ほんの少し慎重になったスバル君を異世界に投入する話   作:面白い小説探すマン

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八話

 ナツキ・スバルが今分かっているだけでも、このユークリウス邸を『腸狩り』エルザ、犬の魔獣、魔女教徒の集団が4日後の夜に襲う。今日は二日目、すなわち明後日の夜にはこのユークリウス邸宅は地獄となるのだ。

 

 その襲撃者の面々を迎え撃つには更なる戦力が必要となる。現状、この屋敷にいるユリウス、エミリア、レムだけでは歯が立たないレベルだ。そこで、ナツキ・スバルは王選候補者の一人であるアナスタシア・ホーシンにミミの言う団長を呼んでもらうことにした。

 

 しかし、現在アナスタシアはユークリウス邸で雲隠れを決め込んでいる。ユークリウス邸の戦力不足を解消するにはアナスタシアと会う必要があるのだが、肝心の居場所が分からなかった。屋敷をしらみ潰しに探しても、それではアナスタシアの興が削がれて頼みを聞いてはくれないだろう。だからこそ、アナスタシアの方からアクションを起こさせる必要がある。

 

 その為の作戦がMIO作戦だ。

 

 

 ナツキ・スバルはユークリウス邸の庭でレジャーシートを広げていた。ユリウスから借りたシートの上に腰かけて目的の人物を待つ。その手にはスナック菓子の袋が開封されていた。あの子ならこの匂いに気付くはずだ。

 

「おにーさん!!何それ?すごくいーにおい!!」

 

 来た!!ナツキ・スバルが待つその人物とはミミである。

 

「おーミミ!!一緒に食べるか?」

 

 スナック菓子を一つ、口に放り込みながら言った。

 

 

 スナック菓子にこれ以上手を出さないという条件で、ナツキ・スバルは膝の上にミミを乗せていた。スナック菓子にがっつくミミの動作で、そのフサフサの猫耳が頬に当たってこそばゆい。ナツキ・スバルは至福の時を過ごしていた。

 

 アナスタシア。お前も来いよ!!早くしないとミミがお菓子を食べ終わっちまうぜ!!ナツキ・スバルはミミの頭を撫でながら、アナスタシアがいるであろうユークリウス邸を見上げた。

 

 これがMIO(ミミと一緒にお菓子)作戦である。ユリウスからアナスタシアはミミと一緒に食事をするのが好きだと聞いた。ならばこんなレジャーシートの上で楽しくお茶会していれば自分も混ぜてと言ってくるかもしれない。

 

「ダメだな……」

 

 庭から確認した限り、ちらほらと動きのある窓はあった。しかし、このユークリウス邸には使用人も住んでいるためそれだけでは当たりを付けられない。動きがあった部屋に突入してもいいが、まだ絞り混みが足りない。最初に開けた部屋がアナスタシアの部屋であるくらいには追い込みたいところだ。そうでなければ向こうも納得しない。

 

 ユークリウス邸を観察している間にミミはスナック菓子を食べ終えてしまった。空になったスナック菓子の袋をミミから回収する。

 

「おにーさん!!またあしたー!!」

 

 ミミは去っていった。MIO作戦ではあまり収穫がないまま、ナツキ・スバルは2日目を終える。

 

 

「もうYGK作戦しかねぇな」

 

 それが一晩考えたナツキ・スバルの答えであった。アナスタシアの目につく場所で、興味を引くようなことをしてアナスタシアを動かしても、使用人も動いてしまえば特定は出来ない。

 

 アナスタシアの興味を引く。

 

 屋敷から使用人を排除する。

 

 この二つを同時になし得るのがYGK作戦である。今日がアナスタシアの帰ってしまう3日目。泣いても笑ってもこれが最後のチャンスだ。これを逃せば、ナツキ・スバルは再び、地獄の様な光景を目にした後、死に戻りをするしかない。もうあんなのは懲り懲りだ。自分が死ぬのも、目の前で誰かが死ぬのも。

 

「やるしかねぇな」

 

 ナツキ・スバルに退路はない。

 

 

 3日目の朝。ナツキ・スバルはユリウスにある提案をしていた。

 

「もう一度言ってくれ、スバル」

 

 ユリウスはナツキ・スバルのその提案を聞き返す。

 

「んじゃ、もう一度言うぜ。ユリウス、俺と決闘してくれ!!」

 

 これがYGK(ユリウスとガチ決闘)作戦である。

 

「なぜ、私が君と決闘をしなくてはならないんだい?」

 

「アナスタシアさんとの勝負に勝つためだ!!」

 

 ユリウスから得た情報。アナスタシアは己の一の騎士であるユリウスの戦っている姿を見るのが好きらしい。これなら確実にアナスタシアの興味を引ける。

 

「だが、君と私では……」

 

 そう。力量が違いすぎる。ユリウスとナツキ・スバルの戦力は文字通り天と地の差だ。これまでの剣の修行で痛いほど理解している。

 

「頼むユリウス!!俺と戦ってくれ!!」

 

 真っ直ぐと己を見つめるナツキ・スバルの黒い瞳をユリウスは見た。

 

「一方的な戦いとなるだろう」

 

「そうだな」

 

「それでも君はやると?」

 

「ああ!!」

 

 ナツキ・スバルが折れることはないと悟ったユリウスは決断を下す。

 

「わかった。君の申し出を受けよう」

 

「ユリウス……」

 

「アナスタシア様の御前だ。手は抜かないよ」

 

「ああ。ありがとう」

 

 ナツキ・スバルとユリウス・ユークリウスとの決闘の知らせはユークリウス邸に瞬く間に広がった。

 

 

 ナツキ・スバルは木剣を持ってユリウスと相対する。場所はユークリウス邸のどの部屋からも見ることができる庭だ。王選候補者であるエミリアそして多くの使用人が庭に下りてナツキ・スバルとユリウスの様子を出来るだけ近くで見ていた。

 

 これでいい。部屋で寛いでる使用人でもこんなイベントがありゃ間近でみるだろ。

 

「スバルそろそろ始めようか」

 

 自分と同じく木剣を持ったユリウスが言う。

 

「そうだな。その前にルールの確認だ。勝利条件は『相手に参ったと言わせる』か『相手を気絶させる』か『相手の木剣を手放させる』のどれか1つでいいな?」

 

「……ああ。わかった」

 

 ユリウスが即答しなかったのには訳があった。ナツキ・スバルとは剣の修行をした上で、その才が凡庸であることは分かっている。100回戦っても100回勝てるだろう。しかし、今回の決闘の最後の勝利条件である『相手の木剣を手放させる』という言葉にユリウスは思うところがあった。

 

 ユリウスがナツキ・スバルと初めて出会った王都。その貧民街で『腸狩り』エルザと遭遇した。エミリアとパックのコンビネーションによって一度、エルザはその身を氷に閉ざしたが、そこで気を緩めてしまい『防魔の外套』を纏ったエルザの奇襲に対応できなかったのだ。本来であればエミリアは致命傷を負っていた。しかし、ナツキ・スバルがエルザの武器を手元へ召喚することで難を逃れたのだ。加護に依るものかどうかは分からないがナツキ・スバルに妙な力があることは間違いない。

 

 そして今回の『相手の木剣を手放させる』という条件に関してはナツキ・スバルに分があると言わざるを得ないだろう。何故なら自分はナツキ・スバルがどうやってエルザの武器を消したのか検討も付かないのだから。もしかすれば始まりと同時に剣を奪われるかもしれない。ユリウスは油断の欠片もなくナツキ・スバルを見据えた。

 

 

「それじゃあ、合図は私がするわね」

 

 エミリアが宣言する。

 

「よーい。どん!!」

 

 エミリアの合図と同時にナツキ・スバルは駆け出した。木剣をユリウスに振り下ろす。当然、ユリウスは難なく弾くがその動きはどこかぎこちない。ナツキ・スバルの一挙一動に集中し、武器を奪った力のネタを暴こうとする。

 

「ぐぁ!!」

 

 ナツキ・スバルはユリウスの剣に吹き飛ばされた。ユリウスは疑問だった。ナツキ・スバルが自分に勝つためにはあの力を使う他ない。

 

「がっ!!」

 

 再び吹き飛ばされるナツキ・スバル。剣こそ離さなかったものの、力を使う予兆がまるでなかった。使えないのか、使うのに条件があるのかは分からないが、ユリウスはこの決闘を終わらせることにした。

 

 

「ぐぁあ!!」

 

 もう何度目になるか分からないユリウスによる吹き飛ばし。ナツキ・スバルは震える膝を抑えながら立ち上がった。

 

「はぁはぁはぁ」

 

 息切れするナツキ・スバルに対して、ユリウスは息切れどころか汗一つかいていない。

 

「降参してはどうだ?スバル」

 

 ユリウスからの提案。

 

「ユリウス……」

 

「君では私に勝てない」

 

「だろうな」

 

 ナツキ・スバルは即答した。

 

「君に勝機はないだろう」

 

「それはどうかな?」

 

 その言葉にユリウスが反応をみせる。

 

「ルール無しのなんでもありなら、勝ち目はねぇけどよ。今回に限っては一つだけ勝ち目があるだろ?」

 

「………」

 

「お前なら分かってる筈だよな?」

 

「……ならば何故、そこまで追い詰められてもあの力を使わない?」

 

「言っただろ?これはアナスタシアさんの御前だって。それが答えだ」

 

 ナツキ・スバルの勝算というのは勿論『死に戻り』暴露の際に発生する時間停止。その中で唯一動ける影の手にユリウスの武器を奪ってもらうことだ。

 

 何故、今の今までそれを使わなかったのか。これは決闘の目的としてアナスタシアに確実に見てもらう必要がある。では、決闘の中で最も注目度が高いのは?それは決着する瞬間だと思った。

 

「スバル!!これ以上は危険よ!!」

 

 エミリアが身を案じてくれている。そろそろいいだろう。

 

「なあ、ユリウス。俺と勝負しないか?」

 

「勝負?」

 

「次で終わらせよう。俺はあの力を使うぜ?先に相手の武器を飛ばした方の勝ちだ!!」

 

「なるほど。君が私から奪うか、私が奪われるよりも前に君の武器を飛ばすかという勝負か」

 

「乗るか?ユリウス!!」

 

 不敵な笑みを浮かべるナツキ・スバルにユリウスは優雅に笑う。

 

「いいだろう、スバル!!その勝負受けて立つ!!」

 

 ナツキ・スバルとユリウス・ユークリウス。両者同時に地面を蹴った。

 

 もはやその速度はナツキ・スバルには見ること叶わない。圧倒的な速度で振るわれたユリウスの木剣はナツキ・スバルの木剣を正確に弾き飛ばす。ユリウスは確かな手応えと共に、この決闘に終止符を打った。

 

 

「バカな?!」

 

 ユリウスは驚きの声を上げた。エミリアは勿論のこと、周りを取り囲む使用人たちもざわめきの声を上げる。

 

 ユリウスは確かにナツキ・スバルの剣を弾いた。前で落下する剣がその証拠だ。しかし、ユリウスの剣も消えていた。その剣はナツキ・スバルが手にしている。

 

 ナツキ・スバルは胸を抑えながら──笑っていた。

 

 ナツキ・スバルはユリウスの目標を剣に固定させる必要があった。問答無用で気絶させられたのでは『死に戻り』を暴露することなくこちらの負けだ。それほどまでにユリウスの剣速は凄まじい。しかし、剣を弾かれた直後であれば意識はある。勝負でユリウスの狙いを固定したのだ。

 

 膝を落として苦しむナツキ・スバルにこれ以上戦う力がないことは明白だ。しかし、決闘の勝利条件は『相手の木剣を手放させる』こと。

 

 無傷のユリウス。

 

 傷だらけのナツキ・スバル。

 

 それでもこの決闘は両者引き分けだった。

 

 唖然とするユリウスを横目にナツキ・スバルは確かに見た。ユークリウス邸の最上階一番左の部屋の窓の中が大きく動いたことを。そして、その場所は確かにMIO(ミミと一緒にお菓子)作戦でも動きのあった窓だった。

 

「そ、そこまで!!引き分け!!」

 

 エミリアの決着の合図と共に走り出す。身体全身が痛むこともお構いなしに走った。アナスタシアが部屋を変えてしまえば全てが水の泡。その前に何としてでもたどり着く必要がある。

 

 ナツキ・スバルは使用人を掻き分けてユークリウス邸へ駆け込んだ。階段を駆け昇り、最上階を目指す。

 

「これから何をなさるお積もりですか?」

 

 目の前にナツキ・スバルの頭蓋を砕き、右腕を粉砕した青髪のメイド──レムがいた。

 

 ナツキ・スバルにとって恐怖の象徴ともいえる少女─レム。使用人は全て出払っておりここにいるのは二人だけだ。

 

「そこをどいてくれないか?」

 

「質問に答えてください。あなたはこれから何をなさるお積もりですか?」

 

「俺はこの屋敷にいるアナスタシアさんに会いに行くだけだ!!」

 

 ナツキ・スバルとしてもこの機は逃せない。

 

「アナスタシアさんから伝言をもらった。『会いたければ探してみろ』と。これは俺とアナスタシアさんの勝負なんだよ!!」

 

「では質問を変えます。あなたは先ほどユリウス様と戦ってもいましたが、決闘の最後にユリウス様の剣を奪いましたよね?魔女の残り香……。何故あなたが身に纏うその悪臭が強くなったのですか!!」

 

 ここに来て知る新たな情報。あの影の手が魔女の物ならば、それを呼び出す『死に戻り』の暴露はナツキ・スバルの魔女の残り香を強くするらしい。いや、レムが言うなら間違いないのだろう。

 

「なるほどな。それが今、このタイミングで俺に接触してきた理由か」

 

「ッ!!と言うことはつまり……」

 

「いや違う、あれはペナルティだ」

 

 レムには全てを説明することにした。

 

「俺が好き好んでこんな匂いを漂わせてると思うか?俺じゃない!!別の誰かが俺にこの匂いを付けてんだ!!そいつの気に障ったことを俺がすればこの匂いは濃くなるんだ!!」

 

「………あなたは何のためにアナスタシア様にお会いしたいのですか?」

 

 レムが核心に迫る質問を繰り出す。

 

「それは……みんなを救うためだ!!」

 

「救うため?」

 

「このままじゃあ、この屋敷は地獄になっちまう!!俺はもう誰かが死ぬところなんて見たくねーんだ!!そいつを回避する為にはアナスタシアさんの力が必要なんだよ!!」

 

 レムにしてみれば突飛なことを喚き続ける目の前の男。しかし、誰かを救いたいという気持ちは上辺ではないと感じた。

 

「通してくれ!!レム!!今しかないんだ!!お前が俺に聞きたいことは山のようにあると思う。それには後で全部答える!!だから頼む、今だけはそこを通してくれないか!!」

 

 ナツキ・スバルの渾身の叫び。

 

「………ここはユリウス様のお屋敷ですからね。今殺すわけにはいきません」

 

「レム!!」

 

「後で必ず全てを洗いざらい吐いて貰いますからね」

 

「わかってる」

 

「レムも同行します。まだ疑いが晴れたわけではありませんから」

 

「分かった!!んじゃ二人で行くぜ!!」

 

 走るナツキ・スバルの後を追うレム。

 

「あなたがユリウス様にやられた傷も相当です。いつ気を失ってもおかしくありませんよ」

 

「アナスタシアさんに会うまでは根性だ!!」

 

 目星を付けた部屋の前に到着する。ここだ、間違いない。

 

 ナツキ・スバルはノックをした後に部屋の扉を開けた。そこにいたのは──

 

「おお!!おにーさん!!傷だらけだけど、だいじょうび?」

 

 杖を持った猫耳少女のミミと──

 

「いらっしゃいナツキ君。ようここがわかったなぁ」

 

 関西弁を使う、白い服に身を包んだ女性だった。

 

 

 

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