「ん?どうしたの。」
「この題名で僕に何が起きるか大体想像つくよね。」
「うん、と言うわけで頑張れ(`・ω・´)b」
「…」
「あれ、どっか行った。あっ!俺の財布持っていきやがった!待てー!」
追記
本文の段落変更以下はそれの意味を表します。
赤線→少し遠くの別々の行動の場面変換
青線→目の前で起きた出来事の場面変換
流は本文を読んで何となく理解してください。
~大本営~
明石の研修が終わった次の日の朝、ユキは明石を連れて大本営に来ていた。
大本営はいくつか部屋が分かれており、それぞれが部隊の部屋となっている。ユキはその部屋の中から「撤退支援部隊」と書かれた部屋の扉を開ける。
「邪魔するぞ。」コンコンコン
「お、お邪魔します。」
部屋の中は大きな会議室のようになっており、20人ほどが席に座っていた。ユキは普通に、明石はおどおどしながら部屋に入る。すると1番奥に座っていた艦娘が立ち上がってユキたちの方にやってきた。
「ユキさん、お久しぶりです。」
「久しぶりだね、如月。元気にしていたかい?」
声をかけてきた艦娘は睦月型駆逐艦の2番艦の如月だった。
「元気にしていましたよ。あの子たちも…」
「うずうずしてるね。よし、皆、楽にしていいぞ。」
ユキがそう言うと、2人の少女が勢いよく席を立ち、ユキに抱き着く。
「ユキさん!久しぶり!僕たちに会いに来てくれたの⁈」
「ユキさ~ん、久しぶり~。ぎゅ~」
「久しぶりだな、お前たち。今日は用事があってきたんだ。」
ユキに飛び込んできたのは如月の妹である5番艦の皐月、同じく7番艦の文月だ。どちらも改二の姿をしているが、子供っぽさが残っている。
ユキはそんな二人の頭を撫でながら部屋に来た理由を話す。
「昨日、この子の研修が終わってね、ここに配属させるのに連れてきたんだよ。護身術以外は全部教えたからしっかり教えてやってくれ。今までの明石と違うから教えやすいと思うよ。それと今日から僕は休暇に入るから、後のことは君たちに任せていいかな?」
「分かりました。私たち全員でしっかり教えますね。明石さん、これからよろしくお願いしますね。」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「それじゃあ、僕はもう行くよ。新幹線の時間もあるからね。ここにはちょくちょく顔を出すから、しっかり頑張りなよ。」
「はい!先生、お世話になりました!」
明石に別れを告げ、ユキは大本営を後にした。
~佐世保~
ユキは東京から約7時間かけて佐世保に来ていた。
ユキは佐世保中央駅で降りると、近くの行きつけの店に行く。何十年も前から佐世保に来る度に寄っている店だ。
カランカラン
「いらっしゃい!お、ユキの嬢ちゃんじゃねーか、久しぶりだな!」
「久しぶりだね、親父さん。」
大きい声で迎えてくれたのはこの店の店主。店主の父親の代の頃、赤城と共に観光に来た時にこの店で佐世保バーガーを2人で10個(かなり自重した方)も食べたのだが、その時の食べっぷりに感動したらしい。今では親子そろって赤城とLINEでやり取りするほどの仲である。
「いつもと同じメニューでいいか?」
「お願いするよ。」
「任せておけ!」
常連ならではのやり取りをし、しばらくして店主が料理を持ってきた。
「待たせたな!佐世保バーガー3個と持ち帰り用の佐世保バーガー5個だ!」
「ありがとう親父さん。それじゃあ先に持ち帰り用を送らないとね。」
そう言うとユキは
「これでよし。それじゃあいただきま~す。あ~ん…うまっ!」
「相変わらず、すごいなその機械。うちにもほしいもんだぜ。」
ユキが使ったのは転送装置。ある程度の大きさの物を設定した座標に送ることができる。ただし、中央鎮守府のユキの部屋の机*1にしており、そこから座標は細かく設定しないといけないため、現在はまだユキにしか扱えないのである。
「ングッ、使うとなると座標をいじらないといけないね。細かい距離を全部測らないといけないから難しいかな。」
「やっぱダメか。いい考えだと思ったんだけどな。」
「赤城母さんから何となく頼んでくれって言われたんでしょ?ダメだよ、それをしちゃったら毎日しちゃうだろうから。」
「ハハハ、やっぱりバレてたか!ほんと嬢ちゃんには敵わねーぜ!」
赤城は自重しているが、大食いであることに変わりはない。特に佐世保バーガーは5本の指に入るほどのお気に入りであるため、頼めるならたくさん頼んで食べたいのだ。親父さんに相談していたらしい。しかし、親父さんは性格的に遠まわしに聞くことなくはっきり聞くタイプなのは知っているため、赤城の策略はすぐにバレた。
そんな母親への罰を考えつつ、世間話をしていると外が騒がしくなった。ユキが耳を澄ますと「待て!」という数人の声と足音、聞き覚えのある2人の女の子の焦った声が聞こえてきた。
「どうしたんだ、嬢ちゃん?」
「さっきの声に聞き覚えがあるんだ。なんで追われているのか分からないけど。」
「ああ、それは反艦娘組織の奴だな。」
「反艦娘組織?ここは佐世保鎮守府の近辺だから、理解している人が多いはずでしょ。ここの復興も艦娘の支援が出されたはずなのに、艦娘に対してそんなことをするの?」
ユキは疑問に思った。佐世保には1年に数回、最低でも1回は来るが、そんな組織は知らない。最近は大規模作戦や仕事が重なったため予定が合わず、約1年ぶりに来たのだが、去年にそんな組織はいなかった。
「数か月前に突然市長が変わってな、その市長が元提督で艦娘にひどいことをされたらしい。左腕を失ったが命からがら逃げてきたんだとよ。それで『艦娘を信用すんな』って自分がされてきたことを涙ながらに宣伝したせいで、同情する奴と昔のことを知らない若者たちの支持が増えてるんだ。その中でできたのが反艦娘組織さ。うちの常連もその組織の一員になってな、おかげでうちの売り上げも減って、いたずらが増えたし、息子もそっちに行っちまって、家族関係にひびが入っちまった。」
「そいつの名前分かる?できれば写真があるといいんだけど。」
「ああ、ちょっと待てな。」
親父さんは席を離れ、キッチンの奥に入ってしばらくした後、ポスターを持って戻ってきた。
「息子が持って帰ってきたポスターだ。うちで貼れって言ってきたからぶん殴って、これ以外の残りは全部捨てたがな。」
「ありがとう、…っ!」
その顔を見た瞬間、ユキは無意識にポスターを力強く握った。
ポスターに映っていた「星野 正義」という人物。太り気味の悪面で左腕がなく、ガッツポーズをしている右腕には噛まれた跡がある。
ユキはさらに力を込めた後、大きく息をして冷静を保ち、親父さんにお願いをする。
「親父さん、残りの奴、袋に詰めてくれない?」
「それは別に構わないが、なにかするのか。」
「なに、急な仕事さ。色々とやらないといけないことが増えたからさ。」
「…分かった。すぐに準備する。」
ユキは冷静を装っていたが、親父さんはいつもとオーラが違うことに気づいていた。いつもの笑顔で見せる女の子の雰囲気ではない、怒りによる殺意がユキから溢れていた。
「待たせたな、嬢ちゃん。」
「ありがとう。それじゃあ、もう行くよ。お代はここに置いとくね、お釣りはいらないから。」
「分かった。何するか知らねえが、無理だけはするなよ嬢ちゃん。またいつでもうちに来てくれよ。」
「もちろん!」
ユキは笑顔を見せてサムズアップする。そして、聞き覚えのある声の女の子たちを探すために市街地を走る。
2人の少女たちが市街地を走っている。後ろには多くの若者、数は10を超えていた。
「ほんましつこいわ!いつまで追ってくんねん!」
「はぁ、はぁ…」
黒のブレザーベストに青いリボンを付けた大阪弁でしゃべる黒髪のボブヘアーの少女「黒潮」は自分よりも小さく、望遠鏡を首からかけ、今すぐにでも下が見えそうなワンピースを着た妹「雪風」の手を引いて走っている。
「はぁ、はぁ…お姉ちゃん…」
「もう少しや、もう少しだけ頑張りや。」
黒潮は休暇をもらい、ついさっきまで雪風と一緒に買い物をしていた。用事も終わり、もう帰るだけというところで運悪く反艦娘組織に遭遇、ひたすら追われる身となってしまったのだ。
既に40分ほど走り続けており、雪風は呼吸を乱しながら走っている。どこかで休もうにも誰が反艦娘組織か分からないため店などには避難できず、隠れられそうな場所もない。かといって走り回れば、いずれスタミナが尽きて捕まってしまう。鎮守府に入れば一般人は入れないため、なるべく人のいない裏道を通り、鎮守府に逃げる道を模索する。
「見つけたぞ!」
だが、運が無かった。逃げた先に反艦娘組織の集団がいたのだ。黒潮たちは急いで元の道に戻る。しかし、元の道からも追手が来ていた。
「囲え!逃がすな!」
「くっ!こっちや!」
黒潮は急いでもう一方の道へ走る。少し先に見える細い裏道で撒いてしまえば時間は稼げる。黒潮は雪風と共に必死に走る。そしてもう少しで路地に入れるというところで、突然
「ああああああああ!」
「お姉ちゃん!」
左足をよく見ると太い針が脹脛を貫通していた。
本来、艦娘は艤装を装備することで敵の攻撃をある程度は防ぐことができ、深海棲艦同様に現代兵器でも傷つかなくなる。また、艤装がなくてもの攻撃は防ぐことができる。警察の使っている拳銃【M360J SAKURA(サクラ)】程度であれば跡が付く程度で済むのだ*2。いくら太い針が刺さったとしても、激痛が走ることはない。しかし、黒潮は激痛のあまり、涙を流しながら悲鳴を上げていた。雪風はそんな黒潮を見て、心配と恐怖で動けなくなっていた。そんな雪風に黒潮は逃げるように叫ぶ。
「雪風!お姉ちゃんに構わず、はよ逃げ!」
「でも、お姉ちゃんが!」
「うちに構うな!いいからにg、「グサッ」ああああああ!」
逃げろと言う前に、今度は背中の右下の辺りに激痛が走る。痛みをこらえて後ろを見ると集団がすぐそこまで来ていた。そしてその先頭にいた若い男がボウガンのようなものを持っていた。
「本当に効くんだな、この対艦娘用のしびれ針。現代兵器で傷つかないのにこんなに傷つくなんてな。それじゃあ、そっちのガキもやるか。」
男はそう言って雪風にボウガンを向ける。雪風は怖さのあまり、足がすくんで動けず、涙を浮かべている。その様子を見て男は笑みを浮かべ、笑いながら言う。
「さあ、大好きなお姉ちゃんの前で泣き叫びな!」
「雪風―!」
雪風はもう駄目だと目を瞑り、黒潮は必死に叫ぶ。だが、
「カチッ、カチッ。」
「は?なんだよこれ、動かねえぞ、くそが!こうなりゃ素手で!」
ボウガンがなぜか撃てなくなったことで、男は雪風を殴りに行く。だが、その拳も雪風に届くことは無かった。男と雪風の間に現れた人物により阻止されていたのだ。
「さすが『幸運の女神』だ。何とか間に合ったよ。」
ユキは黒潮と雪風を探すために電探を起動させて走り回っていた。
艦娘は電探を使うことで普通の人間よりも強い反応を示す。そのため人込みや広い場所でも見つけることができるのだ。
ユキはショートカットするために裏道に入り、誰も見ていないのを確認した後、屋根に上り、電探を頼りにその場所へ向かう。反応を頼りにその場所にたどり着くと、そこには2本の針が刺さった黒潮とボウガンを向けられた雪風がいた。しかし、少ししてボウガンが不発。男がボウガンを投げ捨てて雪風に向かって走り出し、拳を振るったのを止めるように間に入る。
「さすが『幸運の女神』だ。何とか間に合ったよ。」
雪風に当たるはずだった拳はユキが止める。いきなり現れた人物に男は苛立ちを見せる。
「お前!邪魔するな!死にてえのか!」
「あまり吠えるな、弱く見えるぞ。」
そう言ってユキは男の腹を掌で押す。すると男は後方、後ろの反艦娘組織の集団へ飛んでいき、ボーリングのピンのように数人を巻き込んで倒れる。
ユキはその隙に黒潮を回収、刺さっている針を抜き取り、常に携帯している高速修復材入りのテーピングを巻いて応急処置をした。
「あんた、一体…何者なんや…」
「それは秘密さ。とりあえず、君たちの味方とだけ言っておくよ。」
ユキは巻き込まれないように黒潮を雪風のそばに連れていく。振り向くと集団も既に立ち上がっており、ボウガンだけでなく棒やナイフのようなものを持って戦闘態勢に入っていた。
「さっきは邪魔されたが、これだけいるんだ。お前を殺してやるよ!後ろの艦娘含めてな!」
「大本営憲兵隊規定第7条」
「あん?何言ってやがる。」
「『艦娘に対する暴行、強姦、人身売買など、非人道的行為を行うものは速やかに確保せよ。』
これは大本営が定めた規定。一般人にも伝えられているはずだ。同じく第8条
『対艦娘装備の開発・使用は固く禁じ、速やかに処分するものとする。』
君たちが持っている武器はどれも31年前に開発が中止、すべて処分されたはずの物だ。なぜ君たちが持っているのか聞きたいけど眠ってもらうよ。第9条より
『第8条を破ったものは処分されるものとする。』
これがどういう意味か分かるか。」
ユキの声のトーンが低くなり、集団を睨みつける。その威圧に押され全員が震えていた。それは後ろにいる黒潮たちも同様だ。そんな中、男は何とか言葉を発する。
「てめぇ、俺たちをこ、殺す気か!」
「既に君たちは規定を破っているんだ。その武器を持っている時点で一般人の枠組みから外れている。それに死ぬ覚悟なんて出来ていただろう?さっきまであの子たちを殺そうとしたんだからな。安心しろ、楽に死なせないから。」
「く、くそが!殺される前に殺してやる!お前ら、いつまでも震えんじゃねえ、やるぞ!」
『おー!』
集団に活を入れ、男が先頭に立ってユキに向かっていく。だが、ふと違和感を覚えた。さっきまで規定について語り、自分たちを威圧していた相手、ユキは
しかし、男は頭に血が上っていたこともあり、さっきまでの発言はただの強がりだと判断、そのままユキに向かって走り、ナイフをユキの胸に突き刺す。ユキの胸から血が溢れ、口からも流れる。男は仕留めたという感覚もあった。
だが、そこである異変が起きた。刺した相手の傷口から血が
空は赤黒く染まり、地面は足首の辺りまで血の海ができていた。後ろにいる仲間たちは時が止まったように動かない。男はすぐにここから去ろうとして後ろに下がろうとする。しかしナイフを持っていた右腕が捕まれる。片腕で掴まれているとは思えないほどの痛みが生じた。その拍子に見たユキの顔を見て男は恐怖する。
目が黒く塗りつぶされた顔は不気味な笑みを浮かべており、目、口、耳から大量の血を流している。ユキは腕をつかんでいないもう一つの腕で男の顔を掴み顔に近づける。
「ネぇ?怖い?痛い?デもね、君がヤったコとだヨ。だかラ、僕もヤルね。」
そう言うと、血の海からもう一人のユキが現れ、男の目玉を抉る。
「う、うわあああああああああああああ!」
男の目は抉られ、穴と言う穴から血が噴き出る。男は血が流れる感覚を永遠に味わうこととなった。
「いったい何が起こったんや?」
雪風に肩を借り、何とか立っている黒潮は困惑していた。
ユキに対して攻撃を仕掛けた男たちはユキに
その様子をしばらく見たユキは振り返り、黒潮たちのもとにやってくる。正体不明のユキに対し2人は警戒する。
「そんなに警戒をしないでくれ、ちょっと眠ってもらっただけさ。それにさっきも言ったが君たちの味方だ。」
「あんなの見せられたら、信用できんやろ。」
「まあ、そうなるか。とりあえずこれで信用してくれ。」
そう言ってユキが投げたのはスマホ。既にどこかに通話が繋がっていた。
「これ、どこにかけとるんや?」
「出てみればわかるさ。」
「…………もしもs『黒潮!黒潮なのね!良かった~!』…司令はん?」
『そうよ!あなたたちが追われているって聞いていたから心配だったのよ!何とかなったのね!』
「とりあえず、雪風も無事や。うちは怪我をしてもうたけど、何とか生きとるで。」
『無事で良かったわ。とりあえず、鎮守府に戻ってきてね。』
「あ、その前にこのひt『じゃあね~』ブチ…切りよった。」
「相変わらずだね。…それで信じてくれたかい?」
「とりあえず、信じるわ。うちの司令官と知り合いみたいやしな。」
自分たちの司令官と連絡が取れるのは鎮守府・大本営関係か業者関係の人ぐらいのため、黒潮はとりあえずユキを信じることにした。
「それじゃあ、鎮守府に行こうか。」
「でも大丈夫なん?また襲われでもしたら…。」
「ああ、あいつらが来られない上から行くんだよ。」
「上?」
「そう、鳥になるのさ。」
「?」
ユキの発言がよく分からなかったが、とりあえずついていくことに。とはいかず、発言の意味が良く分かることになった。
「あかーん!下ろしてー!」
「すごーい!雪風、お空を飛んでます!」
黒潮と雪風はユキに抱かれて屋根の上を飛んでいた。今の黒潮の状態では走るのが困難だと考え、ユキが分身して黒潮はお姫様抱っこ、雪風にはおんぶをして屋根から屋根へ飛んでいた。雪風は楽しみ、黒潮は終始悲鳴を上げ続けて何とか鎮守府にたどり着いた。
「はあ、はあ…怖かったわ~。」
「雪風は楽しかったです!また、やってください!」
子供らしいというべきか、雪風は大いに満足し、この移動中だけでユキに懐いていた。その雪風を下ろすとユキが煙を出しながら消えた。
「はわ~、ほんますごい技術やわ~。どんなことしたらあんなのができるんや?」
「企業秘密だよ。あまり公言できないんだ。それよりもほら、迎えが来たよ。」
ユキが見ている方からピンク髪のセーラー服を着て特徴のあるスカートを履いた少女と白い軍服に身を包んだユキぐらいの身長の女性が走ってきた。
「黒潮!雪風!」
「しれえ!雪風、無事に帰投しました!」
「わっ!司令はん!堪忍しいや。まだ体が痛いんや」
「良かった、良かった!」
「あ、これ聞こえてないな。」
「師匠!お久しぶりです!」
「久しぶりだね、明石。それと藍鈴も久しぶり。」
「お久しぶりです、ユキさん。」
ユキを師匠と呼ぶのはお馴染みの工作艦「明石」。佐世保で1番目にドロップした明石であり、ユキの研修の卒業生第1号でもある。つまり問題児の1人だ。
明石はレズビアン、いわゆる女性の同性愛者だ。そのせいで他の明石にも影響がでそうになった。1度ユキを夜這しようとしたが、捕まって反省室にぶち込まれた第1号。まるでどこかの駆逐艦のように「いっちばーん」が多いのだ。
もう1人の藍鈴と呼ばれた白い軍服に名前と同じ藍色の髪で三つ編みをした少女。この佐世保鎮守府の司令官で「天上院 藍鈴」だ。
幼さが残る可愛らしい少女だが、実力はそこそこ。司令官になって数年で少将になっている。また、前元帥の孫でもある。そんな2人はすぐに黒潮を確認する。
「師匠の手当のおかげで治療はできていますが、念のため入渠してもらいます。」
「後は任せるよ。僕は藍鈴についていくから。」
「分かりました。雪風ちゃんはどうする?」
「雪風はお姉ちゃんと妹たちにこの事を伝えてきます!」
こうして明石を見送り、雪風は他の陽炎型の元へ、ユキは藍鈴に連れられ執務室に向かった。
執務室に着くと、そこには2人の艦娘がいた。1人は座って書類の整理をしながら紅茶を飲み、もう1人は毛布を掛けられ気持ちよさそうに寝ていた。
「藍鈴、仕事が遅れてるわよ。早く終わらせなさい。」
「だって!黒潮のことが心配だったんだもん!ひどいよ叢雲~!スリスリ」
「あーも~!引っ付くな!早く仕事しなさい!」
藍鈴に引っ付かれているのは佐世保鎮守府の秘書艦であり、救世主の1人である吹雪型駆逐艦の5番艦「叢雲」だ。耳の様な艤装が浮かべ、黒インナーの上にチューブトップドレス*3のような服装をしている。
もう1人は黒のセーラー服に白いマフラーをしており、頭に細い黒のリボンをつけている髪が犬の耳の様になっている金髪の少女。白露型の4番艦「夕立」である。
ユキは夕立の横に座り、膝枕をして頭を撫でる。夕立はこそばゆいのか、気持ちが良いのか分からないが、「ん~」と体をうねらせる。
その様子を見ながら司令官を席に座らせた叢雲がユキに声をかける。
「久しぶりね、1年ぶり位かしら?」
「僕からすれば半年ぶりだよ。大本営で叢雲の姿は見かけているからね。」
「あ~、確かに行ったわね。あのクソどもの話を聞かされに。」
不定期で行われる大本営集会。各鎮守府、泊地、基地の提督と秘書艦1人が大部屋に集まり、各地の現状報告や具申などを行う。また、新たな艦娘と邂逅したこと、ドロップ・建造の結果も報告する。
ただの報告の会だが、叢雲は心底嫌がる。理由は立場が高い提督の態度である。
みんな偉そうな態度を取り、新人に対してきつく当たる。大規模作戦においても指示を無視し、自分勝手に行動する人間が多いため、叢雲はいくたびにストレスをためているのだ。
「ほんと、あんな意味のない会議、早く終わらせればいいのに。」
「報告は必要だけど、その度に口を挟むから無理だね。」
「口が開けないようにしてやろうかしら」
「協力はしないからね、自分でやってよ。」
叢雲の話を呆れながら聞いていると、夕立が目を覚ました。
「ん~、ぽぃ~」
「あ、起きた。おはよう、夕立。」
「ぽ~い。スリスリ」
「はいはい、分かったから大人しくしててね。」
「ぽい♪」
ユキはカバンから
「いつも思うんだけど2人は夕立ちゃんが言っていること分かるの?」
「私は何となく。でも、長いこと一緒にいるから大体のことは分かるわ。」
「僕も分かるよ。家族だし、昔と違って仕草でも教えてくれるから分かりやすいよ。」
ユキが家族と言うようのは夕立が元呉鎮守府の所属だからだ。
ユキが呉鎮守府に来る前から鎮守府にいる古参の1人で、元呉鎮守府のメンバー唯一の引き取り艦だ。呉鎮守府に来る前に別の鎮守府で暮らしていたが、そこの提督の悪行により
「ぽい?ぽ~い~。」
「続けるから服を引っ張らないでくれ。服が伸びちゃうから。」
「ぽい!」
「なんか、夕立ちゃんが犬にしか見えないよ。」
「昔からよ、いつも通り『ぽ犬』ね」
「『ぽ犬』だね」
「ぽいっ!」
「怒るな、怒るな。ほら、佐世保バーガーあげるから。」
「ぽい~♪」
そう言って嬉しそうな夕立の前に佐世保バーガーを出すと、夕立に渡さず上にあげる。
「ほら、上げた。」
「………………」
すると、夕立の目からハイライトが消えて、髪が浮き上がり噛みつきに来る。
「…ガウっ!」
「おっと、危ない。ほら!」
ユキは夕立が噛みつくタイミング佐世保バーガーを口に入れた。すると…
「ガウ!…………ハムハム…ぽい~ 」スリスリ
夕立は直ぐに元に戻り、ユキに頭を擦る。
「怒った夕立の対処法その1、美味しいものを食べさせる、だよ。」
「無理に決まってるでしょ?それより、あんたは何の用でここに来たわけ?ただ黒潮たちを助けて連れてきたわけじゃないでしょ?」
叢雲は紅茶を「グッ」と飲んだ後、ユキに佐世保に来た理由を聞く。
「今回はただの観光で来たんだよ。みんなに休めって言われたからね。それでいつもの店に行ったら反艦娘組織が動いているって言うし、たまたま見かけたし、そんな理由だよ。」
「結局いつもと変わらないのね…。」
「今回は一仕事増えたけどね。」
ユキの顔は真剣だった。いつものユキならある程度のことなら呆れるか笑って話をする。その雪が真剣な顔をしているということは、何かあるのだ。
「反艦娘組織が使っていた武器に『雷牙』『深海歯』『解船棒』があった。」
「っ!あれは全部処分したはずでしょ!どうして今になって!」
「あの時、設計図だけ消えていた。だから盗まれたものが今になって使われた可能性が高い。あの武器を整備できるのは僕だけ。だけど、作成だけなら資材次第でどうにかなる。そして、それができるのは…」
「素材となる深海棲艦を捕まえることができる軍の関係者、それも提督クラス。」
いくつか考えられる今回の反艦娘組織の行動。ユキと叢雲は考えられる可能性を話し合う。その様子を夕立はつまらなそうに、眠たそうに聞いて、藍鈴は言っていることが分からないため、2人に聞く。
「え~っと、2人の話についていけないんですけど…」
「そういえばあんたは知らないわね。あんたはまだ産まれてないもの。」
「藍鈴にも分かるように1から説明しようか。」
ユキはいつのまにか寝ていた夕立を横にどけて、カバンから3枚の写真と1枚の紙を藍鈴に渡す。
「これは?」
「さっき言った武器と開発から処分までの歴史だよ、1つずつ行こうか。
まず、始まりは51年前の2020年、過去最悪と言われた大規模作戦が終わった後。僕はレ級だけど技術があったから、大本営で監視されながら開発や改修をしていたんだ。その時に人間が深海棲艦と戦うことができる武器を作ってほしいと頼まれた。
その時に開発したのが刺さったときに電撃を放出する大型針の『雷牙』、深海棲艦の装甲を材料とした特殊ナイフの『深海歯』、扱いやすく護身用にも使える特殊棒の『解船棒』の3つなんだ。これで深海棲艦に対抗できる、
「はずだった?」
「どれも近距離じゃないと使えない上、取り扱いが難しかったんだ。艦娘たちは使えたけど、人間は深海棲艦にたどり着くまでにやられてしまう。『雷牙』はボウガンとかで撃つことはできたんだけど、着弾前に落とされた。取り扱いも1番難しかったからね。
それで『雷牙』は開発と使用を禁止、他の2つは護身用として扱いやすくして、憲兵隊の武器として使われた。当時は荒れている鎮守府が多かったから、荒れたり洗脳された艦娘を抑えるためにも使っていたんだ。でも…。」
ユキは1度話を区切り、叢雲に淹れてもらっていた紅茶を飲む。「フー」と一息ついて話を続ける。
「それが無関係の子たちまで傷つけることになってしまった。」
ユキは少し悲しげな顔をして話を続ける。
「次第にまともな使い方がされなくなっていった。当時の研究部隊が艦娘を実験台とした研究をし始めて、多くの艦娘が傷ついた。すべて処分した2040年までに艦娘の被害は5000を超えていたんだ。当時の轟沈数より遥かに多かったよ。だから、元帥が咲に変わったころに元帥権限で研究部隊の調査。裏を洗い出して、研究員と協力者を確保、部隊は再構成されて、今のちゃんとした研究部隊になってる。
少し
話し終わったユキは紅茶を飲んで一息つく。藍鈴はその歴史にショックを受けたと同時に疑問を口にする。
「武器は全部処分したんだよね?なんで今になってその武器が?」
「設計図のみが盗まれていたんだよ。本当は探し出す予定だったんだけど、あれは生半可な技術じゃ作れないから当時は大丈夫だと思って放置してた。でも完成させちゃってたんだよね。まあ、見た感じ6割完成ってとこだったけど。」
「6割⁈だって黒潮は…」
「あれぐらいだから6割なんだよ。完全に完成したら、艦娘も確実に死ぬよ。」
「…え?」
「安心しなよ。むしろ
「欠陥設計図?」
「ユキは設計図に全部書かないのよ。他の奴が盗んだり、作って死なれたら困るから。だから、技術がある奴からすれば100%の力を出せない欠陥設計図ってわけ。」
「なるほど。」
叢雲の解説で藍鈴はようやく理解した。だがその上で気になること聞く。
「でも、6割であの傷でしょ?それに反艦娘組織ってたくさんいたんだよね。もしここが狙われたらみんなの命が、危ない⁈」
「まあ、危ないでしょうね。少なくとも憲兵たちは重症じゃ済まなくなるわよ。」
「どうしよう叢雲⁈みんなを守らなきゃ!食堂のおばちゃんたちや憲兵さんが危ないよ!」
不安なことが一気に増えてパニックになる藍鈴。涙を流しながら叢雲の肩を掴んで揺らす。叢雲が落ち着かせようとするが、なかなか落ち着かない。
「ちょっと⁈落ち着きなさい!」
「早くみんなを守らないと!みんな死んじゃう、死んじゃうよ!早k「トン」うっ…。」
藍鈴は首に衝撃を受けて、そのまま叢雲の方へ倒れる。パニックになった藍鈴を鎮めるために「首トン」をしたのだ。叢雲はそのまま藍鈴をソファーに寝かせた。
「それで、どうするわけ?この子が言うように間違いなくここは狙われるわよ。」
「ああ、だからここは叢雲に守ってもらいたい。僕は夕立と一緒にこの事件の黒幕を殺しに行くよ。こいつはさすがに殺さないとね。」
ユキは親父さんに貰った現市長「星野 正義」のポスターを叢雲に見せる。そのポスターを見て、叢雲は納得した。
「…なるほど、こいつだったのね。分かった、本当は私も行きたかったけど任せるわ。それにこれはあなたたちの仕事だしね。私はみんなと話をしてくるわ。今夜は眠れなくなるわね。」
「ごめんね、叢雲。ここは任せるよ。一応監視と連絡用に僕の分身を何人か置いておくね。」
「了解。」
叢雲は放送で総員呼び出しをして、大きい会議室で全員に説明。みんな困惑していたが、何とか落ち着かせ、シェルター内の部屋分けを伝えた。
その後、全員が夕食を済ませ、シェルターに避難した。施設内も工廠などは鍵を閉めておき、艤装はシェルターに持ってきて深海棲艦からの襲撃にも対応できるようにしておく。叢雲もユキの分身と共に門が見えるところに待機した。
ユキは夕立と共に鎮守府の屋上で黒いローブを着て待機していた。昼に黒潮たちを襲った若者たちがアジトらしき場所に入って行くのをユキの分身が確認したため、警備が手薄になる襲撃時を狙って待機している。分身から連絡が来れば叢雲に連絡し、防衛と襲撃ができるようにしている。それまでは夕立の甘え時間だ。
「ぽい~」
「昔に比べて笑顔が増えてよかったよ。いい子にしていたかい?」
「ぽい! 」
満面の笑みで答える夕立。いつまでもこんな時間が続けばいいと思っていたが、そんな時間もすぐに終わる。分身からの連絡が届いたのだ。
『こちら「α」、敵が動き出した。全員が武器を所持、見たことがない武器もある。おそらく設計図から新たなものを作り出したと思われる。対象はいない。』
『こちら「β」、建物内に対象者を確認。警備は100人ほどで全員が大人だ。襲撃は若者に行かせたと考えられる。』
「こちら『零』、了解だ。これより『零』、『ヘルハウンド』は敵地を襲撃、対象者を処分する。対象者以外はなるべく生かせ。『α』は敵を監視するために後を追え。叢雲との連絡は常に怠るな。『β』は引き続き監視、対象が行動を起こしたら連絡せよ。」
『『了解』』
ユキは自分の分身に指示を出した後、夕立と共にフードを深くかぶり、鎮守費の屋上から別の建物の屋根に飛び移る。屋根から屋根に飛び移り、山の方にある敵のアジトを目指す。
「さあ、久々のお仕事だ。腕は落ちてないね?」
「がるう~ 」
「いい返事だ、それじゃあ行くよ。『今宵、我々猫は闇に染まる』。」
ユキがそう言うと2人は闇の中に姿を消した。
第12話を見ていただきありがとうございます。
観光初日から巻き込まれましたね。
現れた反艦娘組織、そして最後にユキが言ったセリフの意味とは。
気になることがたくさんありますが、それは後程。
佐世保の司令官の名前は彼女のオリキャラの名前を使う許可をもらいました。
それでは次回までお楽しみに。
感想・誤字脱字報告、待ってま~す。