ほんの少し慎重になったスバル君を異世界に投入する話   作:面白い小説探すマン

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九話

 

 

 

「ここに来たことやし、もう知っとると思うけど一応自己紹介や」

 

 アナスタシアの部屋にたどり着いたナツキ・スバルは椅子に座り、机を挟んでアナスタシアと向かい合っていた。アナスタシアの後ろにはミミが、ナツキ・スバルの後ろにはレムが控えている。

 

「ウチはアナスタシア・ホーシン。ホーシン商会の会長や」

 

「初めましてだな、アナスタシアさん。そっちも色々と俺のこと知ってそうだけど一応自己紹介」

 

 ナツキ・スバルはゴホンと喉を調えた。

 

「俺の名前はナツキ・スバル!!無知蒙昧にして天下不滅の無一文だ!!」

 

「おお!!こーじょーってやつですな!!」

 

 ミミはいい反応を返してくれるが当のアナスタシアはナツキ・スバルを値踏みするように見る。

 

「無知蒙昧ねぇ。この部屋に来ることが出来たのに、無知蒙昧は少し通らんとちゃう?」

 

「おお!!んじゃ、無知蒙昧は卒業で」

 

 アナスタシアの言葉に同意を示すナツキ・スバルだが、早速本題を切り出すようなことはしない。その本題とは勿論、このユークリウス邸に戦力を集めることである。しかし、まずはジャブを打ち込んでアナスタシアの人となりを知らなくては。ナツキ・スバルはユリウスから聞いた情報でしかアナスタシアを知らないのだ。

 

「ユリウスから聞いてたけど王選候補者でアイツが主と崇めてるんだってな」

 

「そうやで。ユリウスはウチの一の騎士や」

 

「『会いたければ、探してみろ』。その一の騎士を通じて、どうして俺にそんなことを言ったんだ?」

 

 アナスタシアがこの屋敷にやってきた1日目にユリウスから伝えられた伝言。

 

「ん~?ナツキ君はなんでやと思う?」

 

 ナツキ・スバルの問いに対して、アナスタシアは楽しそうに聞き返す。

 

「前はアナスタシア陣営の間者か疑われてんのかと思ったけどな、疑ってるやつにそんな伝言しないだろ?」

 

「そやな。でも、確かにそれもあるで」

 

「他にもなんかあるってことか?」

 

 そんな、考えるナツキ・スバルをアナスタシアは面白そうに見ていた。

 

「これは俺が個人的に感じたことなんだが、あの伝言はアナスタシアさんが俺に仕掛けた勝負なんじゃないかと思うんだよ」

 

「勝負?」

 

「ああ、アナスタシアさんを見つけられたら俺の勝ちで、見つけられずにアナスタシアさんがユークリウス邸を出ちまえば俺の負けって勝負だ」

 

 ナツキ・スバルの答えにアナスタシアは笑みを深める。

 

「勝負……。あながち間違いでもないなぁ。確かにその通りや」

 

「んで?アナスタシアさんはどうしてこんなことを?態々、ユリウスやミミに正体や居場所を口止めさせてまでして」

 

「それはな──ナツキ君の価値を測るためや」

 

「俺の価値?」

 

 そうやで、と言うとアナスタシアは続けた。

 

「商売と同じや。多少の不利益があったとしてもそれを上回る利益があればいい。ナツキ君はそうは思わん?」

 

「なるほどな。ってことは、間者の可能性があることを差し引いても、俺には会う価値があったって解釈でいいか?」

 

「そうやな。3日でウチの存在に気付き、ウチの居場所を一発で探り当てた。ミミと仲良くお茶会しとったのは兎も角、ユリウスと引き分けたのは脱帽やったわ。真剣勝負ならまだしも、あれは前もってルールを決めていた決闘。どうやったかは分からんけど、ユリウスの剣を奪ったのは流石やと言う他ないな」

 

「まあ、アナスタシアさんが驚いてくれたお陰で、こうして会えてるんだけどな」

 

「その機会を作ったナツキ君に素直に賞賛やわ」

 

 アナスタシアは紅茶に口を付けると言葉を続ける。

 

「それで、ナツキ君がウチを探しだしてまでやりたかったことってなんや?」

 

「もしかして、無料でお願い聞いてくれたり?」

 

 そうなれば万事解決ではあるのだが。

 

「それは物にもよるけどぁ」

 

「まぁ。そうだよな」

 

 そこで、部屋の扉が開かれてユリウスとエミリアが入ってくる。

 

「アナスタシア様!!」

 

「いた!!ちょっとスバル!!あなたの身体はユリウスにやられてボロボロなのよ!!」

 

 それを見たナツキ・スバルはニヤリと笑った。そして、ユークリウス邸を取り巻く難題を一気に解決する一手を打つ。

 

「それじゃあ、今から緊急ユークリウス邸首脳会議を開くぜ!!アナスタシアさん、勿論アンタも参加してくれよな!!」

 

 それから、ナツキ・スバル発案のユークリウス邸会議開催が決まった。その場は一旦お開きとなったが、その際にアナスタシアが最後に放った台詞──

 

 ──もう一つの価値を超えることを期待しとるわぁ。ナツキ君──

 

 それが、ナツキ・スバルの耳に残った。

 

 

 そこは1日目にエミリアを迎えたユークリウス邸にある応接室。その部屋に、ユリウス、アナスタシア、ミミ、エミリア、レム、そしてこの会議の発案者であるナツキ・スバルが集まっていた。

 

「アナスタシアさんも、ユリウスのお屋敷にお泊まりしてたのね」

 

 エミリアがこの三日間で初めて顔を合わせるアナスタシアに言う。

 

「エミリアさんもおおきに。ウチのユリウスと食客のナツキ君の世話になったそうやねぇ」

 

「そうなのよ。王都ではすごーく助けられちゃって」

 

「ユリウスは騎士やからお礼とかはいらへんけど、恩は感じてるんよな?」

 

「う、うん。いつかはユリウスにもお礼しなきゃなって思うわ」

 

「それならええわぁ」

 

 えげつねぇ……。ナツキ・スバルはアナスタシアの手腕に内心引く。純粋無垢なエミリアから言質を取りやがった。これがアナスタシアが商売の天才である所以の一つなのだろう。

 

「ゴホン!!それじゃあ、早速だけどユークリウス邸首脳会議を始めようか」

 

「何するん?」

 

 アナスタシアが面白そうに言った。それにナツキ・スバルはレムを見ながら返す。

 

「……っと、その前に、レム。後で洗いざらい答えるって言ったよな?聞きたいことを全部聞いていいぜ」

 

 レムはピクリと反応した。

 

「今……ですか?」

 

「そうだ!!この面子の前なら俺は適当な事言えねぇだろ。元よりそのつもりだから、遠慮なく聞いてくれ」

 

「……わかりました。では遠慮なく聞きますね。何故あなたから魔女の悪臭がするのですか?」

 

 その質問にはユリウスが手を挙げる。

 

「一ついいだろうか?魔女の悪臭とはなんだい?」

 

 ナツキ・スバルはレムに遠慮なく答えるよう促した。

 

「レムが俺から感じる魔女の悪臭とは何か、全て説明してくれ」

 

「わかりました。レムがナツキ・スバル様より感じる魔女の悪臭とは、魔女教を崇拝している魔女教徒の連中が身に纏う物と同じ代物です」

 

「ウチからも一つええかな?」

 

 次はアナスタシアが手を挙げる。

 

「レムちゃんやったな?レムちゃんはナツキ君から魔女教徒と同じ匂い、悪臭を感じると?」

 

「はい。そうです」

 

「そないな悪臭やったら、ウチやユリウスも感じてええ筈やろ?百歩譲って人間であるウチらが感じんくても、獣人であるミミまで何も感じんのはおかしいとちゃう?」

 

「それは……レムにだけ分かる匂いだからです。姉様にも分かりません」

 

「レムちゃんの姉様にも分からん匂い。レムちゃんはどうやって分かるようになったん?」

 

「そ、それは………」

 

 レムは言葉を濁らせた。それを見たナツキ・スバルはアナスタシアとレムの会話に割り込む。

 

「レム。俺が言うのも何だけど言いたくないなら無理して言わなくてもいいんだぜ。人には誰だって言いたくない事の一つや二つある」

 

「ナツキ君。それは無理なんよ」

 

 しかし、アナスタシアはレムに答えを強要した。

 

「ナツキ君が本当に魔女教徒と同じ匂いをしとるのか、レムちゃんの法螺なのかはっきりさせなあかん」

 

「ちょっと、アナスタシアさん?!」

 

「これはナツキ君だけの問題とちゃうねん。ナツキ君はユークリウス家の食客やろ?」

 

 そう言われてしまえばナツキ・スバルは黙るしかない。しかし、その時間でレムは覚悟を決めたのか、己の過去について話し始めた。

 

 レムの話を纏めると、レムとレムの姉様は鬼族と呼ばれる亜人種で、昔は山奥の村に住んでいたとのこと。ある日、村が魔女教徒に襲撃されてレムは姉様以外すべての家族を失った。それからレムは魔女教徒の悪臭を感じ取れる様になったという。

 

「そ、そうだったのか……」

 

 ここに来て判明するレムがナツキ・スバルへと向ける殺意の理由。それを聞いたアナスタシアが話を進めた。

 

「なるほどなぁ。それならまあ、レムちゃんが魔女教徒の悪臭を感じる力があるってことにも納得がいくかもなぁ」

 

 アナスタシアは次にナツキ・スバルへと視線を向ける。

 

「ほんなら次はナツキ君の番や。レムちゃんの力がほんまやとして、ナツキ君に魔女教徒と同じ匂いがする理由は?」

 

 ナツキ・スバルはこの会議でレムの質問に答えると決めた時点で、自分の生い立ちについて語ることを決意していた。

 

「それに答えるにはまず。俺の出身について話す必要があるな」

 

 ナツキ・スバルはこの会議に出席している全員を見渡す。

 

「俺は六日前まで日本という国で暮らしていた!!故に無知蒙昧……は卒業だとしても、無一文だというわけだ!!」

 

 その発言に全員ポカンとした。

 

「アナスタシアさん。日本という国について聞き覚えは?」

 

「あらへんなぁ。長いこと商売やってきたけど初めて聞くわぁ」

 

「それもそうだろう。なぜなら、日本はこの世界ではない別の世界の国だからだ!!」

 

 ナツキ・スバルの言葉にアナスタシアは少しがっかりしたように言う。

 

「あのなぁ、ナツキ君。別の世界っちゅうことは大瀑布の向こう側っちゅうことや。今までもそんなことを嘯く輩はおる。その大抵が相手にしても損なばかりの連中なんよ」

 

「なるほどな。確かにアナスタシアさんの側からすれば只の妄言にしか思えないよな?」

 

「そういうことや。悪いけどウチとミミはここらで帰らせてもらうでな」

 

 席を立つアナスタシアとミミにナツキ・スバルは切り札を使う。このユークリウス邸の絶望的な状況すら一変させる切り札だ。

 

「なんやそれ?」

 

 商売の天才であるアナスタシアでさえ目を引く物がナツキ・スバルの前にあった。

 

 そのアナスタシアの反応にナツキ・スバルはニヤリと笑う。

 

「これは俺が日本から来たという証拠の物品だ。おそらくこの世界には二つとないものだぜ!!」

 

 ナツキ・スバルの目の前に広げられていたのは、ガラケー・カップ麺・ミミに食べられたスナック菓子の袋・ビニール袋。ナツキ・スバルが異世界へと召喚された際に身に付けていた初期装備一覧だった。

 

「アナスタシアさん。ここを逃せばきっと二度とお目にかかれないぜ。続きを聞きたきゃ席に座りな!!」

 

 ナツキ・スバルの目の前の物品に目を通したアナスタシアは渋々と椅子に座り直した。

 

「まぁ、ええわ。続きを聞いたる。しょうもないもんやったらホーシン商会敵に回すって覚えとき」

 

「勿論だぜ!!アナスタシアさん。んじゃあコイツらの説明をするぜ」

 

 ナツキ・スバルは持ってきた日本の品を自分が知る限り、事細かに説明した。

 

「さ~て、どうかな?アナスタシアさんの見覚えのある品はあったかな?」

 

 未だ吟味を続けるアナスタシアに言う。

 

「ミミが食べとった菓子の袋。確かに見たことない素材や。丈夫で頑丈。この白い袋もどうやって作ったか検討もつかへん。このカップ麺やったな?これも今までにない携帯食や。そして、このガラケーちゅうミーティア。ウチも職業柄ミーティアは扱っとるが、ここまでボタンの多いものは初めてみる。確かにこの世界にないっちゅわれても納得せぇへんことはないなぁ」

 

「よーし!!んじゃ俺が別の世界の人間だとアナスタシアさんにもお墨付きを貰った上で、なんで俺から魔女の悪臭がするのかを説明するぜ」

 

 ナツキ・スバルはパンと手を叩いて話を切り替えた。

 

「俺は六日前にこのルグニカに来たって言ったな?ユリウス、お前と初めて会った日だ」

 

「私がスバルの案内に従ってエミリア様を『腸狩り』から助けた日だな」

 

 ユリウスも六日前という言葉に補足を入れる。

 

「そうだ。俺はその日に日本からルグニカの王都へ召喚された」

 

「召喚?」

 

 馴れない言葉にユリウスが聞き返した。

 

「ああ。俺は気付いたら王都にいた。なんの前触れもなくな。俺も詳しくは分からねぇけど、俺をルグニカに召喚した奴が俺に魔女の残り香を付けたんだ」

 

「本来なら眉唾やって切り捨てるんやけどなぁ」

 

 しかし、ルグニカどころかカララギでも見掛けない異色の品々がその選択をアナスタシアに取らせない。

 

「レムには悪いけど俺が魔女の悪臭について分かってるのはこれくらいしかないんだ」

 

「……なるほど。分かりました。あなたの話では六日前にルグニカに現れたとのことですので、それ以前にあなたが活動していた痕跡がないか洗い出してみます」

 

「まぁ。それしかないなぁ。裏の裏までばっちり探ったるさかい、ナツキ君は覚悟しときぃ」

 

 アナスタシアもレムの言葉に同意した。

 

「ま、まぁ。みんながそれで納得するってんなら、それでいいや………」

 

 ナツキ・スバルはこの流れに乗じて新たな情報を開示する。

 

「それじゃあ、今回みんなに集まってもらった本題について話させてもらうとするぜ!!明日の夜。このユークリウス邸が襲撃される。その為に力を貸してほしい!!」

 

 その発言に全員が反応した。

 

「襲撃やて?また突飛なこといいだすなぁ」

 

 代表してアナスタシアが言う。

 

「ナツキ君にどうしてこれから、ユリウスん家が襲撃されるって分かるねん?襲撃者の一味なんか?」

 

 これから襲撃されることを話す上で避けては通れない疑問。これに対してナツキ・スバルは答えを決めていた。『死に戻り』に関して話さずにみんなを納得させるだけの答えを。

 

「そうじゃない。俺がこれから襲撃が起こることを知ってんのは、ある能力によるものだ」

 

「能力?」

 

 それには心当たりのあるユリウスが聞いた。

 

「ああ。俺は日本からルグニカに召喚された時にある能力を得た。それは──断片的にではあるが未来を知る事が出来る能力だ」

 

 世界は止まらない。これは許されるのだとナツキ・スバルは内心安堵する。

 

「まさか、その能力によってスバルは私を貧民街に案内するよう行動したのか?」

 

「そうだ」

 

 かつての王都での出来事を思い出すユリウス。

 

「しかし、君はあの時、エミリア様が『腸狩り』と遭遇する事は知らないと言った。王都に未知の獣が出現するとも。しかし、獣は結局出現しなかった様だがそれについてはどう説明するんだ?」

 

「ユリウスの推測通りだ」

 

 ユリウスの推測。それは『腸狩り』を撃退した事によって獣が出現しなくなったというものだ。

 

「俺達が何もしなければ、獣は確かに出現した。だが、俺達の行動によって獣が出現するという未来が変わったんだ。本来なら、ユリウスは貧民街になんていないし、『腸狩り』からエミリアちゃんを守るなんてことはないからな」

 

「確かにな」

 

「今回もそれと同じだ。俺達が何もしなけりゃ間違いなく、この屋敷は血の海に沈む。エミリアちゃんへのお願いであの階段の守りは固めたが、それだけじゃあ焼け石に水だ。みんなの力が必要なんだ」

 

「……あの階段から侵入されるということですか?」

 

 1日目にナツキ・スバルに見せられた、ユークリウス邸の隠し階段。その通路に結界石がエミリアによって取り付けられているのを見たレムが聞く。

 

「そうだ。魔獣はそれで何とかなるかもしれないが、その他への対処はあの結界石だけじゃあ出来ない」

 

「ちょっと待ちぃや!!」

 

 今まで、黙って話を聞いていたアナスタシアが口を挟んだ。

 

「ユリウスが納得しとる様やし、ナツキ君の未来視に関しては何も言わへん。何がこの屋敷を襲撃すんのかはっきりと言いや!!」

 

「アナスタシアさんは信じてくれんのか?」

 

「ナツキ君が言う内容次第や。はよいい!!」

 

「わかった。今のところ屋敷を襲撃すんのが分かってるのは、エルザ・魔獣……そして、魔女教徒だ」

 

「魔女教徒!?」

 

 その言葉にレムが大きく反応する。

 

「本当に未来視とやらによるものですか?魔女教は神出鬼没。あなたが魔女教と繋がっているのでは?」

 

「まあ。確かにユリウス以外の面子にはそう取られても仕方ないよな。未来視なんて物が本当にあるのか証明する手段はないし、俺の言葉が本当なのか只の妄言なのか、みんなには分かんないだろう」

 

「そうやな」

 

 アナスタシアが即座に同意した。

 

「そこでだ!!みんなの疑念とかそう言ったものを払拭するために、アナスタシアさん!!アンタと取引したい」

 

 

 

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