演習で力の差を見せつけられた。
~食堂/キッチン~
ユキは工廠での作業があらかた終わり、食堂にやってきた。夕食は明日戻る呉鎮守府との交友する時間として、ちょっとしたパーティーをするつもりなのでその準備をする。食堂は駆逐達が中心となって飾り付けを、料理の下準備は鳳翔と間宮に頼んでいるため、作業としては最後の仕上げをするだけだ。後に今日の昼にくじで当たりを引いた艦娘たち用のデザートを作る予定だ。
「鳳翔さん、間宮さん、お疲れ様。」
「お疲れ様です、ユキちゃん。下ごしらえは終わりましたよ。鳳翔さんは不足している材料の買い出しに行きましたから、仕上げをお願いしますね。」
「了解~。」
とはいっても仕上げだけなので、料理はすぐに完成した。今日は18:30から夕食のためゆっくり作業したが、18:10には終わっていた。ちょうど鳳翔も帰ってくる。
「ごめんなさい、ユキちゃん。デザート用の材料をいくつか買い忘れていたから」
「大丈夫だよ、鳳翔さんもお疲れ様」
そういって材料を受け取り、冷蔵庫に入れた後に作った料理を机の真ん中に置いていく。色とりどりの料理が机の上を鮮やかに見せる。
しばらくして、咲と流が反省会を終えてやってきた。少し遅れて演習をした艦娘たちも集まる。呉鎮守府の面々は真ん中の席に誘導され座る。すべての席に料理が用意されていること、全員が集まっていることを確認し、ユキは乾杯の音頭を取る。
「よし、全員集まったね。呉鎮守府の人たちは演習お疲れ様。戻るのが明日だから今日はここの艦娘たちとしっかり交友を楽しんでほしい。昨日は僕たちが独占しちゃったからね。それじゃあ全員コップを持って、あまり羽目を外しすぎないように。乾杯!」
『乾杯!!』
ユキの音頭ですぐに食堂が賑やかになった。机の上に広がる料理をみんなが好きなように取って美味しそうに食べている。
「ほいひいへふへ、はははん」(おいしいですね、加賀さん)
「赤城さん…可愛い(行儀が悪いですよ)」
「あっ、こら皐月。それは私が狙っていたポテトだぞ!」
「長月が遅いのが悪いんだよ。ってあー!それ、ボクが狙ってたお肉!」
「遅いのが悪いのだろう?」
「ぐぬぬ…」
「うわ!熊野!何食べてんの!?」
「なにって、大根のつまと一緒についている菊の花ですわよ。」
皆が思い思いに食べている中、流たちのいる真ん中のテーブルに艦娘が三人やってきた。先ほど演習をした艦娘たちだ。
「皆さん、演習お疲れさまです。食事は楽しめていますか?」
「ありがとう、楽しんでいるよ。さっきの演習はすごかったよ。全く手も足もでな…?どうしたの、瑞鶴?」
話していると突然後ろからつかまれた。後ろを見ると瑞鶴が全身を震わせながら流れの背中に隠れたのだ。流をやってきた艦娘たちとの壁にするように。やってきた艦娘の一人も申し訳なさそうにこちらを見ており、流が状況が分からず困惑しているとユキがあるものをもってやってきた。
「やっぱりトラウマになってたんだね。はい、これ飲んで。少しは落ち着くと思うから」
ユキが持っていたのは紅茶の入ったカップだった。瑞鶴がそれを飲むと震えが収まり、表情も少し落ち着いていた。
「落ち着いた?食事中だからファーストフラッシュ*1にしてみたけど」
「ありがとう…。少し落ち着いた。」
「それは良かった。」
「ありがとうございます。それにしてもトラウマとは一体?」
「直接見てないから分かんないか。演習の後半でタブレットに映ってる瑞鶴と翔鶴の反応がおかしかったでしょ?」
「はい、目を離した隙に海域範囲ギリギリまで反応が動いて、撤退アナウンスが鳴ったので驚きました。」
「あの時に、この子、『涼風』が瑞鶴を殴り飛ばしたんだよ。そのまま翔鶴を巻き込んで何回も海面をバウンドしたから、その時の衝撃とか含めて色々トラウマになったんだと思うよ。でも、ちゃんと交流してこの子と仲良くなればそのトラウマもなくなると思うよ。」
流は翔鶴と瑞鶴の位置が移動した理由がようやく分かった。演習後に咲と反省点について話していたが、謎のままだったのだ。そして、その理由となった艦娘『涼風』と呼ばれた艦娘が申し訳なさそうに謝罪した。
「ごめんよ、あたいがキレちゃって『技』を使っちゃったから…。」
「大丈夫よ。私も言っちゃいけないこと行ったみたいだし…。」
「まぁ、あの技は壊す技だからね。でもよかったよ。コンボしなかったから」
「コンボ…ですか?あの技に続きが?」
「そうだよ、
ユキのお父さん、50年前に亡くなった最前線で戦っていた英雄。そんな人が技を教えたのだから手も足も出ないのは当然だろう。詳しく聞くと、駆逐艦であるがゆえに差がでるため、その差を埋めるために教わったらしい。手合わせで何回もその技を受けて自分に適しているから頼んで教わったらしい。本人曰く、まだまだ形だけでその他は完成形に届いていないそうだ。その話を聞き、流は「咲さんの艦隊の他の子たちにも教えているに違いない」と思った。
「すごいですね。最前線で戦いつつ、咲さんの艦娘たちにも技を教えるなんて…」
「あ~、なんか勘違いしてない?」
「へ?だって、涼風さんって咲さんのところの子じゃないんですか?」
「咲~、ちゃんと伝えてないの?」
ユキが先を呼ぶと、こっちを向いて「あっ」と言って目をそらしながら言った。
「ごめん、初日に伝えようとしたんだけど、電さんのことがあって忘れてたわ。」
「はぁ~。えーっとね、涼風は元々父さんの艦隊の子だよ。それに、ここにいる艦娘の何人かは父さんの艦隊の子だからね。」
「そ、そうなんですか?でもこんなにいたらどの艦娘か分からなくなりませんか?もしかして見分ける方法が?」
「そうよ、ちゃんと誰があの人の子か分かるようになってるの。私たち提督であれば知っていれば気づくものよ。あなたのところにいれば気づくはずだけど、書類も届いていないの?」
そう言われて流は分からないという顔をしていた。どの艦娘を見ても分かりやすい印がついているわけでもなく、そんな書類も見たことがないのだ。提督だからこそ気づくものがなにか全く見当もつかない。すると電が『電』を抱いて暁型の子たちとやってくる。
「まだ書類は届いていないのです。うちの艦隊の最高練度は武蔵の87だから、もう少ししたら届くはずなのです。」
『書類って何なのです。』
「あなたもつけてる物の書類なのです。」
そういって電は『電』の左手を上に持ち上げる。その手の薬指にあるものが光った。
『ケッカリの指輪、なのです?』
「ケッカリの…指輪?」
「そうだよ、艦娘の練度上限突破の指輪で正式名を『ケッコンカッコカリ』*2っていうんだ。本来は練度99が限界なんだけど、この指輪をすることで練度の上限が175になるんだ。誰か一人でも練度が90を超えると大本営から書類が届くようになってて、練度が99になると貰えるよ。」
「へぇ~、そんなものがあるんですね。」
「流君…、これかなり大事よ。指輪の有無で今後の艦隊運用が変わるからね。それに彼女たちの基礎ステータスも上がるから必須よ。」
「やっぱりこいつは帰ったらシゴいてやるのです」
「えっ!」
流提督のシゴきが確定したあと、艦娘たちは交流を続けた。流は駆逐達に呉にいる艦娘や、咲との出会いなど色々なことを聞かれたあと、酒飲みに絡まれていった。一方で五十鈴と秋月のところには潜水艦の子が来ていた。日本の国旗の付いているスク水に胸下あたりまでしかないセーラー服を着ている。
「呂号潜水艦、ろーちゃんです。今日はありがとうございました。ですって!」
「秋月です、こちらこそありがとうございました。こちらは手も足も出ませんでしたけど。」
「五十鈴よ、こちらこそありがとう。レーダーに映ってたのに、気が付けばいなくなってるんだもの。ほんと、あなたすごい子ね。」
「えへへ、Danke。あ、えぇーと、ありがとうございます!」
五十鈴、秋月、ろーちゃんは、今回の演習のことを話した後、他の潜水艦や中央鎮守府にいる姉妹艦と色々な話をした。
しばらくしてユキはキッチンに向かった。冷蔵庫から取り出したのは、パーティーが始まる前に鳳翔が買ってきたものを含めた多くの果物と炭酸水、寒天、ジュース等だ。いつもならとてつもなく早く作るのだが、今回はそんな工程もないため5分ほどで完成した。
「は~い、注目~。今回朝のくじで当たりを引いた子たちと呉鎮の人たちはおいで。今日のデザートとして、フルーツポンチ作ったから。」
その声を聴いた艦娘たちは急いでユキのもとに行く。今回は特別なことはしていない普通のフルーツポンチだ。それでも艦娘たちは笑顔で頬張る。周りも悔しがってはいたが、駆逐や海防艦の子たちが頬張る様子を見て微笑んでいた。
~工廠~
デザートを出した後、しばらくしてパーティーはお開きとなった。食堂には鳳翔と間宮が後片付けをしているほか、何人かが手伝いを、飲兵衛たちは酒を飲んでいた(流は飲まされている)。ユキは作業の続きをするために工廠へ向かう。明石と夕張も一緒だ。明石は基本的にユキの代わりをしている。工廠での作業のほとんどはユキが行うため、外での用事は明石が担当しているのだ。今回は今後の予定をユキに話すためについてきている。夕張は今回のことの報告だ。秋月の件でのプール施設の掃除と訓練用ドローンの修理である。
「これが明日以降の予定です。今回は佐世保の方で新たに「明石のドロップ」が報告されました。佐世保でのドロップはこれで9人目です。あちらにいる明石がある程度説明をするようなので、こちらに来るのは明後日になります。」
「ありがとう、久々の報告だね。後は…あれ?用事が入ってないね。」
「ここ最近忙しかったですし、今は武蔵さんたちの艤装のこともあってユキさんが休めてなかったので、咲さんと話して休みを入れておきました。今は大きな案件もありませんし、艤装の手入れは私たちでできますので。」
「ありがとね。それじゃあ、予定は後で立てるとして、明石は明後日までに専用の教材を準備しておいてくれるかな?確か在庫がなかったはずだから。」
明石は「了解です!」と言って、工廠を後にした。明石が工廠を出たのを見届けて夕張の報告を聞く。
「夕張の報告も聞こうか。あのドローンはどうなった?」
「沈んでいた7機の内、強化型2機、初期型2機の計4機の修繕が完了しました。残りの3機ですが、初期型の2機は8割がた終わっています。ただ、たこ焼き型はセンサーの不具合なのか、うまく動かなかったので一度バラしました。初期型の修繕後に直す予定です。」
「たこ焼きは明日にでも持ってきて。もしかしたら、まだ教えてないところがあるかもしれないから。…それじゃあ楽にしていいよ。それにしても速くなったね。
「だってユキさんの技術、全然理解できないんだもん。初めから知ってる技術にないものばかりだし、明石の技術でさえ分からなかったのにその上を行くんだもの。明石の艤装でさえ1日で終わるか分からなかったのに1ヶ月も…」
夕張と明石がここにきてしばらくした頃、ユキに「ユキの改良が施された12㎝単装砲を一人で直す」という課題を出された。何度も見て、触れて、技術を教えたからもうできるだろうということで課されたが、明石でも1週間、夕張は1ヶ月もかかったのだ。そんな艤装を何十年も直してきたからこそ今回は数時間で4機も直している。
「まあ、いいじゃん。僕としては半年か一年かかると思ってたんだからさ。」
ははは、と笑いながらユキは直しかけの瑞鶴の胸当てを手に取り、直し始める。直すと言ってもあと少しだ。今のうちに今日のパーティー中のことで気になったことを確かめるために夕張に頼みごとをする。
「夕張、練度測定器を持ってきてくれない?」
「練度測定器ですか?誰か検査していない子がいましたっけ?」
「もしかしたら武蔵の練度が上がっているかもしれないから調べたいんだ。上がっていれば艤装の修理もそれに合わせていきたい。」
「分かりました。すぐに持ってきますね。」
夕張は工廠の奥に行き、スピードガンのようなものを持って戻ってきた。これは艦娘の練度を確かめる測定器であり、艤装に使うと持ち主が表示されるユキの特別性だ。他の鎮守府にはすでに渡されており、新しい鎮守府には明石たちの着任と共に渡されるのだ。
「持ってきましたよ。しばらく使ってなかったから自分に使ったけど、問題なく動きましたよ。」
「ありがとう。ようやく修理が終わったし、確かめるために武蔵のところに行くけど夕張はどうする?」
「私はドローンの修理をしてきます。もう少しで終わりますし、たこ焼きの修繕も頑張りたいですから。」
夕張は工廠を出るとプールの方に、ユキは武蔵たちがいるはずの宿泊部屋に向かった。
「ユキだよ、武蔵はいるかな?」コンコン
『ああいるぞ、今扉を開ける。』ガチャ
少しして武蔵が出てくる。部屋の中では流、五十鈴、秋月以外のメンバーが集まって雑談をしていた。五十鈴と秋月は今夜それぞれ姉妹艦の部屋に泊まるため部屋にはいない。
「どうかしたのか?今は私たちの艤装の修理をしているのだろう?」
「そのことなんだけど、艤装を直す前に武蔵の練度を測っておきたいんだ。もしかしたら、今回の演習で練度が上がって改造できるようになってるかもしれないからさ。」
「改造?確か改二と呼ばれている奴か?」
「そうだよ。ちょっと検査させてね。」
そういうとユキは武蔵に練度測定器を向ける。しばらくすると測定器から「ピピピ、ピー」という音が聞こえた。ユキはその結果を見て「お~」といった。
「武蔵、おめでとう。練度が89どころか90になってたよ。改二改装をするかどうかは明日、流提督と話した後に武蔵の意志で決めるけどいいかな?」
「ああ、ありがとう。もっと強くなれるなら嬉しいものだ。私からは望んでいると言っておこう。」
「フフッ、それじゃあ僕は残りの作業をしてくるよ。今夜中に大和の艤装を終わらせたいからね。お休み、武蔵。また明日ね。」
「お休み、ユキ。無理しないようにな。」
ユキが武蔵たちと別れ、工廠に戻ってくると、長10㎝砲ちゃんが毛布を引きずりながらやってきた。
「キュ~」ギュー
「よしよし、いい子にしてたか?」
「キュキュ~!」
「僕は今から艤装の修理をするから相手してやれないんだ、ごめんね。」
「キュ~……」
「そう落ち込むな。明日、武蔵の艤装を直してお前たちが帰るまでの間は相手するから。」
「キュ~…キュキュ!」
長10㎝砲ちゃんは嬉しそうに鳴いたあと、艤装の収まるところに入って目を閉じた。ユキは収まったことを確認し、大和の艤装を修理する。涼風が撃ったところが一番修理が必要であるため、そこを中心に全体を修理していった。
金属音を響かせ、白い肌を黒い煤で汚し、大和の艤装の修理がようやく終わった。時間を見ると23:16になっていた。予定より少し早いぐらいだ。
「ふ~、ようやく終わった~。寝るまでまだ時間あるな。ん~、今日は風呂に入るか。」
ユキは修理道具を片付けて全体の確認をした後、工廠の電気を消して鍵をかける。その後、入渠ドックではなくその裏の入り組んだところにある建物に入る。廊下のようなところを通り、扉を開けるとそこにはソファーやテレビが置かれており、まるでリビングのような場所であった。
ユキは工廠の鍵を近くの机に置いて奥にある2つの扉の右の部屋に入っていき、そこにある籠に服を脱ぎ捨ててもう一つの扉を開ける。そこには少し大きめの風呂があり、ユキは煤のかかっていた体をしっかりと洗い、ゆっくりと浸かる。
「あ“あ”あ“…沁みるね~。」~♪
ユキは機嫌よく鼻歌を歌いながら入浴する。ここはユキ専用の個室であり家であるため、誰にも邪魔されずゆっくりできるのだ。仕事の後に時間があれば、こうやって家に帰ってゆっくりと浸かるようにしている。
30分ほどゆっくりした後、リビングに戻り、黒猫の着ぐるみパジャマ(お気に入り)に着替える。
着替えた後、ソファー座り、目の前の机にあるパソコンを起動した。ユキは今日の最後の仕事として大和の艤装の情報を打っていく。ユキの手が加わった艤装は通常と違うため基本的にユキ本人にしか直せない(新しいものと大型のものはここの明石と夕張にも直せない)。そのため、情報をまとめて取扱説明書をつくり、鎮守府に持ち帰って明石に渡してもらうようにしているのだ。そうすることでユキでなくても修理が可能になる。
日付が変わったころにようやく作業が終わった。ユキはパソコンの電源を落として、風呂場の横にあるもう1つの扉から部屋を出る。
その先の階段を上り、正面の扉に入る。そこはユキの私室で本棚や小さな机、ベッドなどが置かれている。
最近は忙しく、工廠にある固めのベッドで寝ていたため、久しぶりのふかふかの布団で寝れるのだ。ユキはそのことに喜んで目覚ましをセットし、布団に入って目を瞑った。
ようやく2日目が終わりました。次回で呉鎮守府との話を終わらせたいですね。
(筆者は計画性がありません。)
皆さんがこの小説を見てくれた回数が2000を超えていたのでとても嬉しかったです。
また17人もの方、お気に入り登録をしてくださり、ありがとうございます。
できる限り失踪しないように頑張っていきたいと思います。
もし、話の中で気になることがあったり、「この子とのとの絡みが見たい」という声があれば感想に書いてください。感想は全部に反応する予定です。
また、私のモチベにもつながるのでぜひ感想の方をお願いします。