ」

 

 あの巨大な犬の魔獣でさえ通れてしまうような階段。あの魔獣はここから現れたのだ。

 

 そして、前回のループでユリウスが魔獣と共に相手にしていた存在。『腸狩り』エルザは魔獣と連携しながらユリウスを追い詰めていた。あのエルザは魔獣側ということになる。恐らくだがエルザもこの隠し階段から屋敷に侵入したんだ。

 

「ユリウス。この階段の先ってどうなってんだ?」

 

「ユークリウス領の郊外へ繋がっている」

 

「案内してくれ」

 

「わかった」

 

 ユリウスはこの階段をナツキ・スバルに見せた時点で、階段の先も案内することを決めていた。

 

 

 薄暗い暗い道を進んで暫く、自然豊かな森の中へ出た。

 

「ここからか……」

 

 そこはエルザと魔獣が現れても不思議ではないひとけのない森だった。ユークリウス邸へと戻ったナツキ・スバルはユリウス、エミリア、レムを集めて会議を開く。

 

「決まったぜ、エミリアちゃんへのお願い事」

 

「本当!!」

 

 やっとお礼が出来ることに、はしゃぐエミリア。

 

「……と、その前に。ユリウス。あの階段だけどエミリアちゃん達にもみせていいよな?」

 

「……わかった。あまり知る人間は増やしたくないが、君にも案内した事だしな」

 

 ほんの少し葛藤した後にユリウスは言った。

 

 

「わぁーー。大きな階段!!」

 

 隠し階段を見たエミリアが開口一番に言う。

 

「さて、エミリアちゃんへのお願い事だが。この階段の先にある通路に魔獣を寄せ付けない結界石をびっしり配備してくれ!!」

 

 屋敷の守りを案ずるナツキ・スバルの提案にユリウスも特に異論はないようだ。屋敷の周囲ならばここに魔獣は出ないと言うところだが、ここまで具体的な場所を示されたとあっては本当に魔獣がこの隠し階段から出てくるような気さえしてしまう。

 

「わかったわ!!私、頑張っちゃう!!」

 

 ユリウス監督の元、隠し階段の先にある通路に結界石が取り付けられた。

 

 ナツキ・スバルの1日目、終了。

 

 

 ナツキ・スバルの朝は早い。ユリウスと剣の修行をして体を動かす。それが終われば庭で休憩がてらに空を眺めていた。考えるのはナツキ・スバルを取り囲みレムを殺した黒いフードの連中。

 

「魔女教か」

 

 一度目のループであれば、魔女教と遭遇するのはロズワール邸へ向かう途中であった。それが前回のループでは出発が1日遅れた為に、このユークリウス邸へやってきたのだ。

 

「あの遭遇は偶然じゃない」

 

 一度目のループで遭遇した魔女教徒はナツキ・スバル達を意図的に狙っていた。でなければ、ユークリウス邸にまで押し掛ける筈がない。

 

「かなりの人数がいたな」

 

 自分を一方的に攻撃したレムでさえなぶり殺しに遭うレベル。多勢に無勢と言うやつだ。

 

「こっちで戦えるのは何人だ?」

 

 ユリウス、エミリア、レムの三人しか思い浮かばない。結界石があるとは言えどうなるか、エルザに魔獣、そして魔女教徒を相手にしなくてはならない。

 

「人手不足だ」

 

 ナツキ・スバルが行った現状把握では明らかな劣勢であった。

 

「おにーさん。何してるの?」

 

 頭を抱えるナツキ・スバルに掛けられた陽気な声。ミミが隣に座っていた。

 

「ミミ!!」

 

 そこにいたのはパックと並んで癒しであるミミ。

 

「むむむ?ミミ、おにーさんと何処かで会いましたかな?」

 

 それでもやはり、ミミの方は忘れている。ナツキ・スバルは胸が苦しくなりながらもミミに問い掛けた。

 

「なあ?ミミって強いのか?」

 

「ミミは強いよ!!ちょーサイキョー!!団長もいればもっとサイキョー!!」

 

「おおお!!」

 

 突如降って湧いた思わぬ光明にナツキ・スバルは歓喜の声を上げる。ミミの言う団長とは王都の一度目のループで会ったミミの保護者である体の大きな犬の獣人のことだろう。

 

「団長はどこにいるんだ?」

 

「団長はここにはいないよ」

 

「そうだよな……」

 

 そんなに都合よくいる筈がない。王都では運が良すぎたのだ。

 

「でも団長はおじょーが呼べばくるよ!!」

 

 ナツキ・スバルの頭に電流が駆け巡る。

 

「おじょーもミミも明日帰るけどね」

 

 今日は2日目、本来であればミミとアナスタシアは今日にでも帰ってしまうが、アナスタシアの計らいによって明日となったのだ。もう時間がない。この人手不足を解消するためにはアナスタシア、もといおじょーに団長を呼んでもらう他ない。

 

「ミミ!!おじょーの場所は?」

 

「それはいえなーい!!」

 

「クソォォォ!!」

 

 ナツキ・スバルはユークリウス邸へと駆け出した。

 

「ユリウス!!ユリウス!!ユリウス!!」

 

 大急ぎでユリウスを捕まえて聞きたいことを聞く。

 

「どうしたんだスバル?」

 

「お前の主であるアナスタシアさんについて教えてくれ!!」

 

「……それは何故だい?」

 

「今、アナスタシアさんはこの屋敷にいるんだろ!!」

 

「……どうしてそう思うんだい?」

 

「昨日、ユリウスは王選候補者であるエミリアちゃんと会ってる最中に途中退席したよな?ユリウスみたいな礼節にしっかりとした近衛騎士がエミリアちゃんよりも優先するべきことが出来たってことだ!!」

 

「……それで?何故アナスタシア様がここにいると?」

 

「ユリウスがエミリアちゃんよりも優先するべきことなんて一つしかない。同じ王選候補者だろ?仮にアナスタシアさん以外の王選候補者だった場合、エミリアちゃんよりも優先するはずはないからな!!」

 

「なるほど……」

 

 ユリウスはフーっと息を吐いた。

 

「スバルの言う通りだ。アナスタシア様は今、この屋敷におられる」

 

「でだ、昨日ユリウスが俺に伝えた伝言は覚えてるよな?」

 

「ああ」

 

「『会いたければ探してみろ』。アナスタシアさんがどういう理由で俺を避けてるのかは分からないが、これは俺とアナスタシアさんの勝負なんだよ!!」

 

「勝負?」

 

「そう!!見つけられたら俺の勝ちで、見つけられなかったら俺の負けだ」

 

「なるほど、確かにあの方のやりそうな事だ。しかし、スバル。君がその勝負に乗る必要があるのかい?」

 

「あるんだよ!!アナスタシアさんは明日にでも帰っちまう!!そうなったら俺の負けだ。男として負けられない戦いがそこにあるんだ!!」

 

 死に戻りのことを話さずにそれっぽく会わなければならない理由を伝えるナツキ・スバル。しかし、その熱意はユリウスに伝わる。

 

「俺がこの屋敷の部屋を片っ端から捜索してもアナスタシアさんはきっと納得しないだろう。俺は確実な根拠を持ってアナスタシアさんの居場所を見つけないといけない。その為にもユリウス!!アナスタシアさんの情報が必要なんだ」

 

「しかしだな……」

 

「問題はないハズだぜ!!向こうもそのつもりなんだ!!ユリウスやミミたちに課せられた指示は『ミミから漏れるであろうおじょーの正体の秘匿』と『おじょーであるアナスタシアさんの居場所の秘匿』だろう?」

 

「………」

 

「一つ目の指示はこの勝負の難易度が下がっちまうから。そして二つ目の指示はこれがなけりゃ勝負にならないからな」

 

「……なるほどな」

 

「だが、アナスタシアさんがどんな人かについての情報なら教えて問題ないハズだ!!」

 

 しばらく訪れた静寂。

 

「わかった」

 

 その後にユリウスが答える。

 

「君にアナスタシア様がどんなに素晴らしい人か教えよう」

 

 ユリウスも中々に乗り気な様だ。

 

 

「ふー」

 

 ユリウスの話を聞いた後、ナツキ・スバルは自室に戻ってその内容を反芻していた。

 

 商業が盛んなカララギという国において、数年で自分の商会を1、2を争うまでに成長させたという天才。相手によっては実力行使すら辞さない猛者である。己に仕える一の騎士であるユリウスの戦いを見るのが好きなんだとか。鉄の牙と呼ばれる私兵団を有しており、ミミもその一員である。ミミはかなりのお気に入りで、よく一緒にご飯を食べたりするらしい。

 

「ユリウスから聞いた話を元に作戦を立てていくか」

 

 ユリウスからの情報で思い付いた策がある。

 

「まずはそれを試すとするか」

 

 MIO作戦の開始だ!!

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。