「まさか投稿遅れたのって…」
「いや、それは関係ない。しいて言うならやる気が起きなかったのと、納得いかないところが多かった。絵も描いてたし。」
「やること多かったし、しょうがないか…。ところでさ」
「何?」
「やる相手いるの?」
『グサッ』
「……うああああああ!」
「あ、どっか行った。
まあ、そういうわけで第13話、始まるよ。」
佐世保鎮守府から今回の騒動の黒幕がいると思われる建物へ向かうユキと夕立。建物から建物へ誰にも見られることなく飛び移る。
途中で鎮守府に向かっているだろうと思われる若者の集団と自分の分身
何度も建物を飛び移り、佐世保鎮守府から離れた山にある一つの建物。そこから少し離れた建物の屋上で足を止める。そこには
「どうだ、中の様子は。」
「異常なし。対象も未だ同じ場所にいるよ。見張りは100人前後、人質にされていそうな人はいないよ。それと…。」
「ああ、言いたいことは分かる。そっちは任せていいか?」
「いいよ。地下への入り口は探しておくよ。見張りは気絶でいいんだよね?」
「ああ、今回の目的はあくまで対象の処分だ。他の奴はできる限り生かしてやれ。」
「了解。」
そのままβは闇に溶けるように消えた。その後、少ししてからユキは夕立と一緒に対象の部屋までの
建物内の一室。そこで1人の男がパソコンとにらめっこしながら作業をしていた。
「ったく、めんどくせーな。いくらあいつらに復讐するためとは言え、市長になんてなるんじゃなかったぜ。」
愚痴をこぼしながら作業をするのは、太り気味の悪面で
自分をこんな姿にした艦娘と、自分の出世の道を邪魔した人間に復讐するために市長になった星野。その星野が使うパソコンには市長の作業資料が映っていた。
「よしこれで終わりっと。あー疲れた、これで少しは楽できる。」
そういって星野は時計を見る。時間は24時前、もう少しで日をまたぐ時間だった。
「あいつらはそろそろ佐世保についた頃か。艦娘どもも慌てるだろうな、いきなり襲われるんだから。これで佐世保も終わt『ピピピ』ん?クソ、あの研究員どもか。ああ、給料出せって?今からたんまり実験体が手に入んだろが、それで我慢しやがれよ。」
星野は研究員からのメールを無視してパソコンを閉じる。武器やその実験をしたこと自体に感謝はしているが、
そんな星野には疑問に思ったことがあった。建物内がいつもより静かなことだ。若者たちが今いないとはいえ警備だけで100人前後、いつもなら話し声が少しでも聞こえるはずなのに聞こえない。
そこで一つの仮説を考えた。誰かが侵入しているということだ。こんな男でも多くの人生経験があるため、色々な思考をする。しかし、鎮守府側には情報がいかないようにしているためそれはあり得ない。そこである人物が思い浮かんだ。
「そういや、ガキどもが艦娘襲う時に邪魔されたって言ってたな。白い髪の子供、まさかそいつが…。」
その仮説に行きついた時、鍵を締めていたはずの扉が
星野は直ぐに服の裏に隠していた拳銃を取り出し、ローブの人物に向ける。
「お前たち、一体何者だ!この俺に何の用だ!」
「何の用か、君が一番わかってるんじゃないのかい?」
「ふん、分からないな。」
「そうかい。ならゆっくりお話ししようか。佐世保市長の星野正義さん。いや、名古屋鎮守府 元海軍少佐、『
「…っ⁈おまっ、なんで俺のことを!!」
「知っているさ。大将である親父さんのコネで18という若さで士官となったが、その成績は中の上。戦略と呼べるものはなく、親父さんをまねて駆逐艦たちを盾にして、戦艦や正規空母で押し倒す『捨て艦戦法』を使用。その結果、憲兵に要注意人物に指定され、艦娘に牙を向けられて左手を失った挙句、大本営の営倉に入れられた哀れな男。そして31年前に父親と繋がった人間による手助けで脱走、それと共に対深海棲艦用装備の設計図を盗み出し、顔を変えて隠れていた。現在は前市長をでっち上げの罪で市長になった、反艦娘組織の代表。と言ったところかな。」
星野改め厄元は驚きと共に冷や汗をかく。目の前にいる正体不明の人物に
「さてはおまえら、海軍の手先だな。元帥の犬か!」
厄元は元帥の犬、つまり、元帥直属の部隊だと厄元は予測する。
「犬は憲兵連中だけさ。犬っていうのはその忠犬たちに言ってくれないかな?」
「ここにきている時点でお前も同じだろ。」
「ここにきているのは僕たちの意思さ。特にこの子は、ね。」
そう言ってローブの人物は後ろにいる人物のローブを取り正体を露わにさせる。
「お、お前は⁈」
「グルルルル…」
「久しぶりの再会に喜びなよ。君が傷つけた彼女、君の左手を捥いで右手に歯形の傷を残した狂犬ちゃんとの再会に。」
厄元は正体が露わになった少女を見て驚愕した。金髪で赤い耳を生やした少女、それは厄元に取ってトラウマそのものであった。
時は51年前に遡る。
51年前、当時海軍士官学校を卒業した厄元は海軍大将であった父のコネで名古屋に設立されていた「名古屋鎮守府」に着任した。彼は戦艦や空母を中心とした大型艦の戦隊によるごり押しで海域を攻略し、同期の中で1番の戦果を挙げていた。戦果のみを評価されていた時代のため、彼は「次期大将」、「元帥になる男」と噂されていた。
しかし、海域3-2「キス島撤退作戦」でその道は断たれることとなった。
海域3-2は駆逐・軽巡を中心とした艦隊でなければボスに到達することはできない。当時は情報もなく、そんなことなど知らない彼はお得意のごり押しを繰り返した。だが、羅針盤がボスの方へ向かうことはなく、呉鎮守府の
噂がただの噂になり下がってから少し経ち、駆逐・軽巡を中心とすることが分かった彼は今まで空母や戦艦の盾代わりに使っていた駆逐達をまともなレベル上げをさせないで投入。何度も繰り返し出撃させたが、帰ってきたものはほとんどいなかった。
「また沈んだのか!!ったくどいつも使えねぇな、おい!」
「ひぃ!…ご、ごめんなさい!」
「ちっ、このクズが。すぐに駆逐ども連れて攻略に行ってこい!」
「え⁈そんな、私まだ補給が…、それに駆逐の子はもう…」
「お前に補給させるだけ無駄だ!とっとといけ!駆逐が足りないんなら建造してでも連れていけ!」
「そ、そんな…」
同期たちに抜かれていったせいなのか彼は荒れていた。重巡以下を盾にしか思っていなかった彼にとって、彼女たちの命などどうでもよかったのだろう。
だがそんな彼に唯一歯向かった艦娘がいた。
「断るっぽい!」
「お前…今なんて言った?」
「断るって言ったっぽい!」
唯一、彼に歯向かったのは夕立だった。この鎮守府の古参であり、無謀な3-2攻略で生き残った数少ない駆逐艦。この鎮守府には彼女以外の古参はもうほとんどいなかった。仲が良かった子も、一緒に楽しい時を過ごした姉妹も。
そんな夕立に「駆逐を建造して行け」と命令したが彼女は従わなかった。
「てめぇ、俺の命令が聞けないのか!」
「仲間を、姉妹を次々沈めるお前の命令なんて聞かないっぽい!」
「調子に乗るなよクソガキ!おい!そいつを
その後、多くの憲兵たちが夕立を捕らえ、営倉に閉じ込めた。夕立は抵抗したが多勢に無勢、いくら艦娘とはいえ大人数相手には抵抗できなかった。
夕立は手足を縛られ宙づりにされ、約1か月、提督によるサンドバックにされたり、憲兵たちのストレス発散にされたりと酷いことをされた。
その結果、体は傷だらけで血まみれ、足は変な方向に曲がり、何も飲み食いできていないせいかかすれた声でうめき声をあげていた。
そんな状態が続いたある日、夕立の耳に誰かの悲鳴が聞こえた。
その悲鳴を聞いた瞬間、夕立の中で何かがはじけた。それと同時に体が輝き、姿が変わって良く。
髪の先は赤色に変色し始め、髪と同じ色の
輝きが収まると夕立は目を見開き、自分を
それを見た夕立は獣のように天に向かい吠えると地面を強く蹴り、30m以上遠くにいた憲兵たちの首を全て切り落とし、目の前で起きたことが理解できず、動きが止まった厄元の左腕を捥ぎ取った。
「があああああああ⁈俺の、俺の腕がーーー!!」
「ガルルルル!」
「お前が何でここにi「ガウ!」ぐあっ!は、はなせ!」
厄元は食いちぎられる前に夕立を振り払って逃げ出す。すると向いた方向には多くの憲兵が走ってきていた。厄元は直ぐに助けを求める。
「助けてくれ!殺される!」
「お前が厄元 正義だな。」
「ああ、そうだ。早く助けt「お前には艦娘に対する暴行、軍資金の独占などの罪に問われている。よって、この場で逮捕させてもらう。お前たち、かかれ!」なっ。やめろ、離せ、離せー!」
その後、厄元は大本営の営倉に送られ、名古屋鎮守府は新たな提督と共に生まれ変わった。厄元は窓もない灯り1つの部屋に20年間閉じ込められたが、幸い命は助かった。
だが、50年以上経った今、その命が失われようとしている。捕まった後にどうなったかは知らなかったため、勝手に解体されたのだろうと思っていたが、再びトラウマと出会うことになってしまった。
「なんで解体されなかった、憲兵を全員殺したのに!」
「君が捕まった後、ある提督の下で更生したんだよ。それより、もういいかな。君と長話している暇はないんだ。さっさと処分させてもらうよ。」
「くっ、くそが!」
厄元は向けていた拳銃で1発撃つと部屋の奥の窓に向かう。ここから窓を突き破って逃げればまだ助かる、そう思って足に力を籠める。しかし、
厄元は困惑する、一体何があったのかと。次第に足に力が入らないのではなく、足の感覚がないことに気づいた。まさか、と思い振り返るとそこには、自分の右足(膝から下)をもってボールのように片手で投げていた。その光景を見た厄元の足は次第に熱くなり、激痛が伴う。
「ああああ‼俺の、俺の足がー‼」
「ぽい 」
夕立が笑みを浮かべる。自分の悲鳴を聞いて喜んでいるかのように笑みを浮かべていた。そこから夕立に左足、右手を手刀で綺麗に切り落とされる。
厄元は完全な
「…っ…ぁ……ぁぁ…」
「ぽい、ぽい 」
目の前の悪魔は満面の笑みで虫の息である自分の心臓めがけて手刀した。
「夕立、ストップ。」
「ぽい?」
「もう気絶してるから、その辺にしときな。あとはあの子たちが回収するから。」
「ぽ~い~」
「我慢しろ。こいつは生きて晒される方が死ぬより辛いからな。」
「…ぽい」
ユキはとどめを刺そうとした夕立を止め、
「こちらユキ、対象を捕縛。処分は大本営で行う予定だ。」
『こちらα、既に憲兵によって場は鎮圧。叢雲が1人ケガさせたけど、幸い死者はいないよ。』
『こちらβ、既に中にいたほとんどの見張りを捕獲、憲兵たちとも合流した。それともう1つ、地下へ続く怪しげな扉を確認。艦娘憲兵が来るまで待機中。』
「了解。βは憲兵たちに対象を確保したことを伝えてくれ。αは鎮守府の稼働再開と周囲の警戒を頼む。もし伏兵がいた場合、速やかに確保してくれ。」
『『了解。』』
連絡を終えたユキは夕立に厄元を見張らせている間にパソコンを開く。厄元が使っていたパソコンをハッキングし、怪しい情報を全て抜き取っていく。全ての情報が抜き終わったのとほとんど同時に憲兵たちが扉を開ける。
「憲兵隊だ!動くな!!…て、あれ?
「お疲れ様。私も別件で動いていてね、さっきまで君たちのところにいたのは私の分身だよ。それよりも、こいつを大本営の営倉に送ってくれ。それとこれを渡しておく。」
1人称を「
「このUSBメモリは?」
「こいつのパソコンの中に入っていたデータさ、証拠としては十分なものだろう。私はこの後、艦娘憲兵と共にここ地下の調査をする。お前たちは地上の調査後、部隊を3つに分けて1つを奴を連れて大本営に、1つをここに、1つを鎮守府に送り、私が戻るまで警戒にまわしてくれ。後で、今回の事をまとめたい。ここの人数は多めに頼む。」
「了解しました、感謝いたします。お前たち、連れていけ。」
ユキは憲兵たちに指示を出し、夕立と共に艦娘憲兵が来るまで建物の外で待機する。この建物の地下に
時は少し遡り、ユキが厄元と対峙している頃、叢雲は佐世保鎮守府の門前で待機していた。ユキの分身(以降
しばらく瞑想をしているとγと敵を追っているαから連絡が来る。
『こちらα、敵が鎮守府前まで進んでいる。今のところ固まって動いている。』
『こちらγ、こっちも確認できた。警戒を厳に、正門は叢雲に任せる。横に移動した奴らは僕たちが叩くから、憲兵隊が来るまで耐えてくれ。』
「こちら叢雲、了解よ。約束はできないけどケガは最小限にしておくわ。」
『殺さなかったらそれでいいよ。なるべく体の欠損もやめてよね。』
「分かってるわよ。もう少しで戦闘に入るから、バックアップよろしく。」
『『了解。』』
叢雲は連絡を終えると、何もないところから槍を取り出して前方へ振り上げる。すると「ガキィン」と言う音と共に何かを打ち上げる。少しして落ちてきたそれを確認すると電気を帯びた太い針だった。叢雲は直ぐにそれが大型針「
「下手くそな不意打ちね、やるならもう少し気配を消してくれないかしら。」
「…………………」
「隠れても分かるって言ってんのよ、早く出てきなさい。」
その言葉を聞いたからか、暗闇の中から多くの若者が出てきた。
男女問わず全員が武器を持って現れた。叢雲は彼らに問う。
「それで、一体ここに何の用できたのかしら?そんな物騒なものを持って。」
叢雲の問いに先頭に立っていた男が答える。
「俺たちはお前たちに傷つけられた人類を守るために戦う反艦娘組織だ。お前たちが多くの人間を傷つけていることは知っているんだぞ!」
その言葉を聞いた叢雲は心底呆れた顔をした。
「はぁ。どいつもこいつも馬鹿ばっかりね、呆れたわ。」
「なんだと!」
「一部の言うことだけ信じて、正義感だけで動く奴はただの馬鹿よ。それに多くのって言っているけど、具体的にはどのくらいいるわけ?」
「それは…」
「言えないのね。まあ、無理もないわ。上はあまり
「……………」
叢雲の言葉に若者たちは黙ってしまった。
たった1人の人間の話で艦娘たちを攻撃した自分たち。大人たちの話、止めてくれた同年代の人たちの話を聞けばよかったと後悔する者たちは武器を下ろしていく。
しかし、それでも納得しない者もいる。
「俺は騙されないぞ!艦娘は市民に手を出せないからそんなこと言って、逃れようとしているだけだろ!逃がすものか!」
そう言って
とため息をつきながら話す。
「確かに艦娘は市民に手を出せないわ。でもね…」
叢雲は槍の形状を
「がはっ!」
「反艦娘組織の人間とか、鎮守府への侵入者とかには手を出せるのよ。」
叢雲はあっさりと男を刺股で捕縛すると、残りの若者たちを威圧する。他の若者たちはその圧に押され怯え始める。女性においては泣き出すものまで出てくるほどだ。その様子を見た叢雲はさらに圧を掛ける。
「泣き出すぐらいならこんなことをするな!命を懸ける覚悟もないくせにこんなことを、うちの子たちを傷つけたっていうの!ふざけるな!」
叢雲は怒りを露わにする。その怒りに若者たちは武器を落としてしまう。
一見クールな彼女だが、人一倍仲間思いである。黒潮と雪風のことを聞いた時はすぐに黒幕を殺そうとも思っていた。だがその役目はそういうことに慣れているユキに任せ、叢雲は鎮守府を守るという目的とは別にもう一つの目的のために残っていた。
「戦意の無いあんたたちを攻撃する気はないけど、私としては許せないやつがいるのよ。ねえ、1発目の挨拶をぶち込んできた、うちの子たちを傷つけたそこのあんた。」
叢雲は先頭にいる男に指をさす。最初に雷牙を撃ち込んだ若者たちのリーダー的存在であり、黒潮と雪風を襲って傷つけた若者を。
突然のことに若者は驚く。叢雲に見られたわけではないのに、
「俺が傷つけたっていうのか!そんな証拠がどこにある!」
「あんた達には見えない印がついているのよ、昼間に襲った奴ら全員にね。特に攻撃したあんたに対して分かりやすい印がついているのよ。」
叢雲の目には見えている印。
正確に言うと一部の適正者と提督が見ることができ、艦娘全員にとってなくてはならない印。
そう、妖精である。
現に黒潮たちを襲った若者たちの頭上には妖精たちが浮いており、叢雲が指をさした男の頭上には
「他の奴はどうでもいいけど、あんたには今回のことを償わせるわ。」
叢雲は
「その命でね!」
叢雲は一瞬で近づき、その赤い槍で男を攻撃する。
「その心臓もらい受けるわ!『
叢雲の強力な一撃は男の心臓を穿つ、ことは無かった。αがそこに割り込み、槍を止めたのだ。だが完全に勢いを殺せなかったため、男の肩に刺さるように軌道をずらした。
「ひ、ひぃ!」
「なんで邪魔をしたの。」
「殺すなと言わなかったか?それにもう時間だ。」
そう言うと、軍服を着た男たちが鎮守府の入口を囲った。
「憲兵隊だ!大人しくしてもらおう!」
その言葉と同時に周りから、迷彩柄の服を着た男たちが若者たちを捕らえていく。
「そう、じゃあ向こうも終わったのね。」
「もう少ししたら連絡が来る…『ピピピ』っと噂をすれば。」
「こちらα、既に多くの憲兵によって場は鎮圧。叢雲が1人ケガさせたけど、幸い死者はいないよ。」
「了解」
「向こうも終わったから鎮守府の運営を再開して良いって。ただ、残党がいるかもしれないから警戒は続けるよ。憲兵の皆さんもお願いします。」
αは憲兵に指示を出し、叢雲は藍鈴たちの元へ行き、周囲の警戒をしつつ艦隊運用を再開させた。後は、本体側から来る増援の憲兵を待つだけである。
「あ、叢雲は後で説教ね」
「うっ、分かったわよ…。」
叢雲の説教も忘れずに。
憲兵が建物の調査を終え、増援の憲兵隊が鎮守府に向かうのとすれ違いで
艦娘憲兵とは、その名の通り艦娘の憲兵だ。艦娘の暴走や深海棲艦が関わる内容などは人間の憲兵には荷が重い。いくら鍛えたり訓練したりしても力の差は歴然なのだ。そのため同じ力を持ち、対抗できる艦娘を憲兵として活動できるように大本営の憲兵隊の中に艦娘憲兵隊を設立、今では各地方の憲兵隊(支部)にも配属されている。また、艦娘憲兵隊は3~5人のグループをいくつか作り活動している。
今回は九州支部から「朝潮」、「那智」、「矢矧」の3人が増援に来てくれた。3人とも憲兵と同じ迷彩服を着ている。
「憲兵隊 九州支部所属 第一艦隊隊長の朝潮です。」
「同じく第一艦隊の那智だ。」
「同じく第一艦隊の矢矧です。」
「ユキだよ、よろしく。それじゃあ行こうか。夕立はここで憲兵たちと門番をしていてくれ」
「ぽ~い」
ユキは3人を先導して自分の分身の元へ行く。分身を見た3人に驚かれながら謎の扉を開けて入っていく。その部屋には地下へ続く階段だけがあった。
分身に扉の前の監視を頼み、4人で階段を下っていく。神社のように長い非常階段の様な構造の階段を下っていくと固く閉ざされた扉が現れた。
「どうやらこの先に何かありそうだね。」
「そうですね。でもどうやって開けるんですか?」
「よし、私がこじ開けてやろう。はぁ!」
那智が勢いをつけて扉を蹴る。扉は大きな金属音を鳴らしたが、まったくの無傷だった。
「恐ろしく硬いぞ、この扉。」
「今度は私が!」
那智に続き、矢矧も蹴りを入れるが同じく音を鳴らすだけだった。
「何よ、この固さ⁈まるであいつらの艤装みたいね。」
「今度は私が行きm『ストップ』…え?」
「君たち血の気が多すぎだよ、ちょっと待ってて。」
ユキはそう言って、扉の横にあるパネルのようなものを操作する。しばらくすると固く閉ざされた扉が簡単に開いた。
「ユキさん、いったい何を?」
「ハッキングしただけ。大したものじゃなかったよ。」
そう言ってユキは扉の奥に入っていく。朝潮たちもその後を追って扉の奥へ進んでいく。
扉の奥は真っ白な廊下が続いており、その横にいくつかの扉がついていた。
「1部屋ずつ調べている時間はなさそうだから、とっとと行くよ。」
「行くって、どちらに?」
「ついてくれば分かる。」
ユキは他の扉に目もくれず、どんどん奥へ進んでいく。朝潮たちも疑問に思いながらついて行くと、ユキは一番奥にある部屋の一つ前の部屋を開けた。そこには目と口をふさがれ、手足を縛られた老人がベッドの上に横たわっていた。朝潮はすぐに駆け寄り、老人を開放する。
「大丈夫ですか。」
「ぅ…うう、誰だ…」
「憲兵隊です。あなたはここで何を?」
「私は…奴らに捕まって、子供たちの悲鳴を聞かされて…そうだ!子供たt…ぐっ!」
老人は肩を押さえる。どうやら怪我をしているようだ。ユキはその老人を見て誰だったかを思い出す。
「あ~、どっかで見たことあると思ったけど、あんた前の市長か。」
「あ…ああ、そうだ。濡れ衣を着せられてここに閉じ込められた哀れな老人だよ。」
老人の正体は前市長。厄元が市長になってから行方知れずになっていたが、どうやら捕まっていたようだ。ユキは前市長と目線に合わせて話を聞く。
「ここは研究室だったのか?」
「ああ、色々な武器が作られていたよ。それをその奥、突き当りの部屋に持って入った、小さい子供を連れてね。」
前市長が指を指したのはユキが入らなかった方の扉、そこに武器を持って子供を連れて行った。ここまで言えば察するだろう、ユキは直ぐに気づいた。
「実験体か……。よし、朝潮は彼を連れて地上へ向かって上にいる分身と合流してくれ。那智と矢矧は僕と一緒にこの部屋を調べた後に奥の部屋へ。」
「了解です。さあ、行きましょう。」
朝潮は前市長を連れて入口の方へ向かう。それを見送って一通り部屋を散策した後、那智がユキに質問する。
「少し聞きたいことがあるのですが…」
「普段通りのしゃべり方でいいよ、言いづらいでしょ。」
「かたじけない、改めて聞きたいことがあるのだが、なぜ朝潮を地上に?あいつは駆逐艦だが我々の隊長だ、実力はあるぞ?」
「子供の死体を見たことは?」
「死体ぐらいなら我々も『
「今から見るのはそういうものだ、しかも子供、いや艦娘だろうな。それも駆逐艦の。」
矢矧と那智はユキの言葉で察した。前市長の言葉で2人は「子供の兵士化」もしくは「武器の試運転」だと思っていた。しかし、ユキの言葉で「武器の性能を確かめるための実験体、的にされた」ことを察した。さらにそれが子供の艦娘、つまり駆逐以下の可能性が高く、その中に
「すまない、そこまで考えていなかった。」
「まあ、仕方ないよ。そんな状況に遭遇するなんて滅多にないんだから。それじゃあ、今の話を聞いた上で聞こうか。覚悟はできたかい?」
「ああ、覚悟はできている。」
「私もできているわ」
2人の覚悟を聞き、ユキは奥の部屋へ行って扉を開ける。すると…
「うっ!なんだこの匂い!」
「ひどい匂い、鼻が曲がりそうね…」
「死臭がひどいな、夕立を連れてこなくて正解だよ。」
扉を開けると1番にやってきたのは死臭、その次に生暖かい空気が肌を撫でていく。長時間此処にいれば感覚がおかしくなりそうなほどだ。
ユキは直ぐにマスクを2人に渡して奥へ進む。奥に行くにつれ酷くなる死臭を我慢しながら、原因となっているであろう部屋の奥の扉を開ける。
「これは…ひどいな」
「こんなことが…」
「ひどい…」
部屋には
那智と矢矧があまりの光景に動けないでいる中、ユキはそれが並ぶ隙間を通り、さらに奥の方へ向かう。
「ぅ…ぁぁ…す……ず…」
そこにはかろうじて息のある艦娘が括りつけられていた、駆逐艦にしては大きい体の少女は手や足を針で貫かれて体全身がボロボロになり、白い服と髪は血などで汚れている。
ユキは彼女に近づくと十字架を壊して少女を開放すると、どこからか出したバスタオルほどの大きなタオルで体を包み、試験管に入った何かを飲ませる。それと同時に那智たちも到着する。
「その子は……」
「
矢矧はユキに抱えられている少女を「冬月」と呼びすぐに駆け寄る。その声に反応したのか、冬月は治り始めた体を少しずつ動かし、矢矧に顔を向ける。
「そ……の声は…矢矧……か…。涼……涼月はどこに……私と一緒に…ここへ…。」
「涼月とここに来たの?」
「ああ…。たしか、福岡鎮守府で…拾われて……それ…からこ…こに。」
「最近新しくできたところだな。裏を取る必要があるか。矢矧と那智は彼女を連れて憲兵隊と合流し、佐世保へ向かってくれ。応急処置はしたがすぐに入渠させた方がいい状態だ。僕はもう少しここを探る。色々とやらなくてはいけないことがあるからね。」
「分かった。矢矧、行くぞ。」
「ええ、冬月を運ぶから手伝って。」
那智と矢矧は冬月を抱え、周りを見せないように工夫しながら部屋を出ていく。それを見送りユキは上にいる憲兵隊に連絡する。
「私だ。先ほど艦娘を1人保護し、艦娘たちに運ばせた。その子を佐世保へ運ぶ準備をしてくれ。前市長も同じく丁重に案内しろ。それと、福岡鎮守府に監視を付けてくれ。何か裏がある。」
ユキは憲兵に連絡をした後、周りにある死体を1つずつ確認し、記録をした後に1か所に集めて火をつける。これはユキなりの火葬の仕方だ。
艦娘が陸上で死んだ場合は轟沈と違って体と艤装が残り、死体は大本営に運ばれて特殊な火で火葬処分される。その際に一部が実験台として利用されることがあるため、ユキは誰の死体なのかを記録した後に独自に開発した特殊な火を使って火葬する。
その放った火は次第に大きくなり、徐々に縮んでいく。そして、その火が消えるとそこには
「君たちは妖精として復活したんだよ。これから佐世保に行くけど来るかい?」
ユキが使った火は妖精化の火。陸上で命を落とした艦娘を浄化して妖精化させる。妖精化するかどうかは本人の意思のため、全員が妖精化するわけではない。また、浄化された艦娘たちは「新たな生を歩むか否か」と言った質問に答えるため妖精になることは知らない。
そのようにして蘇った妖精たちはお互いに顔を合わせて頷くとユキの体に飛び乗る。
「満場一致だね。それじゃあ佐世保に行こう。その前に各部屋を探索するから手伝ってくれるかい?」
「(‘◇’)ゞ」ビシッ!
ユキはそのまま妖精たちを連れて各部屋を回って資料、武器、機械などを回収・破壊した後に地上へ出る。地上では冬月を佐世保に送り終わった後のようで、憲兵が数人待機していた。
「こちらの準備は整いました。すぐにでも出発できます。」
「ありがとう。悪いんだけど憲兵隊の方でここの監視も頼めるかな。一週間以内にここを爆破解体してほしい。住民への知らせも忘れずに。」
「了解しました。九州支部に連絡しておきます。私を含め5人ほど配備し、ここの監視をします。部下に説明はしているので総隊長は佐世保に向かってください。」
「ああ。何かあったら連絡をくれ。夕立、佐世保に戻るよ。」
「ぽ~い。」
ユキたちは憲兵たちに警備を任せて佐世保に帰投する。佐世保鎮守府は既に叢雲とαが指示を出していたため通常運用に戻っていた。ただ警戒は怠らず、非番の子たちも警戒任務に赴いている。
ひとまず報告のために執務室に行くと藍鈴や駆逐鑑たちに泣きながら抱き着かれた。
全員を慰めた後に会議室に向かうと、既にαが一通り説明と指示を出していた。
「今回の件は以上だ。福岡鎮守府の監視、実験施設の爆破解体、佐世保鎮守府周辺の警戒を全体に知らせてくれ。解散後、前市長を自宅にお送りしろ。しばらくは周囲の警戒も忘れるな、いいな。」
「はっ!」
「それじゃあ後は頼むよ、本体。」
「はいはい、お疲れ様。」
αは煙となって消える。憲兵たちは何が起こったかよく分からなかったが、
「地下で手に入った資料だ。上にあったやつと合わせて色々と探ってくれ。」
「了解しました!失礼します!」
今度こそ本当に解散し、全員が出て行った後にユキも会議室を出る。その足で工廠に向かい扉を開ける。
そこにはピンク色の光景、
「ダメよ、明石。こんな時間からなんて…」
「いいじゃない、昨日はできなかったんだから。夕張だって溜まってるでしょ?」
「それはそうだけど……」
「それじゃあさっそく……」
「おい。」
「あ、お疲れ様です、師匠!」
「あの、えっと…お疲れ様です…。」
気づいた明石が近くにやってくる。
「明石。」
「はい、なんでしょうか!」
ユキは明石に対して拳骨をする。
「いったーーーーい!」
「白昼堂々と仲間を襲うな、このレズビアンが。夕張もちゃんと断りなよ。」
「えっと…、実は誘ったのは私で…今夜やろうって……///」
「……関係はいつから?」
「いててて、えっと確か夕張がドロップしてから数年ぐらいかな?私が襲って「ゴツ」ったーい!」
「やっぱりお前の影響か!」
ユキの拳骨を食らった明石は地面に転がる。あまりの痛さにそうしないと耐えられないのだ。
「ったく、それで今日の業務は?」
「うう、痛い。えっと、昨日みんなで避難している間に必要なものを終わらせたので、後はしばらく非番の子たちの分ぐらいです。」
「そうか、夕張は?」
「今日は非番ですけど…。」
「なるほど、二人とも暇なのか…。」
明石はこの言葉を聞いた瞬間、工廠から逃げた……かったが、時すでに遅し。逃げるよりも先にユキが首根っこを掴んだ。
「逃がすわけないでしょ?今日はここに泊まるから一日中お前の面倒を見られるんだよ。だから、あの時教えてない分しっかり勉強しようね。」
「そ、そんなー!」
こうしてユキによるスパルタ授業が夜まで続いた。
『ありがとう…ございました……。』
「はい、お疲れ様。2人ともやればできるじゃないか。今度ここに来るまでにもっと勉強しておいてね、それじゃあ解散。」
ユキは満足しながら工廠を出ていく。
前に話したようにここの明石は研修時にユキを襲って反省部屋へぶち込まれた。その際全員を同じタイミングで卒業させるためにかみ砕いて教えたのだ。そのため、教えていないことが多いことを思い出し、今日のようなスパルタ勉強を実施したのだ。
とても満足したユキは風呂と食事を済ませてもう寝るだけとなった。今日は最後の用事を済ませるために執務室へ向かう。執務室では昨日と同じように藍鈴は書類に追われ、叢雲はそれを補助(追い込み)し、夕立は犬の着ぐるみパジャマを着て寝息を立てていた。
「ほら、今日中にこれだけ終わらせるのよ!」
「ひぃぃぃぃ!終わんないよぉぉぉ!」
「泣き言言わない!ああ、もう!ここ間違ってるじゃない!やり直し!」
「そんなー!」
ユキはカオスだなと思いながら夕立の隣に座る。夕立は「ん~」と言いながら`もぞもぞ`と動き、ユキの腰に手を回して膝を枕にする。ユキはその様子を見ながら夕立の頭を撫でる。
しばらくするとひと段落付いたのか藍鈴は「あ“あ”あ“」机に伏せた。叢雲はプンプンしながらソファに腰掛けてユキに話しかける。
「まったく!それで、ユキは何しに来たの?」
「え?ユキさん!いつの間に。」
「藍鈴が叢雲に怒られているときに来たよ。それと僕がここに来たのは叢雲に話があるからだよ。」
「何よ、話って?」
「自分がよく分かってるでしょ?宝具を使ったんだから。」
「うっ、それは……」
「はぁ、忘れていたね。」
「……………」
「まあ、幸い命に別状はないから傷の手当てをしてから返した。もちろん監視はつけているからまた事を起こすことは無いだろう。叢雲については、まあ、本当なら営倉送りだけど、正当防衛ってことで処分は無し。ただし、今後の槍の修理の額は上げるし、完成までの期間を延ばすからそのつもりで。とりあえず1年待ちは確定だと思っておいてね。」
「1年も待たないといけないの!」
「むしろ1年に抑えたことを喜んでくれ。5年でも少ない方なんだから。」
「くっ!分かったわよ、それで条件を飲むわよ!」
「では決まりだ。この書類に書いてもらうよ。」
ユキは叢雲に書類を書かせるとそれを大事にしまう。
「それじゃあ、僕の話は以上だ。今日はもう寝るよ。明日はここで朝食を取った後に
「分かった。あの子たちによろしく伝えておいて。」
「ああ、それじゃあお休み。夕立、一緒に寝るかい?」
「…ぽぃ~」
「分かった。じゃあ一緒に寝よう。」
夕立を抱きかかえて2人に改めて「お休み」と言って執務室を出る。
退室後に執務室から藍鈴の悲鳴が聞こえたが気のせいだろう。今は夕立と、家族との時間を大切にしようと思ったユキは用意された部屋へ向かい、夕立と共にベッドに入る。
鎮守府にいた頃は提督の横を取り合った仲である夕立と久し振りに一緒に寝る。
夕立の可愛い顔と、寝息を聞きながらユキの意識も体が暖かくなっていくのと同時に沈んでいった。
第13話を見ていただきありがとうございます。
ユキちゃんに新役職「総隊長」が加わりました。
一体いくつ役職があるのでしょうかね。
今回の夕立の姿は戦闘時以外では普通の姿となります。
あの姿は戦闘や任務中にしかならないし、今回はトラウマを呼び起こすためにユキちゃんがそうするよう指示してます。
次回はとある2人に会いに行きます。
既に18話ぐらいまで考えてるけどなかなか進まない(~_~;)
次の投稿は7月上旬に出せたらいいなと思ってます。
それでは皆さん、次回までしばらくお待ちください。
誤字脱字、感想等待っているのです(⌒∇⌒)