中央鎮守府の工廠長   作:猫神瀬笈

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「今回で明石の研修が終わるよ」
「僕視点の話が全然ないんだけど」
「次からそうなるから我慢して」
「まったく、ところでGWの予定は?」
「ばあちゃんの家に行くよ」
「課題は?」
「…あ…あります……」
「早くやろうね」ガシ

「チクショー―――――!」



第11話 サプライズは大事でしょ?

 

~5日目~

 

 この日の明石は不安に押しつぶされそうになっていた。昨日の鍛錬で『明石』の十八番を食らい、吹き飛ばされてしまったからだ。ボロボロだったからと言って優しい評価はされないだろうと思いながら、朝の支度を済ませて工廠に向かった。

 

 

 工廠では昨日と同じように艤装が用意されていた。用意されていたのは「艦載機」、「爆雷」、「駆逐の機関部【背負っている艤装(吹雪型)】」のモデルと昨日と同じように工具一式、ブルーシートの上にある部品だった。

 

「今回も昨日と一緒だ。今から1時間以内に全て組み立ててくれ。」

「分かりました。」

「それじゃあ、始め。」

 

 ユキの合図で明石は直ぐに工具と部品を確認し、不備を確認した。1個1個丁寧且つ早く確認する。

 

「先生、このハンマーは直ぐ折れてしまうと思われるので新しいのに変えてもらえますか?後、これと、これと、これは基本にも改装にも使わないはずなんですけど、全部使いますか?」

「ハンマーは新しいものをあげるよ。部品については間違えではないとだけ言っておく。」

「……分かりました。」

 

 ユキに新しいハンマーをもらい、艤装を作り始める。昨日のようなミスをしないようにネジなどは5()()で締めて部品の確認をしながらどんどん仕上げていく。しかし、明石がユキに聞いた部品が予想していた通りに残ってしまったのだ。何度かユキに聞きその度にヒントをもらう。「3つそれぞれ別の部品」「どの艤装の部品なのか」が分かったため、頭をフル回転させて残りの部品を使って艤装を完成させた。最後の艤装が完成したのは残り2分を切ったときだった。

 

「完成しました、少し自信がないですけど。」

「とりあえず確認しようか。まずは艦載機から。」

 

 ユキは艦載機に不備がないか、隈なく確認して評価する。

 

「ん~惜しいね。あと少しってとこかな。評価は全部見た後にするから、もう少し待っててね。」

 

 そう言って残りの艤装も隈なく確認する。全ての艤装を見て「ウンウン」と頷きながら笑顔で明石の方を見る。

 

「爆雷は100点だよ。ちゃんと部品を使えてる。他二つは惜しかったから80点ってとこかな。まあ、よくできましたってことでいい出来だよ。」

「ありがとうございます。でも、あの部品はどう使うんですか?全部使うんですよね?」

「1つずつ説明するよ。まず、艦載機はプロペラの回転数をそのままに推進力を上げる部品、爆雷は火力と起爆時間の調整をする部品、機関部はタービンみたいな役目で少しだけ速力を上げる部品だよ。

 部品を全部使ったのは良かったけど、爆雷以外は付ける順番が違ったから惜しかったってわけ。あの部品はつけるところを間違えても効果が発動しないだけで艤装本体に不備は起きないから昨日のようにはいわなかったけどね。この状態はわかりやすく言えば『水鉄砲のタンクを1つ増やしたけど水を入れ忘れた』って感じかな。

 まあ、昨日の失態をしなかったことが1番の成長かな。それを忘れないことが大切だからね。」

「もうあんな失態はしたくないですからね。皆さんの命を預かるという責任の重さを私は絶対に忘れません!」

「その意気だ。それじゃあ、もう君に教えることは完全オーダーメイドの艤装だけなんだけど、それは説明書がついてくるから教える必要はない。体力と根性は研修のレベルじゃないし、護身術もやるより逃げ足が速いから必要ない。そうなると、もうテストしたら研修終わりだね。」

「え!もうですか⁈」

「もう教える必要がないんだも~ん。昔より平和なこの時代だともうトップレベルだしね。それじゃあ、昼まで休憩しよう。午後から最終テストをするから、それまでに準備しなよ。テストで艤装使うからその勉強したらいいかもね。」

 

 それだけ言い残して、ユキは工廠を後にする。明石は今日教わったことと、昨日教わったことを思い出しながら部屋に戻り、教科書を一から見直してテストに備えた。

 

 

 明石が食事を終え、工廠に行くとブルーシートに完成された艤装、普通の小型主砲である「12.7㎝連装砲」が置かれており、その横には今まで使った工具とは少し違う新品の工具が置かれていた。

 どんな工具なのか、どんな艤装を使うのかが気になって触ろうとすると、突然目の前にユキが現れた。

 

『ダメじゃないか、勝手に触ったら。』

うわぁ!驚かせないでくださいよ!」

『勝手に触ろうとするからだろ?まあその場に僕がいないからしょうがないんだけどね。』

「何かあったんですか?」

『急な予定が入ってね、そっちにいられないんだ。今は通信機能を使ってそっちに連絡してる。だから今、君の前にいる僕はソリッドビジョンだよ。施設と違って本物ではないけどね。

 とりあえず、君には今からテストを受けてもらうよ。期限は今日から終わるまで無制限。課題はそこにある艤装を解体して元に戻すだけだよ。』

「それだけでいいんですか?」

『詳しい内容を言うよ。その艤装は改装された艤装だけど不具合が発生した。今から君にはその艤装を解体して、本来行われるはずだった改装をしてほしい。

 完成したら横に置かれている『艤装検査機』に入れてちゃんと改装されているか確認してくれ。モニターに改装内容と改装の適合率が出てくるから、艤装に挟んだ紙に書いてある改装内容で適合率80%を超えていることが確認出来たら合格だよ。』

「なるほど、内容は分かりました。いくつか聞きたいことがあるので、質問して良いですか?」

『いいよ、どんな質問かな?』

「今回の工具のこと、艤装のパーツの数、それと禁止事項についてです。」

『分かった。

 まず、工具は今までの者とは違い専用の工具だ。実際に現場で使われるもので、一部を除いてどの艤装にも対応できる。今まで以上にやりやすいものだし、実習のような不備がないようにほぼ新品を用意してる。不備がないかは確認済みだから安心して良い。

 次に、艤装のパーツだが足りないことも多すぎることもない。全てのパーツを使うようにすること。検査機を使えばすぐにわかることだからごまかせないことは理解してね。

 そして、禁止事項だが2つある。1つは他の者に聞くことだ。答えを知っている奴がいるからこれは当然だ。2つ目はすでにできている艤装を使った偽りは禁止だ。ここにはスペアをいくつか作って置いているが、それを「完成した」と言って出すのは禁止だ。そんなことをすればお前をこの鎮守府におけるルール違反者として沈める。死が待っているということを理解し覚悟しておけ。

 以上だが、他に何かあるか?』

「もう1つだけ、期限についてですが…。」

『期限は完成するまでだ。休憩は自由にとっていいから完成させるまで頑張ってくれ。まぁ、長いやつでも3日ぐらいで終わったから早く終わると思うよ。

 スタートは君のタイミングで始めてくれて構わない。君の成長を楽しみにしているよ。一応監視はつけているからズルをしないように頑張ってね。それじゃあ。』

 

そういい残すとユキは消えた。通信を切ったからだろう。

 明石は一度部屋に戻り教科書やメモしたものを持ってきた後、工具を手に取り、深呼吸をして自分に気合を入れて艤装に向き合う。今まで習ったすべてのことを活かせるように。

 

 

 明石は先ず解体を始めた、艤装の解体はそこまで難しいものではなかった。改装していると言ってもやることはほとんど変わらない。使っている工具は実践仕様のため解体も速い。明石は順番やパーツをメモしながらすべて解体した。

 

「ふ~、解体終了っと。後はこのメモの通りにするだけですね。」

 

 ユキが艤装に挟んだと言っていたメモ。そこには「12.7㎝連装砲の火力増加、装填速度上昇、反動軽減」と書かれていた。

 

「3つも……、確か各艤装の改装限界が教科書に書いてましたね。確かページは…あった。えーっと

 

『艤装の強化には()()()()()()()()()()()()()()()()

艤装の火力や飛距離など部分的に性能を上げることができ、これを部分改装と言う。部分改装はそれぞれ改装できる部分と改装限界が決まっている。小型主砲の場合「火力増加」「対空角度増加」など5か所の内3か所しか改装できないのである。

 

*注意*

改装限界を超える改装(小型主砲の場合は4か所以上の改装)を行った場合、使用時の不具合及び暴発などの事故に繋がる可能性あり』

 

ですか……。なるほどだから3つなんですね。でもなんで小型主砲にしたんだろう?教科書を見たらすぐに答えが出るのに。もし言い忘れたのだとしたら先生も抜けてるところがあって可愛いですね。フフッ」

 

いろんなことを考えつつ、今度は艤装を組み立て始める。改装の仕方は最初の授業で学んでいるため造作もないこと。明石はあっという間に組み立てた。

 

「よし、出来た!あとは検査すればいいのよね。それじゃあここにおいて検査開始っと。」

解析中…解析中……、解析完了。「火力増加」を確認。艤装適合率92%』

「よし、火力はよさそうですね。さて他の2つは……」

『………………』

「あ、あれ?火力増加だけなの⁈どうして?部品は全部使ったし、組み込んでいるパーツは間違っていないはずなんだけど…。」

 

 今まで習ったことを、教科書を見ながら思い出し、完成させたのだが、どういうわけか残り2つの改装が認識されなかった。

 

「いや、機械が間違っているだけかもしれないからもう一度やれば……。えいっ!」

解析中…解析中……、解析完了。「火力増加」を確認。艤装適合率92%』

 

 結果は変わらなかった。機械は壊れていないようだ。

 

「~~っ!こうなったら色々試してやる!」

 

 明石はもう一度艤装を解体して1から組み立てる。今度はパーツの付ける順番を変えてみた。

 

解析中…解析中……、解析完了。「装填速度上昇」、「反動軽減」を確認。艤装適合率68%』

「あ~もー!次―!」

 

『「反動軽減」を確認』

「次!」

 

『艤装適合率20%』

「次!」

 

『解析不能。』

「次!」

 

『「反動軽減」をかk…「次!」

 

 

 何度も作っては分解を繰り返すうちに空がすっかり暗くなった。試行回数はすでに70回を越えている。小型主砲とはいえ細かな部品の順番を変えるだけでも何万通りもある。総当たりするには時間が足りない。そのためある程度あたりを付けてその可能性を1つずつ潰していく。

 

「これで……どうよ!」

解析中…解析中……、解析完了。「火力増加」、「装填速度上昇」、「反動軽減」を確認。艤装適合率45%』

「くっそー!全部出たのに、なんで成功しないのよー!も~、これもダメだった。1番近かったけど適合率が悪い。やっぱり『火力増強』が問題なのかな。これが何とかなれば…。』

 

 明石は改装をするにあたって全ての記録を付けていた。その結果、「火力増強」が「装填速度上昇」と「反動軽減」に影響を与えるせいでうまくいかないことまで探し当てることができた。しかし、まだここから具体的にどうするかを考えなければならない。明石はそこが分からないでいた。

 その後も試行錯誤を繰り返し、何とか導き出そうとしたが結果は変わらないまま時間だけが過ぎていき、試行回数も110回を超えていた。かなり絶望していると誰かが工廠にやってきた。

 

「こんな夜遅くまでよく頑張ってるわね。」

「こ、これは元帥殿!申し訳ございません!」

「謝らなくていいのよ。後、『元帥殿』はやめて。咲でいいわ。今は勤務も終わってフリーだし、あまり肩書で呼ばれるのは好きじゃないの。」

「分かりました。それでは…咲さんと呼ばせていただきます。」

「それでいいわ。ここ以外では元帥でいいからね。それにしても、貴方すごいわね。メモもぎっしりだし、こんなに頑張る子を見るのは久しぶりね。」

「でも、いくら頑張っても成功しないんです。いくつか惜しいところまでは行けたんですけど、そこから合格のラインまで行かなくて。こんな内容なんですけど…。」

 

 そう言って明石はユキの用意していたメモを咲に渡す。すると咲は苦笑いをしながら話を続ける。

 

「これは…相変わらずひどい内容ね。研修生じゃなくてベテランがするような内容だし、説明しづらい。私は一度やってるから何となくわかるし、教えてあげたいけど、これも監視されてるんでしょ?」

「確か監視してるからすぐに分かると。」

「ならこれも監視されてるわね、答えを言えば私も同罪か。本当は聞いたらダメってルールでしょ?」

「あ!しまった!」

「まあ、融通は聞かせておくわ。要は私が答えを言わなきゃいいんだから。でも、どうしましょうか?」

「なんかヒントとかないんですかね。教科書は禁止にされてなかったですから。」

「ふ~ん………なるほどね。」

「え?」

 

 咲は何かが分かったように笑うと、読んでいた明石のメモを返すと工廠の外へ向かった。工廠の入り口で立ち止まると明石の方へ振り返る。

 

「あの子はね、そこまで厳しくないの。あの子は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ。だからいろいろ思い出してみて。それと私から1つだけヒントを上げるわ。ヒントは『0に戻る』よ。それじゃあ、頑張ってね。」

「え、あの、えっと…え…?」

 

 1つだけヒントを残して咲は出て行ってしまった。明石は「0に戻る」と言うよく分からないヒントに、ただただ困惑するだけだった。

 

 ヒントがよく分からないまま続けるのも良くないと思った明石はもう休むことにした。

 部品を整理して全てあることを確認してからお風呂に入った後、部屋に戻って用意されていた夜食を食べてベッドに入った。

 この間に言われたヒントについて考えていたが、まだ整理ができずにそのまま意識を手放した。

 

 

 

~6日目~

 

 少し遅めに起床した明石は朝食を済ませた後、すぐに工廠に向かって続きをしたのだが、「0に戻る」と言うヒントのせいであまり集中できていなかった。そのせいなのか、午前中に行った改装のほとんどが「解析不能」となった。

 

 

『解析不能』

「あ~、やっぱりか。ん~『0に戻る』ってどういう事なんだろう?部品をバラす?強化の初期値からやる?主砲の始まりまで遡る?……まずい、全然分かんない。う~、よし!とりあえずお昼にして気分転換しよ!」

 

 どれだけ考えても答えが出なかったため、明石は食堂へ向かった。遅い時間のため食堂に人はほとんどいなかったため、キッチンに近い席に座って食事をした。するとキッチンの奥から鳳翔がやってきた。

 

「お疲れ様です。テストの方はどうですか?」

「それが全然だめでして…。惜しいところまで行くんですけどその先に行けなくて、ヒントをもらってもよく分からなくて。」

「ヒントと言うのは『0に戻る』ですか?」

「えっ⁈そうですけど、なんで分かったんですか?」

「私を含め数人がそのヒントを知っているのですよ。特に提督はそのヒントで色々と変わりましたから。」

「……?一体どういうことです?」

「今でこそ丸くなられましたが、提督は元々高飛車*1な性格だったのですよ。提督となられた頃は()()2()0()()()()()()()()()で、性格のこともあって何度も絶望し、つらい思いもしてこられました。ですが、『0に戻る』と言うヒントを得て、自分のことを振り返り、今では多くの人から信頼される元帥になられました。

 これがヒントを得て変わられた提督のことについてであり、貴方に教えられるヒントです。これ以上詳しくは言えません。これ以上言うとあなたのためになりませんし、あなた自身が見つけないと解決しないことですから。」

「…分かりました、ヒントを頂きありがとうございます。頑張ってきます。」

 

 明石は鳳翔にお礼を言い、すぐに工廠でテストの続きを再開した。鳳翔が教えてくれた提督の変化、「自分を見つめなおした」というところをヒントに完成までの道筋を探すことにした。

 

 

 

解析中…解析中……、解析完了。「火力増加」、「装填速度上昇」、「反動軽減」を確認。艤装適合率70%』

「くそっ!ここまできたのに!」

 

 「見つめなおす」をヒントに、今までやってきたこと、教科書や授業で学んだこと、今の自分自身を見つめなおし、過去の失敗した改装も見直しながら200回以上トライをしてようやく全ての改装をして適合率が70%まで届いたが、今考えられるすべての策が尽きてしまった。

 明石は自分のすべてを出し切って考え付いた策が全て失敗に終わったことが悔しく、座り込んで涙を浮かべる。もう艤装に触れる気力すら残っていなかった。

 

「グスッ……もう…ヒグッ……無理だよ……グスン…。」

「それくらいで諦めるのですか?」

「……え?」

 

 声がする方に顔を向けると鳳翔がいた。その顔は昼に見た優しい顔ではなく、真剣で鋭い目つきをしていた。

 

「できないからと言って泣いて座り込むことがあなたのやるべきことですか?」

「だって…全然分からないんです!ヒントをもらって!試して!何回も確認して!自分の考えられるすべてを試しました!でも!正解にたどり着かなかった!

「本当にそれが全てですか?それがあなたの全てと言えますか?」

「鳳翔さんに……何が分かるんですか!顕現したばかりの工作艦である私の気持ちが!あなたなんかに分かるわkバチン!!』…っ!……い、痛い…?

 

 明石は悔しさのあまり感情のままに吐き出し、「分かるわけがない」と言おうとしたとき、頬に衝撃が走った。()()()()()()()()()()()()鳳翔がさっきよりも鋭い眼光で明石を睨みビンタをしたのだ。鳳翔はそのまま明石の胸倉をつかみ顔に近づける。

 

「言い訳を並べるのは得意なんですね?

 最初から細かい調整を含めてすべてを行ってもいないのに、始めてたった数日しかたっていないのに全部やったと言えるんですか。

 ここにきてよく分かりました、貴方は未だに0ではなく1に戻り続けて、できた気でいる。そんなあなたがたどり着けるわけありません!

 それに、この平和な時代で顕現して数日で手厚く迎えられ、必要な知識を与えてくれる師がいるのに逃げているあなたの気持ちなんて分かりたくありません!

 

 鳳翔は()()()()()()()()そう言うと、明石を突き放して工廠を出ていく。

 明石はその場から動けなかった。あの優しく声をかけてくれた人に強く当たってしまった挙句、自分の現実を突きつけられたからだ。何万通りもあるうち、まだ約200通りしかやっておらず、鳳翔が涙を流して去ったことから自分がいかに恵まれた環境にいるのか分かった。そこに「()()()0()()()()()()()()」という言葉が重く突き刺さる。

 

 しばらくして明石はフラフラと机に向かい椅子に座ると、先ほどのショックから机の上にまとめていた紙を腕で無理やりどけて机に突っ伏した。重ねられていた紙は勢いよく机から落てちて床に散らばり、明石も泣きつかれて涙を流しながら眠ってしまった。

 

 

 

~7日目~

 

 そのまま工廠で寝てしまった明石は明け方に目が覚める。床に散らばっている紙を見て昨日のことを思い出す。昨日の荒れた様子と鳳翔へあたってしまったことを思い出し、鳳翔への謝罪を考えつつ紙を整理することにした。

 

「散らかしちゃったな~、とりあえず片づけないと……ん?」

 

 紙を整理していると散らかった紙の1番下に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これって、最初に分解した時の………もしかして!」

 

 明石が見つけたのは不具合が発生したとされた艤装の解体手順が書かれた紙、つまり1番最初の状態である。解体の手順は書いたが、この艤装でのチェックしていないことを思い出したため急いで組み立てる。解体手順と逆の順番で部品を取り付けていき、完成した艤装を機械で読み込んだ。

 

解析中…解析中……、解析完了。「火力増加」、「装填速度上昇」、「反動軽減」を確認。艤装適合率89%……合格おめでとうございます……。』

「やった……、やったー!ようやくクリアできた!」

 

 なんと1番最初の状態に戻したことで合格ラインを突破したのだ。明石はしばらく合格できた余韻に浸った後、鳳翔に謝罪をしなければならないため、急いで風呂に入って食堂に急ぐことにした。しかし、風呂でも余韻に浸りのぼせ掛けたため、食堂が閉まる時間ぎりぎりについてしまった。

 

 食堂に着くともう他の艦娘はおらず、鳳翔が間宮とキッチンで次の準備をしていた。明石は少し不安になったが、勇気を出して鳳翔を呼ぶ。

 

「すみません、鳳翔さんはいらっしゃいますか。」

「少しお待ちください」

 

 少しして鳳翔が出てきた。その顔は昨日の昼のように優しい顔をしている。明石は直ぐに謝罪した。

 

「昨日は鳳翔さんに強くあたってしまい、申し訳ありませんでした。」

「顔を上げてください」

 

 そう言われて顔を上げるとほとんど同時に()()()()()()()()()()()()()

 

「え…?あの……?」

「昨日はごめんなさい。私は昨日のあなたを昔の私に重ねてしまいました。誰の手も借りれず、自分の弱さを嘆き、劣悪な環境で生活してきた昔の私に。その結果、私は恵まれているあなたに嫉妬し、強く当たってしまった。本当に謝らないといけないのは私の方なのですよ。」

 

 明石はユキに聞いた昔の出来事を思い出す。

 姫級がうろつく海域での戦闘、人手が足りず、ひたすら勝利のため、生きるための道を見つけていたという昔のことを。そのため鳳翔の昨日の涙はそれ故に流れたものだと理解した。ずっと抱きしめる鳳翔に対し明石も抱き返し、お互いを受け入れるようにしばらく抱き合っていた。すると……

 

「いつまで抱き合っているんだい?」

「……あ…先生……」

 

 声がする方を向くと白のTシャツにショートパンツ、可愛いエプロンを付けたユキが呆れた顔で立っていた。

 

「えっと……その…」

「その様子だと終わったようだね。まあ、全部見てたんだけど。」

「へ?……あっ!」

「今思い出したの?監視してるって言ったじゃん。まあ、ヒントはいくつか出たけど、最後は自力でたどり着いたから良しとするよ。」

「先生……そう言うということは…。」

「合格だ。ちゃんと『0に戻る』も分かったようだしね。」

 

 

 ユキから直々に合格をもらい、鳳翔とまた抱き合って喜んだ。その後、お祝いに、と鳳翔に料理を作ってもらって食事を楽しんだ後、ユキと共にこの研修中に行くことがなかった施設を回った。回る際に施設の紹介と今後に役立つことをたくさん聞いて夕日が出た頃に工廠に戻ってきた。

 

「最終日は満喫できたかい?」

「はい!すごく満喫出来ました!」

「それは良かった。そういえば君に就任場所を教えていなかったね。ここから決めてほしいんだけど。」

 

 ユキから渡されたのは鎮守府及び大本営の配属表。合計8か所あり、ユキの推薦により入ることができる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「言っておくけど、1番右の2つは君には入れないから他のところにしてよ。僕の推薦では入れない特別なところだからね。」

「内容からして私には無理ですから選びませんよ。

 私は『撤退支援部隊』に入ります。先生が勧めてくださいましたし、たくさん支えられてきた私が今度は支える側になるときだと思いましたから。」

「了解、そこに推薦しておくよ。先輩たちは厳しいから覚悟しといてね。それから『パァンっ!』……」バタッ

 

 そこから先の言葉が出てくることはなかった。明石の目の前でユキは何者かに撃たれたのだ。ユキの着ていた白い服は赤く染まっていく。明石はすぐにユキに近寄り、息をしていることを確認した後、撃ってきたであろう工廠の入り口にふり向く。そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あなたはいったい何者ですか!」

「………………」

 

 沈黙が続き、黒いフードの人物が再び拳銃を構えようとしたときに明石が動いた。近くにあったスパナ―を投げつけてすぐにユキを抱えると、普段侵入が禁止されている反対側の入り口から逃げる。

 

 工廠の裏側に逃げ込むことに成功した明石だが、普段から入ることが禁止されているうえ、地図もないため迷路のように彷徨っていた。ひとまず道なりに進むが、少し先の横の壁が壊れ先ほどの人物が出てくる。明石は直ぐに引き返して元の道に戻り、別の道を行く。しかし、その行く先々に黒いフードの人物が現れる。まるでくる場所が分かっているかのように何度も表れるのだ。

 そんな追いかけっこ状態が続き、なんとか工廠裏から抜け出した頃にはあたりが暗くなっていた。ユキの息は荒くなっているが何とか生きている。しかし早く治療したいが、入渠施設の方面に行けない。それに治療中に襲われれば自分もユキの命も危ないため、明石は急いで鎮守府本館へ向かった。

 

 

 黒いフードの人物に追われながら、()()()()()()()()()()()()()()()通り慣れた道を走る。今日に限って見える範囲に艦娘がいないため、この時間は多くいるはずの食堂へ向かう。幸い食堂は明かりがついていたため、迷うことなくつくことができた。明石は助けを求めて食堂に入る。

 

「だr『『『『『明石(さん)!研修終了、おめでとう(ございます!)(なのです!)(かも!)!』』』』』……え、え⁈」

 

 食堂に入ると中央鎮守府の艦娘全員と咲から祝福をされる。奥には駆逐艦の子たちが書いたであろう

「。すでのな、うとでめお格合。」

という垂れ幕が掛けられていた。明石が今の状態に困惑していると、抱きかかえている瀕死のはずのユキが立ち上がる。

 

「明石、合格おめでとう。今日は最期の日だからね、明石にサプライズを用意したんだよ。」

「え……だって…先生は撃たれ…て……?」

 

 突然立ち上がりサプライズと言われて明石は困惑する。先ほどまで死に直面していたユキに何事もなかったかのように言われたため混乱が収まらない。

 

「じゃ、じゃあ先生は無事ってことですか?それとさっきの黒フードの人たちは一体?」

「見ての通りだよ。撃たれたのも空砲だし、これはケチャップだよ。いや~明石のいい反応が見られてよかった。それと黒フードはね、『『『『『こういうことだよ。』』』』』

 

 明石が振り返ると、そこには黒フードを着た5人がいた。その全員がフードを脱ぐと()()()()()()()()()()()()()()

 

「え!先生が5人⁈え!え、どういう事!」

 

 明石の慌てる様を見て食堂は笑いに包まれる。困惑する明石にユキがどういうことかを説明する。

 

「ハハハ、ごめんね。これは僕の作った道具の実験なんだ。動作の最終チェックを君へのサプライズに組み込んだんだけど成功だね。それじゃあ種明かしをしようか、『解』!」

 

 ユキが両手の中指と人差し指を立てる。右の指を縦向きで前に、左の指が横向きで後ろに来るように顔の少し下で十字にクロスさせて「解」と唱える。すると先ほどまでいた黒フードのユキが()()()()()()()()()()()()

 

「き、消えた。」

「これが新たな発明、昔から研究してきた『影分身』を可能にする道具だよ。」

 

 そう言ってユキが腕に着けていたリストバンドを見せる。それはこの研修が始まってからユキがずっとつけていたものである。つまり、ユキは初めから分身を使っていた可能性があることが分かる。

 

「あ、言っておくけど最初に君に会ったのは僕自身だよ。2日目以降で君と散歩に出かけたとき以外は分身だけどね。」

「じゃあ、テストの時の用事というのも…」

「それは別件、色々とやることがあるからそっちに時間を割かせてもらったよ。まあ、影分身を1人だけ監視に当てていたけどね。とりあえず、また詳しいことは後にして、今は明石の合格を祝福しよう!」

『お~!』

 

 

 明石はしばらく混乱していたが、青葉による新聞で正気に戻る。

 

「みなさん、新聞が完成しましたよ!今回は特別版!明石さんの研修新聞ですよ!」

「私の新聞ですか。一体どんな………いつ撮ったんですか!この寝顔!」

「あれ、ユキさんから聞いてないんですか⁈明石さんに拒否されなければ寝顔を新聞に載せていいと言われたので載せたんですよ。」

「ちょっと先生!」

「初日の手紙の最後に書いてたでしょ?寝顔を青葉が撮ったから新聞に載せられたくなかったら本人に言ってって。」

「見てないですよそんなの!」

「まあまあ、いいじゃないですか。かわいらしいですよ。」

やめて~!

 

 しばらく青葉の写真で色々絡まれていたが、次第に周りの雰囲気にのまれて始まって1時間ほどでもうできあがっていた。さすがに駆逐艦たちに酔ったまま絡まれても困るため、数人の大人たちに囲ってもらっていた。

 

「う~、せんせいったらひどいんれすよ~。はんげきしゅるっていって、うでおっちゃうんれすから。」

「明石さん、少し飲みすぎですよ。」

「いいじゃあいでうか、おあみあん*2……えへへ、いいにおい……」

「あらあら、どうしましょう。」

「完全に酔ってるな。しょうがない、色々話したいこともあるから酔いを醒まさせようか。これで。」

 

 ユキが取り出したのは()()()()()()()()()()()()()()()。鳳翔はそれを見た瞬間に口を押え、目を閉じた。他の艦娘たちは「なんだ、なんだ」と見ており、一部の艦娘は鳳翔のように口を押えていた。ユキは手袋を付けてその物質を少しだけ取ると明石の口に入れる。

 

「……うっ!」

 

 口に入れた途端、さっきまで顔を赤くしていた明石の顔が()()()()()()()()()()()、何かが出てくると言わんばかりに頬を膨らませる。ユキは明石を抱えると一瞬でその場から消えて、約20秒後に戻ってきた。

 

「ふう、ただいま。」

「ただいま……です……」

「ユキちゃん、一体どこに?」

「ちょっと下水道に。座標は登録してたから。」

「そう、あれは捨てておいてね。」

「また封印しておくよ。それじゃあ酔いも覚めただろうからここで本当の事を話しますか。」

「本当の事……ですか?」

 

 完全に酔いが冷めて別の理由でぐったりしている明石に本当の事を離すとユキが言う。

 

「まず、君に謝らないといけないね。この研修中、僕は君をだまし続けていたんだ。ただ安心してほしい。艤装のことや技術においては嘘偽りなく教えた。嘘をついたのはそれ以外のところさ。」

「いったいどんな嘘を……」

「まず、2日目にお前に渡したのはカ○リーメイトじゃなくてSOY○OYだ。」

「……は?」

「次に、ソリッドビジョンだが、すでに数十年前に公表して特許権を取得している。さすがに施設の様な()()()()()()()()()()()()()は公表できないけどね。それと『戦場』の説明だけど、あれは荒れた都市を再現しただけで深海棲艦云々は関係ないよ。」

「え!関係ないんですか!」

「あれは君に戦場での恐怖と現実を体感してほしいからだよ。その後の話は本当だから、安心しないように。後、舞鶴の記事については全部嘘だよ。」

「え~。あんなに言ってくれたのに嘘だったんですか~。」

「これもさっきと一緒で本番での緊張感を持ってほしかったからだよ。本来は、人間の採用の際にちゃんと知っているかを見るために作ったものだからね。」

 

 この研修で多くの嘘をつかれていたことを知ったが、明石は1つとして気づいたことはなかった。まさか熱く語られ、艤装の大切さを教えてもらったのにその例となった内容自体が嘘とはだれも思わないだろう。その後も細かい嘘を1つずつ伝えられた。

 

「私はかなり騙されていたんですね、先生も人が悪いです。」

「失礼な奴だな、()()()()()()()()。」

「え……」

 

 自分が人ではないと言ったユキは汚れていた服を脱ぎ、ズボンも脱いで黒のビキニ姿になった。そしてどこからか出てきた黒い服を着ると、尾骶骨のあたりから生き物のような砲塔がついたものが出てきた

 

「これが僕の本当の姿だよ、驚いたかい?」

「なんですかそれ…。先生は……いったい何者なんですか?」

「…散歩に行く時もその質問をしたね。僕はその時に人間って言ったっけ。それじゃあ、本当のこと言おうか。僕は戦艦レ級、君たち艦娘と人類の敵である深海棲艦だよ。

 

 ユキのカミングアウトに明石は衝撃を受けた。ユキ本人から聞いた自分たちの敵である深海棲艦、その中でも姫級の強さを誇る戦艦レ級。その戦艦レ級がユキである事が1番の衝撃だった。

 

「先生は深海棲艦、なんですか…」

「そう言っているだろう。君はこの姿を見てどう思った?」

「……カッコいい!」

「……は⁈」

深海棲艦を始めてみましたけどカッコいいじゃないですか!この艤装もカッコいいし、色々見てみたいです!それに心強いじゃないですか!敵である深海棲艦、それもレ級が味方!しかも、先生と同じような深海棲艦がいれば平和に近づきます!そして先生は多くの人に信頼されていますし、ありえない発明もできる!自分の本当の姿を隠しながら裏から支える存在!私は先生がどんな存在であっても信じます!

 

 いきなりのカミングアウトにショックを受けたと思われた明石だが、なぜかユキに100%の信頼を置いた。ユキはこの反応を見て呆れた顔をしたと同時にこう思った。「ああ、この明石も今までと同じように問題児なんだ」と。

 

 その後、飲兵衛たちの仕切り直しで食堂に活気が戻った明石の合格祝いの続きをした。明石は最期となる夕食を楽しんだ後、ユキから守秘義務があるとして、今回の鍛錬で使った施設や機材、ユキの正体、その他色々を迂闊に話さないこと契約した。破れば命はないという脅しもしたため、明石はしばらく寝れなかったらしい。

 

 

 

*1
相手に対して高圧的な態度をとること、またはそのさまを意味する言葉。

*2
(いいじゃないですか、おかみさん)




明石の研修が終わり次回からはユキちゃんの旅行(出張)が始まります。
第1目的地がどこになるのかはお楽しみに。

感想があればぜひください。
メインで出てほしいなってキャラがいれば感想と共に送ってくだされば出しますよ。
(海外鑑は難あり)だって言葉遣いの難しい子が多いんだもん!

次の投稿も不定期です。
話は決まっててもやる気が起きないときが多くて(~_~;)

それでは皆様、よいGWをお過ごしください。

あ、誤字脱字があれば報告お願いします(^▽^)/
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