原作で元々あった以外の恋愛要素は入れないようにしています。
未だ、何も無い。
音も、光も、無く、
自分の声も、自分の姿も、無く、
自分が誰なのか、未だ誰も知らない。
自分はーーーおれは、誰?
誰がおれなのか?
目を開ける。
未だ誰のものでもない、この瞳を。
自分という存在を見つけ出す為にーーー
これが、自分だ。
おれの名前は、
今ようやく、おれは自分を認識した。
・・・・・・はじめまして、自分。
この狂った物語の
いるはずのない人。
どうか、宜しく。
朦朧としていた自分が、何か箱のようなものから出て、最初に取った行動は・・・・・・、受け身を取ることだった。ガンッと音がして、胴が床に落ちる。咄嗟のことで完全には取れてはいなかったからか、なかなかな痛みが襲ってきた。だが不幸中の幸いで、頭は打っていない。
起き上がると、近くに硬そうなパイプテーブルがあった。もしもこれがもう少し近かったら、頭を打ちつけていただろうことに青ざめる。下手をしたら致命傷だ。
そのぞっとしない発見のおかげか、頭が冷えて、今の異様な状況に思考が追いついた。
ぐるりと見渡すと、ベッドと大型のテレビ、一人がけのソファー、先程のパイプテーブルにデスクと椅子。自分が入っていたのは、空っぽだが、クローゼットだったらしい。そしてスピーカーが異様に付いた、壁掛けモニター。最後のものを除けば、よくあるワンルーム。ただ、こんな部屋を自分は知らない。クローゼットで目覚めたというのもおかしい。
誘拐。その言葉が頭に浮かんだ。ドアに手を掛ける。音を出さないよう慎重に・・・・・・、動いた。ドアは開いているらしい。完全に開けはせず、動くことだけを確かめすぐ閉める。
深呼吸。頭の中で行動すべきことをまとめる。それから、
ガシャン! ガシャン・・・・・・ ガシャン・・・・・・
・・・・・・どうやら、一息つくには早すぎたようだった。重機が動くような音。ただ、キャタピラやタイヤにしては音のリズムがおかしい。しかもなんだか近づいてきているような気がする。自分はわざと半開きにしてあるクローゼットの隅で、必死に息を潜めた。
・・・・・・駆動音が、止まった。しかもどう考えてもドアの方向に。自分の体力や身体能力の低さは自覚している。だからこんな偽装をしたのだ。どんな相手だろうと、見つかったら最後。足が震えてきた。
「きゃあああ! 部屋がめちゃくちゃだわ! ・・・・・・しかももう出てっちゃってるのね。音がしてからすぐ来たのに。きっと風のように速いんだわ。どうすればいいの、アタイの担当なのに! お父ちゃんに叱られる前に急いで探さないとまずいわ!」
ガシャン、ガシャンと音を立てて、おそらく機械なのだろうものは去っていった。息を吐いて、ずるずるとしゃがみ込む。あっさり納得して騙されてくれたのを思うに、正直「錯乱していました」の偽装は要らなかったのかもしれない。パイプテーブル乱打で実は意外と息が切れていて腕が痛いので、それが無駄だったと思うと少し後悔が募る。
とりあえず、あの駆動音が完全に聞こえなくなってから外に出てみることにした。
アカマツ カエデ
「とりあえず、キサマラにはさっさと “本当の自分” を思い出してもらわないとね!」
私には訳がわからなかった。誘拐されたと思ったら、変な学校に居て、ロボットに追いかけられて、その中から動くヌイグルミが出てきて・・・・・・。その上、「封印された才能」「超高校級狩り」? 何を言われているの?
「おキャワたんにしてやるぜー!」
どうやったのかわからないけど、服装まで変わった。あのヌイグルミたちはなんなの? 私達は、何に巻き込まれているの? ・・・・・・これから、どうなるの?
「さて・・・次はお待ちかねの “記憶” やな」
「ヘルイェー! 覚悟しろよッ! この封印が解けたら “コロシアイの世界” だぜッ!」
コ、コロシアイ・・・? 物騒な単語に、私は理解をしたくない。パニックになっていく。
「・・・・・・ヒトリ、足リナイ」
その言葉がやけに響いた。さっきまで一言も喋らなかった、緑色のヌイグルミ・・・。確かモノダムとか言っていたような気がする、それの言葉。一人、足りない? それはどういう…。
「えー? 全員いるよー? ほら、いーち、にーい、・・・・・・えーっとね、今いるのは、全部で16人」
「・・・・・・足りんなあ」
「足りないぜ!」
「足りないわ!」
「・・・・・・」
シン、と体育館の空気が静まる。それは・・・・・・。
「16人じゃない・・・・・・? それにまだ、逃げ続けてる人が、いるってことっすか?」
「なら、助けを呼んでもらえるかもしれない…!」
さっき名乗っていた、天海くんと最原くんが言う。そうだ! まだ希望はある。
「でも変だよねー。オイラの担当は全員いるよー?」
「ミーが担当してたヤツラもだぜ!」
「ワイの担当もや」
「・・・・・・イルヨ」
「勿論アタイだって・・・・・・。あっ。・・・・・・すぴー。すぴー」
「またモノファニーやないかい!」
「お父ちゃん多分カンカンだぜ!」
「しゃーない、探しにいかなあかんから、早めに終わらせるで!」
ヌイグルミたちはお互いに言い合っている。この時間で、その人ができるだけ遠くまで行ければ・・・・・・!
「まあ、ここからは出られないから、大丈夫だと思うけどねー。
ゴホンゴホン。さぁ、 “思い出しライト” で “わんだふるな才能” を思い出して貰ったら・・・、今度こそ、“わんだふるな物語”の始まりだよー!」
「ばーいくまー!」
ここから出られないってどういうこと!? それを問いただそうとする前に、カラフルな懐中電灯を、ヌイグルミたちが私達に向ける。その光が私達を飲み込んで・・・・・・。私の意識は、そこで消えた。
ヒトウ アガタ
機械の駆動音が遠ざかって、この建物の外に出てみることにした。出入り口は一箇所しか無く、見つかる危険性が高かったが、他にどうしようもなかったため、やむなくそこを利用した。見つかることはなかったが、肝が冷えた。
だが、結局見つかろうが見つかるまいが違いないのかもしれない。外に出て見えたのは、ぐるりと円形の高い高い壁。圧迫するようにそびえるそれには、出入り口になりそうなものは見当たらなかった。その壁から、鳥籠さながら鉄筋のようなものが伸びている。あんなものを意味もなく設置するとは思えない。ならばおそらく上空にも何かしらあるのだろう。
それにしても広い。機械の音がおそらく向かった方向であろう、一際大きな建物以外を見て回ったが、少なくとも自分の目では出口になりそうなものはなかった。
だから、最後にそこに向かわなければならない。他の探索中あの音はしなかったから、あの場所に、十中八九機械はいるのだろう。だがもう他にできることはない。行くしかない。そして意を決して・・・・・・。
「おはっくまー・・・・・・」
「ヘル、イェー・・・・・・。やっと、やっと見つけたぜ・・・・・・。こんなチマチマ逃げやがって」
「はあ、はあ、アタイたち、息切れなんてしないはずなのに」
「はあ、ふう。き、きっと精神由来なんやろうな。ワイら、ガラスのハートやから」
「・・・・・・」
「さすがに、オイラもうつかれたよー」
「だけどな、個室の準備もあるんやで? コイツが散々ボロボロにしてくれよった分」
「モノファニーがやればいいと思うぜ! ミーたちは関係ねえ!」
まさかの、この機械は5つあったらしい。その姿は二足歩行の重機といえばわかりやすいかもしれない。駆動音の謎は解けたが、この包囲されている現状全く嬉しくない。
一体が建物の上に登って俯瞰して、他四体が巡回していたらしい。そんな布陣を敷かれたら、遮蔽物の殆ど無いここで侵入できるはずがない。そしてここから、体力の低い一般高校生が足掻く術もなし。
「やっとこれで全員ね。もうこんなことはこりごりだわ」
「そうや! また逃げられる前にライトや、ライト!」
「うん行くよー。えーっと、ぽちっとー」
「ばーいくまー!」
そうして、自分の意識は暗転した。