「一日目でユキがヘロヘロにしたからね。」
「君にもしてあげようか?」
「死ぬからやめてください、それにとうこうがおくr……」
「絵も描くんだよね?」
「うぐっ!」
「資格の勉強もするんだよね?」
「ぐはっ!」
「大学の課題もしないとね?」
「もうやめて……主のライフはもうゼロよ!」
「じゃあとっととやることをしろ!」
「はいーーー!」
「ったく。あ、そういうわけで本編始まります。」
※今回は明石が二人出るので後半の会話の『』は中央鎮守府の明石のセリフになります。
~2日目~
この日は朝から大忙しだった。
「あー!遅刻だ~‼急がないと先生に怒られちゃう!!!!!」
昨日の鍛錬の疲れが取れていなかったらしく、明石は2日目にして授業開始10分前に起床すると言う失態を犯していた。明石は急いで机に置かれていた服に着替えて
教室ではユキが窓際に体を預けて本を読んでいた。頭と肩に一羽ずつ雀が乗っており、静かな朝の時間を堪能していた。しかし、その時間もすぐに終わりを告げた。
「……来たか。お前たちは森へお帰り。」
そう言って雀の頭を撫でると2羽は鎮守府の入り口にある森の方へ飛んで行った。その後、次第に「ドタドタ!」という音が大きくなり、勢いよく扉が開かれた。髪がぼさぼさで服が乱れた明石が息を上げて教室に入ってきたのだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
「朝からドタドタと…。その様子じゃ、何も食べてないんでしょ?カ○リーメイトあげるから5分で準備しなよ。」
明石はユキに貰ったカ○リーメイトを頬張り、ユキは授業の準備をした。
2日目の授業では空母の装備である艦載機などのボーキを消費する装備や基地航空隊について詳しく教わった。また、その流れで妖精さんについても教わった。どうやら妖精さんも艦娘と同じように得意なことが違うらしく、「艦載機の操縦する妖精」や「修理に特化した妖精」等に分かれているようだ。まだまだ知らない艤装や妖精のことを知って明石は興奮していた。
そんなこんなで午前中の授業が終わり、お昼を食べた後はジャージを着て昨日と同じように広場に行く。広場では多くの艦娘たちが広場の中心から50m以上離れたところで広場を囲うように集まっていた。明石はユキを見つけ、この状況について聞く。
「先生、艦娘の皆さんが集まっていますが、一体何か始まるんですか?」
「ああ、今からやる明石の鍛錬は今日から導入するものだから気になって集まっているんだよ。かなり大規模だったから時間がかかったけどね。とりあえず、もう少し広場の中央から下がっておいてよ。じゃないと落ちちゃうから。」
「え?落ちるって……「ゴゴゴゴゴゴゴ!」…!」
明石が振り向くと、すぐ目の前の地面に
周りからは「お~」という声が聞こえるが、明石は口を開いたまま固まっている。何が何だかわからないままユキの説明を聞く。
「これは簡単に言えば一対一の鬼ごっこをする施設だ。お互いが相談してフィールド、時間、天候などを決めて行う。話し合って決めるもよし、ランダムにするもよしだ。勝利条件もお互いが決めてくれ。後、使える時間は09:00~18:00の間だ。それ以外の時間は許可しない。
次に禁止事項だ。原則として艤装の使用はアシスト*1以外なし。武器も防具もなしだ。使えるのは己の体だけだと思え。アシストもある程度こちらで制限させてもらう。
最期にこの施設は僕の許可なしに使うな。僕がいない間は『明石』と夕張に任せるけど、事を起こす奴は覚悟しとけよ。それと川内、一応夜に設定はできるけど、そのせいで昼夜逆転した生活を送ったり、任務に支障をきたしたりするようなら夜戦を無しにするからそのつもりでね。
今日と明日の午後は明石の鍛錬で使うから明日の午前か明後日から使ってくれ。詳しいルールも後日まとめたものを配るから、とりあえず解散!」
ユキからルールを聞き、艦娘たちはいつもの鍛錬や仕事に戻っていき、明石はユキに連れられて建物の中に入った。中は照明のおかげで明るかったが、何もない空間が広がっていた。
「先生?ここ、何もないように思うんですが。」
「まあ見ていて。『システム起動、管理者「Yuki」にログイン。ルール変更システムを表示』」
『確認中……確認完了。管理者「Yuki」に接続完了。ルール変更システムを表示します。』
システムが告げると、ユキの前に電子のパネルが現れた。ユキはそのパネルの設定を打ち込んでいく。
「すごい……。なんですか、この技術……。」
「ソリッドビジョンシステムだよ。今の人間の技術じゃここまでは作れない。世界中探してもここぐらいじゃないかな?あ、このことは秘密だよ。
ユキに笑顔で内緒と言われたら黙っておくしかないだろうと明石は心の底から思った。
設定が完了し、ユキが確定のボタンを押すと、周りの景色が「ザーザー」と言う音を立てながら一瞬だけノイズが走り、次第に辺り一面が緑の草原が現れた。辺りには腰の高さほどの岩と数本の木が立っていた。
「すごい……本物みたい…。」
「本物みたいじゃなくて全部本物だよ。岩も、木も、この地面も何もかも。」
ユキの発言を聞いて明石は直ぐに土を少し抉って確認する。土に触れている感覚があり、それによって手も汚れた。近くにある岩を触ってもしっかりとしており、その周りに落ちている岩の破片や石にもちゃんとした重みがあるのだ。
「言っただろ、ここにあるものは全て本物だって。
色々知りたいと思うけど架空を現実にする技術は存在そのものが特殊なところが多いんだ。だから詳しくは語れないよ。それよりも鍛錬の方を始めようか。」
そう言ってユキは
「鍛錬は簡単、僕からこの鈴を1つでも奪うこと。奪えることができれば今日の残りは自由時間にするし、僕の技術も知りたければ教えるよ。
それと手段は選ばなくていいよ。あのルールは僕以外の子が使う用に作ったものだから、僕が相手の時は石を投げるのも罠を仕掛けるのもしていい。それに君は奪えばいいだけなんだから。
それじゃあ、期限は18:00まで、あと5時間で奪ってみな。位置について、よ~い、ドン!」
ユキのスタートの合図で鍛錬が始まった。だが、それはあまりにも厳しいものだった。
どれだけ走っても追いつかず、近づくことができてもフェイントを掛けられて躱され、開始1時間もかからず明石は肩で呼吸していた。
しかし休むことは許されなかった。10秒も休もうとすればユキから石が砲弾のように飛んでくる。艦娘とはいえ当たれば中破しそうなほどの威力だ。実際に石が当たった地面は軽く抉れている。
「ほらほら、休んでる暇なんてあるのか?避けないと死ぬぞ、そりゃ!」
「くっ…。」
止まれば石が飛び、近づけば全て最小限の動きで避けられる。岩に隠れても砕かれ、木はなぎ倒される。何度もこけて、泥だらけになり、試行錯誤もしてヘトヘトになりながら5時間動き続けた。すると施設から終了の合図が出される。
『18:00となりました。鍛錬を終了してください。これよりクールタイムに入ります。管理者、または代表者以外の方は速やかに退出してください。』
「鍛錬終了だ。お疲れ様。」
「ありがとうございました。も~先生強すぎ!触れることもできなかったんですけど!それに遊んでましたよね!」
「いや~、つい楽しくなっちゃったからね。それに簡単に捕まったら先生なんて名乗れないでしょ?」
結局この日、明石は一度も触れることができずに終わった。鍛錬が終わった後に風呂でも食堂でもひたすら考えたが、ユキに触れる方法が浮かばないでいた。非常に悔しかったがどうしようもないため、気を紛らわせるためにまだやっていない魚雷や電探などの勉強をして寝ることにした。
~3日目~
明石は06:30にしっかりと目覚めた。いち早く食堂に行き食事をした後、08:10には教室に到着していた。ユキは昨日と同じように窓際で雀を乗せたまま本を読んでいた。
「今日は早いことで。そんなに昨日のリベンジがしたかったかい?」
「悔しかったので昨日の内に今日のところの自習をしてきました!別の形ですけど、先生には驚いてもらいますから!」
「いいよ、驚かせてくれ。君が悔しさをバネにした結果を」
こうして3日目の授業が始まった。
どうやらこの明石は「悔しかったらいろんな面で見返す」タイプのようだ。明石がどこまでできるかやらせてみると、ほとんどの装備を完ぺきに理解していた。特殊な改造やあまり見ることのない艤装は基礎だけ完璧にしてきていた。今までにこんなにまじめな明石はいなかったためユキは驚いていた。
「まさかここまで仕上げてくるとはね。君はとんでもないな。」
「へへ~ん、どうですか先生。驚きましたか?」
「ああ、昨日の残り時間だけでここまで仕上げてくるとは思わなかったよ。だからここまで来たら完璧にしようか。残りの分からないところを教えてあげる。」
「やった~!」
この後、残りの理解できていなかったところを完璧にしたことで時間に余裕ができた。早めに始めたこともあり10:00にはもう終わっていた。しかし、午前は施設を使われているため昨日の鍛錬はできず、食堂に行くにしても早かったため明石は今から着替えて工廠の近くの海にくるように言われた。
明石が工廠の近くに行くと海上でユキが
ユキは明石が来たことに気づき、駆逐達に鍛錬に戻るように伝えて近づいた。その姿を見て明石は疑問に思ったことを口にする。
「先生は
「僕は艦娘じゃないぞ。ただ海に浮く艤装を付けられるだけさ。人間の中で稀に艦娘の艤装が装備できる奴がいるんだ。僕はその1人だよ。まあ、主砲や機銃みたいな武器は使えないから戦闘はさっきみたいな近接戦闘がメインになるけどね。」
また知らないことが増えた。この3日間で艤装のことは勉強したが、人間が装備できることは本には書いていなかったからだ。授業でも触れていない上に疑問に思ったこともなかった。
明石が悩み始めたためユキが止める。
「深く考えなくていいよ。この浮上用の艤装は戦闘で使う艤装と違って修理は個人に合わせているし、そこまで難しいものでもないんだ。わかりやすく言うなら靴の手入れをするようなものだよ。
それよりも早く海に出てきなよ。せっかくの海上ドライブの時間が無くなっちゃうよ。」
ユキの気楽さに影響されたのか、明石は深く考えるのをやめて艤装を付けて海に出た。
艦娘の進水自体は1部の者を除いて簡単にできる*2。明石にとって海上を滑ることは容易であったため問題なく進水し、
「うん、進水も滑走も問題ないね。それじゃあ今から鎮守府近海のドライブに行こうか。」
「いったいどこまで行くんですか?」
「ここは東京湾だから遠くても横須賀鎮守府の周辺までだね。深海棲艦は出てこないし、気楽に行こう。それじゃあ、レッツゴー!」
「ちょっ!先生速い!待ってくださいよ~!」
ユキに少しおいていかれながらもなんとか追いついて滑走する。周りをよく見ると一般の船が何隻か滑走していた。
東京湾は横須賀と中央の2つの鎮守府に挟まれているため、安全地帯となっている。大規模作戦の時以外はクルーズ船や釣り船、貨物船が動いており、艦娘が護衛をやったり、滑走練習や出撃をする際に姿を見ることができるため、遠くから来る人も多い。1部のファンが殺到するぐらい人気なスポットになっているのだ。
ユキはなるべく船の邪魔にならないルートを探して滑走する。明石は見たことのない景色に目移りしながらもユキについていく。
しばらく滑走していると大きな建物が見えてくる。その建物の前では艦娘たちが集まって鍛錬をしていた。
「ここが横須賀鎮守府、5大鎮守府の1つだよ。規模はうちと同じぐらいかな。」
「ここにも『私』がいるんですか?」
「新しくできた鎮守府とかはドロップ待ちのところがあるけど、基本的にどの鎮守府にもいるよ。特にここの明石は初期組の問題児の1人さ。ほんと、君を見習ってほしいぐらいだよ。」
あまり思い出したくないのか、あからさまにユキのテンションが下がっていた。そんな感じで話していると向こうの艦娘たちもこちらに気づいたようだ。その中でひと際大きい艦娘がこちらに近づいてきた。
「お前たちここに何の用だ。今日は提督からの連絡はないから客でないことは分かっている。」
「ああ、気にしないでくれ。中央鎮守府から滑走練習していただけだからさ。」
「そんな嘘で私をごまかせれると思うな。中央鎮守府からそのような連絡はない。いつもなら連絡があるが提督からも聞いていないぞ。お前の様な怪しいやつはここで拘束させてもらう!」
そう言った途端、その艦娘が海上を猛ダッシュで近づいてきた。明石はどうすることもできないため慌てていたが、ユキに落ち着くように言われる。
「あわわわ、先生!一体どうするんですか、このままだと無実で捕まっちゃいますよ!」
「慌てなくていいよ。ちょうどいいし、今日の朝から頑張った君に
そう言ってユキは近づいていく。確かにユキの方が速いことは鍛錬でその速さを経験している明石だからこそ分かっている。しかし、相手は見たところ戦艦。ユキとの身長差もある上に艦娘の攻撃を食らえばひとたまりもない。明石制止を掛けるが、ユキはどんどん近づいていく。そしてその距離が50メートルを切った。
「自ら捕まりに来るとはな!好都合だ、そのまま拘束させてもらうぞ!」
「捕まる気はないんだけどね。少しは話を聞いてほしいんだけど。」
「問答無用!抵抗するならねじ伏せるだけだ!」
お互いの手が届く範囲まで近づき、艦娘は力ずくで止めようとこぶしを握り振りぬく。ユキはそれを躱し合掌した手を開きながら腹に掌底を繰り出す。
「話を聞かない子にはお灸を据えないとね!『虚刀流!
「ぐあっ!」
掌底を食らった艦娘は後方に吹き飛んだが、倒れることはなかった。ユキの手加減
「手加減しすぎたかな?」
「手加減で私がこんなに飛ばされるとはな。だが、お前を見逃すわけには…」
「そこまでだ、
長門と呼ばれた艦娘が再び動こうとしたとき建物の方から制止がかかった。そこにいたのは
「なぜ止める提督!」
「その人は俺の客だ。ほら、少し前に噂になった工廠長さんだ。」
「中央鎮守府にいると言われているあの謎の人物か?」
「そうだ。お前はタイミングが悪すぎて会えていなかったがな。他の子たちはあったことあるんだぞ。ほらあれを見てみな。」
長門は提督が指をさしている方を見る。そこでは駆逐達が先ほどの人物と仲良く話していた。
「ほら、あんなに懐いているだろ。色々と教えてくれる人で、駆逐達にとってはお姉さんみたいな存在さ。」
「私は、いきなりの挨拶をしてしまったのだな。見たことがなかったとはいえ、いきなり攻撃してしまったのだから謝らないと。」
「ああ、そうだn…『その必要はないよ』」
全然気づかなかったが少し目を離した隙に近づいていたようだ。ユキはすぐそこまでやってきていた。
「長門の行動は正しいさ。知らないやつが急にやってきたんだから。ただ、他の子や提督に確認するとかすればよかったかもね。」
「うっ、それは…」
「まあまあ、それよりユキさん、今日は何の用で?いつもなら連絡をくださるのに」
「まあ、色々あるんだけど…」
ユキは明石の研修期間中であること、その空き時間に滑走練習していたことを伝えた。
「なるほど。それでちょうどいい目印としてここを目標にしたと。」
「そゆこと、今から帰れば12時前には帰れるから丁度いい距離なんだよ。というわけでそろそろお
あ、それともう一つ、明石の研修が終わったらしばらく休暇で鎮守府を離れるから通達よろしく。」
「分かりました。気を付けて帰ってくださいね。」
「了解~。明石、帰るよ~。」
ユキは駆逐達に遊ばれていた(ユキがなすりつけた)明石を呼んで横須賀鎮守府を後にした。横須賀でのこと以外は特に問題なく、時々見かけたクルーズ船や漁船などに手を振るなどのサービスをして予定通り鎮守府に戻った。
「どうだった?海上ドライブは。」
「とても楽しかったです。」
「それじゃあ、食事したら鍛錬しようか。
「……ゑ」
その言葉通り午後からの鍛錬は昨日とほとんど同じ内容だが、周りの光景が全然違うものになっていた。崩れた建物が並んでいた。まるで戦場となった市街地のような場所であった。
「このフィールドの名前は『戦場』。
こうして鍛錬が始まったが、明石は
昨日の鍛錬になかったユキからの反撃。遮蔽物が多いため石は飛んできていないが、近づこうものなら腹に掌底を打ち込まれる。腹の中心に打ち込まれるため何度も吐きそうになった。隙を伺うがそんなものはなく、少し目を離せば後ろに回られている。そのまま、追っては避ける間もなく掌底を打ち込まれ、逃げられを続けた。
ようやく終了のアナウンスが入ったときにはもうボロボロだった。食らった技の回数は20を超えたあたりから覚えていない。左腕は反撃を避け切れずにあらぬ方向に向き、体は動かず泥だらけになっていたうえに打ちつける雨で体も冷えていた。そんな状態の明石をユキは静かに持ち上げる。
「先生……ひどいです…。」
「戦場ではあれ以上のことが起きる。あの技も
体は施設の効果で
~4日目~
昨日の疲労も抜け、食堂での交流も楽しんだ明石は工廠に向かう。今日から実際に艤装に触れることとなっているからだ。既に工廠ではユキが準備をして待っていた。そこにあったのは「小型主砲」、「電探」、「魚雷」と工具一式、その横に広げられたブルーシートの上に乗っている部品だった。
「これが今日実践してもらう艤装の完成形だよ。まあプラモなんだけどね。」
そう言ってユキは
「え!本物じゃないんですか⁉」
「僕が研修用に作ったやつだよ。本物でこんなことできないし、説明や絵だけじゃ分からないところが出てくるからこの方が見やすくなるでしょ?」
ユキが作ったプラモデルは見ただけでは本物と間違えてしまうほど精密にできていた。その完成度に明石は興奮するが、次の一言で青ざめる。
「とりあえずこれを見ながらそこにある艤装を組み立ててみてよ。
3つとも一気に作ってね、1時間以内に。」
「え、ちょ、まっ『スタート!』まって~!」
明石はユキ自作のプラモデルを見ながら、突如開始された艤装作りに取り掛かる。もちろん作るのはプラモデルではなく本物。ユキがそんなに優しいことをするはずがない。
どの艤装も普通の艤装のため、明石は1つずつ順調に組み立てる。特に今の明石は艤装についての知識を、授業を受けたことによって会得している。そのため、30分とかからずに全ての艤装を組み立てた。
「よしっ、先生!艤装を全部組み立てましたよ!」
「お~、速いね。よくできているよ。」
「やった~次h…『ところで明石、
ユキが指をさす方を見ると、完成した艤装とそれぞれの艤装の横に置かれていた部品が目に入る。
「あれって、何かあったときの予備じゃないんですか?」
「僕がそんなものを用意してるとでも?あれも使って艤装を完成させるに決まってるでしょ!分かったらすぐに取り掛かれ!」
「は、はいー!」
この時、明石は
全部の部品を使えと言われて急いで艤装を解体しようとするが、艤装はそう簡単には解体できない。本来なら専用の工具などを使うが、今回使用しているのは人間の整備士が使う工具一式だ。組み立ては簡単にできても解体には向いていない。それを使うのが明石であっても時間がかかるのだ。
結果、解体に20分ほど使ってしまったため、残りの部品をどこに入れるか分からないまま1時間経ってしまった。
「はい、時間切れ。普通の艤装は完成したけど、改装は間に合わなかったね。」
「先生!全部使うなら先に言ってくださいよ!解体で時間が持っていかれたじゃないですか!」
「お前が使う工具も理解しないでネジとかを完全に締めたのが原因だろ。それにちゃんと聞けば答えたのにそれをしなかったのも原因だ。だが、1番の原因は『これなら簡単にできる』って考えたお前の慢心が招いたことだろ!」
「っ……。」
ユキにはっきりと言われ、ぐぅの音も出なかった。
確かに『今までの子たちよりできている』と言われ、授業でもよく褒められて調子に乗っていたのかもしれない。本来なら7~8割ほどで仮止めをして大丈夫だったら完全に締めるのだが明石はそれも怠っていた。これを配属された後にやってしまったと思うと体が震える。
そんな明石の様子を見ながらユキが話を続ける。
「僕がいきなり始めたのは、現場では緊急事態があるからだ。相手から攻めてこないとは限らないからね。僕たちのように艤装の整備をするものは艦娘たちの命を預かるのも同義だ。少しでもミスがあれば彼女たちの命に関わる。だからどんな状況でも仕上げないといけない。初めてだからと言う無責任なことは許されないんだよ。」
そう言ってユキは1つの紙を取ってきて明石に渡す。その紙には新聞の記事を切り取ったと思われるものがたくさん貼られており、そのどれもが艤装についての記事であった。その中でひときわ目立つ記事が目に入る。
「
「舞鶴鎮守府は5大鎮守府の1つでね、優秀な人材が揃っていたんだ。でも、年が経つにつれて気が緩んでいたんだろうね。
事件当日に緊急警報が鳴って、大急ぎで準備したんだ。先発隊は無事に出発したんだけど、後続の艦娘の艤装はまだ修理中の物が多くて準備に手間取っていたらしい。全体への通達もちゃんとできていなかったらしくて、修理が不十分な艤装を持たせてしまったそうなんだ。
その結果、出発するときに艤装が不備で爆発、工廠内の艤装や設備に引火して工廠全体とその周辺の建物数棟を巻き込んだ。工廠内の整備士と後続隊の艦娘、工廠近くにいた数百名が命を落とした。敵は何とか退けたけど提督は1度に多くの艦娘を失ったショックで自分から辞表を出して退役、艦娘たちはそのトラウマから解体や近代化改修を申請、整備士も退職して鎮守府そのものが解体された。」
艤装の不備で起きた鎮守府の爆発。1つのミス、通達の不備でここまでの影響を出してしまうという現実を聞かされて唖然とする。明石はその話を聞いて疑問に思ったことをユキに聞いた。
「舞鶴でもこんなことが……本当に解体されたんですか?新しい提督の着任や施設を直せば…」
「正確には近くに舞鶴(仮)鎮守府が設置されていて、近海の警備は何とか出来ている状態さ。でも、爆発の影響で土地が汚染したから元の場所には何も建てられなくなったんだ。何十年もかけて汚染を取り除いているけど、5割も進んでいない。そう遠くない場所に住宅地があるから地面ごと爆破処理できないし、海にも影響がいくからね。
さあ、詳しくはまた話すとしよう。まだ午前の時間はあるから艤装の実習を続けるよ。」
ユキは明石が作った艤装を1度分解し、1つずつ丁寧に教えた。艤装の細かな部品の見分け方、改装のポイント、今回余った部品の付ける場所。事細かく全て教え、明石はその知識を吸収していった。
艤装の実習を無事に終わらせた明石はユキと昼食を済ませた後、いつものように運動着に着替えてグラウンドに来ていた。
「さあ、本当は今日から2日間は護身術を教えようと思ったけど正直君に必要か悩んでいてね。」
「でも、必要最低限の戦闘ができないといけないのでは…」
「いや~本当はそうなんだけどね、君が予想以上に物事の飲み込みが速いから僕の予定も狂っちゃったんだよね。」
「私、何かしちゃったんですか?」
明石は正直分かっていなかった。この2日間はひたすらユキに躱され、反撃されてぼろ雑巾のようになっていたのだ。1度も何かを掴めた感覚もないため、言われていることがよく分かっていなかった。
「まず初日ね、いくら僕が脅しているからって普通5時間も動けないし、昨日みたいにボロボロになってる状態でしゃべれないんだよ。精神的ダメージもあるし。それと、昨日の反撃込みの鍛錬でいくつかガードしたり躱したりしてたけど、普通なら立つことすらできないからね。初めから君の様な飲み込みの速さと忍耐力を持っている子はいないんだよ。君は
「そんなに変わってます?」
「うん、すっごく変わってる。うちの変人に引けを取らないぐr…『誰が変人ですか!』…見ろ、あれがうちの変人だ。」
明石は声の主の方を見ると、そこには『明石』がいた。
『ユキさん!人のことを何度も変人と呼ぶのはやめてくださいよ!本当にそう思われるじゃないですか!』
「ここの明石だよ。さっきも言ったように変人だから気を付けてね。」
『だから!…って、貴方もそんな顔しないの!』
明石は「変人なんだ」という軽蔑の目で見ていたら、すぐ『明石』にバレた。その明石がこちらに近づいて挨拶をする。
『はぁ~、あなたと顔を合わすのは初めてよね。改めまして、中央鎮守府・副工廠長の「明石」です。あなたのデータは見せてもらったけど、正直言ってもうどこかに配属されてもおかしくないと思ってるわ。ここにきてしばらくしてからの私と大差ないのよね。』
「そんなに私っておかしいですか?」
『おかしすぎるのよ。さっきユキさんが言ってたようにね。就くのも普通の鎮守府よりかは大本営の特殊部隊の方が妥当だと思っているわ。』
「トップ2つ以外の部隊には入れると思うよ。研究系は行かせたくないけどね。行かせるなら
「撤退支援部隊?そんな部隊があるんですか?」
『それは私が説明しますね。私たち「明石」は他の艦娘同様に様々な部隊に分けられます。まず鎮守府と大本営の2つに分けられます。
鎮守府では「工作艦明石」として艤装の点検や艦娘の修理などの運用をします。つまり通常通りの仕事をします。今の私や佐世保で会った明石もそこに該当しますね。基本的に鎮守府配属はこの1通りしかありません。
大本営では細かな部隊に分けられます。艦娘の艤装を研究・開発する「開発部隊」、憲兵隊に同行してブラック鎮守府などを取り締まる「憲兵部隊」、大破した艦娘や大規模作戦時などの撤退を支援する「撤退支援部隊」など、数多くの部隊があって私たちは自分の得意分野を見つけてその道に進むか、立場の高い人に推薦されることでその部隊にほぼ希望通りに配属となります。
貴方の場合、鍛錬を長時間続けられるスタミナと瞬発力、知識の飲み込みがあるので、ユキさんは「撤退支援部隊」ならいけると考えていると思います。』
「大方それであってるよ。ただ、これはあくまで提案だから、どこを目指したいかは君が決めるんだよ。
まあ、その辺は最終日に決めてもらうとして、とりあえず今日は昨日と同じことをしようか。『明石』も暇だろうから手伝ってくれるかい?」
『どうせ拒否権なんてないと思うので、手伝わせていただきますよ。』
こうして4日目の午後は『明石』を含めた3人で鍛錬を行った。正確にはユキが見守る形で明石2人の鍛錬となった。
草原のフィールドでとりあえず戦えと言われて始まった鍛錬。『明石』はユキと違い、反撃や回避ではなく攻めてきた。繰り出されるのは主に足技、上下左右どの方向からも放たれ、連続蹴りや回し蹴りなど多彩な足技で攻撃してくる。明石は防戦一方で、30分経った頃には
「どうしたの、攻めてこないの?守ってばかりじゃ何もできないわよ!はっ!」
「くっ!うわぁ!きゃああ!」
防御を崩されて隙ができた明石に蹴りが入る。明石は飛ばされて後ろにあった岩にぶつかり、その場にうずくまる。蹴りが
「少し休憩にしようか。そのままじゃ立てないだろうから。」
「うっ、ゲホっゴホっ!」
「戦ってみてどうだった?」
『戦闘面はイマイチじゃないですかね。ガードしてばかりで他の手段を知らなすぎる感じがします。それと加減って難しいですね。ユキさんはいつもどうやって加減しているんですか?』
「経験と慣れだね、体で覚えるしかないよ。人のはよく分かるんだけどね。『明石』の今の加減を見てた感じ
『あ、正解です。体感はそのくらいですね。2割ぐらいに下げた方がいいですかね?』
「そのままでいいよ。30分受け続けているだけでも十分な成果だからね。本当ならガードより躱したりしてほしいけど、そこは自分で導き出してほしいな。」
『指導する側って難しいですね。』
「そりゃそうだよ。教えすぎてもためにならないし、教えなさすぎても指導にならないからね。『明石』と夕張に教えるときも苦労したんだよ、あの子みたいにしつこかったからさ。」
そう言ってユキは指を指す。そこには
『あ~、確かにこの子は予測できないですね。もう少し横になっててもおかしくはないんですけどね。どうします、技を出しますか?』
「軽めのやつで3割なら許可する。いっそのこと
『は~い』
フラフラの状態の明石に『明石』がニコニコしながら近づく。
『その体だと長くは続けられないだろうから次で最後にするね。』
「最後…ですか……、一体何を…?」
『簡単な事よ。今から貴方に技を撃ち込むから全力でガードしてね。躱せるなら躱してもいいけど、多分無理だから。結果次第で明日以降の日程が色々と変わるから集中してね。あなたの心の準備ができたら合図してくれる。そうしたら始めるから。』
「分かりました……、スー……、ハー………。」
明石は呼吸を整えて少しでも体の震えを抑える。しばらくして膝を軽く曲げて体が対応できる状態に持っていく。
「準備出来ました、お願いします。」
『分かった、それじゃあ行くわよ!(完全に防御の姿勢にしたわね。なら…)』
声を上げるとともに『明石』は地面を蹴った。ユキほどのスピードはないが、『明石』のスピードは他の鎮守府の島風に匹敵する。その速さは昨日の午前に横須賀でユキを攻撃した長門と同じぐらいの速さだ。咄嗟に防御の姿勢を取ろうとするが、先ほどまで『明石』の足技を受けていたため、痛みが強くて手がすぐに動かない。痛みに堪えながら根性で手を顔の横まで持ってきたときには、すでに『明石』の射程範囲内だった。
「食らいなさい!これが私の十八番、『
軽めのジャンプをした後に繰り出される左足の蹴り。スピードも乗ったことで威力が増しているその蹴りは明石の防御を簡単に崩し、無防備にした。しかしこれだけではない。この技は名前に「
『やばっ!やりすぎた!大丈夫⁉』
「…ぅ……ぁ…ぅ……」
顔にクリーンヒットしたためうめき声をあげることしかできなくなった、と言うよりはほぼ気絶しているような状態になっている。頬は蹴られた勢いで少し凹んで口から血を垂らしている。歯も少し欠けているようだった。
「まあ、十八番だからそうなるな。むしろこのくらいで済んだだけマシじゃない?」
『普通はこれでマシとは言えないと思いますが、マシだと思っている自分がいることに驚いています……。』
「今更じゃない?むしろ普通じゃないのはこの子の方だけどね。だって2発目放てたのって夕張と鍛錬した頃以来じゃない?」
『あ~確かに。久々にかかとで蹴ったかもですね。』
「いつもはみんな1発目でふっとんじゃうからしょうがないね。」
『明石』が放った「飛燕連脚」は連続で回し蹴りを入れる技。アレンジがしやすい技で使用者によって異なる部分が出てくるのだが、明石は諸事情により比較的やりやすく安定する『2連続回し蹴り』として使っている。
この技は『明石』の培ってきた戦闘経験によって威力が高められている。そのため、基本1発目で相手が吹き飛び2発目を打つ前に終わってしまうことが多かったのだ。だからこそ今回の『明石』の1発目を、ガードを崩されながらも吹き飛ばされなかった明石は異様だと言えるのだ。
『それでこの子どうします?のびちゃってますけど。』
「目が覚める頃には夜になってるからそれまで寝させといていいでしょ。それより『明石』、
『そうですね。久々なのもありますけど物足りな…い………、まさか⁈』
「いや~久々に僕もやりたくなっちゃったからさ、
『嘘でしょ~~!』
この後、『明石』がユキの遊び相手にされ、ひどい目にあったのは言うまでもない。
明石が目覚めたのは初日と同じ暗い時間に目が覚めた。体全身の痛みは消えていても疲労が残っているのも一緒だ。1つ違うとすれば……
『目は覚めたの?』
「はい…。あの…私は……」
『私の技を受けて吹っ飛んだわ。まあ、よくやった方だけどね。』
「そうですか……。」
『結果の発表は明日よ。私はやることがあるから、今日は机の上にあるおにぎりを食べてしっかり休んで明日に備えなさい。それと…………、何でもないわ。とにかくしっかり休んでね、お休み。』
「おやすみなさい。」
何か言おうとした『明石』の言葉に疑問を持ちつつ、机の上に置かれていたおにぎりを食べて言われたとおりに休んだ。今日の結果に不安を感じながら……。
明石が眠りについたころ、『明石』は工廠でユキと話していた。
『それで、あの子に本当のことを言うのは最終日でいいんですか?』
「その方がよさそうじゃない?最後の最後にサプライズって感じで。」
『色んな意味でショック受けそうですけどね。それはそれとして、新開発の方は進んでるんですか?ずっとあの子に付きっきりですけど。』
ユキは明石の研修前から新装備の開発をしており、時間があるときにこっそり作っていたのだ。その装備は『明石』にも詳しく教えていない。そのため『明石』は気になっているのだ。
「進んでるよ。一応完成してて、今は改良してる途中なんだ。今日も1日中実験してたし。」
『そうだったんですか?でもユキさんに変わった様子はありませんでしたよ?』
「何言ってんのさ。いつもの半分の力も出してないんだよ。それに
「ずっとここにいた」と言うのは言葉の通り
『どうゆう…ことですか……。だって今日は、ずっとあの子のそばにいたじゃないですか!ユキさんが1日中ここにいることなんて……!』
「あ~、それはね。」〔こういうことだよ。〕
『え』
第10話いかがでしたでしょうか?
過去一長い「14000字越え」でしたが読みづらくなかったですかね?
投稿の頻度は大学の課題だったり、絵を描いたり、簿記の勉強だったりと色々やってて遅れます。
文章力もないので話がめちゃくちゃだったりするんですよね(~_~;)
次の話はある程度決めてるのでそこまで遅くはならないと思います。(そう思いたい)
研修後の話はユキ主体の話に戻すので満足していただけるかと…。
次回は研修の最後まで持っていきます。明石はどの道を選ぶのか。そして最後のあれは何だったのか。
次回をお楽しみに。感想待ってます。